京印工組、新会館を「情報の受発信基地」に
内藤一徳新理事長インタビュー〜京都の知恵と団結力で「稼げる集団」へ
京都府印刷工業組合の新理事長に就任した内藤一徳氏(内藤印刷(株)代表取締役)は、「対話と協調」を組合運営の基本に据え、京都の印刷産業が培ってきた技術、文化、横のつながりを生かしながら、次代に向けた組織づくりを進めていく。その大きな節目となるのが、2027年9月に竣工予定の新印刷会館である。規模は縮小する一方、現会館の土地売却によって建設費を賄い、組合財政の安定化にもつなげる。内藤理事長は、新会館を交流や研修だけでなく、組合員が新たな情報を持ち寄り、仕事や成長につなげる「情報の受発信基地」と位置付ける。「京都はチームワークがいい。みんなで力をつけ、稼げる集団になりたい」。京都らしい「知恵産業」の深化に向け、新体制が動き始めた。

「大変光栄であると同時に、責任の重さを感じている」
新理事長としての心境を内藤理事長はこのように語る。1,000年を超える歴史と文化を受け継ぐ京都において、印刷業界は長年にわたり情報と文化を伝える役割を担ってきた。先人が築いた伝統を受け継ぐだけでなく、変化する時代に適応し、新たな価値を生み出していくことが新体制に課された使命である。
組合運営で掲げるのは、「つながる組合、学べる組合、頼れる組合」だ。組合員との対話を重ね、企業同士がつながり、学び合い、困った時には支えとなる組織を目指す。
印刷業界を取り巻く環境は厳しい。印刷需要の変化に加え、用紙や資材、エネルギー価格の上昇、人材不足、後継者問題、DXへの対応など、経営課題は複雑化している。その一方で、内藤理事長は、こうした変化を業界変革の機会とも捉えている。
「印刷会社は、単に印刷物を製造するだけの会社ではなく、情報価値を創造するコミュニケーション産業へ進化することが求められている」
印刷には、人や企業の思いを「伝える力」、記録や文化を「残す力」、人と人、地域と社会を「つなぐ力」がある。媒体や技術が変わっても、その本質的な価値は変わらない。組合としては、DXや生成AIの活用支援、人材育成、若手経営者の交流、経営情報の共有などを進め、組合員企業が変化に対応するための環境を整えていく方針だ。
新会館建設で財政基盤も強化
新体制にとって最大の事業の1つとなるのが、新印刷会館の建設である。
現在の印刷会館は建設から約60年が経過し、老朽化が進んでいる。加えて、組合員数や組合活動の規模も建設当時とは変化しており、従来と同じ広さを維持する必要性は薄れていた。
こうした中、約1年半前に土地活用の提案が持ち上がった。京都市内ではマンション建設需要が高まっており、組合が所有する約210坪の土地のうち約140坪を売却し、残る約70坪に新会館を建設する計画がまとまった。
新会館は木造2階建てで、延べ床面積は約80坪。2027年2月に着工し、同年9月の竣工を予定している。1階、2階には組合事務局、会議室、応接室、倉庫などを設ける計画で、会議室は約40人を収容でき、理事会や研修会の開催にも十分対応できる。
現会館は2026年秋頃から解体を始める予定で、事務局はそれに先立ち、烏丸六角付近に設ける仮事務所へ移転する。
会館の規模は小さくなるが、土地の売却収入によって新会館の建設費を全額賄うことができる。さらに、建設後も資金を残すことができる見通しで、組合財政の安定化という面でも大きな意味を持つ。
「資金面を含めて考えれば、非常に良い提案だった。会館は小さくなるが、今の組合規模であれば問題はなく、財政的にもかなり楽になる」
建て替えは、単なる老朽施設の更新ではない。将来の組合規模を見据えて資産を適正化し、その資金を新たな活動と財政基盤の強化に結びつける組織改革でもある。
内藤理事長が目指すのは、新会館を組合事務局が入るだけの建物にしないことである。
「組合を情報の宝庫だと思ってもらいたい。新会館が研修の場であるとともに、情報を発信するだけでなく、組合員からも情報が集まる『受発信基地』になればいい」
組合員が会館に集い、それぞれの技術、課題、成功事例、経営情報を持ち寄る。そこから企業間連携や新たな仕事が生まれ、各社の成長につながる。新会館は、そのための実践的な拠点となる。
京都らしい「知恵産業」を推進
京都府印刷工業組合には現在、約120社が加入している。全国の印刷工業組合で組合員数の減少が課題となる中、京都でも微減傾向にはあるものの、内藤理事長は現時点で深刻な状況とは捉えていない。
印刷会社だけでなく、関連企業が参加できるパートナーシップ会員制度を設け、組織の裾野を広げてきたことも理由の一つである。さらに、製本や加工などの企業が参加する「ポストプレス部会」の活動も活発化しており、若い経営者や印刷関連企業の参加が増えている。京都府製本工業組合と重複して加入する企業もあり、業種を越えたつながりが生まれているという。
京都工組の大きな特徴について、内藤理事長は「全体的に若返った」と語る。
青年組織である京都青年印刷人月曜会で活動したメンバーが、現在は理事や委員長など組合の中核を担っている。創業者から2代目、3代目へ事業を引き継いだ企業も多く、50歳前後の経営者が京都の印刷業界を動かすキーマンとなっている。
「団塊世代の経営者には非常に馬力があった。その人たちが70歳代半ばを迎え、息子世代へ事業を引き継いできた。京都では事業承継が比較的うまく進んでいるのではないかという印象がある」
一方で、若手だけに組合運営を任せるのではない。副理事長をはじめ、経験豊富な先輩経営者も執行部に加わり、若手とベテランが役割を分担する体制を整えている。
新体制の発足に際して内藤理事長は、執行部と各委員長を招待して「キックオフパーティー」を開催。これには17名全員が出席したようで、内藤理事長はここにも京印工組の団結力が表れていると強調する。
「京都は本当に連携が良く、横のつながりが強い。約120社という規模だからこそ、顔が見え、まとまりやすい面もある」
もっとも、京都の企業には、伝統を重んじるがゆえの慎重さもあるという。
「ある意味では閉鎖的で、伝統を守る意識が強く、新しいことにすぐ飛びつく地域ではない。ただ、急に本業と関係のない事業に進出して失敗する企業も少ない。京都らしく、地に足をつけて仕事をしている印象がある」
その堅実さを守りながら、いかに新たな挑戦を生み出すか。内藤理事長が掲げるのが、京都らしい「知恵産業」の推進である。
設備や生産量だけで競争するのではなく、各社が持つ技術、企画力、地域とのつながり、歴史や文化に対する理解を組み合わせ、付加価値の高い仕事を生み出す。京都には寺社仏閣、伝統産業、大学、研究機関、観光産業など、多様な市場と文化資源がある。高品質な印刷物が求められてきた背景を生かしながら、印刷物だけに限定されない新たな需要を創出していく考えだ。
「まずは対外的なPRよりも、組合員一社一社が力をつけることが大切だと思っている。みんなで力をつけ、稼げる集団になりたい。京都の知恵産業は、これからが始まりだと思っている」
新会館での研修や情報交換、若手人材の育成、企業間連携を通じて、組合員企業の収益力を高める。内藤理事長の視線は、理念だけでなく、各社の具体的な経営成果に向けられている。











































