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「ここちいい文字と場所」―文字から本へ、本から書店へ―

第32回モリサワ文字文化フォーラム レポート

 (株)モリサワが7月に開催した第32回モリサワ文字文化フォーラム「ここちいい文字と場所―文字から本へ、本から書店へ」では、グラフィックデザイナーの高橋善丸氏と森岡書店代表の森岡督行氏が登壇。書体そのものだけでなく、紙・余白・空間・時間との関係から生まれる「ここちよさ」や、本を介したコミュニケーションの可能性が多角的な視点で語られた。それぞれの独創性が際立つ、密度の高い講演となった。

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第1部:高橋善丸氏「文字から、想像を促すデザインへ」

 高橋氏は、文字デザインは可読性を土台に「機能性」、新しさや独創性を生む「先進性」、楽しさや情景を伝える「情感」を加えることで、「見て読んでここちいい文字」が生まれると説明。文字は情報を伝えるだけでなく、見る人に印象や情景を与える存在であり「文字を読むための書体」ではなく「言葉をデザインする」という視点が重要だと語った。


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高橋氏

 また、グリッドを基盤に、線や交点の強調、有機的な曲線、文字の本質だけを残す簡略化などを取り入れることで、文字に意味や情景を与える表現を紹介。「文字デザインは、記号を超えた感覚のコミュニケーションである」と述べた。

 続いて、「想像を促すデザイン」をテーマに「人は経験や記憶をもとに不足した情報を補いながら物事を理解している」と解説。「リアリティというのは、写実的な映像を見せるということではなく、どう相手の想像力を持ってリアリティを感じさせるか」が重要だと語る。

 さらに、立体や空間を想像させる文字、水面や影によって時間や情景を表現する手法、欠けた文字や視覚・心理効果を活用した作品などを紹介。

 最後に、「私の作品は、相手の既知情報を利用し、イメージのきっかけを与えれば、脳が映像をつくりあげてくれる。直接的な表現を避ける日本的なコミュニケーションをグラフィックデザインで表現している」と締め括った。

第2部:森岡督行氏「1冊の本を売る書店」

 森岡氏は、「戦争や争いではなく、デザインや美しいものとつながって生きたい」という思いから、「1冊の本を売る書店」を始めた。


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森岡氏

 日本工房ゆかりの建物に店を構え、毎週1冊の本をテーマに店全体でその世界観を表現した展覧会を開いている。

 自ら会いたい人に会いにいくことが仕事の醍醐味だと話し、人との出会いはすぐに成果に結びつかなくても、将来の新しい仕事につながることがある。その積み重ねが「未来をつくる」と話す。著者の人生や作品についてじかに話が聞けることが自身の仕事への原動力になっていると語った。

 そして、写真家ソール・ライターの蔵書に残された書き込みや、高木由利子氏のモノクロ作品を例に挙げ、人の想像力によって心の中に生まれる世界も「ここちいい場所」になり得ると説明した。

 また、紙の本には今なお大きな価値があるとし、丹精込めて作り上げた展覧会の図録が高価格にもかかわらず多くの人に支持された事例を紹介。

 海外から注目を集めた「1冊の本を売る書店」の取り組みや、似顔絵をきっかけに新たな展開が生まれた経験を通して「好きなことを徹底して続けることが新しい価値を生む」と語り「デジタル時代だからこそ、逆に紙の本や文字、読めない文字に取り組むことで、自ずと新しさが生まれるのではないか」と話を締め括った。

第3部:クロストーク─デザインや本の価値について

 「想像を促すデザイン」では、高橋氏が色や素材を削ぎ落とし、現在は「造形と光」に表現を絞っている。水墨画を例に、情報をあえて抑え見る側の想像に委ねることで、より深い世界が生まれる。見る人の想像力を引き出し、より豊かな世界を生み出すという「想像を促すデザイン」の本質が語られた。

 「寒河江百貨店のミニマムな空間」では、森岡氏が故郷・山形県寒河江市で手がけた、旧百貨店を活用した取り組みを紹介。高校生が自習する場として自然に定着するなど、視点を変えることで、地域の商業施設に新たな賑わいや価値を生み出せることを示した。

 「書籍にどう向き合っていくか」では、高橋氏はデジタルデータが技術の変化で閲覧できなくなる一方、本は何百年経っても読み継ぐことができる。「人は知識だけでなく、感動そのものを所有したい」という思いが、紙の本の価値につながっていると述べ、森岡氏も深く共感した。