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太陽機械製作所、連帳用モノクロIJプリンタ開発

レーザープリンタに匹敵する印字品質を実現

 連帳用モノクロプリンタ市場で主力となっていた某メーカーのレーザープリンタが2021年1月に販売終了し、2026年3月には保守サービスも終了する。代替機が存在せず、業界に不安が広がる中、現場からは「この先、どうすればよいのか」という切実な声が相次いでいた。この困りごとを解決するため、(株)太陽機械製作所(本社/東京都大田区羽田空港1-8-2、岡倉登社長)は2025年12月、連帳用モノクロインクジェットプリンタ「ACCURASPOT TCJ-1870UM」を開発、販売を開始した。1,200dpiの高精細印字、新インキ採用により極小ポイントでも滲まないなど、レーザープリンタに匹敵する品質を実現し、「市場の空白」を埋める存在として期待が高まっている。

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「ACCURASPOT TCJ-1870UM」の前で山形工場の社員と越智常務執行役員営業本部長(右)

 連帳用モノクロプリンタ市場では、長年にわたり某メーカーが提供してきたレーザー方式が事実上のスタンダードとなっていた。しかし、その主力機が2021年に販売を終了し、2026年3月末には保守サービスも停止する。ビジネスフォーム印刷ほか、金融機関向けの大量帳票出力など導入実績が広いだけに影響は小さくない。太陽機械製作所のユーザーにも同機を採用している企業が多く、「今後どうすればいいのか」、「代替機は出ないのか」といった声が強まっていた。

 さらに、市場にはもう1社レーザー方式の連帳機を提供するメーカーがあるものの、部品供給の制約から「残り100台ほどで販売終了する」との情報も流れ、業界の不安は広がるばかりであった。帳票は多くの現場で欠かせないインフラであり、いずれのユーザーもその仕事をストップする訳にもいかない。それにもかかわらず、代わりとなる製品が見当たらない。この市場の空白に、現場はどこも頭を抱えていた。

 太陽機械製作所の越智政人常務執行役員営業本部長は、「ユーザーの切実な声に対応するためには、当社が自社開発するしかないという判断に至った」と開発経緯について話す。

新インキと高精細1,200dpiで「GS1-128」も滲まずに印字

 開発にあたり最初の壁となったのは、従来のインクジェット方式のままでは、線幅の狭いバーコード―とりわけ公共料金の収納票などで利用される「GS1-128」において、インクの滲みが避けられないということだ。印字自体は可能でも、業務で求められる厳しい読み取り精度を確保できず、そこが大きな課題となっていた。

 そこで同社では、この弱点を克服するためプリントエンジンメーカーと共同開発。新インキの採用により線幅の細いバーコードでもエッジの立ったシャープな線を再現可能にした。これに1,200×1,200dpiの高解像度を組み合わせることで、4ポイントの極小フォントでも鮮明に出力できるレベルに到達した。越智氏は「レーザープリンタ並みの印字品質をインクジェットで実現した」とその品質に自信を示す。

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4ポイントの極小フォントでも鮮明に出力が可能

 さらに、印字・乾燥・折り処理までの紙通しを自動的に行うオートロード機構の採用により、印刷会社のみならず、データ出力センターでも操作性に悩むことなく運用が可能になる。用紙を上流側にセットするだけで、通紙からスタッカーまで自動搬送し、折りのタイミングまで自動調整する。現場の作業負荷を軽減し、連帳運用の安定性を高める仕組みを実現した。

 さらに乾燥ユニットには強制空冷式ハイパワーLED-UVを採用。これにより、ダクトやチラー設備が不要となり、設置環境の自由度が大きく広がった。インクジェットでありながらレーザー方式の運用に迫る生産性と扱いやすさを両立し、現場が求める仕上がりを実現するプリンタとなっている。

 なお、製品名「ACCURASPOT」は、精度を意味するaccuracyと、インクジェットのドット表現および太陽の黒点を指すsunspotを組み合わせた造語だ。型番「TCJ-1870UM」も、紙幅18インチ・速度70m/minなどスペックを象徴する要素で構成されており、製品コンセプトを的確に体現している。

省エネ性と自動化で業務効率を革新。発売前から「キープ要望」

 「ACCURASPOT TCJ-1870UM」には、生産現場の実務を支えるための細部設計が随所に盛り込まれている。その1つが、省エネ性能の高さである。同社は今回、現在市場に存在するレーザー方式の連帳機との比較資料を作成し、LED-UVによる乾燥方式など、エネルギー負荷を大幅に抑えた点を証明。これにより、省エネルギー投資促進支援事業費補助金の型式登録を取得した。同プリンタの価格は約6,000万円であるが、越智氏は「現在の補正予算では申請枠は終了しているが、来年度も同様の枠が設けられる可能性が高いと見ており、その場合は3分の1の補助金が出るため、実質4,000万円台で導入できる」と話す。

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最速70m/分のプリントスピードを実現

 さらに運用コストを下げる要素として、消耗品はインキのみという点が挙げられる。カウンター料金も不要のため、継続利用時のランニングコストが大きく軽減される。高速70m/minのプリント速度と合わせ、帳票類や明細書、通知物といった小〜中ロット中心のデータプリント業務に最適化された構成となっている。

 一方、設計面では従来機にはなかったデザイン性と操作性の融合にもこだわった。運転状態を示す横一線のシグナルライトは、運転時は蛍光ブルー、エラー発生時は蛍光レッドへと瞬時に切り替わり、視認性を高めるとともに、筐体デザインのアクセントとしての役割も果たす。さらに、自動通紙から乾燥、折り処理までをワンパスで行う仕組みは、印刷の主業務に集中できる環境を提供し、現場の省力化に直結する。

 こうした技術的・運用的な利点は、発売前から市場で高い関心を呼んでいた。越智氏は「正式発売前の段階で、すでに複数のお客様から『確保しといてほしい』との声をいただいている」と明かす。レーザー方式が姿を消しつつある今、連帳プリンターを継続運用するうえで確実な選択肢を求めるユーザー心理は強く、その受け皿としての期待値は日を追うごとに膨らんでいる。

 さらにプリントヘッドモジュールは同社製の他印刷機や加工機にもインストール可能なため、拡張性にも優れる。「ACCURASPOT TCJ-1870UM」は単なる新製品ではなく、連帳プリンター市場の空白を埋めると同時に、次世代の印字方式を提示しているとも言え、その存在感は今後ますます高まっていきそうだ。

 初年度10台の販売を見込み、5年後には年間50台以上の販売を目指す。