「天糊製本のプロフェッショナル」として創業70周年
便箋・一筆箋の専門サイトなど展開
富塚製本(株)(本社/大阪市生野区、富塚宗寛社長)は2026年、創業70年を迎えた。同社は伝票製本を起点に、商業印刷物や医療系冊子の製本・加工、さらには便箋・一筆箋といった紙製品の仕上げまで、製本会社としての役割に徹して事業を展開してきた。そんな中、同社が長年にわたり磨いてきた技術が「天糊製本」である。小ロット・短納期対応が当り前の現在、中ロットから数十万冊規模の天糊製本を自社一貫で手がける体制は業界内でも稀有な存在と言えるだろう。今回、「天糊製本のプロフェッショナル」を標榜する同社の富塚宗寛社長と富塚康憲常務取締役に、創業70周年インタビューとして話を聞いた。

伝票製本から天糊製本へ、70年の歩みと選択
同社の歩みは伝票製本から始まった。昭和31年の創業当時、帳票類を中心とした製本加工を主力とし、地元印刷会社からの仕事を一つひとつ丁寧に仕上げることで信頼を積み重ねてきた。人の手を介した作業が中心の時代であり、品質は現場の技量に大きく左右された。その中で培われた「手を抜かない姿勢」は、現在も同社の仕事観の根底にある。
しかし、時代の変化とともに伝票需要は次第に減少していった。大量に伝票製本を手がけていた製本会社の多くが、中綴じや無線綴じといった分野へ軸足を移していく中、同社も選択を迫られることになる。そうした局面で同社が選んだのは、新しい分野へ安易に転換することではなく、「昔からやってきた仕事を、あらためて磨き直す」という判断であった。
そして同社が着目したのが、創業期から手がけてきた「天糊製本」である。天糊製本は一見単純に見える加工だが、紙質や厚み、用途によって仕上がりが大きく左右される奥深い技術であり、長年の経験がなければ安定した品質を保つことは難しい。同社はこの天糊製本にあらためて軸足を置くことで、自社の立ち位置を明確にしていった。
現在では、小ロット・短納期対応が一般化しているが、同社が強みとするのは中ロット〜数十万冊規模までの天糊製本である。量が多くても品質を崩さず、しかも自社一貫で対応する体制は、伝票製本の時代から培ってきた現場力の延長線上にある。70年の歩みは、こうした判断の積み重ねによって形づくられてきたと言えるだろう。
簡単そうで高い技術力が求められる天糊製本
天糊製本は一見、背を糊で固めるだけの加工に見える。しかし、同社の現場では、「単純そうで、実は難しい製本」と捉えられている。紙質や厚み、ページ数に加えて、季節による温度や湿度の違いによって、最適な糊の状態は常に変化する。わずかな差が、剥がれや反り、仕上がりの良否を左右するからだ。
同社では、糊を資材業者から供給された状態のまま使うことはない。紙の種類や用途に応じて配合を調整し、最適な状態を作り出す。とくに難易度が高いのが、タック紙や表面加工された紙、ベタ印刷された紙への天糊製本である。一般的な方法では接着しにくかったり、ページを一枚剥がした際に印刷面の色が一緒に剥離してしまったりすることも少なくない。
そうした「失敗しやすい仕事」こそ、同社が積極的に引き受けてきた分野である。天糊する喉元までベタ印刷された一筆箋でも、紙を一枚ずつきれいに剥がせる仕上がりを実現するためには、糊の配合だけでなく、塗布量や塗り方、乾燥のタイミングなど、工程全体を把握した判断が欠かせない。機械だけでは補えない領域であり、長年の経験に裏打ちされた技術がものを言う。
「他社では失敗するような天糊でも、当社ならできる」と富塚社長。その言葉は誇張ではなく、天糊製本を簡単な作業として扱わず、難しい仕事として向き合い続けてきた結果である。同社が「天糊製本のプロフェッショナル」を標榜する理由は、こうした現場の積み重ねにある。
品質と納期を支える一貫体制。医療系・大ロットにも対応
同社のもう1つの特長が、中ロット〜数十万冊規模までの天糊製本を安定してこなす生産体制である。天糊製本を起点に、表紙巻きやくるみ巻、クロス巻など、後工程までを自社で完結できる点は、同社の大きな強みとなっている。
とくに製薬会社の仕事では、外注を嫌うケースが多い。仕様説明書や添付文書など、品質管理が厳しく求められる製品では、工程が分断されること自体がリスクとなる。その点、同社は製本から仕上げまでを一貫して任せられる体制を整えており、長年にわたり信頼を得てきた。
本社工場の1階は、天糊製本を主軸に考えた動線で設備が配置されている。倉庫も確保しており、大ロット案件でも無理なく作業を進めることができる。例えば10万冊規模であれば、約2週間で仕上げる体制を整えているという。量が増えても品質を落とさず、納期を守る。その当たり前を守り続けることが、同社の評価につながっている。

医療系案件で鍛えられた品質意識も大きい。糊面の汚れや埃は許されず、わずかな不備が品質問題に直結する。工程ごとの確認を徹底し、社内で考え方を共有することで、クレームはほとんどないという。納期についても事前調整を重ねたうえで、一度決めた期日は必ず守る。その姿勢が、現場力を支えている。
新たな展開と70周年の先
天糊製本の技術を印刷会社からの受注ではなく、市場に直接届ける取り組みとして十数年前に立ち上げたのが、一筆箋・便箋の専門通販サイト「オリジナル便箋工房」である。便箋巻きは以前から行っていたが、手作業では手間がかかる工程でもあった。そこに自動化の可能性を見出し、ウェブサイトによる受注と組み合わせたのが始まりだ。
同サイトでは、デザインテンプレートやフォント、用紙、枚数などを自由に選ぶことができ、注文から制作、配送までを一貫して行える。見やすさ、分かりやすさを意識し、定期的に内容を更新するなど、安心して注文してもらうための工夫も重ねてきた。立ち上げから10年以上が経過し、現在では個人利用に加えて、法人からの注文も増えている。

一方で、富塚宗寛社長は大阪府製本工業組合の理事長として業界全体にも目を向けている。紙需要の減少や人材不足といった課題がある中で、若手の意見を取り入れた組合運営の必要性を感じているという。富塚康憲常務取締役も、全日本製本青年会の会長として、業界の空気を前向きなものに変えていくことを重視している。「青年会の会合ではネガティブではなく、ポジティブな話をしようと話している。成功事例を共有し、学び合う姿勢が業界の力になると考えている」と富塚常務取締役は話す。
また、コロナ禍は同社にとって大きな転機でもあった。仕事が急減する中で、受け身の姿勢を改め、自ら動く必要性を痛感した。近畿圏の印刷会社を回り、約1,000枚のビラを配布した結果、数件ではあるが新たな取引につながった。その経験は、意識の変化として今も生きている。
「天糊製本」という一つの技術を軸に、70年続いてきた富塚製本。派手な変革ではなく、技術と信頼を積み重ねてきた歩みが、現在の同社を形づくっている。同社は80年、90年、100年という次の節目に向けても、その積み重ねを続けていく考えだ。












































