PJweb news

印刷産業のトレンドを捉える印刷業界専門紙【印刷ジャーナル】のニュース配信サイト:PJ web news|印刷時報株式会社

トップ > 特集 > 製本・後加工 2022:天白製本紙工、「パフォーマンスを最大限に発揮できる断裁機」-勝田断裁機導入事例

製本・後加工 2022

特集一覧へ

天白製本紙工、「パフォーマンスを最大限に発揮できる断裁機」-勝田断裁機導入事例

鋳物の重量に信頼と安心感〜長年の使用でも正確な断裁精度を実現

印刷ジャーナル 2022年3月5日号掲載

 「電話の3割は技術的な相談」。(株)天白製本紙工(本社/名古屋市緑区鳴海町、上野恭嗣社長)は、「製本・折加工相談センター」を立ち上げて11年になる。驚かされるのは、製本や折加工の技術的な問題を解決する方法を無料でアドバイスするだけでなく、それを自社で無理に受けるのではなく、相談主にとって最適な方法を提案しているところだ。その根底には、「製本業界を守っていきたい」という上野社長の製本人としての熱い思いがある。

PUR製本機の前で先代社長(中央)、現場スタッフとともに上野社長(右端)


困ったときの「製本・折加工相談センター」


 同社は1980年に創業。2代目の上野恭嗣社長は大学在学中から家業を手伝いはじめ、すでに30年近くの業界経験がある。「Facebookなど、SNSでは自らを製本マイスターと称している」(上野社長)というほどだ。

上野 社長
​ 2011年に「製本・折加工相談センター」を立ち上げ、センター長としてWebなどで同社を知った全国の印刷会社や製本会社、発注側である一般企業からの問い合わせに対応する。上野社長は「自転車を買うときは大型店に行くが、パンクなどで困ったときは町の自転車屋に行く人が多いと思う。当社は例えるなら『町の自転車屋』のような存在」だと話す。

 このため、同社では「機械のボタンを押すだけ」という仕事は少ない。何らかの人の手を加える必要がある仕事がほとんどだ。「今やっている仕事では、厚さが30ミリを超える製本済みの2万冊分のカタログの表紙だけを変更したいという仕事を受けている。はじめはそのカタログ制作を依頼した印刷会社に頼んだようだが、初めから作り直す必要があると断られて当社に相談が来た。当社では無線綴じの『巻き直し』も行っているため、表紙を1枚1枚、人の手で剥がして糊の部分を断裁し、新しい表紙にて再度無線綴じをする作業を行っている」(上野社長)

 他社が嫌がる仕事、やりたがらない仕事、面倒な仕事...。同社では、そのような仕事を積極的に受けることで、「町の自転車屋」的な製本・加工企業としての存在価値を高めている。


3年前に勝田製作所の断裁機を初導入


 同社では自社のキャパを考慮し、決して無理な受注はしない。自社で難しい仕事は相談主に他社を探してもらうか、場合によってはその仕事ができそうな企業を紹介することもある。自社の利益だけを考えた仕事の「丸投げ」はしないのが上野社長の方針だ。

 同社が得意とするのは、8年前に1台目を導入し、昨年の夏に2台目を導入したPUR製本。小ロットの記念誌や絵本などで、コストを抑えつつ、丈夫な本を作りたい顧客から引き合いがあるという。

 ちなみに、折加工については「特別な技術があるわけではない」(上野社長)ときっぱり。前述のとおり、折りだけでなく、そこに何らかの手を加えた仕事が同社の得意分野となる。

 そんな同社が3年前に他社メーカーとの入れ替えで初めて導入したのが、勝田製作所の断裁機である。上野社長は当初、「断裁機などどこでも大差ない」と考えていたようだが、多くの業界仲間から高く評価されていたことから、更新のタイミングで勝田断裁機の導入を決めたという。

 そして、上野社長はその「差」について、断裁機を搬入する段階でさっそく気付かされることになる。

 「勝田断裁機はもう1社の断裁機と比べて非常に重い。断裁機のサイズは同じでも、重量が違うため、同じトラックでは運べない。これを見たとき、『鋳物』の差であることに気付いた。そこから手を抜かずにしっかりと製品開発しているメーカーであることを感じた。その重量から、信頼と安心感を覚えることができた」(上野社長)

 そして、実際に使い始めて気づいたというのが、断裁精度の違いだ。同社では現在、他社メーカーの断裁機と勝田製作所の断裁機を1台ずつ、同じサイズのものを使用しているが、片方の断裁機は年月が経過するとともに、だんだん「櫛」が歪んでくるため、まっすぐに切れなくなってくる。「罫線1、2本のため、許容範囲のレベルではあるのだが、シビアな印刷物の断裁に使用することは難しくなってきた」(上野社長)。



 また、上野社長は一人の「断裁士」として、その職人技術に誇りを持っている。許容範囲であっても、紙をまっすぐに切れないことに、これまではもどかしさを感じているところがあったようである。その点、勝田断裁機は「自分のパフォーマンスを最大限に発揮できる断裁機、それが勝田断裁機である」と高く評価する。3年が経過した今も断裁精度は導入当初とまったく変わらず、劣化の気配すら見えないようだ。勝田断裁機の堅牢製は、多くのユーザーが評価しているところで、これが「鋳物」がしっかりとしている差であることは間違いない。

 「とくに冊子などは断裁精度が仕上がりに影響してくるので、シビアな印刷物には勝田の断裁機を使用することにしている」(上野社長)

断裁士のパフォーマンスを最大限に発揮できる勝田断裁機


製本業界を「魅力」ある業界にするために


 愛知県でも、他府県と同様に、製本会社の廃業が続いている。「取引先の印刷会社からも、製本会社の廃業で仕事を頼めるところがなくなってきたという話を聞くことが多くなってきた」(上野社長)。

 そんな製本業界を活性化するため、昔は製本会社を「ライバル」と認識していた上野社長であるが、現在は「仲間」として一緒に業界を盛り上げていくために取り組んでいるという。そして、その使命感が「製本・折加工相談センター」というカタチで現れているのだろう。

 また、同社では製本会社を「魅力」ある業界にしていくための取り組みとして、昨年の9月から残紙を使用したノートを、勉強したくてもノートを買う余裕のない家庭の子供などのために提供する取り組みを開始した。

 「SNSでも情報発信しているのだが、『みんなのノート』として、毎日20冊ほどを会社の前に置いている。あっという間になくなってしまう」(上野社長)。中には車で取りにきて、全部持っていってしまう人もいるようだが、「それも大歓迎。SNSなどで広めてもらえれば嬉しい」と話す。昨年の夏に導入した新しいPUR製本機は、この「みんなのノート」の生産機としても活躍しているという。

子供たちに無償提供している「みんなのノート」

 さらに、同社はECサイト「KOKOROMI+(こころみたす)」を昨年9月に開設した。商品ラインアップを増やしていくのはこれからのようだが、「数は売れなくてもいい。手にした人の心を満たすような製品を企画・販売していきたい」と上野社長。同社はこれらの取り組みをとおして、製本業界の存在価値を高め、子供にも夢を与えられる業界を目指していくという。

           ◇            ◇

 同社の勝田断裁機のカラーは、上野社長の好きな色だという「マットブラック」。「どうせ長く使うなら、好きな色に全塗装してもらって大切に使おうと思って...」(上野社長)。一生モノとして使い続けたいという。

 「5年〜10年程度で買い換えるなら、どこの断裁機でも大差はないかも知れない。しかし、長年使い続けようと思うなら、間違いなく勝田断裁機をお勧めしたい」(上野社長)

 断裁機は決して製本工程の主役ではない。しかし、製本業界を守っていくための同社の技術を陰で支えている。それが勝田断裁機である。