アイデアと技術で人々に貢献
京都の老舗印刷会社が4月1日、104年の長きにわたり親しまれてきたその社名にピリオドを打ち、事業内容の多様化にともなうブランドイメージの確立と新時代への対応を目指し、新社名で新たなスタートを切った。(株)ITP(本社/京都市中京区)として生まれ変わったのは、グローバル・クロスメディア・カンパニーとして国内外に数々の生産拠点とグループ企業を有する総合印刷会社の旧(株)石田大成社だ。新社名に込めた想いは、「Ideas Technology People」。アイデアと技術で人々に貢献していくという企業姿勢が表現されている。そこで今回、2017年7月に代表に就任し、取引先はもとより、社員が幸せになれる企業に向けて様々な改革を展開する喜田眞司社長に話を聞いた。
「人手不足が叫ばれる中、旧社名はいかにも古くさく、学生にも選ばれにくい要因の1つになっていたのではないだろうか...。今の時代に相応しい社名に変更することで企業イメージの一新を図り、優秀な人材確保にもつなげていきたい」
喜田社長は社名変更の理由としてこのように語り、「ITP」の新社名で厳しい経営環境を乗り越えていく考えだ。同社はトヨタ自動車をはじめとしたメーカーの技術マニュアルを手掛ける一方、百貨店の催事や旅行会社のパンフレットなども手掛けており、今回の新型コロナの影響でイベント関係、旅行関係の受注が失注となり、少しばかり痛手を受けているようだが、「主力のトヨタからの受注が現段階では影響を受けていないため経営的なダメージまではいかないが、今期(2020年6月期)は減収を覚悟しなければならない」(喜田社長)と、今期は増収増益までは見込めなくとも、減収増益を目指していくとのことだ。
喜田社長は、代表に就任した2017年7月以降、一部の海外子会社などの不採算部門を清算し、同社グループを「筋肉質」な体質に改革してきた。これにともない、当初1,200名であった社員は現在1,000名を切るまでになったが、これにより「反転攻勢」で新たな事業展開や、地域拠点の拡大にも取り組む資金的な余裕も生まれた。
「不採算部門を清算して社員数は減ったが、2年連続で増収増益を達成できた。これも社員のお陰と感謝している。その利益は給料や福利厚生など、社員を幸せにするために様々な形で還元していきたい」(喜田社長)
同社では社員研修や福利厚生を充実させるため、京都本社の隣接地にある京町家を改装して社員が宿泊できる施設としているほか、岐阜・下呂のゲストハウスも社員研修などを行える施設に改装しているが、「社員を大切にする会社」にしていくため、喜田社長は今後も様々な改革を展開し、その利益を会社のためだけではなく、社員のためになる形で還元していく考えだ。
喜田 社長
地域拠点をグローバル規模で拡大〜岡山、仙台に新営業所、ミャンマー、ハノイに新拠点設立
グローバル・クロスメディア・カンパニーとして国内外で幅広く事業展開するITPグループは、国内では東海エリア、西日本エリア、東日本エリアに事業所を構えて営業を展開しているが、商圏エリアのさらなる拡大を目指し、2019年に東北エリアをカバーする東北営業所と、中国・四国エリアをカバーする岡山営業所を新設した。喜田社長は「競合企業がいないかなども綿密に調査し、仙台、岡山に新拠点を構える価値は大きいと判断した。今後は北関東エリアへの拠点拡大も視野に入れていく」と話す。
一方、海外子会社・拠点においては1989年のアメリカ進出を足場に欧州、中国、東南アジアに商圏エリアを拡大しているが、昨年にはミャンマー、また今年4月にはハノイにも新拠点を設立する計画だ。
「東南アジアの中には不採算のため撤退した地域もあるが、このたびトヨタ自動車がミャンマーに新しい工場を新設して販売を伸ばしていくという計画があり、これにともない当社もミャンマーにタイ拠点の子会社となる孫会社を設立した。また、ハノイについてもこれまではホーチミンの拠点から出張でカバーしていたが、時間コストがかかりすぎるため、新拠点の設立を計画している」(喜田社長)
7月に東京・名古屋・大阪の制作子会社を合併
ITPは国内において全11のグループ企業を有しているが、同社はそのうち現在3つある東京・名古屋・大阪の制作子会社を今年7月に合併し、「(株)ITPコミュニケーションズ」として新たにスタートする。
合併するのは(株)ICOMM(東京都千代田区)、(株)クレイ(名古屋市中村区)、(株)四ツ橋企画制作所(大阪市西区)の3社。同社では「印刷」よりも、デザイン、編集、Web、翻訳などの前工程のウエイトが高く、利益の根源となっているため、喜田社長は「各社によって得意とするジャンルが異なるが、その人的リソースを融合させることにより、グループの強みを最大限に発揮させていく」と合併の狙いについて話しており、これにより競争力を強化し、厳しい経営環境を乗り越えていきたい考えだ。
また現在、マニュアルや取説の世界では、技術マニュアルの編集を効率的に行えるXMLベースのアーキテクチャ「DITA(Darwin Information Typing Architecture)」が流行となっており同社でも導入しているが、DITAは工数や時間がかかる上に価格面でも高価であるため、便利ではあるものの、導入するには敷居の高い仕組みだという。
そこで同社は現在、自社において簡易版のDITAの開発を進めており、将来的にはこれを自社で活用するだけでなく、他社にも販売していく考えだ。「機能は限定されてくるが、DITAに取り組む敷居を低くし、これをメーカー系の企業に売り込んでいきたい」(喜田社長)
さらに、翻訳の世界では現在、「機械翻訳」と呼ばれる手法が注目されており、同社も機械翻訳への転換を検討しているという。喜田社長は「とくに欧州は言語が多いため、翻訳は『飯の種』になっている」としており、顧客への提案の幅を広げていくためにも早期に取り入れていく方針であるとのことだ。
印刷通販市場に参入。7月に「いろぷり」開設
同社は今年7月、印刷通販市場に参入する。後発ながらも104年の歴史で培ってきた印刷会社としての技術力と経験値で厳しい市場で勝ち越えていく考えだ。
印刷通販サイトの名称は「いろぷり」。内容の詳細はプロジェクトチームを中心に企画を進めている段階だが、同業の印刷会社の協力なども得ながら、可能な限り受注窓口を拡げることを検討しているという。
「当社の既存顧客の中でも、仕事内容によって当社と印刷通販を使い分けている顧客もいるため、まずはその仕事を取り込んでいきたい。また、その他のBtoBや印刷会社からの仲間仕事も引き受け、印刷機の稼働率を上げていきたい」(喜田社長)
なお、印刷通販「いろぷり」のネーミングについては、京都の印刷会社らしく、ロゴは平安調のフォントを採用し、すべて平仮名にすることで京都らしさを演出しているという。
祖業である「印刷」を大事にしながら新たなテクノロジーで飛躍
同社が新社名に込めたという想いの「Ideas Technology People」。これにはアイデアとテクノロジーで人々に貢献するという積極的な企業姿勢が表現されているが、その一方で喜田社長は「地に足をつけた経営を心掛けていきたい」と慎重な姿勢を見せる。
「当社の長い歴史の中には、人材もおらず、技術も追いついていないのに背伸びをし過ぎて『宙に足が浮いている』ことがあった。そのような過ちを二度と繰り返さないようにしたい。当社でいう『地』とは、祖業である印刷のことである。従来の技術をベースとしながら新たなテクノロジーでさらなる飛躍を目指したい」(喜田社長)
トヨタ自動車出身の喜田社長は2010年、当時の石田大成社に出向し、翌2011年に転籍。2017年7月に社長に就任し、2018年7月に同社初の中期経営計画を策定した。そのスローガンとなっているのも「ITP(Ideas Technology People)」である。
「2021年は初の中期経営計画の最終年度になるため、まずはこの目標達成を目指していきたい。顧客ごとのニーズを掴みながら、顧客に合わせたITPを提案していく」(喜田社長)
祖業である「印刷」を核としながら、ITPをスローガンに新たな時代を切り拓いていく同社のさらなる飛躍に期待したい。