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ウイル・コーポレーション、インクジェット輪転機で新たなビジネスモデル構築

2022年8月25日

在庫・廃棄レスを実現〜適時・適量生産でSDGsに貢献


 「必要な時に、必要な部数を、必要とする場所に納める」というデジタル印刷機の強みを生かし、印刷ビジネスを通じて顧客のSDGs対応を支援している(株)ウイル・コーポレーション(本社/石川県白山市)。その同社が実践する適時・適量生産の主軸を担っているのが、インクジェット輪転印刷機「HP PageWide WebPress(PWP)」だ。今回、同社・事業統括本部 副本部長の小林拓也氏にPWP導入の経緯やこれまでの実践事例、そして今後の展開などについて聞いた。

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北國工場のHP PageWide WebPress T490HD

 同社は、企画立案・デザインから印刷・加工・配送までをワンストップで提供する印刷ビジネスを中核にサービスを展開している。近年では、マルチメディアの研究・開発、コンサルティング業務、さらには通販業務など、そのビジネス領域を拡大している。

 その同社では、2015年12月に新たな生産設備としてインクジェット輪転印刷機「HP PageWide WebPress T230」を導入し、インクジェット方式のデジタル印刷機による本格的な印刷ビジネスを開始した。

 PWP T230を導入した経緯について、同社・事業統括本部 副本部長の小林拓也氏は、「当社は、最新設備や技術を先行導入することで、そのアドバンテージで他社との差別化を図っている。T230についても今後はオフセットからデジタルに生産設備がシフトしていくとの見解から導入することとなった」と説明する。


導入後も最新機種として使用できるアップグレード機能


 導入に際し、他社メーカーの製品も検討したが、最終的に同社は、T230の導入を決断した。その理由について小林氏は「HP社のユーザー会であるDscoopに参加した際に、多くの事例や様々なマーケティング支援体制に驚愕した。さらにHP社の製品開発コンセプトにも感銘したことが大きな理由といえる」と振り返る。

 小林氏が評価した製品開発コンセプトとは、常に最新の印刷機として使用できることだ。PWPのすべてのモデルは、共通のプラットフォームを採用している。加えて各モデルは、アップグレードが可能な設計となっており、導入以降もアップグレードを実施することで、常に最新機種同等のパフォーマンスを維持することができる。

 「機械本体は、そのままで機能だけをアップグレードできるという製品開発コンセプトは、HP社だけであった。これにより導入後も最新の印刷品質、生産性を担保できる」

 実際に同社が2015年に導入したT230は現在、T240HDへとアップグレードが施されている。

 2017年には、42インチ幅のPWP T490HDを導入。合わせてミューラーマルティニ製の後加工システム「シグマライン」も導入・インライン接続し、印刷から後加工までのワンパス生産体制を構築。さらにT490HDの給紙部には、自動スプライサーが設置されており、ロール紙の自動交換機能で、給紙作業の負担を大幅に削減している。

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T490HDにシグマラインをインライン接続

 このT490HDとシグマラインをインライン接続した生産ラインは、現在、1名のオペレータで稼働を行っているという。労働人口の減少が多くの企業で問題視されている昨今、デジタル印刷機は、それら課題の解決にもつながる設備であると小林氏は説明する。

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給紙部には自動スプライサーを接続

 現在では、同社・北國工場にT240HDとT490HD、関東工場にはT240HDの計3台のPWPが稼働している。


ドコモスマホ教室教材冊子で適時・適量生産の運用開始


 同社では、2020年に全国のドコモショップで展開しているドコモスマホ教室の教材冊子を受注している。このドコモスマホ教室の教材冊子は大量ロットのため当初は、オフ輪で一括生産して倉庫に保管し、必要な部数を全国の各店舗に発送していた。しかしスマートフォンの特性上、アプリのバージョンアップなどの改訂が頻繁に発生する。当然、改訂が入れば、その冊子は教材として使用することができない。そのため、使用できない冊子は、最終的に破棄することとなる。

 クライアント側も、この問題を重要視しており、その問題解決の方法を同社に相談してきた。その解決策として同社が提案したのがデジタル印刷機による生産だ。

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ドコモスマホ教室冊子

 オフ輪の仕事をデジタル印刷機にシフトすることはコストや生産性、また品質の相違など多くの障壁があった。しかし同社は、これまでに培ってきたデジタル印刷を活用したビジネスモデルを駆使し、最適な生産フローの構築に向け試行錯誤を続けていった。

 その結果、生産をデジタル印刷機に完全移行し、一括生産ではなく、注文された部数だけを生産する「適時・適量生産」による運用を提案した。

 オフ輪とのコストの差異については、必要部数だけを生産・出荷することで倉庫の保管料を完全に削除。また、必要部数のみをタイムリーに生産することで、アプリのバージョンアップなどによる印刷物の内容変更にもフレキシブルに対応できるため、内容改訂による印刷物の廃棄量も削減することができる。これらトータルコストで換算するとデジタル印刷機による生産にメリットがあることが確認できた。

 発注の仕組みとしては、全国のドコモショップ各店舗の発注担当者が受発注専用のシステムを介して必要部数を注文。この注文締切時間は、夜中の12時とされている。受注を確認後、日付が変わった午前1時以降に印刷・加工を行い、同日の午後5時には出荷を完了するという驚異的な受発注フローで行われている。

 中綴じ製本でスタートしたドコモスマホ教室冊子は、無線綴じ仕様の冊子や2つ折り仕様のパンフレットなど、新たな商材の受注獲得につながっている。これらの印刷物は、すべてデジタル印刷機で生産され、必要とする各店舗に必要数が直送される。つまり在庫・保管というフローを完全に排除した運用を実現している。

 「倉庫に在庫している商材をピッキングして出荷するという従来作業とタイムスケジュールを同等にするためには、この運用法になる。これを実現できるのはデジタル印刷機であり、一番の強みと言える」


廃棄レスでCO2削減に寄与


 在庫の破棄リスクの排除は、世界的に気運が高まっているSDGsの観点からもユーザーメリットを創出している。しかし、「大量生産から適時・適量生産」によるSDGsへの対応は、印刷会社のビジネスとして見ると、受け入れ難い運用かもしれない。ロットが少なければ当然、売上金額に影響する。そのため同社では、DXを推し進めることで社内コストを圧縮するとともに、より効率的な作業環境の構築を目指している。

 「多くの企業がSDGsへの対応を実践している。同時にSDGsに貢献できる企業をパートナーとして求めている。そのため当社では、廃棄レスや適時・適量生産で顧客のSDGsへの取り組みを支援している」

 適時・適量生産による在庫レス、廃棄レスの運用は、CO2削減にもつながっていく。具体的には、「廃棄印刷物=CO2」で換算すると、廃棄レスの運用は、CO2の排出を抑制できる。

 そのため同社では、顧客へのデジタル印刷での生産の提案時に、必ず具体的なCO2削減量を明記し、デジタル印刷機による「適時・適量生産」のメリットを説明している。

 同社では、工場全体でCO2排出を抑制するクリーン工場の構築をめざしている。さらに今後は、省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO2等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量を「クレジット」として国が認証する制度である「Jクレジット制度」への取り組みも開始していく方針だ。その取り組みの中核を担う生産設備が、インクジェットをはじめとするHPデジタル印刷機である。


PWPで商業印刷の新たな市場を開拓


 学術系の専門教材や大学の各種テキストなどもPWPで受注・生産している。さらに同社が運営しているECサイト経由でさまざまな印刷物も受注している。このECサイトは、個人ユーザーや法人などの顧客が利用しており、ここで受注した印刷物は、インクジェットで生産されているという。

 「自費出版をはじめ、いわゆる地下アイドルの写真集なども受注している。この写真集は何度も注文をもらっており、インクジェットの印刷品質が評価された証であると考えている」

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カー雑誌も生産

 また、同社では、枚葉タイプのHP Indigoデジタル印刷機も保有していることから本身をインクジェット、表紙をIndigoで印刷するといった印刷方式の異なるデジタル印刷機を連携させたフルデジタル印刷生産も行っている。

 小林氏は、「チラシを700店舗に各500部を納品といった仕事もPWPで印刷し、ブックブロックで出して断裁することで効率的に生産することができる。もちろんオフセット印刷機でも対応できるが、かなりの労力が必要となる。今後は、こういった商業印刷分野の仕事にも積極的に挑戦していきたい」と商業印刷分野においてもアイデア次第でPWPの可能性は拡がるはずだと述べている。

                     ◇           ◇

 「オフセットの補完的位置づけではなく、デジタル印刷でビジネスを本格開拓していく」という「本気」の覚悟で導入したPWP。デジタルの強みを武器に受注拡大を図ってきた同社の取り組みは、実を結び、T240HDの印刷ボリュームが世界で5位の栄誉に輝いた実績を有している。まさに有言実行だ。

 デジタル印刷の可能性を拡げていくことで自社の成長につなげていく。そのためにも同社は、今後も日本HPとのパートナーシップを継続し、新たな印刷物の開発に挑戦していく。

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