最新サステナブルプリントソリューション展示
[シリーズ - 印刷の未来を体感・創造する「ショールーム」]
(株)ミマキエンジニアリング(池田和明社長)は11月、本社を置く長野県東御市に最新のサステナブル・プリントソリューションを揃えたテクニカルショールーム「県(あがた)テクニカルトレーニングセンター」を開設した。約420平方メートルのショールーム面積を有する同センターでは、近年ラインナップを充実しているTA(テキスタイル・アパレル)市場向けのサステナブルソリューションのテスト環境を提供し、ユーザーのテキスタイル・アパレルビジネスの持続性の提案を強化していく。
約420平方メートルのショールームスペース
同社では、およそ15年前から「地域密着型のソリューション提案とサポート体制の実現」というビジョンを掲げ、今年7月には日本国内17番目の営業拠点としてショールームを備えた沖縄営業所を開設し、まさに「北海道から沖縄までを網羅した地域密着型のソリューション提案とサポート体制」を実現している。「どこからでも2時間以内」という距離に、顧客の課題解決および保守サービスのスペシャリストを配置するとともに「ショールーム機能」を提供することで、地域に密着した専門的かつきめ細やかなソリューション提案と保守サービスを行い、さらなる顧客満足度の向上を目指している。
そして今回、本社から車で10分足らずの場所に新たなテクニカルショールームを開設。その背景について、責任者である営業本部グローバルマーケティング部・原田智充担当部長は、「TA市場向けサステナブルソリューション強化」を挙げている。
同センター責任者の原田氏
現在、世界の捺染製品の大部分は一部の生産国に集約され、アナログ印刷で生産されている。アナログ捺染は工程が煩雑で生産プロセスが長期にわたる上に、消費国への出荷リードタイムが長くなり、そのため消費国のアパレルブランドや小売業は欠品による販売機会損失を防ぐために在庫保持する必要があり、売れ残りのリスクと廃棄処分により発生するコストや環境負荷への影響がある。
一方、近年テキスタイルやアパレル業界ではデザインや色使いの多様化により、色数に合わせた印刷版やインクの調合を必要としないデジタル捺染技術が求められている。デジタル捺染は工程が少なく設備規模も比較的小型のため、需要変動に合わせて必要なものを必要な分だけ消費地に近い場所で生産でき、リードタイム短縮により在庫リスクを削減できる。また印刷版の洗浄廃水がなくなることでも環境負荷低減に貢献する。
このような現状に対して同社では、今年6月に捺染市場のデジタル化をさらに推進するテキスタイル向けRoll to Roll方式昇華転写用インクジェットプリンタ「Tiger600-1800TS」を上市するとともに、昇華染料インクの脱色技術「ネオクロマトプロセス」、さらに天然繊維の染色を最小限の水の使用量と簡単なプリント工程で実現する捺染顔料転写プリントシステム「TRAPIS」を発表。これら「TA市場向けサステナブルソリューション」を一度に体感できるショールーム、それが「県テクニカルトレーニングセンター」である。
昇華転写プリンタ「Tiger600-1800TS」
池田社長は海外のプレスカンファレンスで「2018年くらいまでは『少し高価だが高生産性のプリンタ』が市場から求められたが、コロナ禍を経て、やはり付加価値が求められるようになった。そこに『サステナブル』という要素は必要不可欠」と語っている。その製品・技術が揃ったことから、「環境貢献」というミッションのもと、同センターが立ち上がった。
「当社はお客様に設備投資を促すためのテスト環境を提供するショールーム機能を重視している。たとえそれが商談に繋がらなくてもお客様から何らかの宿題を残してもらうことが重要だと考える」と原田氏。また「ショールーム」ではなく「トレーニングセンター」と名付けた理由について原田氏は「機械を購入いただくためのショールームではなく、お客様とともにTA市場の持続可能性を担保していくための市場や製品開発の拠点にしたいという想いがある」と説明する。同センターでは、同社製品の保守サービスエンジニアの教育研修機能も備えており、世界中のミマキサービスエンジニアの研修をモノ造り現場の近くで行うことで世界中のユーザーに高品質なアフターサービスを提供していく。
主な展示製品
▽DTFインクジェットプリンタ「TxF150-75」
DTF(Direct-to-film)プリントの転写シート作成に用いる最大印刷幅80cmのインクジェットプリンタ。DTFプリントとは、テキスタイル・アパレル業界、とくにウェアプリント市場で急速に普及している印刷方式。まず、転写用の特殊フィルムにプリンタで直接デザインを印刷。次に印刷したフィルムにホットメルトパウダーと呼ばれる粉をふりかけた後に熱を加えて乾燥させることで、フィルム上に転写可能なインクの層を形成する。そのインクの層を熱プレスによってTシャツなどの生地に転写させることで成果物が完成する。
DTFプリントは、シルクスクリーン印刷やDTG(Direct To Garment)プリントといった印刷方式で課題となっていた版の用意、カス取り作業を不要とし、印刷工程は無人運転が可能なため、省人化に貢献する技術として市場で急速に導入が進んでいる。
▽高速昇華転写プリンタ「Tiger600-1800TS」
高速駆動のプリントヘッドと同社独自の画質技術により、最大印刷速度550平方メートル/h(従来機比143%)を達成。印刷速度向上により、捺染市場のデジタル化をさらに推進する。また、従来機では転写紙を装置の後方に装着し、印字後に装置の前方にて巻き取りする構造だったが、同機は装置後方で巻き取りも行う構造としたことで、装置奥行サイズが約半分になっている。
▽ネオクロマトプロセス(捺染ポリエステルの脱色技術による「リメイク」プロセス)
短期イベントのサインや安価なファッションアパレルなどには主に捺染ポリエステルが利用されており、大部分は使用後に焼却処分されている。一部分はリサイクルされるが、その率は約15%程度だ。
昇華染料インクの脱色技術「ネオクロマトプロセス」は、色や柄の変更による捺染ポリエステルの再利用により、焼却処分を不要にするだけでなく、リサイクルのための必要なエネルギーの削減にも貢献。またインクや脱色用の溶剤を吸収した吸い取り紙(吸収材)は燃えるゴミとして処理でき、水の利用や排水による水質汚染を最小限に抑えることができる。
▽「TRAPIS」捺染顔料転写プリントシステム
現在、天然繊維の染色では染料や顔料が使用されているが、染色の前後工程における化学物質混合排水が全世界で毎日20億トン発生しており、これは全工業用排水の約20%を占める上に、大規模な染色設備の稼働によるCO2排出が環境負荷に繋がる。
また、染色加工は設備の構造や工程が複雑であり、技術と知識が必要で、さらに大規模な染色設備はテキスタイルの生産量を確保するため主だった生産国で使用されるため、テキスタイル製品の海外輸送によってもCO2が排出される。
捺染顔料転写プリントシステムは、従来の捺染方式(アナログ及びデジタル捺染染料印刷)と比較して印刷に関わる水の使用量が限りなくゼロに近く設備規模が小さいため、稼働によるCO2の排出も大幅に削減できるサステナブルなテキスタイルプリントシステム。また、転写プリント方式を使用することで直接プリント方式と比較して安価で小規模な設備となり、テキスタイル生産の主要国以外の消費地で小ロット生産が可能になる。
フロアホールには、プリント後も防炎認定取得済みの内装シートを使用
【ミマキエンジニアリング 県テクニカルトレーニングセンター】
▽住所...長野県東御市田中63-4 JA信州上田ラ・ヴェリテ3F
▽電話...0268-64-2377(ミマキエンジニアリング長野営業所)