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竹田印刷、インクルーシブ社会の実現に印刷で貢献

IPAで4度目の入賞〜アール・ブリュットを世界が評価

アート作品としての評価が高まるアール・ブリュット

 

 IPA2025 APJ「ダイレクトメール」部門第1位に輝いた同社の作品は、麻奈さん自身の個展を案内するダイレクトメール。猫のイラストをキービジュアルに特殊トナーを用いた手書きタイトルで華やかなアクセントを加えている。特殊色の活用により、メタリックな輝きと多彩なバリエーションを実現している。
 
 キービジュアルとなった猫は、麻奈さんの知人が飼っていた猫がモデルとなっている。残念ながらモデルの猫は、亡くなってしまったが、飼い主から「想い出として残しておきたい」との依頼があり、麻奈さんがイラストを描くことになった。

 ゆかりさんは、知人の思い出が詰まった大切な猫であることから麻奈さんに「お願いだから、まじめに描いてね」と要望したという。この「まじめに描いて」とは、従来の麻奈さんのタッチである可愛いらしいキャラクター的なものではなく、できるだけ忠実にという意味である。

 「普段は、柔らかなイメージのイラストを描いていますが、今回は大切な猫であることから、その想いが伝わる作品にしてほしかった」(ゆかりさん)

 これに対して麻奈さんは「リアル風に描くのは大変だった。でも楽しかった。本当に注意して描きました」と、普段とは異なるイラスト制作にかなりの熱意をもって取り組んだようだ。

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大切な猫との思い出をイラストに

 安井氏も「これまではキャラクター的な可愛らしさが伝わるイラストが多かったが、今回はリアル感のある作品として仕上がっており、麻奈さんの新たな可能性を発見できたと思う。また、デザイナーの観点から見ても今回の作品は、様々なシーンで活用できると感じた。実際に企業や地元生協などで採用されている」とデザイナー視点だけではなく、クライアントなどにもイラストの魅力が伝わっていることを説明する。

 また、入賞作品は予想を上回る評価を受け、「このダイレクトメールが欲しい」との多くの要望が寄せられたことから追加発注もしているという。

 現在、麻奈さんはペンギンのイラストを創作中とのこと。また、大好きな動物以外にもハロウィンやクリスマスをテーマとしたものや、名古屋城をはじめ各地域にあるランドマークも好んで描いているという。また、麻奈さん自身も保護猫活動に積極的に参加しており、保護猫の一時預かりをして譲渡につなげているほか、描いたイラストでTシャツなどのグッズを制作・販売し、その売上を保護猫活動に役立てている。

イラスト・デザイン・特殊トナーで相乗効果を発揮

 伊藤係長は、今回の入賞について「印刷の可能性が拡がった」と述べた上で「今回の作品は、印刷して断裁しただけの非常にシンプルな印刷物である。しかし、荒木さんのイラストと安井のデザイン、そして1パス6色機の特殊トナーを組み合わせることでシンプルでありながら、イラスト、デザイン、特殊トナーの3要素を融合することで相乗効果を生み出している」と、特殊な加工や特殊な紙を使わなくても、この3要素を組み合わせることで付加価値のある作品として仕上げることができたと説明する。

 また、デザイナーの観点から安井氏は「麻奈さんは、障がいがありながらも作品を発表し続けている。保護猫活動では、チラシや広告物で描いた作品でその活動を支援している。また、自身の個展などでは、イラストを活用したグッズ販売の収益も保護猫活動団体に寄付して、少しでも新たな飼い主が見つかるように側面から貢献している。その想いをダイレクトメールに込めて、多くの方に伝えることを目的にデザインしている」と説明する。

 「シンプルな印刷物」と今回の作品を説明する伊藤係長であるが、そのシンプルな中にもある工夫が盛り込まれている。

 「この作品に限らず特殊トナーは、テカリが生じる。この特性自体は、印刷する絵柄によって付加価値となるが、文字などは読みにくくなる場合がある。そこで特殊トナーをベタ刷りするのではなく、ブラックを掛け合わせ、くすませることで文字部分の視認性を上げている。同じ特殊トナーでもイラストは大胆に、文字は読みやすくといった表現の強弱をつけている」(伊藤氏)

本当の価値はアール・ブリュット作品での入賞

 IPAに5年連続で作品を出品し、うち4回の入賞を誇る同社にとってIPAに参加する意義とは。その点について伊藤係長は「部門1位となったが、本当の価値は、アール・ブリュット作品で入賞できたことだと思う。私自身、仕事としてアール・ブリュット作品に出会わなければ、その存在を知ることはなかった。だからこそIPAのような国際的なアワードで表彰されることでアール・ブリュット作家への理解も深まるはず。これにより社会的認知度も上がり、弊社としても印刷を通じて社会貢献につながる」と説明するとともに、次回のIPAについてもアール・ブリュットを題材とした作品でのエントリーも視野に入れていることを明らかにした。

 これまでアール・ブリュット作家への理解が浸透していないことに警鐘を鳴らしてきた安井氏であるが、最近では若干変化の兆しが見えてきたという。

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アート作品としての活用が加速

 「私自身、作家への配慮からできるだけ作品に手を加えることを避けてきた。そのため今回のようにイラストの上に文字を印刷するデザインを行うことがなかった。しかし作家や家族と交流し、関係性を築いていくことで、より表現力を高めるデザインを提案できるようになった。その結果、福祉やSDGsを目的としたものではなく、作品のアイキャッチ性が評価され、多くの企業や団体などに活用されている」と、コンセプトや目的とは関係なく、1つのアート作品として市場に受け入れられていると説明する。

 さらに安井氏は、今回の麻奈さんをはじめ、これまで関わってきたすべてのアール・ブリュット作家と「IPA入賞」の喜びを共有したいと考えている。

 「私が関わってきた愛知県内のアール・ブリュット作家の作品を集めた作品集を作成し、IPAに出品し、最優秀賞を目指したい。もちろん簡単なことではないが、すべての作家と喜びを分かち合うためにも実現させたい」