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躍進企業REPORT

大鹿印刷所:本紙校正用インクジェットプリンター「Proof Jet F780」導入

印刷ジャーナル 2018年1月15日
左から小林氏、鈴木氏、大鹿社長、渡辺部長、古田課長
プリンタールームに設置された2台のPJ-F780
オプションでニスなどの特色も搭載可能

顧客やデザイナーも評価
校正作業の課題を本紙出力で完全解決

 (株)大鹿印刷所(本社/岐阜県損斐郡大野町、大鹿道徳社長)は昨年7月、(株)メディアテクノロジージャパンが開発した本紙校正用インクジェットプリンター「Proof Jet F780(以下、「PJ-F780」)」を導入し、本紙校正による本格運用を開始した。高度な品質が求められるパッケージ印刷において、「PJ-F780」による本紙校正は、同社にどのような成果をもたらしたのか。今回、同社・大鹿社長をはじめ、デザイン部の渡辺和也統括部長、生産部CTP課の古田広行課長、そしてデザイン部制作課の鈴木麻予氏と生産部CTP課の小林麻子氏に、「PJ-F780」を導入した背景やその後の成果などをうかがった。


 (株)大鹿印刷所は、明治33年の創業以来、菓子や食品などのパッケージ印刷に特化した事業を展開し、現在では、企画からデザイン、印刷、加工、製函までの一貫生産体制によるトータルソリューションを顧客に提供している。同社の手がけるパッケージは、誰もが知る人気テーマパークをはじめ全国各地で使用されている。その顧客が評価する同社の強みの1つがデザイン力だ。
 「当社は、デザイン面においてヒット商品の制作を1番のテーマとして日々取り組んでいる。当然、人気商品となれば追加受注につながり、逆に追加受注がなければ、今後のデザイン制作の検討材料として活用していく。これらを管理することで、より購入意欲をかき立てるデザイン制作を行い、結果としてお客様のビジネスに貢献することができる」(大鹿社長)
 その同社は、昨年7月、本紙校正用インクジェットプリンター「PJ-F780」を導入し、稼働を開始している。

インクジェット専用紙のメリットとデメリット

 「PJ-F780」導入の目的について、渡辺部長は、まずインクジェット専用紙による校正の課題を挙げる。
 導入以前の同社では、インクジェット専用紙による校正出力を主軸としていた。インクジェット専用紙は、高品質な校正を出力できるが、その分コスト高になってしまう。加えてインクジェット専用紙と印刷本紙での視覚的な色の差も問題となっていた。
 「お客様からオフセット印刷機による本紙印刷とインクジェット専用紙との色差を指摘されることもあった。白色度が異なるので印刷本紙は、インクジェット専用紙と比較して全体的に少し沈んだ色に見えてしまうこともある。大きな問題には至らなかったが、お客様からは、色における校正と本紙の整合性を求められるようになった」
 そのため同社では、約2年前に他社メーカーの本紙に対応できる校正システムを導入し、これら課題の解決に向けた取り組みを開始。しかし、結果として、同社が思い描いた運用はできなかったという。
 同社・デザイン部制作課の鈴木氏は「データの内容にもよるが、1枚の出力に約40分もかかることから作業効率が落ち、また、連続出力を行うと印刷時にヘッドが用紙に接触し、擦れたような仕上がりになってしまうこともあった」と、機械自体の耐久性が同社の作業フローに適していなかったことを指摘。さらに、常にメンテナンスを要することから作業負荷が増大していたことも問題となっていたと説明する。
 しかし、本紙対応ということもあり同社は、試行錯誤を重ねながら使用を継続。その結果、この本紙対応の校正システムによる出力は月間200枚、インクジェット専用紙での出力が月間600枚と圧倒的にインクジェット専用紙による出力が多く、本紙校正への移行という同社の目的を達成することはできなかった。
 本紙に対応し、さらに作業効率の高い校正システムを模索していたとき、メディアテクノロジージャパンから「PJ-F780」の提案を受けた。
 「PJ-F780」は、商業印刷モデル、パッケージモデルの2機種のラインアップがある印刷本紙対応インクジェット校正プリンター。B1サイズの印刷本紙に対応し、色数はCMYKの4色に加え、商印モデルはライトシアン、ライトマゼンタ、ライトブラックが追加されることで色域が広がり、ハイライト部分の再現がより可能となる。また、パッケージモデルはオレンジ、グリーンが搭載されていることで特色の再現が可能。さらにオプションで白インクやニスインクを搭載することができる。同社では特色の原色化(カラー印刷化)を取り組みの1つとして推進しており、カラーの色域の高い商印モデルを選択した。

求めるのはオフセット印刷同等のクオリティ

 「PJ-F780」導入にあたり、同社は、さらに違うメーカーが提供している本紙対応校正システムとの比較検証を実施。その結果、新たな本紙校正システムとして「PJ-F780」の導入を決定した。
 その決定を大きく左右したのは、現場スタッフの意見だと、渡辺部長は説明する。
 「実際のプリント業務を行うスタッフでPJ-F780の実機を見学したところ、基本性能や印刷品質など、すべての面で見学したスタッフの評価が高かった」
 同社に在籍する56名のデザイナーのうち、36名が女性である。そのため女性が使いやすい機械であることも、導入条件の大きな選択肢となったようだ。
 「PJ-F780」の本格運用に向け、同社では検証テストを開始。その1つが用紙検証だ。同社では、様々な用紙を使用してテストを実施し、デザイナーが求める色をしっかりと再現できているかなどを確認していった。
 同社・生産部CTP課の古田課長は、「ベンチマークとしては、既設インクジェットプリンターの出力時間に対し、PJ-F780では、どのモードで出力すると品質が担保できるか、また、どれだけオフセット印刷の品質に近づけることができるかなどを検証した。いかに本紙対応といえども、オフセット印刷の品質、つまり本製品に近い色再現ができなければ、PJ-F780を導入した意味がない」と実施した検証作業について説明する。
 同社が生産するパッケージは、消費者に対して商品をアピールすることが最大の使命である。陳列された数多くの商品の中で、いかに消費者の目を引き、購入意欲をかき立てるかが求められている。商品の売れ行きが好調になれば、顧客のビジネスにも影響する。そのため品質要求は年々高まり、校正といえども例外ではない。だからこそ、同社も検証テストに一切の妥協を許さなかったという。
 そして約3週間のテスト運用を経て、本格稼働を開始。「フラットベットタイプであることから、これまでのプリンターとの機構上の違いに若干、戸惑いもあったもののメディアテクノロジージャパンとCGS Japan社のサポートもあり、CMSではインクジェット専用紙よりも印刷物に近い色域を再現することができ、スムーズな立ち上げを行うことができた」と小林氏。そして「PJ-F780」による本紙校正は、多くのメリットをもたらすこととなった。

本紙校正が全体の75%に〜コスト削減にも効果

 導入以前の同社では、顧客の理解のもと、インクジェットプリンターで出力した色校正と本紙をCADでカットし、製函したダミー箱を提出して、全体的なイメージを確認してもらっていた。しかし、このやり方ではやはり製品のイメージを正確に把握できない。
 だが、「PJ-F780」運用開始後は、印刷本紙に出力し、本製品の仕様を完全に再現したサンプルを提供できるようになった。
 「仕上がり品質だけではなく、持ったときの紙の質感や、実際に商品を入れた時の重量感など、総合的にお客様に確認してもらえるようになった。これにより、校了までのタイムスケジュールも大幅に短縮している」(渡辺部長)
 さらに校正に要する時間だけでなく、印刷立ち会いの回数も減少するなど全体的な作業時間短縮にも貢献している。
 「デザイン部門と生産部門で色に関する認識が完全に一致したので、これまでのような色確認のための突発的な印刷機停止なども抑制できるようになった」(大鹿社長)
 また、本紙校正の運用は、コスト面でも大きな成果を上げている。これまで圧倒的に多かったインクジェット専用紙の使用量は、全体の25%まで減少し、逆に「PJ-F780」での本紙出力が75%を占めるようになった。これにより、年間で数百万円かかっていたインクジェット専用紙コストを大幅に圧縮することができた。
 同社の「PJ-F780」は、デザイナーの作業ルームから廊下を挟み、少し離れたプリンタールームに設置されている。そのため、出力完了の確認には、そのプリンタールームまで足を運ばなくてはならない。当然、出力時間は、そのデザイン内容によって異なってくる。そこで同社では、出力完了を3段階で知らせる表示灯を設置し、無駄な待ち時間をなくす工夫をしている。

昨年12月に増設し2台体制へ

 そして1台目の導入から約5ヵ月後の12月、同社は2台目の「PJ-F780」を導入。これには増設による100%本紙校正運用だけでなく、ある別の目的があるという。同社が導入した1台目はニスインクを、そして2台目は白インクをオプション搭載している。今後は、このオプション機能を最大限に発揮した校正作業を実施していくことが狙いだ。
 同社では、既設UVインクジェットプリンターでフィルムや蒸着紙など、特殊原反のプルーフ出力を行っているが、これらの校正出力も「PJ-F780」に移行することを検討している。
 「UVインクジェットプリンターは、メタル系基材などに出力できるメリットがある反面、全体的な色再現性に課題があり、そのため色が合ってないことを説明した上で、お客様に提出していた。しかし、2台目のPJ-F780は、白インクが使用できるので特殊紙でも高精度で色再現ができると思う」(鈴木氏)
 また、水性顔料インクの「PJ-F780」は、UV独特の臭気を発生することなく、作業環境の改善につながることもメリットとして挙げている。
 白インクの運用については、現在、マッチング作業を進めており、同社に最適なシステムとしての構築も近いようだ。
 また、今後の要望としては、ニスインクのバリエーションの拡充やオフセットインキメーカ毎の色味を再現できるインクジェットインクの開発に期待しているという。

PJ-F780は校正における品質管理の要

 「PJ-F780」の導入により、同社の抱えていた課題が解決でき、また、顧客に対しても本製品同等の見本を提示できるようになったことは大きな成果である。その成功の背景には、「PJ-F780」の本格運用に奔走した鈴木氏と小林氏の功績があると古田課長は語る。
 「どんなに優れた機械を導入しても、カラーマッチングがうまくいかなければ、デザイナーから評価されない。また、カラーマッチングができても、その運用の仕組みに問題があればデザイナーは納得して使用してくれない。この課題に対し、2人の女性スタッフが中心となって積極的に取り組んでくれたことが本格稼働につながり、また、ここまでの効率化を実現できたはず」
 国内パッケージ印刷市場は、ラグビーワールドカップや東京オリンピック・パラリンピックなどの国際イベントを控えていることから、多くの需要が期待されている。同社は、デザイン力や印刷技術を駆使し、「創注産業」、つまり注文を自ら創り出し、「創造・貢献・向上」を理念に顧客のビジネスに貢献する企業として今後も展開していく方針だ。
 「当社では、印刷の品質管理体制の強化を目的にこれまで多くの設備投資を実施してきた。そのため品質に対するこだわりは、当社の強みといえる。その中でPJ-F780は、デザインや校正の品質管理を担う戦力機と位置付けている」(大鹿社長)