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壷屋製本、第3の糊「ポリオレフィン糊」を活用〜「なんちゃってPUR製本」開発

2023年3月23日

低価格で開きの良さと強度を実現


 工業用接着剤「ポリオレフィン糊」がPUR・EVAに次ぐ、第3の糊として製本業界で注目を集めている。元々は段ボール用の接着剤として活用されていたものであるが、製本用接着剤として応用することで、価格・強度・広開性・扱いやすさなど、どれもPURとEVAの中間に位置するものとして、製本業界の会合でも話題になっていた。今回、「なんちゃってPUR製本」の愛称で注目されるポリオレフィン糊を活用した新たな製本形態「POBB(ポリオレフィンブックバインダー)」を開発した壷屋製本(株)(本社/東京都新宿区、壷屋昭雄社長)に、その優位性などについて話を聞いた。

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壷屋社長(左)と壷屋専務


糸かがりの「楽譜」の仕事が新たな製本形態開発の淵源に


 同社は1966年2月に創業。元々はカラオケボックスの本や保険会社の料率表、名簿の製本などを手掛けていたが、時代の変貌とともに、現在の一般書籍や雑誌の製本の業態にシフト。その途上で約10年前に糸かがりによる「楽譜」の製本の仕事を請け負うことになったことが、新たな製本形態が誕生する淵源となったという。

 楽譜は説明するまでもなく、本を「開いた」状態で使用する。このため広開性のある糸かがりでの製本で印刷会社からの発注があったが、壷屋社長は「糸かがりは時間もコストもかかるので、何とかしたいと考え始めた。しかし、アジロ綴じでは開きが良くない。それなら、アジロ綴じで開きの良い本を作ろうということで研究を開始した」と当時の心境を語る。

 そして、同社は7年前にアジロ綴じによる開きの良い製本の研究に着手。本来の正式名称である「なんちゃってPUR製本」と命名した壷屋典男専務取締役は「製本サンプルを夏場の車の中に置いたり、冷蔵庫に入れたり、水に漬けたりと、10種類以上の糊で様々な検証を重ねてきた」とポリオレフィン糊に辿り着くまでの経緯を語る。

 3年間にわたる研究の結果、同社はアジロ綴じの製本方式に柔らかめの糊であるポリオレフィン糊を薄く塗布することで、本の開きの良さと強度を実現した「POBB」の開発に成功した。そして、製本業界の課題である"価格転嫁"に貢献できる発見として製本業界に周知しようとしたが、「見よう見まねで接着剤だけをポリオレフィンに置き換えて製本する同業者も出てきた。無茶苦茶な綴じ方になっている製本会社もあった」と壷屋社長。壷屋専務は「アジロの中に糊を押し込めばできるというものではない」と警鐘を鳴らしている。

 同社では糊を安定して塗布するため、折りのアジロ目を残しながら背を平らに削り、さらに紙の繊維を荒めて糊の塗布量を均一化し、本機水平盤等の微調整を加えることで、低価格ながらも開きの良さと強度を実現する「なんちゃってPUR製本」を実現しているという。


条件次第ではPUR製本と同等以上の強度と開きの良さも


 同社は「POBB」について、「なんちゃってPUR製本」と謙遜も交えて表現しているが、よくよく話を聞いてみると、条件次第ではPUR製本と同等、もしくはそれ以上の開きの良さや強度がある場合もあることが分かった。

 基本的にPUR製本は無線綴じで行っている事業所がほとんどであるが、壷屋専務は「無線綴じに共通する特徴として、正面から引っ張っても抜けないが、斜めに引かれた場合に弱く、ページが抜けてしまうことがある。一方、POBBはアジロ綴じのため、1枚だけ抜こうとしてもつながっているため抜くことはできない」とその優位性を説明する。

 PUR製本を行う事業所の中には、これを避けるため、PUR糊の塗布量を増やして対応しているところもあるようだが、これだと開きが悪くなってしまうため、「場合によっては当社の『POBB』の方が開きが良いという場合も出てくる」と壷屋専務。「開きの良さでいうと、目安としてはPUR製本を100点とするとポリオレフィンは80点ほどであるが、PUR糊の塗布量を増やしている事業所も多いので、結果として開きの良さもPOBBと変わらないというケースもある」(壷屋社長)

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開きの良さに加えて、斜めに引っ張っても頁は抜けない

 また、糊が乾燥するまでの時間についても「PUR糊の場合は6時間ほど置かなければならないが、ポリオレフィン糊の場合は30分〜1時間程度で硬化する。このため断裁についてはラインでそのまま流しても問題ない」(壷屋専務)としており、糊の扱いやすさについてはEVAとあまり変わらないとしている。

 糊の価格はEVAとPURのちょうど中間程度で、キロ単価800円強であるという。壷屋社長は「新たな製本形態のため、本当はもう少し価格もいただきたいが、現状は糊代の上乗せのみでやらせていただいている」としている。EVAよりも15〜20%ほど価格を上乗せしているようだが、それでも糸かがりやPUR製本と比べると値段は格段に安くなるため、「低価格をアピールし、POBBの受注を伸ばしていきたい」と壷屋社長は話す。POBBを開始して4年間、強度や耐久性などのクレームは一件もないようで、「なんちゃってPUR製本」としながらも、その製本品質は「信頼」に値するものといって間違いなさそうだ。


無線綴じによる「なんちゃってPUR製本」も研究中


 同社が「なんちゃってPUR製本」を開発するきっかけとなった「楽譜」の製本については「いまだに糸かがりで行っている」(壷屋社長)と簡単ではないようだが、同社は今後も技術革新を続けながら「POBB」への切り替えを提案していくということだ。

 さらに「まだ数年先になると思うが、将来的には無線綴じによる『なんちゃってPUR製本』をできるように研究を行っている」と壷屋社長。これが実現すれば、製本できる紙質の幅が広がるということで、もはや「なんちゃって」は御愛嬌でしかなくなるかもしれない。

 製本の技術革新を目指し、飽くなき挑戦を続ける同社の取り組みに期待したい。

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