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トップインタビュー|日本アグフア・ゲバルト 岡本勝弘社長に聞く

2020年1月1日

プリプレスのFA構想、次のステージへ
工場から経営改革実践へ 〜「工場長サミット」で人材育成

 資材価格の高騰や人手不足といった外部要因を背に、これら悪材料を解決に導く「プリプレスのファクトリーオートメーション(FA)」や「アズーラ速乾印刷」が市場から受け入れられ、新たな需要獲得およびブランディングに成功した日本アグフア・ゲバルト(株)(岡本勝弘社長)。今年もFAソリューションのレベルアップや速乾印刷を通じて工場から経営改革が実践できる人材の育成にアプローチする「工場長サミット」の開催など、独自の発想で新たな試みに挑戦していく。今回、社長就任から2年目を迎えた岡本社長に、その背景と具体的な取り組みについて聞いた。

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岡本 勝弘 社長

多くの経営者が動いた1年

 私自身、社長就任以前はマーケティングやサイン向けの大判インクジェット関連事業に従事していたこともあって、製版関連製品をご使用いただいているお客様と接する機会はそれほど多くはなかった。しかし、昨年1月1日の社長就任を機に、「今年はお客様との接点を増やす」という意識のもと、日本全国様々なところに出向き、多くの経営者の方々とお会いした。インクジェット畑だった私が、製版関連分野との距離感、ギャップを埋めることに時間を費やした1年だったように思う。
 その数々の出会いの中で、印刷会社の経営者の方々から多くを吸収し、そこで得たものを当社の開発部門へフィードバック、そしてお客様へ本当に価値のある製品、ソリューションを提供、このような一連の仕事の中でお客様のニーズを的確に捉えることができた1年だったと考えている。そして、多くの経営者とのお付き合いの中で、私にも経営者目線が芽生えたことは新米社長である私には大きな収穫であった。これまで自分が得意としていた「技術力」だけでなく、そこに「印刷経営の視点」が加わり、おこがましいようだが、経営的な視点で様々な提案ができるようになったと自負している。 一方、昨年の印刷業界は年明け早々から印刷資材の値上げや紙不足に見舞われ、印刷業界を震撼させる年であり、私の「社長業」も波乱の幕開けとなったわけだが、昨年はこれまでの「やり方」いわゆる経営、業務など今まで常識としていたことが通用しなくなったことを痛感する年であったと感じる。ただ、こういう厳しい時だからこそ、多くの印刷会社の経営者が変革に向けて動いたのも事実。これまで変化を拒んでいた経営者が、「このままでは通用しない」と気付き、本気で経営改革に挑もうとする過程で、これまで目を向けることのなかった当社のソリューションを評価するといったケースが多々見られた。その最たるものが製版業務の無人化運用を実現する「プリプレスのファクトリーオートメーション」と印刷現場のコスト削減、品質向上を実現する「アズーラ速乾印刷」である。変革を求められる時代だからこそ、改めて我々のビジネスチャンスが生まれたと感じている。

FA構想全体をデザインする

 「プリプレスのFA化」は、IGAS2018で我々が発表した製版業務における自動化ソリューションである。このコンセプトは、数値的にも改善効果が分かりやすく、すぐに実現可能なことから、資材の高騰や人手不足といった課題を背景に多くの印刷会社で受け入れられた。
 アグフアの「ファクトリーオートメーションシステム」は、クラウドワークフロー「アポジー・クラウド」、クラウド型ファイルストレージサービス「アポジー・ドライブ」、さらにアポジー・ドライブの拡張機能である自動化ツール「アポジー・ドライブ オートパイロット」といったソフトウェアに加え、一度に1,200版搭載できる自動化CTPパレットローディングシステム「エキスパート・ローダー」、さらにプレートの版曲げから印刷機ごとの自動振り分けを可能にする「プレート・トランスポーテーション・システム(PTS)」といったハードウェアで構成される。これら一連のシステムすべてを必要とするユーザーは限られるが、必要に応じた部分的な選択でもその効果は出ている。なかでも大きな反響を呼んだのが「エキスパート・ローダー」で、国内ですでに10台以上が稼働している。エキスパート・ローダーは、版をCTPに搭載する手間が省けるだけでなく、重労働業務の是正、廃棄物の削減など仕事の効率化以外の部分でも効果が大きい。

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アグフアの「ファクトリーオートメーションシステム」

 「PTS」の受注もいただいている。この商品を通じて我々が学んだのは、FA化にはシステムという「モノ」も大事だが、オートメーション全体をデザインすることが最も重要であること。工場内の導線を含めたすべてを理解した上で、経営者とともに効果の最大化を実現できるデザインを構想し、ゴールを共有する。ここが最も重要である。
 急速に変化していく社会に適応していくためには絶えず新しい知識を身に付けて変革というチャレンジをし続けることが勝ち残っていく秘訣だと思っている。印刷業界における技術、知識、業務のやり方もすぐに陳腐化してしまう時代の中で、常に新しい技術、知識を取り入れながら時代の先端を走り続ける強い組織づくりが急務となっている。我々が提案するプリプレスのFA化はその効果も大きく、すぐにでも取り組むべきことだと感じているし、取り組みの中でIoT、ロボット技術など最新の技術を駆使して設計されたオートメーション技術に触れることで、そこで働く方の技術、知識増強につながり、時代の先端を走れる強い組織づくりのための社員教育にもなる。アグフアも常に時代の先端を走り続けるために社員教育には力を入れている。かつてフイルム時代の技術もいまや陳腐化し、その新しい技術としての価値がなくなった。当時、それら技術のスペシャリストと呼ばれた当社のスタッフも、現在はクラウドやIoTといった分野に目を向けて技術習得し、その知識を製品に活かしたプラットフォームを提供している。また、CTPをはじめとしたハードウェアのエンジニアもオートメーション構想を学習し、お客様先で最高のパフォーマンスを発揮できる自動化システムの提案ができる体制を整え、お客様からも評価を得ている。

印刷現場が経営感覚を持つ意味

 「アズーラ速乾印刷」についても、資材の高騰を背景に、大きな注目を集めた。アズーラは独自の技術で開発した特殊な砂目構造でオフセット印刷における水を絞った印刷を実現することができる。その効果としては印刷物の乾燥が速くなるだけでなく、水の削減効果によるインキ削減効果や印刷機処理能力アップなどが挙げられ、資材の高騰による製造コストアップの影響を抑える期待から注目を集めた。
 そんな中、新たな試みとして「工場の改善で印刷会社全体の変革を目指す」という同じ志を持つ印刷会社が集まり、アズーラ速乾印刷の効果を最大化する目的で「工場長サミット」を6月に(株)藤和(埼玉県戸田市)で開催。7社8名の工場管理責任者(工場長)に参加いただいた。
 これは、速乾印刷に定義がなく、また数多くのアズーラ速乾印刷実践企業においてレベルの違いがあることから、佐川印刷(株)(愛媛県松山市)の佐川正純社長の提案で実現したもの。「明確な目標」を定め、それを実現し、継続的な改善を図っていく試みである。
 ここで重要な視点となるのが「人材育成」だ。経営者がトップダウンで指示を出しても、現場がそれを理解し、確実に実践できる能力がなければ事は進まない。発起人である佐川社長との議論の中で「工場は工場長に任しているが、それでいいのか」「現場の技術者が経営感覚を持つことが大事ではないか」という意見から生まれた企画である。資材の選択についても「使いやすい、安い」という価値判断ではなく、「経営効果の有無」という視点で資材を選択する。現場にもそこまでの経営感覚が必要な時代だということである。
 手探り状態で開催した「工場長サミット」だが非常に好評で、ある経営者の方からは「工場長サミットから戻った工場長が、人が変わったように見えた」という声もいただいている。
 目的の本質は、「アズーラ速乾印刷の技術交流会」ではなく、工場長があらゆる知識を吸収し、経営感覚を持ち、工場から経営改革が実践できるような組織づくりにある。その中の指標として、速乾印刷の定義付けや専用チャートを定めた。好評な工場長サミットは、現在、西日本のお客様からも開催の要望をいただいており、当社以外のユーザーからも参加したいという声をいただいている。今年もお客様のさらなる飛躍のために工場長サミットを実施していきたい。

FAは「見える化」と「自動修正機能」

 今年4月から中小企業にも時間外労働の上限規制が導入され、経営者にとって取り組むべき大きなテーマである。経営者はより詳細な社員の業務の把握が求められ、社員の勤務管理を行う必要がある。そして自社の設備稼働率が適性かどうかの確認も重要なポイント。社員の配置、シフト勤務など今まで以上に最適化が求められる。当社では、これら働き方改革を背景に、今年はさらにレベルアップしたFAを提案していきたいと考えている。
 より適正な勤務を行ううえで重要なのは設備の稼働状況を把握することだと考えている。設備稼働状況を詳細に分析できればかなり有効な経営指標になると考える。時系列の稼働率は、一見分かっているようで数値的に掴んでいる経営者は多くはない。FA構想の中でIoT技術を採用しているアグフアの「ファクトリーオートメーションシステム」ならばそれを数値化し、オフィスのパソコンからもプリプレス工程の詳細なデータを把握することができる。働き方改革へのアクションを促すような経営指標をプリプレス側で把握する、いわゆる「プリプレス工程の見える化システム」の構築を行っていきたい。
 また、FA分野でいうと、当社は昨年11月にFAシステムの新たなラインアップとして次世代リモートサポートシステムを発表している。これはFA化によって無人化、省人化されたCTP室向けに当社が独自に構築したシステムで、各機器からの稼働情報収集と監視カメラによって刷版工程を複合的に遠隔でモニタリングし、「機械を止めない」という視点からプリプレスのファクトリーオートメーション化を推進するものである。
 さらに今年は、自動修正機能にも着手したい。例えば、出力されたプレートがコンベアを通過する際、斜めに入ると現在はエラーで止まる。これをセンサーで「斜め」という状態が事前に分かれば、それを修正することでラインを止めない施策である。そこにカメラ検査機をインテグレーションすることも可能だろう。そんなFAをさらにレベルアップさせた「止めない自動化システム」にも今年中には着手したい。
 働き方改革が求められる中、生き残る会社は、徹底して自動化を推進する会社だと思う。FAシステムは、そんな会社に「認められるシステム」という思想のもと開発している。前述のようにすべての会社が一連のシステムを導入できるわけではない。ただ、そこに着目する会社には先進性があり、その価値を理解していただける会社の「お手伝い」が我々の使命だと考えている。

インクジェット事業はブレイクスルー

 当社のインクジェット事業は昨年から大きな伸びを示し、ブレイクスルーした年であった。これまで「綺麗、速い」という基準で勝負されてきたインクジェット分野だが、そこに「厚盛り」や「加飾」といった「見て、触って分かりやすい新たな価値」を付加することで幅広く受け入れられ、フラットベッドUVインクジェットプリンタ「JETI MIRA」は、サイン業界大手への導入が進んだ。また、3.2メートル幅のロール機「アナプルナ」も販売台数を大きく伸ばした。
 さらに昨年後半には、ロール・ボード双方に対応するUVインクジェットプリンタの上位機種「JETI TAURO」の国内販売を開始した。解像度1,200dpi、最高453平方メートル/時の出力が可能で、実用的な印刷モードであるプロダクションモードで226平方メートル/時を誇る。3.2メートル幅・50メートル巻きのロールメディアを1本あたり40分ほどで印刷が完了する。
 これら3機種は、それぞれポジショニングが違う。ロール専用機のアナプルナは、FFシートやターポリンを高速で出力するもの。薄膜でも濃度が出るインクが高く評価されている。また、JETI MIRAは「生産性+加飾機能」で、ロール機能も付いているが比較的「板物」の印刷を得意とする。
 一方、上位機種のJETI TAUROは、シートtoシートのフルオートメーション機能も付いており、厚紙のダンボール、コートボールに自動印刷するもの。A倍クラスのオフセットUV印刷機の置き換え機としての可能性を秘めている。シート・ロールのハイブリッド仕様のため、ロールtoロールではサイン系のハイエンドモデルとしての位置付けも可能だ。
 JETI TAUROの本格的な販売開始で、インクジェット事業は今年30%以上の伸びを見込んでいる。

           ◇            ◇

 ご承知の通り、今年はdrupaが開催される。アグフアではお客様に真の価値をもたらす製品やサービスを提供したく、様々な製品開発に取り組んでいる。
 アグフアは今までアズーラによる速乾印刷やクラウドワークフロー、そしてプリプレスのファクトリーオートメーションなど印刷業界で新しい取り組みを率先して行ってきている。私には持論があり、「リーディングカンパニーの基準は『販売量』ではない。世の中にはない発想で新しい技術やサービスを生み出し、お客様に利益をもたらす会社こそが真のリーディングカンパニーである」と思っている。今年も新しい発想で様々な試みに挑戦する。ぜひ今年のアグフアに期待していただきたい。

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