[SUPERIA ZD-II導入事例]アルミル導入で「見えない」をメリットに
「Global BPO Partner」を目指す(株)新進商会(本社/東京都港区三田、北田克仁社長)は今年5月、掛川プリンティングセンター(静岡県掛川市光陽)における印刷事業において、富士フイルムグローバルグラフィックシステムズ(株)(辻重紀社長、以下「FFGS」)の完全無処理プレート「SUPERIA ZD-II」を採用。2日間の移行作業で一気に「刷版工程の完全無処理化」を実現し、マニュアル類の印刷を中心に、導入1ヵ月目で1,500版を出力している。
左から、越智氏、北林氏、川口氏、王氏
「ウインドウズ95」OS複製権獲得で成長
同社の創業は1940年。戦乱の最中という厳しい時代背景の中、製図用品の専門商社として産声をあげた同社は、1960年代に入ると電算用テンプレートやコンピュータ用ファイル(EDPファイル)の開発・販売といった先進事業に着手。さらに1980年代には、コンピュータの普及にともない、ハードに添えてユーザーに供給するフロッピーディスクのコピー需要が急増したことを受け、「ソフトウェアコピー事業」を開始。これが同社の新たな成長エンジンとして機能し、その後の飛躍的な事業拡大へと導くことになる。
同社にとって大きなターニングポイントとなったのが、米国マイクロソフト社「AR(オーサライズド・レプリケーター)」の取得だ。「ウインドウズ95」の爆発的な普及を背景に、複製認定業者としてOS複製権を獲得し、当時は日々生産・出荷される「ウインドウズ」と、その関連製品に関する仕様の取りまとめや出荷数、シリアルナンバーの集計、マイクロソフト社へのレポート、トラブル対応などの業務に追われた。ここでの実績がその後の新進商会を力強く下支えきたと言えるだろう。ウインドウズOS搭載のノートPCの裏に貼られているホログラムシール「COAラベル」を販売できるのは、現在日本では唯一同社だけだという。
現在の同社の主力業務は、メディア複製サービス事業とパッケージング事業。パッケージング事業ではアッセンブリが中心で、マウスやケーブル、バッテリーなどの周辺機器をはじめ、取扱説明書やCD、登録カードなど、PC以外のものはすべて新進商会が調達し、通称「ピザボックス」と呼ばれる箱にこれらをセットしてPCの製造ラインに納品する。PCメーカーはここにPC本体を同梱し、世界に出荷されるという流れだ。クライアントには、名だたるPC・ソフトウェアメーカーが名を連ねており、言うまでもなく、品質、数量管理にはシビアな対応が要求される世界だ。
中国で印刷事業開始
そんな同社が印刷事業に参入したのは2005年。PCの製造ラインは、やはり「世界の工場」と言われる中国に集中している。同社では1996年から中国進出を果たしており、周辺部材は外注企業から調達していたが、「印刷を内製化してはどうか」という話が浮上。同社初の印刷事業を中国の地でスタートさせた。中国の印刷工場の立ち上げ要員として同社に転職してきたという掛川プリンティングセンター長の越智和彦氏は、「アッセンブリを手掛ける競合は多いが、印刷を内製化しているところはあまりなかった。営業面での差別化が狙いでもあった」と当時を振り返る。
その成功体験をもとに日本でも2010年に印刷事業を開始。その拠点となったのが、静岡県掛川市に開設された掛川センターに隣接する形で建設された掛川プリンティングセンターだ。
同センター立ち上げの企画段階から携わってきた印刷担当の北林弘成氏は「PCの開発はやはり日本。短納期が求められる商品サンプル(小ロット)は日本で、量産(大ロット)に入ると中国で、という狙いもあった。リカバリー体制も考慮し、印刷機、インキ、紙は双方とも日本製を採用。中国工場へは、紙も日本から送っていた」と説明する。
掛川プリンティングセンターには、菊全片面5色機×1台、菊全両面2色機×2台に加え、折り機、中綴じ機などの後加工機も設備されている。印刷オペレータは、北林氏を除く機長も含め8名すべてが中国からの技能実習生。それだけに徹底した品質管理が重要になる。
「我々は美術印刷を手掛けているわけではない。両面墨1色・2色のマニュアルがほとんどであるため、印刷濃度の管理はもちろんのこと、汚れ、乱丁、落丁、さらに枚数管理が我々の『品質』になる。100枚納品と言われれば、99枚でも101枚でもNGとなる品質の厳しさだ」(北林氏)
中綴じ機には高精度CCDカメラ、厚みセンサー、針金センサー、ウェートチェッカーが搭載されており、ここにも乱丁、落丁に対するシビアな管理体制がうかがえる。
掛川プリンティングセンターの印刷部門
無処理化しない理由はなかった
同社のクライアントは大手のグローバル企業が多く、環境には敏感である。そこで掛川プリンティングセンター立ち上げ時には環境配慮型のCTPシステムが採用された。立ち上げから2年くらいは小ロット物が多く、平均ロットも2〜3,000枚。その時点では問題にならなかった耐刷だが、軌道に乗り始めた3年目あたりからある兆候が出始めた。
「私が問題視したのは2点で、版剥がれの現象と耐刷である。ロット数が増えると2万6,000通しでベタが薄くなってくる。版剥がれでいうとエッジ部分が剥がれてくる。最初はブランケットを拭いたり、版を外してクリーナーで拭いていたが、ルーペで見ると2,000枚通しほどで版が剥がれはじめ、版替えせざるをえない状況だった。版からインキが剥がれていては、いくら拭いても刷れないわけだ。そんな矢先、あるお得意様のマニュアルでクレームが出た。印刷機・CTP・インキメーカー、さらに商社にも協力してもらい原因を追及したが、それぞれの立場で言い分が違う。結局、版剥がれと耐刷の原因を突き止めるまでには至らなかった。そこで、償却は終わっていたもののまだまだ使えるCTPの更新を上層部に打診。ようやく許可を得ることができた」(越智センター長)
新たなCTPシステム導入については、「トラブルが続いていた4年もの間も第三者の立場から様々なアドバイスをくれたFFGSに任せたいと思っていた。今となっては営業マンの対応が決め手だったと言える」と越智センター長。当初、無処理版の導入は考えておらず、環境対応への選択肢のひとつとして無処理化があった。しかし、FFGSから話しを聞くと越智センター長も北林氏も無処理化しない理由がなくなっていった。
結果、富士フイルムの完全無処理プレート「SUPERIA ZD-II」を採用。今年、ゴールデンウィーク明けの5月11・12日の2日間でワークフローRIP、CTPシステムを入れ替え、翌13日から実稼働に入った。
四六全判 Luxel T-9500
有処理版を使用していた同社が、無処理版採用の最大の評価基準となったのは耐刷である。
「有処理版より耐刷は若干劣ると聞いていた。しかし、現在最高で5万6,000枚を刷了。環境や条件によって変わるが、スペックでは10〜20万枚と聞いている。当社では10万枚以上の仕事は少ないため耐刷性は十分クリアしている。また、再生紙で若干耐刷が落ちたが、すぐにFFGSの技術が対応してくれ、H液を変えることで改善した。スピーディな対応に驚いている」(越智センター長)
また、無処理版のデメリットとしてよく挙げられる視認性についても、中国人実習生がオペレートする上で懸念材料のひとつだった。そこでFFGSがIGAS2018で発表したGTB社製版装着ミス防止・刷版情報印字システム「Alumir(アルミル)」(1号機)を導入。これは出力後、製版時に付加された刷版上のコードを読み取り情報を解読。それを文字情報として刷版に赤字で印字するもの。刷版の情報を直接読んで印字するため、その刷版の情報であることが保証され、オペレータは版を間違えることなく作業を進めることができる。印字された文字は、印刷時に湿し水で洗い流される。同社では、部材番号、折り仕様、表裏、色情報を印字している。
「版に印字された情報を頼りに判断することで、逆に間違えがなくなった。検版できないのはオペレータにとって非常に不安。しかし、そのデメリットがアルミルのお陰でメリットになっている」(北林氏)
刷版上に赤字で情報を印字するアルミル
さらに北林氏は、耐傷性も高く評価している。「SUPERIA ZD-II」では、生産性の最大化、プレートの経時安定化、取り扱い時のキズ抑制のために保護層を採用。ユーザーの中では有処理版より取り扱い性が高いという評価もある。「版の付け直しや再利用する場合以外、プレートクリーナーはほぼ使わなくなった」(北林氏)
2日間の移行作業で一気に切り替え
前述のように、同社では2日間で設置、設定を行い、テスト期間も設けずに翌日からワークフロー、CTP、プレートの全面切り替えを実践。導入初月で1,500版を出力している。
「もちろん不安やプレッシャーはあった。実際、前システムで出力した版を予備として用意していたが使うことはなかった。身構えていたが拍子抜けしたところもある」と越智センター長。そこにはFFGSへの信頼もあっただろう。そして何よりこの全面切り替えをスムースに実施できた背景には、FFGSの工程改善コンサルティング「Eco&FastPrinting」がある。これは、i-ColorQC(印刷状態診断)、i-PressQC(印刷機診断)、i-FountQC(湿し水診断)という独自の高度な3つの診断技術によって印刷状態を定量化するもの。越智センター長は、「トラブル時には印刷機・CTP・インキメーカーそれぞれがそれぞれの立場から意見を主張する。しかし、FFGSはこれらすべての工程をトータルにサポートできる知識と経験がある」と評価。FFGSでは、「Eco&FastPrinting」で刷版工程の無処理化に向けた支援を強化している。
一方、同社の仕事はリピートが多く、ワークフローと版が変わったことによる文字化け、色や濃度が変化することは許されない。そこをひとつの条件としてFFGSにも提示していた。というのは、同社では本社から完全PDFデータで入稿され、掛川プリンティングセンターではデータを触ることが許されていない。「『ワークフローと版が変わったから本社でデータを修正して欲しい』というリクエストはありえない。リピートの仕事は以前と同じデータで同じ印刷物があがるように、FFGSにはワークフローの移行とCTPを設定してもらい、現在は同様の仕上がりが実現できている」(越智センター長)
実稼働からおよそ2ヵ月、実際にCTPをオペレートする製造部の川口雅一氏は、無処理版の優位性を次のように評価している。
「3ヵ月に1回程度行っていたメンテナンス・清掃は2〜3人でまる1日かかっていた。これがなくなるということは、精神的にも非常に楽になった。また、これまでは立ち上げ時に薬品の温度を調整する時間が必要だったため、朝一に版が必要な場合は、早めに出勤して対応していた。しかし、いまは朝来てすぐに『版が欲しい』と言われれば、ものの5〜10分で出せる」
また、同じく製造部の王静穎さんは、女性の立場から無処理版のこんなメリットを語ってくれた。
「いままで仕事中はいつも手が汚れていた。メンテナンスの際にCTPに手を入れるとすぐに汚れるし、目には見えないが出力後の版にも薬品が付着しており、何枚も触っているとだんだん手が青くなってくる。これがなくなるのは女性にとってありがたい」
大手クライアントの「ものづくり」に関するさまざまなニーズを事業化することで、グローバル・サプライチェーン・カンパニーへと成長してきた新進商会。そこに「印刷」という差別化とその工程における「環境対応」を「刷版工程の無処理化」によって実現すると同時に、品質、コスト、運用面でも大きなメリットを享受している。