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我が国は2020年10月に2050年カーボンニュートラル宣言を行い、2021年4月には2030年度に2013年度比で温室効果ガス46%削減を目指していくことと、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けていくことを表明した。また、2021年5月には改正地球温暖化対策推進法が成立し、「2050年までの脱炭素社会の実現」が基本理念として法律に位置付けられた。このような中、脱炭素社会の実現に向けて、企業においても脱炭素に向けた目標設定などを通じ、「脱炭素経営」に取り組む動きが加速している。このような企業の取り組みは、国際的なESG投資の潮流の中で、自らの企業価値の向上につながることが期待できる。また、気候変動の影響がますます顕在化しつつある中、先んじて脱炭素経営の取り組みを進めていくことは、他社と差別化を図ることができ、新たな取引先やビジネスチャンスの獲得に結びつくことも期待できる。今秋に東京ビッグサイトとインテックス大阪を会場に開催された「脱炭素経営EXPO」には、コロナ禍とは思えない来場者で賑わいを見せ、脱炭素化社会に向けた企業の関心の高さを改めて確認することができた。脱炭素経営への取り組みは今後、印刷業界にとっても重要性を増してくることは間違いないだろう。そこで弊紙では今回、「印刷業の脱炭素経営」をテーマに、環境負荷低減素材の活用や二酸化炭素排出ゼロ電力の導入、水なし印刷+カーボンオフセットの取り組みなどで脱炭素経営に先進的に取り組む企業を特集した。

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富士フイルムグループ、CSR計画「SVP2030」─ 持続可能な世界目指して

グラフィック事業分野で「環境」に貢献

印刷ジャーナル 2021年12月5日号掲載

 富士フイルムでは、サステナブル社会の実現に貢献する企業としてSDGsと本業を一体化させ、既存事業の拡大や新規事業の創出へと発展させていくためのCSR計画「SVP2030」を2017年に策定し、グループ全体における横断的な取り組みを加速させている。今回、同計画が定義する「環境」に焦点を当て、富士フイルムグローバルグラフィックシステムズ(株)(FFGS)と富士フイルムビジネスイノベーション(株)(富士フイルムBI)がグラフィック事業分野で展開する具体的な取り組みやソリューションを取材した。


環境保全、社会の信頼は「企業活動の根幹」


 富士フイルムグループが目指すCSRの取り組みには、創業当初の意識・DNAが大きく影響している。富士フイルムは、富士山の麓である足柄(神奈川工場足柄サイト)でフィルム製造を開始。創業の原点ともいえる写真フィルムの製造には、大量の清浄な水や空気が不可欠だったため、富士山の伏流水を頼り、この地に行き着いた。環境や自然の恩恵を受けて事業活動を行う企業グループである。

 また、写真フィルムは撮影前に試すことができず、一生に一度のシーンは撮り直しがきかない。いわゆる「信頼を買っていただく商品」であるという「DNA」が脈々と受け継がれることで真摯かつ積極的に環境保全へ取り組む姿勢がある。それと同時に、お客様や地域との双方向のコミュニケーションも積極的に実施し、環境を配慮した事業体としての信頼を築いてきた歴史がある。これら環境配慮・保全、社会からの信頼、そしてステークホルダーとのコミュニケーションは、「企業活動の根幹を成す」との意識が事業の背景にある。

 富士フイルムグループの考えるCSRとは、誠実かつ公正な事業活動を通じて企業理念を実践することにより、社会の持続可能な発展に貢献することにあり、具体的には「事業を通じた社会課題の解決」と「事業プロセスにおける環境・社会への配慮」の2つの方向でアプローチしている。これらを経営計画上に位置付けるのが、富士フイルムグループCSR計画「SVP(Sustainable Value Plan)2030」だ。

 同計画は、重点事業領域をピックアップし、6分野・15重点課題で機会の最大化と負の影響の最小化に取り組むとともに、サステナブル社会の実現に貢献する企業としてSDGsと本業を一体化させ、既存事業の拡大や新規事業の創出へと発展させていくというもの。SVP2030が定義する6分野は、環境、生活、サプライチェーン、健康、働き方、ガバナンスである。

 今回、焦点を当てるSVP2030「環境」の重点課題のひとつが「気候変動への対応(CO2排出量の削減)」。同社では2030年度までにグループ全社における製品ライフサイクル全体でのCO2排出を、2013年比で30%削減するという目標を設定していたが、この数値目標を11年前倒しで達成。現在は45%、9,000万トン削減まで目標値を引き上げている。

 その具体的な取り組みとして、富士フイルムのオランダの工場では、2011年に5台の風力タービンを設置し、総電力の20%を再生エネルギー化。さらに2016年には風力発電由来のエネルギー購入を開始し、現在は再生可能エネルギー100%で工場が稼働している(現在、国内外14拠点で再生可能エネルギーを導入)。

 また、国際的なイニシアチブ「RE100」にも加盟。2050年度までに、すべての購入電力の再生可能エネルギー由来電力への転換と、同社が使用するすべてのエネルギーでのCO2排出量ゼロを目指している。


FFGS|環境貢献活動「GGP」


FFGS・高橋担当課長
​ 富士フイルムはグラフィック事業分野において「SUPERIA」というワールドワイド共通のブランドを立ち上げ、環境配慮とコスト削減を同時に実現するための製品ラインアップを展開している。とくに現像処理から解放される完全無処理CTPプレート「SUPERIA ZP/ZDシリーズ」は、同ブランドのフラッグシップ製品だ。

 FFGS技術一部担当課長の高橋宏和氏は、「SUPERIA ZP/ZDシリーズは刷版工程の環境対応とコスト削減だけでなく、自動現像機が不要になることで、自動化による革新的な工程改革にも繋がるソリューションである」と説明する。

 一方で、「環境に優しいプレート」とは言え、その原材料にはアルミが使われており、アルミの製造工程では多くの電気を使用してCO2を排出する。富士フイルムでは、印刷会社で使用した富士フイルム製のCTPプレートを回収し、主原材料であるアルミニウムを再利用してCTPプレートを製造するクローズドループ・リサイクル「PLATE to PLATE」システムを確立し、資源循環を促すことでサプライチェーン全体での環境負荷低減を図ってきたが、有処理版と比べてCO2排出量の少ない無処理プレートへ切り替えるユーザーに対するひとつのメリットとして環境貢献活動「Green Graphic Project(GGP)」を提供している。

 GGPは、富士フイルムが開発途上国におけるCO2削減プロジェクトに出資して得られた排出権(クレジット)により、無処理プレートのライフサイクル全体のCO2排出量を全量オフセットすることで、「SUPERIAシリーズ」の完全無処理サーマルCTPプレートを「カーボンゼロ・プレート」として提供するもの。2021年11月末現在で全国134社の印刷会社が加盟している。「ユーザーは無処理プレートを購入・使用することでCO2排出量の削減をはじめ、『カーボンゼロ・プレート』で印刷した成果物を『ローカーボン印刷物』としてクライアントに提供できる」(高橋氏)



 一方、カーボン・オフセットで利用したCO2排出権は、富士フイルムが開発途上国のCO2削減プロジェクトを支援することで得ているため、無処理プレートの購入・使用によって、間接的に開発途上国のCO2削減や雇用創出、インフラ整備といった支援に貢献できるのもメリットのひとつ。富士フイルムの途上国支援で代表的なものとして、ケニアの地熱発電プロジェクトでは「地熱による再生可能電力」の開発が化石電力の代替えとなり、CO2削減および若者の雇用やインフラの建設・改善が実施された。また、ペルー水力発電プロジェクトでは、水力発電施設の建設によって火力発電を減らし、CO2削減に貢献。無償で孤児院に電気を届けたり、教育施設への補助も行っている。

 高橋氏は、「GGPは印刷会社とワンチームで環境対応に取り組むことができる富士フイルム独自の仕組み」とし、刷版工程の無処理化を促進する活動として訴求している。


富士フイルムBI|トナー技術と「グリーン電力」


富士フイルムBI・森マネジャー
​ 富士フイルムBIでは、プロダクションプリンター「Iridesse Production Press」(以下「Iridesse」)が「第3回エコプロアワード」で「奨励賞」を受賞するなど、プリンタ開発においても環境に貢献している。

 「エコプロアワード」は、持続可能な社会づくりに寄与することを目的に、環境配慮に優れた製品やサービスなどを表彰する制度。Iridesseの受賞では、ゴールド・シルバートナーの下刷りが可能な業界初の6色プリントエンジン、メタリックカラーの色再現を向上させた独自のカラーマネジメントシステムと低温定着性を有するトナーの組み合わせで、高画質化と環境負荷低減を両立した点と、その開発が富士フイルムBIのCSR活動「古文書複製活動」を発端としている点が評価されている。

 富士フイルムBIグラフィックコミュニケーション事業本部 営業企画部 特命マネジャーの森浩隆氏は、「2008年から取り組んでいるCSR活動『古文書複製活動』を通じて、金泥を使った甲冑装飾の絵などに含まれる鮮やかなメタリックカラーを表現するためには、ゴールドやシルバーの特殊トナー技術が必要であることが分かった。このような文化伝承活動を発端とした技術開発のユニークさが評価されるのはめずらしいケース」と説明する。

 また、「Iridesse」では、CMYKトナーに業界トップレベルの低温定着性と業界最小クラスのトナー粒径を実現した「Super EA-Ecoトナー」を採用している。同トナーは、温度に対してシャープに粘度が変化する特性をより高めることで、低い温度でもより素早くトナーを溶融し、粘度を低くすることが可能。これにより、最低定着温度をEA-Ecoトナーより約10℃、その前のEA-HGトナーに比べると約30〜35℃下げることができ、低消費電力化の実現に貢献している。

Super EA-Eco トナーの温度に対する粘度変化

 「従来のトナーと同等の温度で溶融が始まり、一気に定着粘度に達した後、さらに温度が上がっても定着粘度の下限を割り込まない設計が肝になっている。これにより消費電力を低減するとともに、6層印刷や厚紙使用時でもA4換算120ページ/分の生産性を維持できる」(森氏)

 なお、「第3回エコプロアワード」は「Iridesse」で受賞しているが、その後継モデルである「Revoria Press PC1120」もその評価項目を踏襲している。

 富士フイルムBIでは、このようなプリンタおよびトナー技術における環境性能を追求する一方、同社製プロダクションプリンターを対象とした環境負荷低減活動を今年1月から開始している。同活動は、対象のプロダクションプリンター製品に、導入後2年間にわたって対象機器で使用する電力に「グリーン電力」を適用する取り組み。対象機で出力した印刷物には「Green Power」マークを付与して、環境負荷低減に関する取り組みをアピールできる。

 グリーン電力とは、風力・太陽光・バイオマス(生物資源)などの再生可能な自然エネルギーによって発電された電力。この環境負荷低減に関する価値を「グリーン電力証書」として証書化することで、電力そのものの価値とは切り離して取引が可能。企業や自治体は、このグリーン電力証書を購入し、通常使用している電気と組み合わせることで、「グリーン電力」を使用しているとみなすことができる。

 これにより、印刷会社はクライアントの環境への取り組みを間接的に支援できるようになり、例えば官公庁に対しては、グリーン購入法プレミアム基準にある「再生可能エネルギー利用の印刷物」を提供できるようになる。

 最後に森氏は、「当社は、トナー技術や定着技術を背景に、オフィスユースでも業界初の機能を次々と導入してきた。その視点は、『本当に使える機能』。CO2削減においても実効果を追求したアプローチがいまに繋がっている。それがCSRやSDGsでも当社が業界をリードする理由である」とした上で、「FFGSはオフセット印刷分野から枚葉インクジェット、富士フイルムBIは連帳インクジェット、ゼログラフィー、トナー。富士フイルムグループは、小ロットから大ロットまでの印刷物をカバーでき、環境面においてもCO2排出のミニマイズといった視点で優位性がある」と語っている。