富士フイルムグループ、CSR計画「SVP2030」─ 持続可能な世界目指して
グラフィック事業分野で「環境」に貢献
富士フイルムでは、サステナブル社会の実現に貢献する企業としてSDGsと本業を一体化させ、既存事業の拡大や新規事業の創出へと発展させていくためのCSR計画「SVP2030」を2017年に策定し、グループ全体における横断的な取り組みを加速させている。今回、同計画が定義する「環境」に焦点を当て、富士フイルムグローバルグラフィックシステムズ(株)(FFGS)と富士フイルムビジネスイノベーション(株)(富士フイルムBI)がグラフィック事業分野で展開する具体的な取り組みやソリューションを取材した。
環境保全、社会の信頼は「企業活動の根幹」
富士フイルムグループが目指すCSRの取り組みには、創業当初の意識・DNAが大きく影響している。富士フイルムは、富士山の麓である足柄(神奈川工場足柄サイト)でフィルム製造を開始。創業の原点ともいえる写真フィルムの製造には、大量の清浄な水や空気が不可欠だったため、富士山の伏流水を頼り、この地に行き着いた。環境や自然の恩恵を受けて事業活動を行う企業グループである。
また、写真フィルムは撮影前に試すことができず、一生に一度のシーンは撮り直しがきかない。いわゆる「信頼を買っていただく商品」であるという「DNA」が脈々と受け継がれることで真摯かつ積極的に環境保全へ取り組む姿勢がある。それと同時に、お客様や地域との双方向のコミュニケーションも積極的に実施し、環境を配慮した事業体としての信頼を築いてきた歴史がある。これら環境配慮・保全、社会からの信頼、そしてステークホルダーとのコミュニケーションは、「企業活動の根幹を成す」との意識が事業の背景にある。
富士フイルムグループの考えるCSRとは、誠実かつ公正な事業活動を通じて企業理念を実践することにより、社会の持続可能な発展に貢献することにあり、具体的には「事業を通じた社会課題の解決」と「事業プロセスにおける環境・社会への配慮」の2つの方向でアプローチしている。これらを経営計画上に位置付けるのが、富士フイルムグループCSR計画「SVP(Sustainable Value Plan)2030」だ。
同計画は、重点事業領域をピックアップし、6分野・15重点課題で機会の最大化と負の影響の最小化に取り組むとともに、サステナブル社会の実現に貢献する企業としてSDGsと本業を一体化させ、既存事業の拡大や新規事業の創出へと発展させていくというもの。SVP2030が定義する6分野は、環境、生活、サプライチェーン、健康、働き方、ガバナンスである。
今回、焦点を当てるSVP2030「環境」の重点課題のひとつが「気候変動への対応(CO2排出量の削減)」。同社では2030年度までにグループ全社における製品ライフサイクル全体でのCO2排出を、2013年比で30%削減するという目標を設定していたが、この数値目標を11年前倒しで達成。現在は45%、9,000万トン削減まで目標値を引き上げている。
その具体的な取り組みとして、富士フイルムのオランダの工場では、2011年に5台の風力タービンを設置し、総電力の20%を再生エネルギー化。さらに2016年には風力発電由来のエネルギー購入を開始し、現在は再生可能エネルギー100%で工場が稼働している(現在、国内外14拠点で再生可能エネルギーを導入)。
また、国際的なイニシアチブ「RE100」にも加盟。2050年度までに、すべての購入電力の再生可能エネルギー由来電力への転換と、同社が使用するすべてのエネルギーでのCO2排出量ゼロを目指している。
FFGS|環境貢献活動「GGP」
富士フイルムはグラフィック事業分野において「SUPERIA」というワールドワイド共通のブランドを立ち上げ、環境配慮とコスト削減を同時に実現するための製品ラインアップを展開している。とくに現像処理から解放される完全無処理CTPプレート「SUPERIA ZP/ZDシリーズ」は、同ブランドのフラッグシップ製品だ。

FFGS技術一部担当課長の高橋宏和氏は、「SUPERIA ZP/ZDシリーズは刷版工程の環境対応とコスト削減だけでなく、自動現像機が不要になることで、自動化による革新的な工程改革にも繋がるソリューションである」と説明する。
一方で、「環境に優しいプレート」とは言え、その原材料にはアルミが使われており、アルミの製造工程では多くの電気を使用してCO2を排出する。富士フイルムでは、印刷会社で使用した富士フイルム製のCTPプレートを回収し、主原材料であるアルミニウムを再利用してCTPプレートを製造するクローズドループ・リサイクル「PLATE to PLATE」システムを確立し、資源循環を促すことでサプライチェーン全体での環境負荷低減を図ってきたが、有処理版と比べてCO2排出量の少ない無処理プレートへ切り替えるユーザーに対するひとつのメリットとして環境貢献活動「Green Graphic Project(GGP)」を提供している。
GGPは、富士フイルムが開発途上国におけるCO2削減プロジェクトに出資して得られた排出権(クレジット)により、無処理プレートのライフサイクル全体のCO2排出量を全量オフセットすることで、「SUPERIAシリーズ」の完全無処理サーマルCTPプレートを「カーボンゼロ・プレート」として提供するもの。2021年11月末現在で全国134社の印刷会社が加盟している。「ユーザーは無処理プレートを購入・使用することでCO2排出量の削減をはじめ、『カーボンゼロ・プレート』で印刷した成果物を『ローカーボン印刷物』としてクライアントに提供できる」(高橋氏)
一方、カーボン・オフセットで利用したCO2排出権は、富士フイルムが開発途上国のCO2削減プロジェクトを支援することで得ているため、無処理プレートの購入・使用によって、間接的に開発途上国のCO2削減や雇用創出、インフラ整備といった支援に貢献できるのもメリットのひとつ。富士フイルムの途上国支援で代表的なものとして、ケニアの地熱発電プロジェクトでは「地熱による再生可能電力」の開発が化石電力の代替えとなり、CO2削減および若者の雇用やインフラの建設・改善が実施された。また、ペルー水力発電プロジェクトでは、水力発電施設の建設によって火力発電を減らし、CO2削減に貢献。無償で孤児院に電気を届けたり、教育施設への補助も行っている。
高橋氏は、「GGPは印刷会社とワンチームで環境対応に取り組むことができる富士フイルム独自の仕組み」とし、刷版工程の無処理化を促進する活動として訴求している。
