RGB色域を忠実に再現〜「メタバース」で新規需要開拓へ
ヤマゼンコミュニケイションズ(株)(本社/栃木県宇都宮市、山本堅嗣宣社長)は、2023年度の「Innovation print Awards(以下、IPA)」において、「フォトブック部門」第1位を獲得した。今回の受賞作品は、同社が新たなコミュニケイションの場として市場展開している「メタバース」をモチーフとしている。RGB色域表現が基本のVRの世界観の印刷再現を富士フイルムビジネスイノベーション製のプロダクションカラープリンター「Revoria Press PC1120(以下、Revoria Press)」の強みの1つである特殊トナーを最大限に活用して制作している。
表彰セレモニーの模様
IPAは、富士フイルムビジネスイノベーションアジアパシフィックが2008年からアジア・パシフィック地域で毎年開催しているデジタル印刷コンテストプログラムで、富士フイルムビジネスイノベーション(富士フイルムBI)のプロダクションプリンター「Revoria Press」シリーズやインクジェットデジタルプレス「Jet Press」シリーズ、ワイドフォーマットプリンター「Acuity」シリーズなどを使って制作された印刷物が作品として第三者の審査員によって評価される。
通算で16回目の開催となる今回は、アジア・パシフィックの11の国と地域から275作品の応募があり、その中から39作品が入賞。日本からは、13社20作品がエントリーし、最優秀賞作品を含む4作品が入賞した。ヤマゼンコミュニケイションズは、「フォトブック部門」において第1位を獲得している。
2023年12月20日には、同社において山本社長をはじめ、今回の入賞作品制作に携わった地域活性化事業本部 次長の石川明大氏、プリント事業部 生産 リーダーの手塚知秀氏、グラフィックデザイナー UCアドバイザーの増渕結代氏の4氏と富士フイルムBIの木田裕士執行役員ほか担当スタッフらが出席のもと表彰セレモニーが挙行され、記念トロフィーと表彰状が手渡された。
表彰セレモニーの席上、挨拶した木田執行役員は、「印刷に特化するのではなく、その先のITを含めたコンテンツと融合させるなど、ヤマゼンコミュニケイションズ様の想いや会社としての特徴が反映された優れた作品である」と今回の入賞作品を評価するとともに、今後も優れた作品制作を呼びかけた。
新たなコミュニケイション空間「メタバース」に進出
「コミュニケイションをデザインして、クライアントとユーザーをつなぐ」をコンセプトに地元・栃木県内の企業、自治体、店舗、人をつなぐプラットフォーマーとして事業を展開している同社は、新たなコミュニケイションの場として「メタバース」に着目し、すぐにメタバースプロジェクトを発足。2023年4月には、自社ホームページ上で栃木県初のメタバースサービス「トトバース」を構築し、運用を開始している。
左から山本社長、石川氏、手塚氏、増渕氏
山本社長は「トトバースは、一般の方や就職活動中の方たちが、当社の建物の中を自由に見学できるようになっている。将来的には、このメタバース空間でのイベント開催などにも応用展開していきたい」とメタバースへの取り組み状況について説明する。
同社のメタバース空間「トトバース」には、現実空間と同様にRevoria Pressが設置されている。現在は、画面上で見るだけのものだが、将来的には、VR空間でも実際に操作して印刷できるような仕組みの構築を検討している。そしてVR上で印刷したものを実際にRevoria Pressで印刷することでリアルとバーチャルが融合した新サービスの構築を目指していくという。
メタバースへの取り組みを進めていく中で、同社は「MyAnimeList社」とのコミュニケイションが生まれたことが今回の作品制作につながっていったという。
「VRフォトグラファーという新たなクリエイターたちの表現力と当社の持つ印刷技術がどのように融合するのかを考えたときに、バーチャルな空間で完結することが当たり前と認識している世代の方たちに対し、紙としてイベントの思い出を提供していくことは新鮮であり、新たな付加価値になると確信した」(山本社長)
Revoria Pressの機能を最大限に発揮
2023年度のIPAにおいて「フォトブック部門」第1位を獲得した「メタバース時代の新たなフォトブック市場開拓-VRフォトグラファーとアバター達の撮影会」は、世界最大のアニメファンコミュニティの企画運営会社である「MyAnimeList社」が開催したメタバース空間で、VRフォトグラファーがVRカメラを用いて撮影したアバターたちのフォトブックアルバムとポスター。RGB色域表現が基本のVR空間の特性を限りなく再現したWeb3.0時代の新しい作品となっている。
フォトブックは、ピンクトナーを活用することで、VRフォトグラファーが撮影した画像をRGB色域によって忠実に再現している。さらに撮影会の集合写真を印刷したポスターには、Revoria Press推奨のフィルム素材を採用し、付加価値感を高める演出をしている。
フィルム素材に印刷したポスター
印刷を担当した手塚氏は、「フィルムへの印刷も問題なくできた。従来、フィルム素材などへの印刷については、静電気による張り付きが問題となっていたが、オプション搭載されている静電気除去装置を使用することで、問題なくスムーズに印刷することができた」とRevoria Pressのメディア対応力を評価している。
デザイナーとして参加した増渕氏は、フォトブックの表紙などを担当している。増渕氏は当初、Revoria Pressのもう1つの特徴であるメタリックカラーを全面に施した表紙デザインを検討していた。しかし、実際に印刷したサンプルを目にしたとき、思い描いていた色表現とはイメージが異なっていたという。
「全面的にメタリックカラーで印刷してしまうと、本来のメタリック表現が生かせていないと感じた。もちろん紙種によっても異なるが、今回、使用する紙では、メタリックカラーのベタ刷りではなく、ワンポイントとして使用することでメタリックカラーの存在感と高級感を演出した」(増渕氏)
青をベースとした表紙のフォトブック
実際の作品の表紙では、MyAnimeList社のロゴのカラーである青をベースとしている。この青は、宇宙を表現するもので、メタバース空間は宇宙空間のように無限に広がっていく、という増渕氏の想いが込められている。
VRフォトグラファーが評価するピンクトナー+CMYKの印刷表現
ピンクトナーを使用したRGB表現の成功には、事前に行った試作品制作が功を奏したと石川氏は、説明する。
今回の作品制作にあたり同社では、従来のCMYKトナーで印刷したものと、CMYKトナーにピンクトナーを追加した印刷による2種類のフォトブックを作成し、VRフォトグラファーに確認を行っている。その結果、VRフォトグラファーが評価したのは、ピンクトナーを使用して印刷したサンプルであった。さらに、あるVRフォトグラファーからは、これまでCMYKでは十分な表現ができなかったため、自身の作品を印刷することはなかったが、ピンクトナーを使用したものは、思い描いていた仕上がりとなっていたという評価を得ている。
RGB色域を忠実に再現
「RGB色域の再現性が非常に高いことからVRフォトグラファーからは、アバターの髪や肌の色再現などに評価が集まったと聞いている。印刷については、サーバーに自動分版機能があるのでピンクトナーを使用することに対しても、負荷が生じることもまったくない」(石川氏)
今回の入賞結果は、MyAnimeList社を通じて、撮影会参加者に伝えられているという。さらに今回のフォトブックの仕上がりが評価され、他のVRイベントでの採用も進んでいるという。
激変する市場ニーズにデジタル印刷で対応
同社では、デジタル印刷機とオフセット印刷機を生産機として活用しているが、山本社長はデジタル印刷機を主力生産機とした生産体制の構築を目指している。
Revoria Press PC1120
その事例の1つとして2023年8月に同社の地元・宇都宮で開業した次世代型路面電車「ライトライン」に関連する印刷を受注している。同社は、この「ライトライン」の1日乗車券を制作しており、その印刷にもRevoria Pressを活用している。この1日乗車券では、CMYKのほか、ゴールドとクリアの2種類の特殊トナーを採用。ゴールドトナーで高級感を演出するとともに、クリアトナーで偽造防止用のエンボスを印刷している。
クリアトナー、ゴールドトナー、CMYKトナーの発色、表現を高めるため、当初は、用紙にホワイトポスト紙を使用する予定であったが、この1日乗車券は、スタンプを押して使用されるため、スタンプのインクで使用した人の手や服を汚さないよう、スタンプのインクが浸透しやすく、乾きやすいケント紙を採用することで使用者への配慮を施している。
「変化を続けている市場において、発注者のニーズは大量生産ではなく多品種小ロットに移行している。そのニーズに対応するには、デジタル印刷機による生産体制が不可欠である。さらに多品種小ロットの受注を獲得していくためには、当社が積極的に進めているマーケティングが重要であり、この両輪をうまく機能させ、一気通貫でサービスを提供していくことが必須と言える」(山本社長)