コダック、パッケージ分野で新アプリケーション開拓へ[PROSPERヘッド]
ヘッドを千鳥配列で印字幅拡張
最速900メートル/分の超高速印刷が可能なPROSPERヘッドは、日本でもDM市場を中心に数百台が稼働しているが、コダックジャパン・プリント事業部デジタルプリンティング営業本部の河原一郎本部長は、「パッケージ分野を中心とした新たなアプリケーション開拓のフェーズに入っている」と語る。今回、河原本部長にアジアパシフィックにおけるインプリンティング分野の傾向や事例について聞いた。

PROSPERヘッド事業の55%が「宝くじ」
コダックのPROSPERヘッドのコア技術となっているのがコンティニュアス方式のプリントヘッド技術。この技術を採用しているのはコダックのみで、他の世界的なインクジェットメーカーは、すべてドロップ・オン・デマンド(DOD)方式を採用している。
このコンティニュアス方式でも、第3世代のSTREAM技術と第4世代のULTRASTREAM技術とでは、ドロップを生成するテクノロジーは同様であるものの、制御方法が異なる。
STREAM技術は、大小のドロップを均一に落とし、小さいドロップを風で飛ばして再循環用に回収し、大きなドロップを落としてイメージを形成する。これに対し、第4世代となるULTRASTREAMはその逆。大きいドロップに電荷をチャージして抜き取り、小さいドロップを落としてイメージを形成する。この技術により、インクサイズはSTREAMのおよそ1/3になり、インクドロップの再現性に優れることから、粒状性のある高解像度の品質で高速印刷できるわけだ。
「これらコンティニュアス方式は、DOD方式と比べてドットのサイズやシェイプ、繰り返し精度において大きなアドバンテージがある」(河原本部長)
さらに昨年のdrupa2024で発表された「PROSPERプリントバー」は、この「PROSPERヘッド」の拡張アプリケーションで、PROSPERヘッドを千鳥配列することで印字幅を拡張。モノクロなら最大4ヘッドで407.4ミリ幅、フルカラーなら最大3ヘッド(4色で計12ヘッド)で306.8ミリ幅までのバリアブル印刷が可能である。

インクは、環境に優しい水性顔料インクとして、食品包装規格に対応したパッケージ用インクや人肌に直接触れても問題の起きないパーソナルケア用インクも新たに発表されている。
河原本部長は、「コダックのソフトウェアを改良し、ヘッドとヘッドの境目を判別しづらくすることで幅広印刷が可能になっている。世界的には9インチのヴァーサマークヘッドの置き換え需要として案件がある」と説明する。
一方、第4世代のULTRASTREAM技術を使ったフルカラープレスの開発も終了しつつあるという。コダックは、紙器やフレキシブルパッケージング分野に向けて日本のメーカーと開発を進めており、パイロットユーザーの選定も並行して進めているようだ。
コダックのアジアパシフィックにおけるPROSPERヘッドの事業は、2024年の目標値をクリアし、2025年も多くの具体的な案件が進行中だという。
とくに「宝くじ」のマーケットでは独占状態にあり、一昨年はタイ、昨年は中国や韓国、ベトナムで大きな実績を挙げ、アジアのほとんどの国で「宝くじ」にPROSPERヘッドが採用されている。2025年もアジアにおけるPROSPERヘッド事業は、100台以上の市場を想定しており、その55%をこの「宝くじ」が占める。また、DM分野では高品質が要求される日本市場において、宛名印字の大量処理で多くのPROSPERヘッドが採用されている。あと、バーコードやナンバリングなど、バリアブルコードを印刷するセキュリティ分野が10%を占める。
そして現在、新しいターゲットセグメントとしてアプリケーション開発に注力しているのが、パーソナルケア、紙器パッケージ、フレキシブルパッケージの3分野だ。「おむつなどの製造ラインにプリントヘッドをインライン化して直接印刷するパーソナルケア分野は、大手ブランドでもグローバルレベルで印刷の内製化を進めている」(河原本部長)

プロモーションや偽造防止を安価に
現在、PROSPERヘッドが採用されたアプリケーションの事例としては、DMの宛名印字のほか、バリアブル印字によるプロモーション、カスタマーエンゲージメントの強化、偽造防止、ブランディング、バージョン管理、ゲーム/宝くじなどがある。
DMに関しては、日本のディーエムソリューションズ(株)(本社/東京都武蔵野市御殿山1-1-3 クリスタルパークビル2F、花矢卓司社長)の最新事例がある。PROSPER S5インプリンティングシステムを導入後、最初の仕事でハガキ32万通の宛名印字をわずか2日弱で終え、その圧倒的なスピードと品質を高く評価している。1台のPROSPER S5で、月産400万通以上のハガキDMの宛名印字が可能で、既存設備の2倍以上の生産性でダイレクトメールの受注増に対応している。
一方、スナック菓子とコンテンツ管理会社、ゲーム会社がコラボした事例も興味深い。スナック菓子付属のトレーディングカードにQRコードをPROSPERで印字し、そのQRコードを読み取るとゲーム内の任意のアイテムと交換できるポイントを獲得できるというもの。トレーディングカードを絡めたアプリケーションはホットな分野だ。
また、2015年から始まったタバコのパッケージへのQRコード印字は、喫煙者がそれをスキャンすることでポイントが貯まる仕組みで、そのポイントを使って景品に交換するなど、所謂、マイレージプログラムが用意されている。その際、事業者側は喫煙者の個人情報を取得し、そのビッグデータをマーケティングやキャンペーンで活用するというものである。
同じように、グラビア印刷機にPROSPERヘッドを搭載して、ビールのカートンにキャンペーン用QRコードを印字するものも。これは、個人情報は取らないもののLINEへ誘導して「友だち」に追加される。直接「スマホ」という接点で繋がることでキャンペーンや抽選、マーケティングに活用している。「LINEへ誘導」は現在のトレンドでもあるようだ。
さらにブランドプロテクション/偽造防止の事例では、ダンボールの表側と内側にQRコードを印字し、物流拠点でトレーサビリティを管理することで簡易的な偽造防止策を実施しているケース。表側が偽造されても内側と照合することで偽造の流通を止めることができる。現在はダンボールに印字されているが、いずれ個包装に印字されるようになるだろう。インドや中国でも飲料カートンにQRコードを印字してリサイクルのためのトレーサビリティをとっている事例がある。
「ブランドオーナーは、デジタル広告に多くの予算を費やしている。検索から該当商品がクリックされるまでのプロセスにおいて、その1クリック当たりの広告コストは高価になってきており、業界や分野によってはQRコード印字によるプロモーション並びにエンゲージメントの方が確実且つ圧倒的に安価になるという見方もでてきている。このあたりを切り口に、パッケージ分野を中心としたPROSPERヘッドビジネスで新たなアプリケーション開発を推進していく」(河原本部長)