第37回全日本DM大賞で「銅賞」受賞
(株)クイックス(本社/愛知県刈谷市、岡本泰社長)は、第37回全日本DM大賞(主催=日本郵便(株))において、「銅賞」を獲得した。全日本DM大賞は、ダイレクトメール(DM)施策に対する日本最大のアワード。37回目を迎えた今回は、700点を超える作品応募があり、厳正な審査の結果、クイックスを含む26作品が入賞を果たしている。今回、「銅賞」に選出された「二次元コード読取率25%超!究極のパーソナライズDM」は、リコージャパン(株)が推進する共創による課題解決型提案活動「RICOH BUSINESS BOOSTER」を実践したDMとなっている。
クイックスは1947年の創業以来、主として印刷分野で高品質で付加価値の高い製品やサービスを追求するとともに、システム開発、マニュアルライティング、販促企画提案、物流サービスなどにも業務を拡大してきた。近年では、市場ニーズの変化にともない、求められる役割が印刷会社としての機能から、コンテンツ制作やオリジナルCMSの開発など、「印刷業」から「情報デザイン業」への業態変革を推し進めている。その取り組みの1つとしてクイックスでは、「健診Assist」というサービスを展開している。
「健診Assist」は、特定健診の受診率向上を目的とした特定健診案内状作成発送サービス。発送する案内状には、受診対象者の自宅と健診機関を「緯度経度」情報で紐づけて、自宅近くの健診機関を絞り込んで印刷。この案内状は、受診券と一体化しているので届いたDMで最寄りの健診機関で受診ができるだけでなく、スマートフォンなどからも健診機関を検索し、道案内などの誘導も行う機能も付加している。これらの特徴から受診率向上ツールとして評価され、すでに50を超える団体で採用されている。また、クイックスの岡本社長が会長を務める(一社)日本グラフィックサービス工業会(ジャグラ)が推し進める「ジャグラコンパクトDX」では、「健診Assist」の「緯度経度」情報機能を応用し、市場開拓の新たな基幹ツールとしての開発・活用を目指している。
共創のきっかけは「健診Assist」
今回のDM制作は、このジャグラの会合で行われた「健診Assist」のプレゼンテーションにリコージャパン(株)が高い関心を寄せたことがきっかけとなる。プレゼンを聞いたリコージャパンは、「健診Assist」と自社が提供するサービスを組み合わせることで新たな価値を創造できるとの判断から、クイックスとの共創を呼びかけた。クイックス側も当時抱えていた課題解決につながるとの想いから共創がスタートすることとなった。

加藤 氏
クイックス・Web戦略部コンテンツサービス1課 課長の加藤明宏氏は、「健診Assistのプレゼンにリコージャパンさんが興味を持ってくれたことで交流が始まった」と説明する。
クイックスでは、「健診Assist」の拡販にともない、カラーPOD機や圧着機を増設。合わせて増設した設備の稼働率向上を図るために「健診Assist」以外の販促系DMの受注創出を模索していた。以後、両社は、定期的に勉強会を開催するとともにリコージャパンが展開する共創による新たな価値創造を提案する「KICK START」にも参加し、DM制作における課題解決と新たな需要創出を目指し、情報共有を開始した。
クイックス・第一営業部営業一課 課長の太田英次氏は、「リコージャパンから紹介されたマーケティング支援サービスの中にDMの解決事例などがあった。当社もDM制作の強化という課題を抱えており、その課題解決には、リコージャパンとの共創が必要だと感じた」と説明する。

太田 氏
そして、その成果検証の場として、リコージャパンから全日本DM大賞にエントリーするためのDM制作が提案された。クイックスに課せられたのは、リコージャパンがプロモーション展開するパーソナライズド動画生成ソリューション「PRISM」と1to1のQRコードを活用した、これまでにない紙とデジタルを融合した新たなDMの制作だ。
DM制作で「RICOH BUSINESS BOOSTER」を展開
(株)リコーでは、社内外からイノベーターを募り、リコーグループのリソースを活用した新たな価値創造につなげるリコーアクセラレータープログラム「TRIBUS」を展開している。リコージャパンからの依頼は、そのプログラムで正式採用された(株)クリエ・ジャパンが提供するパーソナライズド動画生成ソリューション「PRISM」の製品紹介セミナーの集客と事前に「PRISM」を体感できる仕組みをDMに付加するものだった。
「PRISM」は、MA連携によるあらゆるデータを活用し、個々の視聴者ごとに最適化した専用動画を自動で合成・生成する日本初のパーソナライズド動画生成エンジン。

畠中 氏
リコージャパン(株)旧PP事業部CIPマーケティング推進室CX推進グループリーダーの畠中竜吾氏は「クリエ・ジャパンが提供する1to1の動画サービスと当社が提供する1to1のQRコードは、親和性が高いと感じた。もし実現できれば、当社が提唱している共創による課題解決型提案活動『RICOH BUSINESS BOOSTER』のビジネスモデルになると考えた」と今回のDMにかけた強い想いを説明する。
RICOH BUSINESS BOOSTERとは、印刷事業者やビジネスパートナーとの共創活動の総称で、印刷事業者のビジネス拡大に向けて「仕事を創る」「仕事を回す」「仕事が見える」の3つの軸で課題解決に取り組むもの。具体的には、顧客である印刷事業者の課題ごとにリコーのプロダクションプリンターや各種ソフトウエア、サービスと、ビジネスパートナー各社の機器、ソフトウエア、サービスを組み合わせたソリューションを3つの軸で最適化して提供していく取り組み。今回のDMでは、クイックス、リコージャパン、クリエ・ジャパンの3社の共創プロジェクトによって制作されている。
デザインは「手帳」を採用
DM制作が決定したことを受け、加藤氏はすぐにデザインプランを作成。しかし、最初の提案は、不採用という厳しい結果であった。
「コンセプトなどをしっかりと理解していない中での制作であったため、最初のデザインは、単に高級感を演出しただけの普通のA4サイズのDMであった」(加藤氏)
畠中氏は「予算や納期など非常に厳しい状況での依頼であったが、全日本DM大賞で入賞するには、開いた時の驚きを与えることが必要となる。そのため最初の提案内容では、だめだと正直に伝えた。その上で改めて今回のDMにかける想いを伝え、再提案をお願いした」と、当時を振り返る。
畠中氏の想いを受け、加藤氏と太田氏は、再提案するためのデザインについて検討を重ねていった。ただ時間だけが過ぎていく両氏の協議が暗礁に乗り上げているとき、クイックス・稲垣秀利執行役員から「A5サイズのDMを検討してみては」と、自身の手帳を見せながらアドバイスをしてくれたという。改めてその手帳を見るとA5サイズで、開いて使うという行動は、圧着DMの開封と同じ動作だ。すぐに加藤氏はデザイナーに連絡し、改めてデザイン制作を依頼。そしてA5サイズの手帳をモチーフとした圧着DM案が完成した。

表紙面は手帳をイメージ
太田氏は当初、型抜きなどの後加工を施し、視覚的な効果をもったDMも候補として検討していたことを明らかにした上で「しかしコストと納期を考慮すると現実的ではなかった。そうなると今回のDMのターゲットである経営者層に受け入れられるデザインで、かつ開封率を高める仕組みを持たせなければならない。手帳のデザインであれば、開くというアクションにつながっていく」と、手帳をモチーフとした圧着DMに込めた想いを説明する。
開けさせるためのストーリーも重視
完成した圧着DMは、経営者層の手帳をイメージし、「離席中にリコージャパンの担当営業からセミナーの案内があり、付箋のメモを見た経営者がスケジュールに参加予定を書き込む」というストーリーを仕立て、受け取った顧客が取るべき行動へ自然に誘導する仕組みとなっている。
表面は、A5サイズの手帳を再現するために、情報量を絞り、手帳を開く感覚で開封へと導くように手帳を再現した絵柄と担当営業の名前をバリアブルで印刷したシンプルなデザインを採用。そして中面には、担当営業の顔写真を入れることで、安心感と親近感を演出している。加えて中面には、今回のDMの中核となる、読み込むことでパーソナルド動画を視聴できる二次元コードを印刷し、事前に「PRISM」を体験できるようにして、改めてセミナーへの参加意欲を掻き立てるような工夫を凝らしている。

中面には二次元コードを印刷
発送対象は、リコージャパンのポータルサイトにおいてバリアブル系コンテンツを閲覧、または過去に関連セミナーを受講した印刷会社の経営者層をターゲットとして抽出。また、DM発送後にはメルマガも配信し、セミナー申込のWebサイトを重ねて案内することで、申込率向上につなげている。
パーソナライズド動画からセミナー集客に誘導
発送後、パーソナライズド動画の視聴者数、完全視聴者数を計測した結果、DMを受け取った25%以上がパーソナライズド動画を表示し、そのうち85%が動画を視聴したという。また、視聴した顧客からは、セミナー開催前に「PRISM」を活用したDMへの問い合わせや実際にDMを作りたいという声が多く寄せられ、さらにセミナーの申込率も13.7%にまで達することとなった。
「平均的な二次元コードの読取率は、数パーセントに対し、今回のDMでは25%を超えるなど数値的な根拠を得ることができた。その実績が客観的に評価されたことは、今後のビジネスに応用できると確信した」(太田氏)
畠中氏も「手帳をモチーフとしたことでセミナーの開催日時を自然なかたちで伝えることができる導線までを設計してもらえたことは非常に完成度が高いと思う」と評価している。
エントリーも両社で協業
全日本DM大賞は、クリエイティブだけで評価されるものではない。戦略性や実施効果など、今回のDMをどうアピールするか、両社で何度も検討会を重ねた。作品のタイトルだけでなく、エントリーに必要な情報を2社で何度も協議を重ねた上で、ようやくエントリーに至ったのだという。
「弊社では初めてのチャレンジ。エントリーの際のまとめ方やアドバイスだけでなく、最後まで一緒に伴走してくれたリコージャパンに感謝している」(加藤氏)
課題解決に向けリコージャパンとの共創を継続
今回の取り組みを通じて、加藤氏は、DMの新たな価値を発見することができたと語る。
「これまで顧客接点のスタート地点を得るためのツールがDMであると考えていた。しかし、数値的な根拠をもとに、その機能を評価されたことで、スタートではなくフィニッシュ、つまりDMはアクションに誘導し、完結させるためのツールにもなりうることを実感した」(加藤氏)

DM制作に携わった両社スタッフ(左からリコージャパンの畠中氏、長谷川幸輝氏、佐藤真里氏、クイックスの加藤氏、太田氏)
初エントリーで銅賞受賞という快挙を達成したクイックスでは、この経験を活用し、新たな受注獲得につなげていくという。しかし、そこにあるのは、単なるDMの受注拡大ではなく、あくまでも顧客の課題解決だと語る太田氏は、「今回の銅賞受賞は、お客様に安心して仕事を任せてもらえるための証となる。しかし、DMはあくまでも一つの手段であり、当社は、今後もお客様の課題解決を軸とした提案を実践することで、受注獲得を目指していく。そのためにもリコージャパンとの共創を継続していきたい」と、今後もリコージャパンやそのパートナー企業との連携で、顧客の課題解決に向けた取り組みを積極的に展開していくことを明らかにした。
※QRコードは、(株)デンソーウェーブの登録商標。