RGB表現で「紙袋=商品」へ〜小ロット強化と納期圧縮に挑戦
Web上でオリジナル紙袋を受注販売する(株)クリエイト(大阪市城東区鴫野東3-28-12、谷元進社長)は今年7月初旬、HP認定中古機販売プログラム(CPOプログラム)を通じてB2サイズ(750×530ミリ)対応の枚葉デジタル印刷機「HP Indigo 10000 CPOデジタル印刷機」を導入。同社初の大型設備導入で、紙袋の小ロット対応力と瞬発力を強化するとともに、ビビッドインキ採用によるRGB6色印刷を活かして同人系紙袋の分野で付加価値を創出。「紙袋=包装」ではなく「紙袋=商品」として「捨てられない紙袋」の提供に乗り出している。
左から、宮本課長、谷元社長、高野部長
ネットでオリジナル紙袋を販売
同社は、フルオーダーのオリジナル紙袋・手提げ袋をWeb上で受注・販売するという「印刷通販ビジネス」を展開する新鋭企業。そのメインのプラットフォームとして運営するのが19年前の創業とともに立ち上げた「紙袋販売net」だ。完全データ入稿型のオリジナル紙袋の専門サイトとして、アパレルやお土産、テイクアウト関連、婚礼、各種催事、学校、不動産業など、様々なユーザー層に様々なシーンで利用される「デザインと機能性に優れた紙袋」を提供。一部、既製品への名入れや加工サービスにも対応するなど、その手軽でユニークなサービス展開により多くのリピーターを獲得している。
一方、この「紙袋販売net」から派生する形で15年前に開設されたのが同人用紙袋印刷の専門サイト「同人用紙袋印刷・jp」だ。「特化型サイト」として同人向けサービスをスピンオフさせた背景について谷元社長は、「サービス開始から間もない頃、同人系のキャラクターがデザインされた紙袋の受注が増えていることに気づいた。当時、この世界に対して見識はなかったが、世界最大の同人誌即売会『コミックマーケット』の活況ぶりを知り、衝撃を受けた」と振り返った上で、「それまでBtoBのビジネスを展開してきた我々にとって『作品を販売する個人事業主』と捉えれば従来と変わらないわけだが、やはり少し毛色の異なる世界。特化型サイトとして切り離した方が集客に繋がると判断した」と説明する。
同社のスタッフは、ほとんどが女性で、平均年齢は30歳代前半。「紙袋」という身近な商材の取り扱いにおいて、女性スタッフのきめ細かな対応や女性ならではの感性が活かされたサービスとして、その評判は口コミで広がっている。
女性中心のスタッフの方々
メーカー保証という「安心感」とユーザー支援プログラムへの「期待」
一方、印刷を含む製造に関しては、A3ノビのプリンタを使った一部の小ロット対応を除いてほとんどが外部委託で、プランや納期に応じて国内外のパートナー企業に外注している。サービスの最低受注ロットは500袋から。より消費者のニーズが細分化される中で「もっと小ロットからお願いできないか」という声も多かったという。前記の通り、小ロットに対しては、一部、A3ノビのレーザープリンタで出力し、2枚貼りで対応してきたが、仕上がりサイズがどうしてもA4ギリギリになってしまう。「大判プリンタの導入も考えたが、生産性の面で費用対効果を考えると二の足を踏まざるを得ない。『大サイズの紙袋を小ロットでも適正価格で提供できる生産性を備えた高品位デジタル印刷機の導入』。これが当社の経営課題であり、悲願でもあった」(谷元社長)。
そんな矢先に舞い込んできたのが「HP認定中古機販売プログラム開始発表」のニュースだった。同プログラム(HP Indigo Certified Pre-Owned program)は、より手頃な価格でIndigoの認定中古印刷機を提供するもので、その品質や先進的なアプリケーションのメリットと印刷の信頼性を確保するために、厳しい再生プロセスを経て認定および再販されるもの。谷元社長は、「もちろんIndigoの存在は知っていたが、当社にとって新台のIndigoは想定する投資額の桁が違う。しかし、そのCPOモデルならば手が届くかもしれないと思い、ネットから直接HPに問い合わせた」と経緯を語る。
もちろんサイズ的に谷元社長が選んだのはB2サイズ機「Indigo10000」だ。「公的補助金を活用すれば手が届く」と判断した谷元社長は、積極的に商談を進め、今年7月初旬に設置導入を終えて実運用を開始している。
HP Indigo 10000 CPOデジタル印刷機
これまで製造のほぼすべてを外部に依存してきた同社にとって、大型の生産設備導入ははじめての経験。不安や心配はなかったのか。
「もちろん従業員十数名という当社の規模でB2サイズのデジタル印刷機を運用していくとなれば社内での体制を一変する必要がある。新たな商材の開発・事業を進めるにあたり課題も多く不安はあった。しかし、HPが提供するビジネスの立ち上げ支援プログラムを活用することで事業の成功への強い期待を抱くことができた」(谷元社長)
HPでは、Indigo事業部内に「カスタマーサクセス部」を組織し、機械運用面での支援に加え、導入後のビジネスの立ち上げを支援するカスタマイズプログラムを提供している。ここでは例えば同じ機械を設備するユーザー間のコラボレーション支援や、ソリューションパートナーとのマッチング、展示会出展などのプロモーション支援、あるいは海外の先進事例などの紹介など、ワールドワイドで展開するHPのナレッジを余すことなく提供しており、谷元社長もこのサポートに大きな期待を寄せている。
一方、「中古機」という面ではどうか。
「もちろん中古機なので外装に小さな傷などはあるが、印刷そのものの仕上がりさえ良ければ問題はない。何より、メーカー保証という安心感がある。限られた予算の中でベストの設備投資ができたと感じている」(谷元社長)
「Indigoありき」だった設備投資
B2サイズ機への投資における機種選択においては、CPOモデル販売開始というタイミングの合致もあるが、谷元社長の中では「Indigoありき」だった面もあるようだ。その理由のひとつが液体トナーの加工適性である。
「紙袋の場合、基本的にフィルムやPP貼り、OPニスなどの表面加工を施す。インクジェット、とくにUV仕様の場合、インキ部分の凹凸で平滑な仕上がりになりにくく、下手するとエンボスのような仕上がりになってしまうこともある。この部分で液体トナーのIndigoは、当社にマッチしていると感じた」(谷元社長)
Indigoで印刷した紙袋のサンプル
そして「Indigoありき」の最大の理由は、RGB色域の再現性である。とくに同人誌の制作はタブレットなどを使ったRGB環境がほとんどで、その色域の再現性をさらに向上させるのがビビッドインキの採用である。導入機は、CMYKに加え、このビビッドピンクとビビッドグリーンによる6色印刷仕様で、RGB色域の再現性がより豊かなものになっている。
同人誌の世界では、キャラクターの描画が多用されているため、肌の表現が重要とされており、Indigoのざらつき感のないスキントーンはこの世界で非常に品質評価が高い。その中で、同人系の紙袋のデザインは、同人誌の表紙と連動するケースが多いため、その印刷で多く活用されているIndigoでの紙袋の印刷は、「同一の再現性」という面で大きなアドバンテージになるわけだ。
では、そもそも同人系の紙袋はどのように使われるのか。Web事業部カスタマーセンターの宮本毬代課長に聞いた。
「同人誌をはじめ、うちわやクリアファイルなどのグッズを1セットにして紙袋に入れてイベントなどで販売する時に使われるケースが多い。イベント会場内で持ち歩かれる紙袋は広い会場内で目に入り、『紙袋を作れる作家=売れている作家』という一種のステータスでもある。今回のIndigo導入により、紙袋を作りたくても作れなかった作家にも小ロットで同人誌と同様の色再現で高品質な紙袋を提供できるようになる」
ビッグサイズのオリジナル紙袋はインパクト大
一方、今後の目標について谷元社長は「納期圧縮」を掲げている。
「様々な加工をともなう紙袋の性質上、同人誌より納期がかかってしまう。今後は、RGB色域の再現性や発色を武器に、作家のニーズをしっかり掴んだ商品展開とともに、納期圧縮に向けた運用にも取り組んでいきたい」
目指すは「捨てられない紙媒体の提供」
同社では、これまでストックヤードの機能もサービスとして提供し、ユーザーの在庫管理を支援してきた。その保管スペースだった場所に現在Indigoが設置されており、今後は、まさに「オンデマンド生産」でユーザーの在庫リスク低減にも取り組んでいく方針だ。
さらに、Indigoの特性を活かした新たな事業領域への挑戦にも着手している。RGB再現やビビッドインキによる発色は、当然のことながら写真の再現で大きな効果を発揮する。そこでコミックマーケットやコスプレイベントなどに向けてカレンダーなどの商材をアピールしていく考えだ。
Web事業部の高野陽子部長は、「同人誌と同様に、コスプレイベントの参加者は、人物写真の肌の色味や滑らかな表現にこだわりを持っており、そこにIndigo品質がマッチする」と説明する。
カレンダーのサイズについては、A2・B2・B3といった壁掛けカレンダーを展開していくという。B2対応の導入を決定した段階で、このサイズ感を最大限活用した商品開発と展開にこそ、希望があると考えたからである。さらに、生産ラインが整えば、デジタル印刷機のバリアブル特性を活かした商材にも挑戦していく考えで、同人系なら「キャラクター別の紙袋」といったユニークな試みも興味深い。
このように、商材や表現方法のバリエーションを増やすことで事業領域の拡大を目指す同社では、「捨てられない紙媒体の提供」をひとつの目標に掲げ、「付加価値のある高品質な商材を提案していきたい」(宮本課長)としている。
また、同社の事業ドメインである紙袋についても高野部長は、「『紙袋=包装・パッケージ』と捉えられがちだが、私たちは今後も、この紙袋自体を『付加価値をともなった商品』として提案し、『捨てられない紙袋』を提供していきたい」との思いを語っている。