1947年の創業から一貫してインキを専業としてきた(株)T&K TOKA(本社/埼玉県入間郡三芳町、髙見沢昭裕社長)は、長年培ってきた「色」に関する技術と経験を武器に特練インキのリモート発注を可能とする新特練インキ事業を開始した。「色」をデータ化し、その情報を相互共有することで実現するこの新事業は、特練インキ発注業務をDX化する仕組みとして期待が持たれている。今回、同社・インキ事業統括本部国内インキ営業統括部営業企画部CMSソリューション担当の菊地貴志氏に、新事業を立ち上げた背景や今後の戦略などについて聞いた。
菊地 氏
同社がビデオジェット・エックスライト(株)(本社/東京都江東区、南文輝社長、以下『エックスライト社』)と共同で立ち上げた新特練インキ事業は、特練インキの発注をリモートで行うことで、これまでの課題であった色見本の移動などにかかる物理的な時間を削減し、効率的な特練インキ発注のしくみを提供するもの。この新事業に着手した背景について菊地氏は、「お客様の効率向上による時間短縮」と説明する。
従来、特色インキの受発注の流れとしては、まず、同社・営業担当がユーザーを訪問し、特色インキの色見本を受け取り、自社に持ち帰って測定・調色後、製造・納品となる。そのため色見本を入手するためには、どうしてもユーザーと自社間の移動時間が生じることとなる。同社・拠点の近隣であれば、さほど時間を取られることはないが、ユーザーが遠方であればあるほど、その移動時間は増幅していく。この移動時間は当然、インキの納品、そして印刷物の納期に影響を及ぼすこととなる。
「実際に印刷機を止めてインキの到着を待っているといったケースも少なくない。印刷機の停止は、その顧客の収益減にもつながる。この無駄な時間をなんとかなくしたいという想いが、新事業を立ち上げた大きな理由である」
さらに短納期化が進む、現在の市場において特練インキ発注に要する時間は、印刷会社にとって大きな足枷となっている。
CxFデータの活用で色情報を相互共有
この特練インキ発注の時間短縮に向けて同社は、その問題を解決する手段の検討に着手。顧客とのヒアリングや印刷現場の視察を行っていく中で菊地氏は、印刷会社の大多数が分光濃度測色計を所持していることに着目した。
「エックスライト社が開発したCxF(カラーエクスチェンジフォーマット)データを活用し、色をデータ化して共有することができれば、時間短縮が実現できるはず」と考えた菊地氏は、すぐに自社内で色見本を測色し、CxFとして書き出し、そのデータから特練インキを作成するテストを実施。その結果、測色作業については、誰でも簡単にできることや、読み込んだCxFデータもΔE2以内の精度を担保できることを確認。この手法であれば、特練インキ発注における時間の問題を一気に解決できると判断し、新たな事業として開始することを決断した。
特練インキのリモート発注で納期短縮を実現
この新特練インキ事業では、まず印刷会社側で特練インキの元となる色見本をエックスライト社の分光濃度測色計「eXactシリーズ」で測色し、その測色結果をCxF(カラーエクスチェンジフォーマット)データとしてT&K TOKA側に送付する。
eXactシリーズを活用
エックスライト社により開発され、ISO基準に採用されたCxFは、デジタルスタンダード、測定結果、メタデータを正確かつ効率的に交換できる。CxFデータの受送信についてはシステムを作り、測色した色情報のほか、実際に使用する用紙情報なども盛り込んでいる。
送付されたCxFデータは、エックスライト社のインキ調色ソフトウェア「InkFormulation6(IFS)」で配合計算ののち調色される。この調色されたインキ種を簡易印刷機で印刷を行い、デルタEで色差を確認し、問題がなければ特練インキとして生産を開始。ΔEについては、2以下を基準としている。これにより色見本の移動にかかる物理的な時間を完全に削減でき、特練インキ発注のDX化に大きく貢献する。また、これまで納期対応の問題から諦めていた印刷会社の潜在需要の取り込みや遠隔地における特練インキ受発注の効率化にも効果が期待できる。
現在、同社では、内覧会などを通じて、新事業の概要や利便性などを積極的に発信している。特練インキを頻繁に使用するユーザーからの評価は非常に高く、すぐにでも採用したいといった声が数多く寄せられているという。
また、このリモート発注の運用では、「eXactシリーズ」の測色値の精度とその維持・管理が重要となることから菊地氏は、エックスライト社が提供する分光測色計の最適化ツール「Netprofiler」の活用を推奨している。
「Netprofilerは、デバイスのパフォーマンスを検証・向上させるクラウドベースソフトウェアで、修理サービスが必要なデバイスを簡単に特定でき、デバイス間の偏差を減らすことができる。これにより、常に正しい精度を維持・確保することが可能となる」
インキの専業メーカーとして印刷業界に貢献
この特練インキ事業と並行して菊地氏は、顧客の印刷現場の改善につながる「印刷診断」も実施している。
多くの印刷会社では、日常的に分光濃度測色計を使用しているが、菊地氏は「分光濃度測色計自体の持つパフォーマンスをフルに活用している印刷会社は非常に少ない」と指摘する。
「まずは、分光濃度測色計の持つ機能やその使用方法を正しく学んでもらうこと。そして分光濃度測色計で色を数値管理するということは、自社における『色のモノサシ』となることを理解してもらうが第一歩となる」
色を数値管理することは、クライアントとの色に関する情報を共有できるだけでなく、熟練や新人を問わず、すべてのオペレーターが色を数値として認識・共有することが可能となる。
新旧運用フローの比較
諸資材価格やエネルギー価格の高騰により、印刷の刷り直しは、今まで以上に印刷会社に大きなダメージとなる。そのため菊地氏は、印刷診断を通じて「色」を起因とする不具合の改善や効率的な運用方法などをユーザーに提案することで印刷不良の発生防止に努めている。実際に印刷診断を受けた印刷会社では、「クレーム発生率が減少した」「損紙の割合が減った」などの効果が出ているという。
競合の各インキメーカーがインキ事業から他分野への進出を図っていく中、同社は逆に事業の中核であるインキをはじめ各種諸資材の開発・販売、そして印刷診断等による効率的な運用支援に特化していくことで差別化を図り、印刷関連事業者の頼れるパートナーとして「色」を基軸に各種事業を展開していく方針だ。