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デジタル印刷特集 2024

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FFGS、製造現場の可視化・分析で印刷DXを支援

全業務をカウンセリング〜印刷会社に寄り添える事業体へ

印刷ジャーナル 2024年3月25日号掲載

 富士フイルムグラフィックソリューションズ(株)(山田周一郎社長、以下「FFGS」)が、印刷DXの支援活動を強化している。同活動は、製造現場を可視化・分析することで課題を抽出し、QCDにマッチしたDX提案によって印刷会社の事業成長を支援するというもの。現時点で印刷会社15社にアプローチ、うち8社のヒヤリングを終えているという。今回、富士フイルムグループが一体となって新たにスタートさせた同活動の推進役を担うFFGS技術一部の井上勝担当課長に、そのコンセプトや具体的な活動内容について取材した。

FFGS・井上氏


DXを軸とした「コト売り」


 印刷業界では、労働力確保や技術の継承、小ロット・多品種対応、稼働率の低下など様々な課題が顕在化している。その背景にあるのは、大量処理を前提とした人員・生産方法・設備、あるいは設備や人員の過剰過少による利益率の低下という現状がある。

 このような課題を背景に、DX化への関心が急速に高まる一方で、DX推進には、「改善の取り組みはするが効果が感じられない」「企業成⾧につながらない」「もっと効果を出すには」「何から取り掛かれば良いか判らない」「社外の専門家からの客観的なアドバイスが欲しい」など、多くのハードルもある。

 これら課題に対し、富士フイルムグループが製造現場を可視化・分析し、「最適生産」を実現するとともに、「事業成長」の継続に向けて支援するというのがこの活動の大枠である。活動の主体となるのはFFGSであり、主に富士フイルムBIとの協業で進めていく考えだ。

 井上氏は、「販売会社である当社が、富士フイルム製品の販売を目的に提案を行うのではなく、お客様の抱える課題やニーズを深掘りした上で、その解決ソリューションを提案するという、いわゆる『コト売り』の活動だとご理解いただきたい。その結果、必要となる機資材は富士フイルムのものかもしれないし、パートナー企業の製品かもしれない」と説明する。

 さらに、その背景について井上氏は、「印刷会社が抱える課題のほとんどは、物を買えば解決するというものではない。生産のボトルネックを探ると、設備の生産能力ではなく、運用フロー、仕事の流し方、仕組みに多くの課題があることが分かっている。ここを解決することで全体の生産効率を上げていくという動きが強まっている」と指摘する。

 具体的には、印刷会社の経営者に同活動の賛同を得た上で、業務全体をカウンセリング(ヒヤリング)し、印刷会社自身が重要と考える工程を相互認識した上で、以下の図のようなQCDにマッチしたDXを提案していくという流れになる。

DX提案活動の進め方



様々な角度からDX提案


 ここで具体的な事例を3つ紹介する。

DX提案の例1:デジタルプレス業務の効率化
▽課題(1)「作業者に依存した処理結果を定型化/標準化し、PDFを均質化したい」=DX化による課題解決「既存運用をワークフローとして定義、目的/ジョブ内容/顧客別に同一手順をリピート」
▽課題(2)「面付やQR/バーコード付与、カラー/モノページ混在データを自動処理したい」=DX化による課題解決「プリフライト・面付などの基本処理はもちろん、ページ属性による分岐、複数PDFを自動的に集約して処理、さらに後加工しやすくグルーピングした印刷が可能に」
▽課題(3)「複数台のデジタルプレスの空き状況に応じて効率的な印刷、稼働率を上げたい」=DX化による課題解決「Revoria XMF PressReady(デジタル印刷のデータ入稿からプリプレス、印刷、各プリンターまでを一括管理するソフトウェア)により同一画面上で稼働状況確認と印刷/設定が可能に」

DX提案の例2:生産管理の最適化
▽課題(1)「オフセット/デジタルを包括してコストが最適となる生産設計を実現したい」=DX化による課題解決「設備の時間単価、材料費、人件費など自社のコスト情報から最適な生産パターンをソフトウェアが自動計算」
▽課題(2)「生産設計業務は経験やノウハウが必要で属人化している」=DX化による課題解決「ソフトウェアを用いることで誰でも同じ精度で生産設計が可能に」
▽課題(3)「複雑な生産設計業務に時間がかかる」=DX化による課題解決「AIが膨大な生産パターンを瞬時に計算」

DX提案の例3:スケジューリングの最適化
▽課題(1)「様々なメーカーの印刷機、後加工機があり、一元管理したい」=DX化による課題解決「XMFやiCE LiNK連携、専用SWがなくてもオフラインで着完実績を収集可能に」
▽課題(2)「工務課の手作業を楽にしたい、属人性をなくしたい」=DX化による課題解決「受注ジョブを取り込んだ後は、機材の処理性能やシフト状況に合わせて自動スケジュールが可能、いつでも手動調整・変更が可能に」
▽課題(3)「ジョブの進捗状況を社外からリアルタイムで把握したい」=DX化による課題解決「Webブラウザからアクセス、お客様との商談現場からも即座に確認可能に」


保守メニューまでを含めたトータルサポート


 このように同活動は、富士フイルムグループの連携や各メーカーとのアライアンスによる最先端のIT技術を活用することで、オフセット/デジタルの境目なく生産工程全体の自動化/見える化を実現し、印刷会社の製造業務の最適化を支援していくものである。

 現在、印刷会社15社にアプローチし、そのうち8社のヒヤリングを終えている。その対象については「各都道府県のトップクラスの印刷会社から、もう少し小規模の印刷会社まで様々。とくに企業規模でターゲットを絞ってはいない」(井上氏)としている。ヒヤリングを終えている8社による傾向を見ると、やはり、「PODの運用管理をもっと効率化したい」という共通課題があるようだ。

 一方、FFGSでは、印刷会社の持続的成長に向けた「最適生産環境の構築」を印刷経営の新たなメソッドとしてソリューション化した「最適生産ソリューション」を展開している。これは、オフセットとデジタルの共存運用から生み出された「余力」を再分配するという考え方にもとづいたものだが、今回の印刷DX支援活動とどのような棲み分けになるのか。

 「今回の活動は、最適生産ソリューションを拡大解釈したもので、そこで生み出された「余力」を再分配するというコンセプトは同じである。最適生産もこのDX支援活動のアウトプットのひとつだと考える」(井上氏)

 今回の活動では、工程を可視化することで課題を抽出、解決し、さらにその運用をサポートするという一連のフォローサイクルを回すことで、印刷会社全体の最適化に貢献していくことになる。これについて井上氏は、「当社にはサービス部門があり、ここと技術部門の連携によって立ち上げを支援し、最終的にはそれを継続していくための保守メニューまでを含めてトータルでサポートできる強みがある」と説明する。

生産工程全体の自動化・見える化で製造業務の最適化支援

 現在、この活動が「効果的である」ということがようやく分かってきた段階。今後、展開を広げていくことでデータが蓄積され、傾向も見えてくる。そうなれば活動自体のスピード感も高まることになるだろう。

 「現時点で顕在化している課題として多いのは、部署間の情報伝達、コミュニケーションに関するものである。日報を使っている会社も多いが、それがアナログで、集計もできていないケースが多く、ここを効率化したいというニーズがある。これに対して、富士フイルムBIジャパンが取り扱う業務管理ソフト『キントーン』による情報の一元管理も提案のひとつになるだろう」(井上氏)


富士フイルムがコンサルティングする「価値」


 現在のところ、この活動自体への課金はない。しかし、費用対効果を明確にすることで、将来的にはひとつの事業に育てていきたいという。「一定規模の会社では、経営コンサルが入っているケースも多い。この活動もコンサルティングに近いが、大きな違いは生産現場を知り尽くした我々が第三者の立ち位置で生産現場に対してコンサルティングを行うということ。ここに大きな価値が生まれる」(井上氏)

 上流から下流まで、アライアンスによる提案、オフセット/デジタルを跨いだ品質・色管理。富士フイルムグループには、これらすべてを網羅しているという強みがある。

 「印刷業界では、どうしても『富士フイルム=刷版』というイメージがある。昨年の社名変更をはじめ、富士フイルムBIとの連携を強化する中で、刷版主体のメーカーから、お客様の様々な相談に寄り添うことができる事業体に生まれ変わっている。今回の活動を通じて、それが業界に浸透すれば幸いである」(井上氏)