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トップインタビュー|ミューラー・マルティニジャパン 五反田隆代表に聞く

2020年1月1日

「非生産時間」を減らす機械
工業的生産体制の構築へ 〜 自動化・見える化と品質保証


 「『働き方を変える機械』という視点から機械づくりを考えるべきだ」と指摘するミューラー・マルティニジャパン(株)の五反田隆代表。岐路に立つ印刷製本産業において、「働き方改革」と「人手不足」という大きな課題が浮き彫りになる中、「自動化」「見える化」「機械の信頼性(品質保証)」といった3本柱で「製本機械に求められること」「製本機械メーカーとしてできること」を追求している。今回、drupaイヤーの幕開けに際し、業界の現状と課題、それに対する同社のソリューションについて聞いた。

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五反田 隆 代表

人をコストとして捉えられるか

 まず、当社の昨年の販売実績からお話しすると、無線綴じ機、中綴じ機ともに、おかげさまで当初の計画を達成し、市場の状況から見ると「健闘」といったところである。
 とくに昨年は、製本専業会社というよりは印刷会社からの引き合いが多かった年だった。この傾向の背景には、製本工程単体での効率化を模索するというより、印刷物の製造工程全体を最適化することで生産効率を向上させようとする動きが顕著に表れている。印刷工程で生産効率を上げることに成功した印刷会社が、手つかずであった製本工程の改善に着手し、一連の工程の中で効率化を考える段階に入っている。今後は、印刷会社と製本会社、あるいは不得手部分を互いに補完し合うような企業統合や吸収合併も進み、産業構造に変化をもたらす可能性もある。また、これを違う角度から見ると、印刷と製本はもっと密な関係を築いた中で、互いにロスをなくし、トータルで効率を上げていくための取り組みを進める必要性もあると感じている。
 分野別で見ると、製本専業の主要な得意先である出版関係が弱含みである。とくに、低迷する雑誌の多くを手掛ける関東地区は厳しい環境下にあると言える。この場合、製本工程は基本的に「受け」「待ち」の仕事。そこで製本単体で生産効率を上げることは難しい。
 出版分野全体では「底打ち」という見方もあるが、傾向として「タイトル増、ロット減」は顕著である。その中で「どこで製造コストを抑えるか」となると、まだまだ人海戦術的な要素の強い製本工程において「人件費」が有力候補に挙げられる。ただ、製本会社が「人をコストとして捉えられるか」である。製本会社は比較的保守的であるのに対し、印刷会社の方が改善意識は高い。前述の通り、印刷物製造をトータルで考えやすい環境にもある印刷会社では、市場の現状や課題に対し、「設備投資で打開する」という考え方に繋がりやすいのかもしれない。

「小型機による分散生産」の可能性

 小ロット化がますます進む中で、生産性を上げるための設備投資を考えた場合、言うまでもないが、それは機械の回転数ではなく、仕事の切り替え時の「生産されない時間」を減らす機械であり、そこが新たな設備投資のポイントになる。
 昨年、当社が納入した無線綴じ機はすべて最高7,000冊/時の「アレグロ」である。設備更新に際し、1万冊/時以上の高速機には、現状でほとんど引き合いはない。つまり、今後は1万冊/時以上の高速機で利益を出すことは難しいということ。やはり切り替えの早さが焦点になる。これは無線綴じ機における傾向として顕著に表れており、現状の市場に対する効率化に向けた設備投資として、モーションコントロール技術を搭載した「アレグロ」が選ばれている。
 世界的にも同様の傾向が見られるが、欧米での設備投資はさらにダウンサイジングしたものになっており、生産スピード1,500冊/時の「バレオ無線綴じ機」と三方断裁機「インフィニトリム」のラインで、1冊ずつサイズや厚みの異なる本を連続生産する「ブックオブワン」が中心になりつつある。
 我々機械メーカーのバインダービジネスは小型化が顕著だが、しかしこれ単体では利益は出ないし、ビジネスにはならない。デジタル印刷機とのライン化による連続生産や無人化などの工夫がなければ「ブックオブワン」を現実的な価格で製造・提供することはできないからである。
 そこで新たな収益モデルとして出てきたのが「複数の小型の機械で、しかも分散した場所(工場)で生産する」というもの。とくに米国で進んでいる。当社が提唱するフィニッシング4.0の製品群は、この分散型生産方式に対応している。
 日本でもそう遠からず、このようなビジネスモデルが生まれるように思う。そうなると設備は小型になり、実際、米国ではこのようなマルチサイト運用の会社にバレオの導入が進んでいる。例えば書籍ならば、東京で制作したプリプレスデータを各拠点に送り、そこで印刷、製本し、同日に全国の書店に並ぶ。おそらくこの形は出版社が中心となり、各地方の印刷製本会社に委託する形で進めるのが現実的だと思う。
 一方、世界的にも高速機はそのまま使用され、残るだろうと言われており、古い高速機と切り替えが早い新しい小型機の共存の状態が続くと見ている。つまり、極端な話、我々のビジネスは切り替えの早い効率機の訴求をメインとし、高速機に対してはサービス、いわゆる「延命」ということになる。

働き方を変える機械

 昨年7月、本社内でオープンハウスを開催し、「人手不足」や「働き方改革」などの課題解決に向けた自動化、省力化、品質管理ソリューションの一端として、全自動中綴じ機「プリメーラMC」を中心とした自動化ラインとワークフロー「コネックス4.0」の有効性を実証するセミナーとデモを実施。実演では、多彩な品質管理機能をはじめ、オートローダーとスタッカー後の自動紙バンド結束およびフイルムラッピングのインライン接続を紹介した。その後、オートローダーと自動紙バンド結束装置は、印刷通販会社などへの納入が進んでいる。2020年も依然として人手不足は続き、むしろ慢性化しつつある中で需要はあると考えている。
 「人手不足」や「働き方改革」に対してメーカーができることは、「品質保証ができる機械の提供」と「自動化による生産効率向上」になるわけだが、「不測の事態」が多い製本現場では、その効果をシミュレーションしにくいというのもひとつの障壁になっている。「新しい設備を導入して生産性が30%向上した。その分、就業時間を30%削減できれば残業をなくせる」、そんな計算が単純にできないのが製本工程である。そこには経営者の「オペレータをハッピーにするための設備投資」という認識や考え方が必要である。
 「需要低迷」「小ロット化」「人手不足」「時間外労働の上限規制」といった様々な問題を抱える中小印刷製本会社において、設備投資によってその打開策に打って出る会社と、利益が出ないことを理由に設備投資を控える会社。今後、明暗を分けるように思う。

老朽化した機械で溢れる市場

 2020年も、これら背景のもとで、「自動化による生産効率向上」の提案が当社の大きな柱になるが、これだけ既設機の更新がない中で、30年、35年と、かなり老朽化した機械が市場に溢れており、これらはいつ壊れてもおかしくない。我々の製本機ビジネスとは直接関係はないが、新聞社でもオリンピックのタイミングで設備を更新するケースが多かったものの今回はほとんどない。つまり「延命」である。製本機も同様、設備更新のサイクルが長くなっており、そのリプレイスの提案もひとつの切り口になるだろう。
 また、製本工程の「見える化」も重要な施策のひとつ。ワークフローで繋がって一気通貫の流れになる、これも大事なことだが、このジョブがお客様の工程の中で「どこにあるのか」を共有することが最も重要であり、そこでムダも見えてくる。印刷なのか、製本なのか、発送中なのか。この情報は従来、ほとんどが現場、工場ベースのシステム内に留まっている。その中でどこかにトラブルが生じても、それが上層部に伝わるには時間がかかる。ましてや工場と営業所が別ならば、営業所の人にはその情報が入らず「今日やっているはず」ということになる。その実現には、機械側から見える化に必要な情報を発信する必要がある。当社では、JDF・JMFを介して、お客様の生産管理の中に機械が発信した情報を組み込むことができる。これがワークフローの中でも重要なポイントを占める。

drupaはデジタル中心

 さて、今年はdrupaイヤーだが、ミューラー・マルティニの出展は、ブックオブワンやバリアブル製本など、デジタルが中心になることは間違いない。これらの無人化に向けた提案も出てくるだろう。現在、日本の市場ではまだまだハードルの高い提案になるかもしれないが、その起爆剤となるのはやはり出版社になると思われる。ミューラー・マルティニでは、「インダストリアル・マニュファクチャリング」という言葉を使っている。これは「手工業ではなく、工業的に本を作り出す」という意味。前述のように、バレオ1台ではビジネスにはならない。そこに工業製品を製造する仕組みが必要であり、ミューラー・マルティニは、それを支える製本機械を提供している。
 また、drupa2020には、無線綴じ機および中綴じ機で、さらに切り替え効率を高めたソリューションも出てくるだろう。ただ、以前のように「1時間を15分に短縮」といったドラスティックなものではなく、「5分を3分に短縮」といったものになるため、そこにお客様が魅力を感じるかどうかは疑問であるが...。
 昨年は、自動化や見える化など、メーカーのソリューションとユーザーが迫られている人手不足や働き方改革に対する向き合い方に多少のギャップがあった1年だったように思う。drupaがそのギャップを埋めてくれることを期待している。
 なお、drupa2020の出展情報は、1月半ばあたりから徐々に出てくる。4月上旬にはその全貌をお伝えできると思う。ご期待願いたい。

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