「インキコントロール機構が神業」:若手オペレーターもスキルレスで操作
(株)ウィザップ(本社/新潟市中央区、高橋陽子社長)は、マニュアル・書籍などの頁物印刷を強みとする一方、ブログやSNSでの情報発信を積極的に行い、「情報産業」として紙媒体に固執しない営業展開で業績を伸ばしている。そんな同社では、老朽印刷機の延命を目的にアイマー・プランニング(株)のIPC(インキプリセットコントロール)システムを既設印刷機2台に導入した。これにより、最新機に劣らない性能と数値管理によるスキルレスを実現し、これまでは熟練オペレーターでも苦労していた濃度管理を若手オペレーターが簡単に操作できるようになり、「2020年問題」など企業における技術継承が社会問題となる中、印刷現場の円滑な世代交代に成功している。
「これからは俺たちの時代」と若手機長・オペレーター
同社は新潟で70年続く印刷会社。2014年の改名時に、社名から初めて「印刷」の2文字を取り、紙媒体の印刷を中心としながらも「情報産業」として紙媒体だけでなく、ブログやSNSなどによる情報発信に力を入れている。
いまの社名に込められた思いは、「WITH UP- お客様と共に成長する企業」で、その実現に向けた経営理念が「一緒にワクワクしよう!」だという。高橋社長は「社員一人ひとりがワクワクすることを考え、お客様をワクワクさせ、その周りの人にもワクワクが波及する...そんな動きを作り出していきたい。そのため、当社は『個性』を生かした会社を目指している。機械設備などの技術革新が進むが、それはお金があればできること。働く人の個性を引き出し、ワクワクするような事業を展開したい」と話す。
また、毎日のように更新される社員ブログは、ほとんどが仕事には関係ないこと。高橋社長は「その人のことを知らなければ、対個人として付き合えないのと同じで、対会社であっても会社だけでなく、そこでどのような人が働いているのかを知ってもらえるほうが重要、そこに共通のものがあれば気持ちが動くので、なおさら仕事も一緒にしやすくなる」と話す。会社の取引先拡大を意図した情報発信でもあるようだ。
昨今、力を入れているのは萌えキャラビジネスへの取り組み。萌えキャラを使用したクリアファイル、カード、キーホルダーなどのグッズを国内だけでなく海外の展示会にも出品しているという。高橋社長は「萌えキャラは世界で求められている。ただ、萌えキャラに何を求めているのかはお国によって異なる。しかし萌えキャラビジネスは新しいことにチャレンジできる人材育成戦略としての面もある。社員にチャンスを与えながら今後も注力していきたい」と、まさに「ワクワク」しながら事業を進めているようだ。高橋社長は「今年の夏に東京で開催されたコミケ(コミックマーケット)では、萌えキャラのパッケージにレトルトカレーと新潟の美味しいお米をセットにしたものを販売し、完売した」と米どころ新潟の強みを生かしたアイデアが好評を博したようだ。
印刷機の延命に魅力を感じてサブ機にIPCシステム設置〜メイン機の品質を上回る結果に
IPCシステムは、インキツボキーの開閉に代わって、分割された呼び出しローラー(分割ダクターローラー)が最適なインキ量を調整するインキ供給量自動制御システム。印刷工程の中で主観的かつ資材・時間・労力のすべてにおいて、無駄を生じやすい色濃度合わせについて、様々な効果を得ることができる。
同社がIPCシステムを初めて導入したのは2017年5月。「2020年問題」など企業における技術継承が社会問題となる中、「当社の印刷機オペレーターも50代が中心で、若手に全く技術継承がなされていない状態。印刷オペレーターの世代交代が急務であった」と製造本部の苗木俊明本部長は振り返り、世代交代を見据えた上で、技術継承の必要がないスキルレスのIPCシステムに注目したようだ。
設置したのは、4色印刷のサブ機として使用していた導入5年目(当時)になるリョービUV印刷機。同社が求める生産性や色再現性にマッチングせず、メーカー主導の問題解決に限界を感じているところもあったことから同機へのIPCシステム搭載を決めた。
IPCシステムで生まれ変わったリョービ印刷機
当時、新台の導入も検討したようだが、印刷機資材商社の(株)ヤマトヤ商会(本社/東京都港区)新潟営業所・本間智成所長から「新台を導入しなくても、新台に劣らない性能に生まれ変わらせることができる」とIPCシステムを紹介された。市況から考えて、新台の導入は経営を圧迫する状況が予測される中、「印刷機を延命できる」という言葉が高橋社長のハートを射止めたようだ。
また、製造現場では高品質の標準化(常時、一定のドットゲインで印刷)を実現するには何かしらの施策が必要と考えていたようで、苗木本部長は「精度の高いインキコントロールができること、また、オペレーターの属人スキルによる生産性を数値管理による判断基準の見える化で向上できるところを評価した」とIPCシステムを導入した理由について話す。
導入後は、若手のオペレーターでも十分な印刷品質を出せるようになり、印刷途中の濃度変動もなくなり、ヤレによる損紙も減った。また、UV印刷は水幅が狭く、濃度を出すためのツボのコントロールも難しいが、導入により高品質な印刷への対応が可能になった。これにより、「これまでサブ機として使用していた印刷機が、メインで使用していた印刷機を上回る品質となり、立場が逆転した」と苗木本部長。そしてこれが、すぐにメインの印刷機にもIPCシステムを導入する大きなきっかけとなった。
翌年の夏にはメイン機にIPCシステム設置〜稼働20年の老朽印刷機が生まれ変わる
それまではハイデルベルグの4色機をメイン機として使用してきた同社。しかし稼働20年近くになり、さすがに経年劣化も各所に出はじめ、生産・品質ともに下降傾向が見られるようになったという。「ベテラン機長ですら運用が難しく、トラブルも多発していた」(苗木本部長)。
IPCシステムで生まれ変わったハイデル印刷機
そこでハイデル印刷機についてもIPCシステムにより「延命」することを決定。生産性・品質の維持と若手への運用体制変更の施策として、リョービ印刷機での実績効果を評価し、スキルレス印刷を可能とする経営計画を立て、2018年7月にIPCシステムをハイデル機に設置した。
そして、同社はこれをきっかけに、これまで印刷の補助作業などを行っていた若手オペレーターを機長に起用するという大胆な試みに出た。高橋社長は「現在、機長と言われている人達は高齢化が進んでいる。2020年問題と言われているが、当社にも40代、50代の社員が4割ほどいる。ベテラン機長が高齢化する中、若手にチェンジしなければならない」と将来を見据えた決断であったようだ。
スキルレスでインキの安定供給を実現するIPCシステム管理画面
まさしく、「チャレンジ」といえる経営判断であったが、IPCシステムを運用して1年の若手機長・オペレーターは、数値管理によるスキルレス作業により、ベテラン機長ですら苦労した20年選手のハイデル印刷機で安定した濃度管理の印刷を実現している。苗木本部長は「まさに異世界印刷。最新機に劣らない性能を老朽機で実現した。これはIPCシステムのコントロール機構が『神業』だからこそなせるもの。若手機長・オペレーターは現在も育成中であるが、これからは実際にさらなる効果が見えてくるはずだ」と、その特許技術を最大限に評価している。
「分割ダクターローラーは革新的な技術。今までにないコントロールのシステムである。複雑な動きと、ローラーの個々の細かい交換のメンテナンス部分が難しいようなので、そこの部分の技術精度をさらに上げていただいて、耐久性も上げてもらえれば嬉しい。ユーザー側の意見で言えば、究極は新台の印刷機につけていただければ理想的。なかなか難しいかも知れないが、メーカー相互の技術協力や共存共栄は、印刷業界の発展のためには必要なこと」(高橋社長)
分割ダクターローラー
現在、IPCシステムを搭載したリョービとハイデルベルグの両印刷機は、どちらもメイン機として活用できるとのことで甲乙つけ難いようだが、「どちらもジャパンカラー基準で問題なく対応できる」(苗木本部長)とのことだ。
「最新印刷機では解決しない」〜優れたコストパフォーマンスを評価
高橋社長はIPCシステムについて、「1つの周辺機として考えると決して安くはないが、新台を導入することなく、老朽化した印刷機を新台に劣らない性能に生まれ変わらせることができることを考えると、そのコストパフォーマンスの良さは計り知れない」と導入時のイニシャルコストの良さを評価しているが、新台の導入ではなく、老朽化した印刷機を延命して使用するメリットについて「印刷機を回して稼働率を上げれば儲かる時代は終わり、新台を入れて利益を出すためには、あらゆる面でのコスト削減が必要になる。人やメンテナンスに関わる経費を削減していくことは安全、安心を損ない、事故の確率を上げることにつながる」との見方を示しており、ランニングコストまで含めて見てもIPCシステムにメリットがあると判断した上での導入であったようだ。
アイマー・プランニングは「IPCシステムを搭載すれば、分割呼び出しローラーのメンテナンスさえしっかりとやれば、陳腐化しない限り、さらに10年、20年は使えるはず」としており、この耐久性の数字は実際に製缶業界で実績があるとのこと。設備投資に巨額をかけることが難しい昨今、IPCシステムは印刷会社の経営に大きな影響を与えるシステムと言えるだろう。
高橋社長は2005年に社長に就任して今年で14年目。今後の後継者への事業継承に向けて「やり残したことはない」(高橋社長)ということだが、まだまだ新たなことに挑戦していきたいとチャレンジ精神は旺盛だ。その1つに、世の中には働き方改革で休みが増えると売上が下がると心配する経営者がいる中で繁忙期を除き週休3日制にチャレンジし、その為に必要な生産性向上を経営計画の重点課題に上げ、2018年度は週休3日制を9日間実現している。2011年の東日本大震災で8億2,000万円にまで落ち込んだ売上は、以降、右肩上がりを続け、2019年8月決算では10億6,000万円を超えた。「一緒にワクワクしよう!」を経営理念に掲げる同社の新たな取り組みは、業界内外から大きな注目を集めそうだ。