プリプレスのFA化:刷版の無処理化を起点に展開
FFGS 技術一部 渡邉 勉 部長に聞く
「人手不足」や「働き方改革」といった経営課題に対し、富士フイルムグローバルグラフィックシステムズ(株)(辻重紀社長)が印刷業界向けに提唱する次世代印刷物生産システム「FUJIFILM Smart Factory」。さらにpage2019では、この概念の全体像において、その布石ともなる刷版工程の自動化・効率化、さらに刷版室の省人化にフォーカスした工程改善コンサルティングプログラム「FFGS Prepress Factory Automation」を発表した。そこで今回、技術一部の渡邉勉部長に、その全容と具体的なソリューションについて話を聞いた。
印刷業の状況と刷版工程の効率化
労働人口の減少にともなう人手不足が深刻化する中、今年4月から「働き方改革関連法」が順次施行され、法的な対応も必要になるなど、製造業はこれら社会情勢への対応に迫られている。
そんな中、総出荷額・従業員数ともに減少傾向にある印刷業界の市場状況を考慮すると、ありとあらゆる面での見直し、改善、効率化が必須だと考える。
日本の雇用状況を見ると、2018年11月現在の有効求人倍率は1.63倍で、あらゆる業界が人手不足の状況にあると言える。そこには「団塊世代のリタイヤ」をはじめ、「少子高齢化」「売り手市場」といった背景があり、「人材確保」が製造業の共通課題であることは明らかだ。印刷業の求人数も、ここ10年間で1.33倍に増加しており、印刷業界の市場状況が厳しい中、人手不足はより深刻な問題になりつつある。
さらに、「働き方改革」として賃金・経済活動に投入できる総労働時間が制限されつつあることから、早期に産業構造の転換や高度化に踏み出す必要があるだろう。
このように、「人手不足」「熟練工不足」「働き方改革」といった課題に対し、当社が印刷業界に向けて展開しているソリューションが、次世代の印刷物生産システム「FUJIFILM Smart Factory」である。これは、受注から制作、印刷、後加工、配送までの印刷工程全体にわたる「自動化」「効率化」「可視化」をオープンに実現する「次世代の印刷工場」構想である。
そして今年のpage展のセミナー内において、この「FUJIFILM Smart Factory」という概念の全体像において、その布石ともなる刷版工程の自動化・効率化、さらに刷版室の省人化にフォーカスした新たなソリューションとして発表したのが「FFGS Prepress Factory Automation」である。
Prepress Factory Automation
省人化に向けた刷版室の現状分析
刷版室の省人化に向けて、まずは刷版室の現状を分析する必要がある。
CTPは「=デジタル」というイメージが強いかもしれないが、実際、刷版工程には人が関わる作業が非常に多い。まずCTPセッターでは、面付け・出力指示・出力設定・パンチ屑・刷版装填、また自動現像機では補充、洗浄、エラー対応、メンテナンス、廃液回収、清掃、版回収、さらにその後、印刷機にかけるまでには、情報書き込み、検版、運搬、仕分け、パンチ、版曲げなど、それぞれの手順には多くの人の手が介在している。
そんな中、我々は「刷版室の省人化のための課題」として、「刷版装填作業」「自動現像機」「出力版のハンドリング作業」という3点に着目した。
富士フイルムが展開する省資源ソリューション「SUPERIA」は、環境負荷低減と同時に、品質安定化、生産性向上、コスト削減を図り、最終的には企業全体の収益向上に繋げていくというもので、材料・工数・エネルギー・排出・水という5つの観点から体系的かつ徹底的な無駄の排除にアプローチしている。今回発表したソリューションは、この内の「省工数」に当てはまるものだ。
今回当社では、「SUPERIA」ソリューションに、この「FFGS Prepress Factory Automation」という工程改善コンサルティングプログラムを新たに追加し、完全無処理サーマルCTPシステムと併せて「刷版室の省人化」という課題にアプローチしている。
課題を解決する3つのアプローチ
【刷版装填作業からの解放】
刷版装填作業には現在、2名の人員が必要である(版サイズによる)。また、手作業のため作業効率が悪く、ハンドリングによるキズ、ヘコ、汚れ発生リスクも高い。さらには重量物(版)の取り扱いにおいて作業者への負担も大きい。
例えば、1回600版装填する場合、約20kg(30版)の版を20回カセットに装填する必要がある(最大5カセット×120版)。これを2人で作業すると作業時間は約100分で、これをコストに換算すると年間約150万円となる。
これらの作業を改善するソリューションが、全自動CTPパレットローディングシステムである。我々が提案するドイツ・クラウゼ社製「KRAUSE POWER LOADER」は、1度に最大1,200版を装填できるため、作業人数が2人から1人へ、さらに装填回数を削減できるため、人が介在する作業を減らすことで、効率化、さらにキズ、ヘコ、汚れ発生リスクを低減できる。
KRAUSE POWER LOADER
しかし、このようなオートローダーを採用することでCTPの最大の生産性を生かせなければ意味がない。その点、「KRAUSE POWER LOADER」は当社CTPの最大スペックである70版/時という生産性を維持できる。
さらに、パレットローディングシステムに装填するパレット「リターナブルカセット(仮称)」を吉田南工場で生産する。最大積載量は1,200版で、包装形態は、個々の包装なし、仕切り用段ボール紙なしで、連続積載できる専用包装を採用。梱包廃材は外装のみになる。さらにこのパレットはリユースが可能になっているため、環境保全の観点からも優位性がある。
【自動現像機からの解放】
言うまでもなく、自動現像機からの解放には刷版工程の無処理化が必要になる。無処理化は、省人化、省資源を同時に達成するシステムである。
当社の完全無処理サーマルCTPプレートは「SUPERIA ZP/ZD-II」の2種類。スタンダードタイプである「SUPERIA ZP」に対し、「SUPERIA ZD-II」は、従来比1.5倍の耐刷性およびUV印刷適性を実現している。現在、2種類のプレートをあわせて当社の無処理版は世界で4,000社、国内でも450社に採用されている。
導入ユーザーの能登印刷(株)(北陸)では、自動現像機に関わるメンテナンス・待ち時間の削減、さらにキズによるトラブルがゼロになり、生産効率が向上している。なかでもキズによるトラブル解消に関しては、当社の無処理版の特長である「保護層」が圧倒的な耐傷性を発揮し、効率化に寄与している。
さらに埼玉の望月印刷(株)では、他社ガム現像機の週1回の清掃作業から解放されたほか、プレートの性能によって「地汚れ」を解消。オペレータの負担が低減されたという効果が報告されている。
一方当社では、新聞印刷分野でも刷版工程の無処理化を進めており、2018年には「合紙レス化」と「エッジ汚れ防止効果とエッジ描画性の両立」を実現した「SUPERIA ZN-II」を市場投入している。
当社の無処理版を使用することにより、カーボン・オフセット制度を活用した環境貢献活動「Green Graphic Project(GGP)」や環境保護印刷マークの最高ステータス「クリオネ・ゴールドプラス」、グリーンプリンティング認定の最高ランク「スリースター」、カーボンフットプリント認定など、様々な制度への対応によりクライアントへのアピールとして活用できるのもメリットのひとつだ。
なお、富士フイルムは、2018グリーンプリンティング認定制度表彰において、「2018GP資機材環境大賞・資材部門」を受賞。「SUPERIA ZP/ZD-II」をはじめとするCTPプレートや印刷関連薬品「SUPERIA PRESSMAXシリーズ」などの資材のほか、インクジェットデジタルプレス「Jet Pressシリーズ」などの機材も含め、環境配慮製品60製品でGP資機材認定を受けており、そのほとんどが最高位であるスリースターでの認定となっている。
【出力版のハンドリング作業からの解放】
これまでの改善アプローチを実施すれば、効率良く出力された版がストッカーにどんどん溜まっていくことになり、これを印刷機にかけるまでの手作業を如何に効率化するかということになる。
ここに存在する手作業は、仕分け、ジョブ・色情報の書き込み、版曲げ・パンチ、印刷室への運搬がある。これらは人が常時介在する必要があるため、版の取り間違いのリスクやハンドリング回数の増加にともなうキズ・ヘコのリスクが増加する。
まず、仕分け作業のファクトリーオートメーション化として刷版自動振り分け集荷装置を提案している。これにより、前述のリスクは減少する。CTPセッターから排出された露光済み版を、事前に版上へ描画したQRコードやバーコードを読み取って、任意のストッカーへ振り分けて排出する。印刷機まではそのストッカーごと台車として搬送する。
この部分に関しては、清水製作、西研グラフィックス、K2プロ、K2スタイルの4社のパートナー企業と組んで、我々がユーザーの設備やボリュームに応じてコーディネートする。振り分け方向や振り分け方式などのカスタマイズも可能である。
次に、現在は手書き作業となっているジョブ、色情報の書き込みでは、水性インクジェット版面情報印字装置による自動化を提案している。版面に描画されたQRコードを読み取り、GTBのインクジェット装置で任意の情報を自動的に刷版へ情報付与することでハンドリング回数が減少。キズリスクが低下するとともに、情報間違えによる版掛け間違いも予防できる。有処理版と比べて視認性が低いとされる無処理版にも効果的である。
次に、版曲げ・パンチ作業では、インラインパンチ・ベンダーによる自動化を提案している。CTPラインと接続し、全自動でパンチと版曲げを行うもので、これもキズリスクが低下するとともに、手作業と比較して見当精度も向上する。
最後は印刷室への運搬だが、ここでは自動搬送装置(ロボット)の採用、もしくは印刷機近くでの刷版出力といった解決策があるだろう。とくに、自動現像機をなくすことによって印刷の近くにCTPを配置し、版移動の距離、時間を短縮する方法が現実的である。
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これらが、「FFGSが考える刷版室の省人化」である。ある程度、工場のレイアウト変更が必要になるため、CTPの更新入れ替えのタイミングなどでご検討いただくケースが多くなるだろう。
一方、工程改善コンサルティング「Eco&FastPrinting」でも刷版工程の無処理化に向けた支援を強化していく。これは、独自の高度な3つの診断技術によって印刷状態を定量化するもの。i-ColorQC(印刷状態診断)、i-PressQC(印刷機診断)、i-FountQC(湿し水診断)で構成され、これに今回発表した「FFGS Prepress Factory Automation」などを加えたコンサルティングソリューションを体系立てた総称「GA Smile Navi(仮称)」として、トータルな提案ができる環境が整った。
今後、6社のパートナー企業とタイアップし、FFGSが刷版工程の無処理化による省人化のコーディネート役となってプリプレスのファクトリーオートメーション化を訴求していく考えである。