技術一部・西川博史部長、東京支社営業一部・紀英俊部長代理に聞く
富士フイルムグローバルグラフィックシステムズ(株)(辻重紀社長)では、4月からカーボン・オフセット制度を活用した環境貢献活動「Green Graphic Project(GGP)」をスタートさせている。これは、「SUPERIA 完全無処理サーマルCTPプレート」のCO2排出量を全量オフセットし、「カーボンゼロ・プレート」として提供するもの。ユーザーは無処理プレートの購入でCO2排出量の削減をはじめ、開発途上国支援やCSR活動のひとつとして対外的にアピールできる。今回、同社技術一部の西川博史部長と東京支社営業一部の紀英俊部長代理に、同プロジェクトの概要や参加メリットを聞いた。
西川部長(左)と紀部長代理
無処理版へ切り替える企業的な決断を後押し
■西川 富士フイルムは、地球温暖化対策の一貫として、「カーボン・オフセット制度」を利用してCO2排出量削減に取り組む活動を進めている。4月からスタートさせたGGPは、その取り組みのひとつとして、富士フイルムが開発途上国におけるCO2削減プロジェクトに出資して得られた排出権(クレジット)により、無処理プレートのライフサイクル全体のCO2排出量を全量オフセットすることで、「SUPERIAシリーズ」の完全無処理サーマルCTPプレートを「カーボンゼロ・プレート」として提供するものだ。
プロジェクト開始の背景には、「完全無処理プレートが地球環境保全に貢献できるプレートである」ということが大前提にあり、GGPはその延長線上にあると考えていただきたい。「世界的な環境への関心の高まり」と「完全無処理プレートの推進」という観点から、富士フイルムが展開するプロジェクトに参画することで、カーボン・オフセットという仕組みと完全無処理プレートという製品によって印刷業界に貢献しようというものである。
「環境に優しいプレート」とは言え、その原材料にはアルミが使われており、アルミの製造工程では多くの電気を使用してCO2を排出。実際、環境への負荷はかかっている。もちろん有処理版にも同様にアルミが使用されているが、我々は有処理版と比べてCO2排出量の少ない無処理プレートへ切り替える企業的な決断を下したお客様に対して、その決断を後押しするメリットを何らかの形で提供したいという想いがあった。
このGGPの仕組みは、経済産業省に認定されたもので、日本国内のみが対象となっている。一方、海外ではそれぞれ地域に即した独自の環境対応プロジェクトを実施しており、欧州の「ウォーターエイド」や中国での「植林プロジェクト」などがそれに当たる。
購入した時点で刷版のCO2排出量はゼロ
■紀 説明の通り、お客様が購入した刷版の製造で排出したCO2を、富士フイルムが開発途上国におけるCO2削減プロジェクトに出資して得られた排出権でオフセットしてしまうことから、購入した時点で刷版のCO2排出量はゼロである。つまり、カーボンゼロの無処理プレートを使用することで印刷物制作時のCO2排出量を削減でき、「ローカーボン印刷物」をクライアントに提供することができる。また、印刷物にGGPのロゴマークなどを表示することで、サービスの付加価値アップや差別化も図れる。
また、同プロジェクトに参加すると、カーボン・オフセットによるCO2削減量を証明する「カーボン・オフセット証書」が発行される。これにより、CSR活動のひとつとして対外的にアピールすることも可能になる。
さらに、お客様のWebサイトやCSR・環境レポート、PR誌などで、カーボン・オフセットによるCO2排出量削減活動をアピールできるほか、富士フイルムのWebサイト(GGPの紹介ページ)などでも、参加企業の一覧を掲載。環境先進企業としての認知度向上、企業ブランド向上を図れる。
一方、カーボン・オフセットで利用したCO2排出権は、富士フイルムが開発途上国のCO2削減プロジェクトを支援することで得ているため、無処理プレートの購入で、間接的に開発途上国のCO2削減や雇用創出といった支援に貢献できるのもメリットのひとつ。開発途上国のCO2削減プロジェクトには、京都議定書に基づいて国連がそれぞれにIDを振っており、各活動に対して削減したCO2排出量を証明している。そのうちのおよそ20程度を富士フイルムがもっている。例えば、ケニアのオルカリアの地熱発電プロジェクト、バングラデシュのレンガ産業の効率改善プロジェクト、ホンジュラスのエスペランザ水力発電プロジェクトなど。「カーボン・オフセット証書」には、この中でどのクレジットを使用したかも記載されている。
限りがあるCO2排出権
■西川 対象となる「SUPERIA 完全無処理サーマルCTPプレート」は、油性印刷向けの「SUPERIA ZP」、新聞印刷向けの「SUPERIA ZN」、そして高耐刷性、UV印刷対応の「SUPERIA ZD」の3製品。現在の採用状況は、無処理版全体で約450社。「SUPERIA ZD」の発売以来、無処理プレートのみを使用する会社が増えている。
■紀 これら3製品のユーザーは、GGPのサイトから申込書をダウンロードし、昨年1年間で使用した無処理プレートの総量を記載して弊社に送れば、その使用量からCO2排出権を割り当て、証書が送られてくるという非常にシンプルな仕組みだ。ただ、1年の使用量の実績が必要なため、いまからお使いいただいても申し込みは1年後となる。現在の参画企業は40社。費用は一切かからない。ここ1年で無処理プレートを採用した印刷会社も多いため、今後急速に増えるだろう。
■西川 しかし、CO2排出権には限りがある。前述の通り、いま持つCO2排出権は京都議定書に基づいたもので、現在は新たな排出権が取得できない状況にある。今後、新しい枠組みで富士フイルムが同じようなプロジェクトに参画する可能性はあるが、どういう形であれ、現段階では約束できない。現在は制限を設けていないので、早めの参加をお勧めしている。
ちなみに、この富士フイルムのCO2排出権は、化粧品の「アスタリフト」など、他分野でも活用されており、GGPはその中でも大きな割合を占めるプロジェクトである。
■紀 印刷工程における環境負荷は大きいと言わざるを得ない。この部分をクライアントに対してどう説明し、アピールするかは非常に重要になってくる。2020年の東京オリンピックに向けて、多少なりともこのプロジェクトが業界の一助となれば幸いである。
■西川 GGPは当社しかできない取り組みであると自負している。刷版の包装に製造で使用したCO2排出量を記載するなど、いままで富士フイルムは自社製品がどれだけ環境に負荷を与えているかを明確にし、CO2排出量削減に努力してきた。今回は、それをさらにお客様に還元しようということ。富士フイルムの環境に対する姿勢をひとつの形にしたものである。
地球温暖化防止対策として温室効果ガスの排出量削減に向けた取り組みが国を挙げて進められており、企業においてもCO2削減の努力が続けられている中、富士フイルムは完全無処理プレートという「技術」と簡素化された「支援サービス」で、印刷工程の環境負荷低減に貢献していく。
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カーボン・オフセットとは
日常生活や経済活動で避けることができないCO2の排出について認識し、できるだけ削減する努力を行った上で、どうしても減らせなかった分のCO2排出量を、他の場所でのCO2排出削減の取り組みで埋め合わせ(オフセット)すること。GGPでは、途上国におけるクリーンエネルギー創出支援などの活動で得たCO2排出権(クレジット)により、無処理プレートのカーボンゼロ化を行い、経産省が推進する「カーボン・オフセット制度」で認証を取得している。