コダック、Press Ready Technologyの優位性とは
2016年10月15日
視認性1.5倍以上に【完全無処理版「Sonora XJ」】
「Kodak Sonora XJ」は、海外での3,000社以上の豊富な導入実績をベースに、コダック群馬事業所の研究開発部門で日本市場向けに最適化された完全無処理サーマルCTPプレート。LED-UV/H-UVといった省電力UV印刷機をはじめ、オフセット枚葉機、オフセット輪転機、またUV減感インキを使用するビジネスフォーム印刷機、平台校正機、さらには新聞印刷やパッケージ印刷など、広範囲にわたる印刷用途に使用され、昨年6月の販売開始以来、既に日本国内において180社超に採用されている。そしてこのほどコダックでは、その視認性を大幅に高めたSonora XJ改良品を完成させ、その販売開始にあたり9月15・16日の2日間、リョービMHIグラフィックテクノロジー(株)協力のもと、同東日本支社において「Sonora XJニューバージョン体感フェア」を開催。2日間でおよそ160名が来場した。
今回販売を開始する改良品は、ユーザーからの要望が最も多かった露光イメージの視認性を従来比1.5倍以上に高めたもの。レジスターマークの検出性も改善し、露光後から印刷までの時間経過においても十分な視認性を確保している。
今回の体感フェアでは、プロセスフリープレート推進室の中川武志室長が、プレートの概要や改良ポイントを説明したほか、15日には(株)エンジュの斎藤節社長が、16日には清水印刷紙工(株)の岩井平製造本部長兼群馬工場長が、それぞれSonora XJの導入効果や実際の運用について講演した。
一方、デモではAchieve T400プレートセッターで出力したSonora XJを、A全判4色機RMGT9 LED-UVで印刷。省電力UV印刷適性や、1枚目からインキがのり、10枚目では既に十分な濃度に達する機上現像・刷り出しの早さを披露した。
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今回は、プロセスフリープレート推進室の中川室長による概要・改良ポイント説明のプレゼンを紹介する。
Sonora XJの実力
プロセスフリープレート推進室・中川武志室長
当社では、完全無処理版を「薬品処理が完全に不要な(=自動現像機を使用しない)究極の環境配慮型プレート」と定義し、ガム液を用いるプレートとは完全に区別されるべきだと考えている。
印刷会社にとって自動現像機を使用しないメリットは非常に大きい。まず、自動現像機というハードが不要なことで、「初期コスト」「減価償却」「調整」「洗浄」「故障」「保守」「配管」「スペース」といったものが不要になる。さらに処理薬品が一切不要なことから「調合」「活性度管理」「廃液回収」「在庫管理」が不要に。さらに環境への配慮として「廃液」「廃材」がなくなることも挙げられる。そして何より工程短縮によるミス・ロス削減が最も大きなメリットになることは言うまでもない。
このようなメリットが認知されつつも、しかしながら未だに市場には以下のようなマイナスイメージも残っている。
▽機上現像により印刷機に悪影響を及ぼすのが心配。
▽印刷適性(水幅など)が悪い。
▽印刷開始時にヤレ紙が多く出る。
▽UV印刷には不向き(耐薬品性がない)。
▽耐刷性が悪い。
▽高精細印刷には不向き。
▽CTP機の生産性が現像ありプレートと比較して落ちる。
これらの課題や制約を克服し、いままでの完全無処理版のイメージを払拭するのがSonora XJである。
コダックは、drupa2004で機上現像タイプの「サーマルダイレクト」を発表。翌年に日本市場に投入するも、2015年までに導入した印刷会社は90社に留まっていた。
その後、drupa2012でSonora XPとSonora News(新聞印刷用)を発表。これらは、サーマルダイレクトが抱えていた課題・制約を解決したもので、日本でも大きな期待が寄せられたが、UV印刷の耐刷性が不充分なことから日本市場への投入は見送られた。
一方で、当時はLED-UVやH-UVといった省電力UVの機運が高まり出した時期。そこで当社では、群馬事業所の研究開発部門で独自開発に着手。そして3年の月日を費やして、UV印刷・省電力UV印刷適性も持つSonora XJを完成させた。
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Sonora XJは、ネガタイプのサーマルCTPプレート。サーマル特有の高い硬化性と独自に開発された感光層との組み合わせで、高い耐刷性・耐薬品性を兼ね備えている。
露光されたプレートは、薬品処理の工程なく、そのまま印刷機にセット。印刷が開始されると、ダンプニングローラーで湿し水を版面に供給し、そこでレーザーが当たっていない非画線部分の感光層に湿し水を染み込ませ、剥がれやすくする。そしてインキング時に剥がれやすくなった非画線部分の感光層をインクのタックで剝がし取り、剝がし取られた感光層はインキの中に含まれた状態でブランケットに転写され、紙に転写される。紙を通していくたびに、感光層の剥離が進み、機上現像が完了する。これが機上現像のメカニズムだが、このプロセスの中に様々な課題・制約があった。
まずイメージング工程で、露光時間が長いということ。またプリダンプニングの工程で、湿し水の浸透性が悪く、多くの水を供給しないと剝がれやすい状態にならないという問題。つまり、最初に水を多く供給しないといけないため、通常の現像ありプレートの印刷セッティングと違うオペレーションが必要となり、現場での抵抗があった。さらに過乳化の問題もある。
一方で、水を多く供給したことで、次の工程においてインキのタックで剥がすはずの感光層が、この時点で取れてしまい、印刷の汚れに繋がるという課題もあった。
また、インキングの工程では、なかなか感光層が剥がれず、ブランケットへの転写が遅いため、紙を多く通さないと完了しないという課題もあった。
これらの課題・制約をすべて解決したのが、Sonora XJの基本技術である「Kodak Press Ready Technology」である。これは、印刷時にオペレータが機上現像を意識せずに通常のプレートと同様に印刷が開始できる技術だ。
現在、競合他社製品を含む従来の高感度ネガプレートは、アルミ基板の上に塗布された感光層の上に、この感光層を守るための酸素遮断層が設けられ、二層構造になっている。そのため、湿し水の浸透性が悪くなってしまう。また、酸素遮断層の成分が水溶性のため、湿し水が溶け込んでしまい、結果、印刷の汚れに繋がってしまう。さらに、層がひとつ多いことから解像度の低下を招き、高精細印刷に対応できない。
これを改善したSonora XJは、シンプルな単層構造のため、湿し水の浸透性がよく、かつインクの着肉性も高めたため、インクの剥離性も向上。機上現像に優れ、現像ありタイプと同等の刷り出しの早さを実現している。もちろん高精細印刷にも対応できる。
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耐刷性は、輪転機では25万枚。しかし、エンジュ様では30万枚の実績もある。油性枚葉機では10万枚、省電力UVでも5〜10万枚の実績があり、既存の現像ありプレートと遜色ないところまできている。
また、生産性の面では、従来の無処理版は、現像ありに比べると機種によっては3〜4割生産性が落ちてしまう傾向があった。しかし、Sonora XJでは感光層の感度を上げることで現像ありタイプと同等の生産性を実現。Magnus Q800のZ speedで55版/時、トレンドセッターQ800のX speedで42版/時、アチーブQ800のF speedでは22版/時(菊全判)。もちろん他社のプレートセッターでも使用できる。
180社で採用されている中で、「視認性は運用上問題ない」というユーザーも多いが、一方で「視認性をもう少し改善してほしい」という声、また視認性がネックで採用されないケースもあった。
そこで今回、視認性を従来比1.5倍以上に高めた改良品をリリースした。正直、従来の現像ありプレートと同等というわけではない。ただ、従来品では出力直後は問題ないものの時間が経過するとコントラストが低下する傾向があったが、今回の改良品では露光後から印刷までの時間経過においても十分な視認性を確保している。
また、実際の運用では、やはり完全無処理版ゆえに取り扱いの注意点がある。
まずひとつは、露光後の保管。通常の現像ありプレートは、現像処理されると、印刷機にかけるまで比較的保管においてはラフでよかった。しかし完全無処理版に関しては、露光されても機上現像されるまでは生版と同じ。露光後の版を高い温度や湿度の環境下で長時間保存すると感度変化が起こり、印刷時の不具合に繋がる恐れがある。露光後の版は空き箱などに入れ、露光後から印刷開始までの短時間であっても室温30℃、湿度60%以内での保管をお願いしている。
2点目は、ガム引きがないということ。ガムは表面の保護を目的としているが、この工程がないため、版面に傷が付かないように合紙を入れるなどして取り扱う必要がある。
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今後の展開として、年内に国産化を予定している。研究開発自体は群馬事業所の研究開発部門で行っているが、製造は現在、中国・シャーメン工場で行われている。採用が増えてきていることから、より安定した供給、よりサポートを強化するという観点で、年内をメドに群馬工場での生産を開始する予定である。
さらに、2017年初頭に新聞業界向け「Sonora News」を上市する。さらに清水印刷紙工様をはじめとしたユーザーからの要望で、環境に配慮したSonora XJを使って印刷された証明として印刷物に付与する「プロセスフリーロゴ」を作成。今後、積極的に周知していく。