(株)T&K TOKA(増田至克社長)は昨年3月、パウダーレス印刷を実現する油性オフセット枚葉インキ「ベストワン キレイナ(以下、キレイナ)」を発表し、大きな話題を集めた。数種の新素材を採用し開発された「キレイナ」は、油性オフセット枚葉印刷で課題とされるパウダーによる様々なトラブルを解消するだけでなく、後加工工程の効率化や工場環境の改善に大きな効果を発揮する。省電力型UVやLED-UVといったUV印刷化が進む近年の印刷業界において、同製品は、表現力豊かな油性インキの可能性を拡げる製品として期待が持たれている。
超短納期化が進む現在の市場環境では、その対応として印刷直後に瞬時に乾燥させるUV印刷の導入が進んでいる。近年では、省電力UVやLED-UVなど電力消費量を軽減する新システムが開発されたことで、さらにUV化の動きが加速。また速乾によるパウダーレス印刷は、品質・作業環境面でも大きな効果をもたらすことも導入理由の大きな要因となっている。
しかし、これら乾燥システムを導入するためには、設備や専用インキなどのコスト負担が大きく、導入を躊躇する印刷会社も少なくない。それら課題に対し「外的エネルギーに頼らない」「既設設備の活用」「コストをかけない」をコンセプトにスプレーパウダーの散布なしで印刷物の棒積みを可能とするパウダーレス油性インキとして開発されたのが「キレイナ」だ。
同製品は、新開発の特殊樹脂、新規採用の特殊(真球状)ビーズ、特殊ワックス、乳化抑制ワニスなどの新素材の組み合わせにより、印刷中にパウダーを使用することなく、裏移りやブロッキングを防止することを可能としている。
具体的なパウダーレス印刷の仕組みとしては、まず特殊ビーズが印刷直後に隙間を作り、従来のスプレーパウダーのように用紙と用紙を支えるクッション材として機能し、裏移りを防止。次にオリジナル特殊樹脂が印刷直後にインキ内面から上に浮かんで表面改質して、溶剤離れを促進するとともに皮膜表面を「ベタベタ」から「サラサラ」な状態に改質。この特殊樹脂により、従来の油性インキと比較してセット乾燥時間が約3分の1に短縮できる。
そして特殊ワックスにより、印刷直後のインキ表面の滑り性を上げることで初期耐摩擦が向上し、紙揃えを良くし、用紙積み替えの際に発生する擦れを防止する。さらに、これら新素材を効率よく機能させるため、過乳化を防ぐとともに酸化重合乾燥を促進するワニスを新規採用している。
この新素材の特性により、スプレーパウダーを使用しない、環境や従業員の安全衛生に優しい印刷現場を保つことができる。また品質についてもパウダーを使用しないことでザラツキのない綺麗な印刷物の提供が可能となる。
また作業面では、上がり面印刷時のトラブルが減少し、印刷障害を削減。ボタ落ち(パウダー落ち)など、パウダーに起因する印刷トラブルを解消するので安心して稼働させることができる。さらに乾燥促進により断裁・製本までの待ち時間も削減でき、効率的な生産に貢献する。
昨年3月の発表当初は、片面4色機対応のみの上市であったが、同社ではその後も改良を重ね、現在では一般薄紙用(片面機・両面機兼用)の「ベストワン キレイナ」、水なし印刷用(片面機・両面機兼用)の「ベストワン キレイナ アルポ」、カートン用の「ベストワン キレイナ カートン」、中間色/特練り用の「ベストワン キレイナ GIGA」、OPニス用「ベストワン キレイナ OPニス」と、製品ラインアップの拡充を図り、多種多様なユーザーニーズへの対応を実現している。
では実際に「キレイナ」を採用した印刷会社ではどの様な評価をしているのか。そこで導入ユーザー2社の取り組み事例を紹介する。
■ 関西共同印刷所
スーパーユポのパウダートラブルを一気に解消
商業印刷から新聞印刷、オンデマンド印刷までを守備範囲とする(株)関西共同印刷所(本社/大阪市北区大淀中3-15-5、中上誠社長)では昨年10月、枚葉印刷部門において「キレイナ」を全面採用。昨年12月の第47回衆議院議員総選挙に関連する印刷物の受注すべてを「キレイナ」で印刷し、瞬発力が試される選挙特需をトラブルなく乗り切っている。
ブランケットの紙離れが良好
「キレイナ」採用の狙いは、「慢性的な印刷品質トラブルの改善」にあった。プレス部の中山進部長は「トラブルの半分以上が、ブロッキングやボタ落ちなど、パウダーに起因するもの。それまでも機械メンテやパウダーの研究を行ってきたものの明確な改善には至らず、現場も行き詰まっていた」と振り返る。そこで登場したのが「キレイナ」だ。用紙や絵柄によってはパウダーを少量使用することもあるが、現在、コート紙についてはほぼパウダーレスを実践している。
「キレイナ」採用の効果について中山部長は「印刷面の美しさ」「作業性の向上」「パウダーコスト削減」などを挙げている。とくに「作業性の向上」については、スーパーユポを使用する選挙ポスターを例に挙げ、次のように説明する。
「1日中ユポを印刷するとローラー上にインキが余り、乳化していくことで、どうしても乾燥不良が起きやすく、大量にパウダーを使用する。通常、印刷から翌日まで乾燥を待ち、断裁工程に入るが、そこで『乾いていない』となると最初から刷り直しになる。しかしキレイナの場合、朝に印刷したものは夕方に断裁でき、パウダーに起因するトラブルがない。結果、2年前の選挙ポスターでは4日間かかったものが、今回は半分の2日間で完了した」
また、後加工でPP貼りする場合、パウダーを取り除くためのカラ通しの工程が不要になる他、インキ内にビーズが配合されていることからブランケットの紙離れが良好で、重たい絵柄でもカールが軽減されるという効果も指摘する。実運用から3ヵ月程度だが、パウダー使用量は3分の1程度になっている。
■ ティー・エヌ・ピー
生産稼働率が向上、パウダー使用量は5分の1に
(有)ティー・エヌ・ピー(本社/大阪市東成区東小橋、高林伸行社長)は昨年8月より「キレイナ」を採用。パウダーによるブロッキングなどの印刷トラブルを解消した他、デリバリ部の清掃回数が激減したことにより、生産稼働率を大幅に向上させるなどの成果を上げている。
生産稼働率が大幅に向上したと語る高林常務(左)と田口印刷部リーダー(右)
同社は平成4年にプリプレス業として創業。現在はプリプレスから印刷、後加工までの一貫生産が可能な体制を構築するとともに、4年前にはノベルティグッズを中心としたECサイト「販促ドットコム」を開設。用途・ターゲット別に分類した様々なノベルティグッズを取り扱うとともに、昨年10月末にはオリジナルA6ノート5種類とリングを透明OPP袋に入れたオリジナル商品「まとめま帳」をリリースするなど、印刷会社としての技術を生かしたメーカーとして、新商品の開発も行っている。
そんな同社が「キレイナ」を採用した最大の理由は、パウダーに起因する様々なトラブルを解決したかったことにあると同社・印刷部リーダーの田口満氏は振り返る。
「当社は両面印刷の仕事が多いのだが、裏面印刷の際、どうしても初刷りで付着したパウダーにより着間不良や汚れなどのトラブルが発生していた」
しかし「キレイナ」の導入後はパウダーによるトラブルは全面的に解決したという。一部の用紙を除いて完全にパウダーレスで行えるため、パウダー使用量は採用前の5分の1まで減ったようだ。インキ価格はこれまで使用していたものより3割ほど高価になっているようだが、それ以上に生産稼働率が向上することによるメリットは大きいと同社・取締役常務の高林敬悟氏は満足げに語る。
「従来、多い時は1日に2〜3回はデリバリ部を清掃することもあったが、それが2〜3日に1回で済むようになった。1回の清掃時間が15〜30分ほどかかるため、その時間が激減したことにより、生産稼働率は飛躍的に向上している」
現在の「キレイナ」の使用量は1ヵ月にCMYK各色ともに50〜100キロほど。採用前は集塵機だけではパウダーの飛散を拾いきれなかったが、パウダー使用量が激減したことにより、それもなくなったため、現場も気持ちよく作業できるようになったようだ。
4月には東大阪に新工場を竣工し、印刷機も増設するという同社。現在は他のインキも若干使用しているようだが、将来的にはすべての印刷を「キレイナ」で行っていく方針だ。