コダック、フレキソ印刷向けFlexcelパッケージングソリューション
2014年5月15日
豊富な知見と経験で「入り口」的役割へ
drupa2012でもひとつのハイライトとして浮上したパッケージ印刷分野。これを境に日本でも、環境面や設備投資コスト面などで優位性のあるフレキソ印刷技術が再び脚光を浴びている。そんな中、フレキソ印刷分野において長年積み重ねてきた知見と経験をもとにフレキソ印刷向けパッケージングソリューションを展開するコダック(同)(藤原浩社長)では、「フレキソ印刷を多面的に語れるベンダー」としての機能を強化し、システム供給はもちろん、コンサルティング力でも高い評価を得ている。そこで今回、システム製品統括本部 CTP・パッケージング製品部の横山和幸部長、同じく真壁敏担当部長、情報コミュニケーション営業本部 パッケージング営業グループの河野広海リーダーの3氏に、フレキソ印刷市場の現状やコダックの最新ソリューションなどについて話を聞いた。
フレキソへの参入障壁
真壁 日本のフレキソ印刷市場は、段ボール用途がほとんどで、ここ最近注目されている軟包装、いわゆるフィルムに対する印刷物はまだ少なく、その大半がグラビア印刷によるものだ。イメージとしては、一時盛り上がりを見せた10年ほど前の状況と大きくは変わらない。
しかし大きな動きとしては、大手ハンバーガーチェーンがバーガーラップやコールドカップ(飲料カップ)にフレキソを採用したほか、パンやコンビニエンスストアのプライベートブランドの袋、また米の包装などでもフレキソが採用されつつある。一般消費者が実際に手に触れることのできる製品にフレキソ印刷が採用され始めているのも事実である。
横山 世界を見てみるとフレキソを使った印刷物の半分弱は段ボール用途で、軟包装用途は20%程度。あとはシール・ラベルやおむつなどの用途が続く。一方、段ボール用途が8〜9割というのが日本のフレキソ印刷市場である。そんな中、現在日本で脚光を浴びているのは軟包装の分野。グラビア印刷に対して、環境面や小ロット対応力、設備投資および生産コスト面で優位性のあるフレキソ印刷が注目され、オフセット印刷会社やグラビア印刷会社がフレキソ印刷での軟包装分野に参入しようという流れが起き始めている。フレキソ印刷が一般消費者の手に取れる製品に広がっているということは、一過性のものではないという証拠ではないだろうか。
真壁 大手ハンバーガーチェーンの場合、「残留溶剤や溶剤の臭いを回避するために水性化したい」という要望から、グラビアよりも水性化の容易なフレキソが採用されたという経緯がある。印刷方式ではなく「水性か、溶剤か」という議論からもフレキソの優位性を測ることができる。
横山 オフセット印刷会社のフレキソ参入の障壁は、後加工の工程やインキ(水性フレキソインキ)、原反(フィルム)といった材料面の扱いだけでなく、「構成の異なるクライアント」という事業面にもあるようだ。青写真を描いて、そこに参入すればすぐに成功を掴めるという簡単なものではないのは確かである。パッケージは「印刷業」ではなく「加工業」。それなりのノウハウと事業改革が必要になる。
真壁 違う側面から見ると、インフラが不十分という理由もあるだろう。フレキソによる軟包装の仕事は大ロット物も多い。対応できる印刷会社がまだ少ないため、キャパシティ、いわゆるインフラとしてのロット対応能力の整備が足りないのも大きな課題である。
品質向上に一石を投じたFlexcel NX
横山 コダックのフレキソ印刷向けパッケージングソリューションの歴史は1997年頃のサイテックスの取り組みにさかのぼる。
真壁 日本市場におけるターニングポイントは2000年頃。当時はまだアナログが主流で、コダックでは製版フィルムの販売でシェアを伸ばしていた時代である。
横山 一方、クレオではThermoFlexシリーズとして、いわゆるCTPの提供を開始し、「フレキソ印刷のデジタル化」という流れに対し、フレキソの版材にブラックレイヤーをのせて、それを直接CTPに巻いて焼くというソリューションを提供。その後、企業統合を経て、コダックのフレキソ印刷向けパッケージングソリューションとしては、drupa2008を境に大きく変化を遂げた。
コダックはdrupa2008でデジタル製版ソリューション「Flexcel NX」を発表。日本でも2009年から販売を開始した。その当時は、CTPにブラックレイヤーをのせた版を巻き、そのブラックレイヤーを飛ばして描画するという手法が主流の時代。それに対してFlexcel NXは、イメージセッタでフィルムを焼き、それを生版にラミネートして製版する「ラミネートマスク露光方式」という異なったプロセスを提案させていただいた。
その最大のポイントは、レリーフのトップがフラットな網点形成の「フラットトップドット技術」。この技術は2008年に我々がはじめてフレキソ印刷の品質を高めるものとして世に紹介し、いまやスタンダードとなっている。ハイライトやグラデーションといったフレキソ印刷最大の課題に対し、一石を投じたわけである。
逆に、シャドー部に関しても、印刷濃度を向上させる「DigiCap NX」というスクリーニング技術を提供。これをフラットトップドットと組み合わせることで、優れたインキ転移性を実現する。これらの技術は、フレキソ印刷の階調の再現域を大きく広げ、「グラビアやオフセットと比較して品質が劣る」とされてきたフレキソ印刷の弱点を、製版工程から解消するソリューションとして広く受け入れられ、市場形成に大きく貢献したと自負している。
その後、Flexcel NXシステムは、ナロー、ミッド、ワイドと段階的に版サイズの拡張が図られ、様々なアプリケーションに対してその守備範囲を拡大。さらに設置面積を最小化したワイドCを2012年にリリースし、その頃には設置台数も世界で300台を越えた。
そして、drupa2012において、ダイレクトレーザー彫刻方式のフレキソ製版システム「Flexcel Directシステム」を発表した。
Flexcel Directの生産性
横山 Flexcel NXを紹介する中で、我々は継ぎ目のない円筒製版(ITR)の必要性の高まりを感じる。「フレキソ版を作るプロセスを如何にシンプルにし、参入障壁を低くするか」という面において円筒製版は必須であった。2012年発表から日本でも発売の準備を整えている間に、日版グループ(株)(本社/東京都墨田区、新海高浪社長)と佐川印刷(株)(本社/京都府向日市、江口宏社長)から発注いただいたことは、この製品がどれだけ待たれていた製品かを実証できたと思っている。
真壁 円筒製版は、グラビア軟包装の世界では当たり前。すべてがエンドレスのアプリケーションではないものの、円筒製版のメリットは大きい。また、印刷機サイドのスペックが上がっていることもあって、毎分500m以上という印刷機のスピードのパフォーマンスを最大限に引き出すためには円筒製版が必要である。
このようなシステムは従来もあったが、生産性や品質面でグラビアの域には到底及ばないものだった。そんな中でFlexcel Directシステムは1.5平方メートル/時という圧倒的な生産能力を誇る。製造ラインに落とし込める生産能力と品質。「これだったら使える」という多くの評価をいただき、我々も自信を持って提案できる状況になった。
コダックを選ぶ理由
河野 営業サイドから感じているのは、日版グループ様、佐川印刷様ともに「デバイスが素晴らしい」ということに加え、過去に積み重ねてきたフレキソに対する知見、経験というものを評価いただいている。「フレキソ印刷を多面的に語れるベンダー」としてのコダックの優位性を痛感している。
横山 フレキソに関しては、当然ながら海外の方が進んでいる。我々は日本での知見も深めているが、海外でもっと多くの実績や経験を積み重ねているため、そこを含めた情報提供が可能である。この部分は、「コダックを選ぶ理由」として大きな意味を持ち、ユーザーにとって大きなメリットになると考えている。
真壁 フレキソ印刷への設備投資はすべての工程をトータルで行わざるを得ない。供給側は「餅は餅屋」的に各社の守備範囲があるわけだが、それを最終的にうまくまとめるセクションが必要になる。我々は製版部分がメインだが、過去の実績から資材やインキメーカーとのネットワークもあり、これらを機能させることでユーザーから信頼を得ていると考えている。
TAGネットワークによるサポート
河野 商談は確実に増えており、フレキソに関する多面的な問い合わせも多く寄せられるようになった。
今年は、フレキソ印刷機がここ数年にない勢いで設置される予定である。とくに、増設ではなく新規の投資が多いようだ。そういう意味で生産能力におけるインフラの整備はある程度進むことが予想される。
そんな中、我々コダックでは、「TAG(Technical Application Group)ネットワーク」というものを組織している。印刷インキひとつを取ってもUV、溶剤、水性、EB、また印刷媒体ではフィルム、紙など、フレキソ印刷には多くのバリエーションがあり、そこには多くの経験や技術情報が必要とされる。
コダックでは、これらの技術情報をワールドワイドで管理し、顧客に必要とされる情報を提供することを目的に、世界で約30名からなるTAGチームを組織。日本でも2名がこのTAGメンバーの一員として共有される情報を活かしながら顧客サポートを行っている。
横山 今夏には、より段ボール用途向けに最適化した「Flexcel NX-C」というフレキソ版を発売するとともに、50×80インチという版サイズを拡張したFlexcel NXシリーズのラインナップを拡充する予定だ。「如何にして印刷会社のフレキソへの挑戦を成功させるか」。そこで我々が担う役割は大きい。その意味から「フレキソ印刷ソリューションの入り口的役割」となり、市場拡大に貢献していきたい。