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特別鼎談 「JapanColor認証を活用した経営戦略」〜大阪の印刷会社3社の代表が語る

2013年12月15日

 「仕上がった印刷物の良し悪しは顧客の視覚的判断によって決められる」。これまではそんな明確な基準がない中で印刷物が作成され、発注者、デザイナー、カメラマンなどからの色再現の要求に対し、印刷会社は度重なる修正や刷り直しを強いられてきた。そこには印刷物作成に関しての標準的な基準がないという根本的な要因があった。この問題の是正を目的に創設されたのが「JapanColor認証制度」((社)日本印刷産業機械工業会)だ。これは、ISO国際標準に準拠し、日本のオフセット枚葉印刷における印刷色の標準である「枚葉印刷用ジャパンカラー」に基づいて認証を行うもので、現在4つの認証で構成されている。そこで今回、このうち印刷会社が取得できる「標準印刷認証」「マッチング認証」「プルーフ運用認証」のすべてを取得している大阪の印刷会社3社の代表にお集まりいただき「JapanColor認証を活用した経営戦略」と題して鼎談を企画した。

株式会社 ダイム 安平 健一 社長(http://daimu.co.jp
北東工業株式会社 東條 秀樹 社長(http://www.hokuto-k.co.jp、プリントビズ http://printbiz.jp
株式会社 美生社 山本 素之 社長(http://biseisya.co.jp/

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JapanColor認証取得の狙い

安平 奇しくも今日集まった3社は、もともと「製版」を生業としてきた会社。ここにも何らかの意味があるように思う。
 JapanColorそのものは、12〜13年前からひとつの色基準として採用してきた。「製版部門を受け持つ我々が、印刷会社毎の基準カラーに合わせる...」、これはおかしな話だ。そこで日本標準であるJapanColorの採用を決め、印刷機導入時もこの基準を前提として運用を開始した経緯がある。

東條 確かに、もともと色再現の技術を生命線としてきた我々だからこそ、この重みや価値がストレートに理解できたように思う。

安平 認証制度への取り組みの狙いは「色の主導権」を握ることにあった。下請け的な仕事の場合、商流や価格面での主導権はすでに印刷会社や広告代理店が握っている。ただ、技術・品質面での主導権は当社が握っておきたいという思いがある。そのためにも「ダイム基準」ではなく、大義名分のある基準が必要だった。
 また、いまでは直受けも増えており、企業のブランドカラーや商品カラーの基準を当社で管理するというビジネスモデルを目指しているため、それにもスタンダードな基準が必要である。

東條 オペレータによって技量・経験値が異なる中で何を基準にコミュニケートするか...。当社の認証取得の目的は、全工程にわたる「標準語」の整備であり、これを絶対的な「ものさし」としてワークフロー全体を是正していくことにあった。
 当社は、多品種・小ロット・短納期の印刷需要に応えることをメインにしてきた会社。完全データでの入稿を受けて「後は頼むよ」という場合がほとんどで、デジタルプルーフが必要な仕事は10%以下、本機校正においては1%以下である。さらに当社が運営する印刷通販サイト「プリントビス」からの受注は、100%見本がないわけだ。そのため当社では「個別のお好み」を排除する必要があり、全国共通の基準としてJapanColor以外を選択する理由がなかったと言える。JapanColor認証は1台の印刷機を対象にするだけで取得企業となれるが、当社では全印刷機を横断的にJapanColorで運用。「オール北東工業」として取り組むスタンスを明確にしている。

山本 当社の場合は、社内のモチベーションアップが最大の狙いだった。約7割が下請け仕事という中で、「仕事を消化している」という意識が社内にあるように感じていた。「下請けは無理を利いていくらの世界」。確かにそうかもしれない。もともとハード面は充実していたし、色のうるさい仕事もこなしてきた自負はある。いままでやってきたことのすべてが間違いではないと思うが、そこに「ブランド」や「誇り」が必要だと感じていた。
 標準印刷認証を取得するにあたって、3ヵ月で取得できたことも自社の大きな自信となった。もちろん社外的にもアピールでき、大きな武器を持つことができた。


立ちはだかる「職人気質」

山本 認証取得に向けた取り組みでまず障害となったのは印刷現場の「職人気質」。年配のオペレータは「俺の色が美生社の色だ」と胸を張るわけだが、左右のパッチは目で見ても分かるぐらい明らかに違うことが多々ある。結果、恥ずかしながら製版部門でカーブを変えたり色を修正して版を出し直して対応していた。JapanColor認証取得は、実は製版部門の課長からの提案もあってはじまったことである。

安平 少し見当違いな職人気質が標準化の妨げになる問題はどこでもあること。

山本 この問題には、まず現場の人間に外の世界を見せることからはじめた。安平さんにも相談し、ダイムをはじめ、数社の工場見学をさせていただいた結果、オペレータは大きなショックを受けたようだ。これをきっかけに意識は少しずつ変わりはじめ、若い人材を中心に動き出した。
 当社の今年度年間目標は「JapanColor認証取得工場としてひとり一人が考え、みんなで答えを出し、落ちこぼれを出さない会社にする」。JapanColor認証企業としての誇りをもって業務にあたってほしいという思いを込めている。

東條 職人気質には良いところもあるが、やはりそれがネックとなって標準化が進まないというのが実際のところだろう。当社も以前は同様の問題を抱えていたことから、ここ数年は、新台を導入すると未経験の新人に立ち上げさせるようにしている。物作りが好きで入社してきた人材だけに、予想以上のスピード、レベルでコトが進む。
 JapanColor認証取得に向けた全体のディレクションも印刷機に触れたことのないSEが担当。まったく違った強制力をもって、現場の事情に左右されない立ち位置の人間が仕切るとスムースに進んだ。
 当社では、人材育成のスピードアップが急務だと考え、事業を拡大していく中で明確な課題として取り組んできた。結果、オペレータの半数以上が印刷技能検定1級を取得し、その層は厚いと自負している。だからこそ思い切って若い人材を投入できるわけだが、そこには「標準語」が必要だし、そういうものに取り組む風土も必要だ。これから若い人材の起用を考えた場合、こういうスタンダードが必要になることは言うまでもないだろう。

安平 「印刷」が工業製品である以上、何らかの出荷基準は必要だ。そういう意味で、JapanColorの採用は有効である。その認証制度の必要性を考えた場合、「ある一定水準以上の管理状態を維持できる企業」という証だと考えている。
 さらに広い色域の印刷をする上で、JapanColorを維持するノウハウが生きている。高濃度や高精細印刷もそうだろう。「きれいな印刷」だけでは、ただの「規格外」。一定水準のことができて、それをさらに超えることが差別化である。それをシステマチックに運用できるJapanColorは、当社の「背骨」となっている。


品質を維持する有効なツール

山本 当社では、菊半裁の機械が多いため、A4のチラシ印刷の場合、濃度を測るカラーパッチを入れるためには菊版の紙がいるわけだが、ほとんどが紙支給である当社には確実にA版の紙が支給される。そのためすべてJapanColor仕様で刷れないというのが大きなジレンマとなっている。
東條 以前、「下請けのスーパー」を標榜していた当社も、紙は100%支給だった。最近では印刷通販というビジネスモデル、あるいは窓口受注でその必要性を訴えてきたことから少なくはなったが、それでもまだある。しかし、JapanColorでの運用が身に付いてくると、パッチがなくても色が合うくらい全体のレベルは上がっているはずである。

山本 それは確かに感じている。これは頻繁にテスト刷りすることで印刷機のコンディションのぶれを最小限に抑えていることが寄与している。

安平 当社の場合、ほぼすべての仕事でパッチを入れることができる恵まれた環境にある。しかし、品質は社内で3段階に分けている。要求品質と予算によって「ナロー」「標準」「ワイド」に分け、色のぶれ幅、つまり印刷スピードを変えることでコスト調整している。

東條 それを営業が入稿段階で判断できるのは素晴らしいことだ。しかし、それは「いつかはダイムで印刷したい」というデザイナーあこがれのブランディングに成功しているからできること。それこそ「プリントビズ」ではとんでもない話。印刷物が工業製品であるがゆえにコンシューマの品質要求度は高い。そこで「オフセット印刷とは...」と説明しても通用しないわけだ。つまり、ぶれ幅を極限まで狭めるしかない。そのためのJapanColorである。
 この運用の良いところは、3ヵ月に1回テスト刷りを行い、第三者機関が2年後の更新審査の時にすべてチェックしてくれるという点。これを口実に全機械の状態とオペレータの技量をチェックができる。

安平 当社では他社とのコラボレーションも品質維持に貢献している。物流コストを抑えるため、東京の同じような設備と考え方を持つ製版会社と技術提携し、互いに本機校正と本刷りを分担している。そのため、定期的にテスト刷りを交換して互いの品質をチェックしている。いまは2社間でやっているが、今後は広げていく方針である。


「露出度」が高まることによる効果も

安平 認証取得をきっかけに数社から新規の仕事の依頼が飛び込んできた。新しい委託先を選定するにあたって、JapanColorをひとつの条件として探していたようである。

山本 当社では引き合い自体はないものの、認証を取得した瞬間から自社ホームページへのアクセスが急増した。急いでリニューアルしたほど。

安平 「見られることで美しくなる」という感じ。

山本 まさに、他社から見られることによる「意識改革の力」を感じている。

東條 「見られる」という意味でお話しすると、当社は積極的に見学を受け入れている。これは5S実践のための苦肉の策で、ここ10年間継続している取り組み。そういう環境下にあると、社員は「北東工業は、そんな良い会社なのか」という良い錯覚をしてくれ、5Sを維持できるというわけだ。いつ来られても恥ずかしくない状態に工場や機械を維持するために見学を受け入れることは非常に有効。物作りを左右する最も大きな要因は機械のメンテナンスであると確信している。これがJapanColorとの相乗効果を生んでいる。

山本 アウターブランディング、インナーブランディングの両方をカバーできるJapanColor。印刷会社におけるこの必要性は確信している。当社ではまだインナーブランディングに留まっているが、これをステップとして、いわゆる「見られる会社」になることが目標である。

安平 当社の場合、先行者メリットが大きかった。メーカーからのアナウンスや業界紙などでも報道してくれるし、講演依頼などもあって露出が多くなることで問い合わせも増えた。

東條 当社でもJapanColor認証企業からの発注がはじまっている。共通言語で仕事ができるメリットに着目してのことだろう。

安平 当社も外注先選定においてJapanColorをひとつの条件にしている。そうすると、打ち合わせもかなり省略できたりする。


それぞれが目指すところ

東條 2018年度までの印刷通販市場規模の年平均成長率は11.1%と予測され、大きな伸びが見込まれている。そこで生き残るには、圧倒的な標準化を進める必要があると考えている。製造を外に丸投げしている印刷通販サービスもあるが、そこでしっかりとした品質管理ができるとは思えない。当社は製造業としての存在価値を追求しながら身の丈に応じた成長を目指していく。

安平 正直、認証はどこでも取得できる。ただ東條さんが言うように「全機械でやろう」とか「全社を通じて品質管理の根幹としてやっていこう」という話を聞くと、発注側も安心だろう。

東條 認証は取得してからが勝負。それを本当に生産工程に組み込み、活用し、レベルアップしていくかが重要である。

山本 企業が何かに取り組む場合、どうしても中弛みが生じる。しかし、JapanColorには明確な目標があるため、それが起こりにくい。さらに現場が自ら考えるようになってきた。

安平 時間軸と到達点を明確にすることで、社員自らが考え行動し、方向性を探るようになるということだろう。
 また当社では、JapanColor運用で得たノウハウを使って、紙と刷りの組み合わせパターンをプロファイルとして作成。今年度中に30アイテム程度にしたいと考えている。これをプルーフに反映し、「刷らないと分からない」という紙でもシミュレーションできるようにする。
 また、これまで培ってきた色管理や色再現のノウハウを、メディアにインクを載せること以外に応用できないかを模索している。例えば医療や美容など。

東條 当社とは対照的。安平さんはハイエンドを目指し、一方当社は「ぶれない」「安心」、いわゆる「スタンダード」を目指していく。

山本 当社はどちらかというとハイエンドを目指したい。それを如何にシステマチックに簡素化するかが課題。そのためにも顧客対象を拡大し、下請けの仕事も大事にしつつ、エンドユーザー直の仕事を増やしていくことも必要だと感じている。
 社員がJapanColor認定企業としての誇りをもって、顧客対象を拡大した時、返ってくるものは大きいと思う。JapanColor認証取得をきっかけに、確実に会社として動き出している。

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