「総合力」結集した環境ソリューション展開 〜 三菱製紙 星野部長に聞く
2013年1月1日
地球環境保全、循環型社会の構築に向けて、平成5年に環境憲章を制定し、積極的に環境対策を展開してきた三菱製紙。植林事業やFSC森林認証の取得を進める一方、CTP機器・版材をはじめとする印刷製版システムについても、一貫してCO2削減につながる環境配慮型製品を市場投入し、三菱製紙の「総合力」を結集した環境ソリューションを展開している。今回、新年の幕開けに際し、同社イメージング事業部印刷感材営業部の星野浩之部長にインタビューし、「三菱製紙イズム」の中核をなす環境対応力を活かしたソリューションを中心に、2013年の展開について聞いた。
認知度アップしたTDP
三菱製紙は、「環境配慮」に重きを置いた製品を提供し、循環型社会に貢献することを企業目的の大きな柱としている。この思想を「完全プロセスレス」という版材技術で形にしたのが「サーマルディジプレート(TDP)システム」である。
これは、フレキシブルCTPで実績のあるSDP印刷適性技術をベースに、情報用紙分野で定評のある感熱紙の画像形成技術や層構成技術を融合させることで、機上現像が要らないパーフェクトプロセスレスを実現したフレキシブル刷版で、ドライな描画工程のみで高コントラストな画像を形成、優れた検版性を持ちながら忠実な印刷再現性をもつ。
販売実績としては、ワールドワイドでおよそ750台を出荷。昨年1年間だけでもおかげさまで50%増と好調である。震災の影響に加え、世界的な経済の低迷、かつ先行きに不透明感が漂う中、大型の設備投資を思い切ってできない企業にとって、TDPは「取っつきやすい」という側面もあるだろう。かつ「使える」という評価が市場で認知され、受け入れられているものと考えている。
ただ、そんな中で様々なご指摘をいただいているのも事実。様々な要望を受けて、これまでも様々な改良を重ねているが、引き続き、今年もそんなユーザーの意見を反映したバージョンアップを考えている。
VDPは国内でもモニターテストを予定
一方、昨年5月に開催されたdrupa2012では、水道水でウォッシュオフするだけの完全ケミカルレスプレート「バイオレットディジプレート」を発表し、注目をいただいた。
「完全プロセスレス」は、環境面において究極のシステムだと言えるが、ただ、高い品質要求や菊半、全判クラスのマーケットでは実用面で難しい部分がある。まずは堅実に対応したいということもあり、シルバーマスターやシルバーディジプレートで培ってきた菊四、菊半の世界においては、これらの後継で、なおかつ環境配慮という要素を実現するため、印刷の品質とコストのバランスを考慮した結果、まずはローケミカル、ケミカルレスといったところでの製品開発に着手。ポリマーディジプレート(PDP)という仮称で開発を進めてきたが、drupaにおいて正式にケミカルレスプレート「VDP」として実演紹介することができた。
VDPシステムは、SDPシステムで構築したフレキシブルプレートの親水性技術と、「PD-News」で培った感光性ポリマーの架橋技術を融合させたCTPシステム。アルミ版に近い水応答性を持ち、フルカラー印刷で高い精度を発揮する。
発表以降、昨年夏頃から、環境意識が高くVDPへの期待が大きいヨーロッパ市場においてモニターテストを開始している。
我々はシルバーマスターを30有余年、シルバーディジプレートを20有余年販売しているが、そのユーザーも現在、環境対応を急ぐ傾向にあり、環境配慮型の後継機の登場を待ち焦がれている。そんな経緯もあり、先行してヨーロッパでモニターテストを開始している。また、春先くらいから日本でもモニターテストを開始する予定で、今年のJGASでの発売を目指したい。
「校正クラウドサービス」様々な業種に展開
版材の中核はVDP。もちろん水幅を広げたTDPのバージョンアップにも期待していただきたい。
一方、ワークフロー関係では、DIALIBRE PORTALの「校正クラウドサービス」に注力する。すでに発表しているアサヒペン様での採用の他、官公庁のリクエストに応える形での採用などが決まっているが、まだまだ認知度が低いことから、様々な展開を考えている。同業他社や顧客の囲い込み、あるいは提携しながら印刷需要の変動にも耐えられるようなネットワークづくりのツールとして使っていただきたい。
一方、DIALIBRE PORTALの「受注システム」については、モニターテストの段階で様々なご指摘をいただき、今後はさらに構成を変えた形での展開を考えている。page2013では、受注システムの方向性を示すことを目標に改善を行っている。
さらに面付けソフト「ファシリス」については、待望されていたMac OS X「Lion」に対応したVer.4.6.6を昨年10月にリリースした。今年の販売に繋げていく考えである。
2013年は「癸巳」
page2013では、「彩美s(SaiVis)」という製品も出品する予定。最近、プロジェクター分野で顕著な傾向にある超短焦点プロジェクターにも対応した高輝度、高精細な映像を映し出すプロジェクター用スクリーンフィルムで、液晶などと比べ、大画面でも低コストであることがひとつの特徴である。すでに、小樽の石原裕次郎記念館などで採用されている。
また、産業用インクジェットコート紙「SWORD iJET Gloss」も注目の製品。これは被災から完全復興を果たした八戸工場で生産している、高速のコンティニュアス型インクジェット印刷機用の高品位グロス紙。どのような用途で使用する場合も、印刷後のラミネート加工やUVコーティング加工をほとんど必要としない。インクの定着性と乾燥特性のいずれにも優れ、染料・顔料インクの両用で幅広い色再現域を確保しており、FSC森林認証への対応も可能である。
また、クロムメッキの環境対応代替技術として銀塩技術を活かした銀鏡メッキを開発し、広く訴求しているほか、まだ発売には至っていないが、タッチパネル用部材や介護向け材料へも、我々のコア技術を活用して進出したいと考えている。
十干十二支で2012年は「壬辰」(みずのえたつ)だった。「壬」は植物の内部に種が生まれた状態で、「辰」は草木の形が整った状態を意味する。我々にとっては、まさにVDPやTDPの他、これまで我々がもっていた銀塩技術や薄膜多層塗布技術、またインクジェットの多穴塗装技術などを活用した新たなジャンルの商品開発を進め、やっと販売に漕ぎ着けたものもある。まさしく「壬辰」の年だった。
そして2013年は「癸巳」(みずのとみ)。「癸」は植物の内部にできた種が、大きさが測れるまで成長する状態で、「巳」は草木が大きく成長するという意味があるらしい。まさしく我々は今年、これまでお話した様々な種を、それぞれ大きさが測れるまでに成長させ、さらに発芽させたいと考えている。