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インクジェット技術の可能性と今後の展開 〜FFGS i-Vision Wing セミナーより〜

2012年1月1日

 富士フイルムグラフィックシステムズ(株)(本社/東京都千代田区、吉田整社長、以下「FFGS」)は、富士フイルム(株)と共同して、多角的な業界サポートの一環として、技術視点から印刷の新たな動向を考察する「i-Vision Wing セミナー」を昨年10月25日の東京開催を皮切りに全国47ヵ所で展開し、延べ3,000名の参加を得た。セミナーは2部構成で行われ、第1部では、注目されているインクジェットテクノロジーについて富士フイルム(株)R&D統括本部アドバンスト マーキング研究所より「インクジェット技術の可能性と今後の展望」と題して講演。続く第2部では「IGASトレンド情報および富士フイルム最新技術・環境ソリューション」についてFFGSより講演が行われた。以下、第1部セミナーの概要。


 印刷業界は新たな付加価値を生み出し業態を広げる変革が求められている。そんな変革のために強力な武器になる新技術として最も注目され、急速に進化を続けているのが「インクジェット技術」。drupa2008を契機にインクジェット方式の出力システムが相次いで発表され、本格生産機としての実用化が期待されている。

インクジェットならではの特長
 インクジェットのメリットは「多様な印刷媒体に非接触で印字できる」、「様々なインクを選択できる」、「いろいろな大きさの印刷物に対応できる」など、非常に自由度が高いことにある。曲面のある物にも印刷でき、特殊な例では水の上への印刷も可能である。また、液体であれば、原理的には何でも飛ばすことができ、細胞を飛ばし構造化して再生医療に応用したり、配線基板を直描で作成するなどの研究も盛んに行われ、FFの得意とする技術である。

インクジェットヘッドのバリエーション
 開発でキーになるのは、ヘッド。産業用ヘッドは打ちたいときにインクを打ち出すオンデマンド型が主流で、内部に仕組まれている圧電素子に電圧をかけその振動でインクを飛ばすピエゾ方式が富士フイルムなどで採用されている。

インクの方式と特性
 もう1つのキーは、インク。水性インク、溶剤インク、UVインクの3種類あるが、水性インクは臭気が少なく安全性が高いため、オフィス用プリンターに使用されている。一方、産業用プリンターは紙以外の多種の基材に使用されることから溶剤インク、UVインクが多く使用されている。

生産機としてのシステム技術
 インクジェットの生産機を本格的に導入するためには、印字するメディアの特性を把握する必要がある。さらにヘッドとの親和性、印字後のインクの物性までも踏まえた開発が条件である。


■印刷分野への展開

 富士フイルムは、産業用ヘッドの設計製造において世界トップレベルの技術力を誇るDimatix社やインクメーカーをグループ化し「アドバンストマーキング研究所」を中心に開発を進めている。さらに、富士ゼロックスの高度なシステムインテグレーション技術と融合させ、各種印刷分野におけるインクジェット活用の可能性を徹底的に追求している。
 同社の展開を例に挙げ、各印刷分野の状況について説明する。

(1)商業印刷分野

 drupa2008で、商業印刷分野向けの高画質なインクジェット印刷機が各社から発表され、その代表的な機種のひとつが、富士フイルムのJet Press 720である。高生産性を確保するためのワンパス出力、滑らかなトーンを得るためのバリアブルドット、水性インクで一般の印刷用紙に高精細な画像を再現する高速インク凝集技術など、数々の新技術が盛り込まれている。
ffgs_jetpress720.jpg

Jet Press 720

高解像ヘッドの開発
 オフセット品質同等以上を目的に開発。産業用ヘッドは600dpiが主流だが、グループ企業のdimatixと共同し、非常に高精度な1,200dpiヘッドを開発した。各色2,048個のノズルを持ったモジュールを17列並べた構成のヘッドを搭載している。
 ワンスキャンで印字するシングルパス方式としているが、高精度かつコンパクトなヘッドのためMEMS技術(Micro-Electro-Mechanical Systems微小電子機械システム)を応用し製造している。
 トータルで約14万個のノズルで印字するため、インクノズルの状態を常にインラインセンサーでチェックし、挙動がおかしなノズルがあった場合、周辺ノズルで補完してムラの発生を抑制するなどの独自の画像処理技術が入っている。

高速インク凝集技術
 高精度ヘッドで微小なインク滴を打ち分けていくが、正確に着弾したインクが滲むと品質が落ちる。そこで普通の印刷用紙(コート紙、マットコート紙など)を使用してもインクが滲まない技術を開発した。それが「Rapic技術」(高速顔料凝集技術)である。同技術は、あらかじめ凝集剤を用紙表面に塗布しインクが瞬時に反応し、インク中の顔料を凝集する独自のプレコンディショナー技術である。
 また、水性インクは用紙に浸透しカールが発生し、搬送精度不良を起こす。そのカールを抑えるため、紙変形抑制技術(WPD技術)を開発し、搬送性を向上させた。

広色域再現
 インクジェット用のインクは、広色域を実現していることも特徴のひとつ。オフセット印刷の4色インクの特色カバー率は、コート紙では約55%であるが、Jet Pressではライト系インクを使わず67%程度まで広がっている。
 また、紙をリサイクルするためにはインクの脱墨性が良いことが必要となる。Jet Press用インクは、プレコンディショナー処理によって、顔料が繊維に絡みにくく、既存設備でのインク除去が可能となっており、INGEDE(International Association of the Deinking Industry)からGood Deinkable(脱墨性能が良い)という最高評価を得ている。

用紙搬送精度
 印刷機と同等の搬送構を採用し、確実な用紙搬送、用紙位置決め精度を達成している。また、乾燥工程でも、低温度で乾燥を行った後、定着胴でインクを平滑に定着させるなど万全の乾燥性を盛り込んでいる。
 さらに、紙が持つ波打ちを除去するため、事前にシーズニングする装置を標準装備し、トンボ1本の差もないほどの色見当精度を持たせている。
 これらの技術によってオフセット品質以上の高品質を実現した。12月から販売を開始し、商業印刷の分野で全世界的に導入が進むと見られる。

(2)データプリント分野

 インクジェット印刷機として最も早く2006年に実用化されているが、200メートル/分の高速印刷を実現した「富士ゼロックス2800 Inkjet Color Continuous Feed Printing」(以下2800IJCCF)をIGAS2011で発表した。
 高い瞬発性とロール紙搬送を両立させることが必要であるため、最も大きな課題は、水性インクを瞬時に乾燥させ、高速搬送させることであった。
 2800IJCCFは独自の水性顔料インクを開発し、溶剤などの臭気がない快適な環境で高速乾燥を達成している。また、給紙から排紙まで同一テンションで用紙搬送できるテンションコントローラーを採用し、安定した用紙走行を可能にし、高い見当精度・加工精度向上を達成している。さらに、バリアブル処理することから高いデータ処理速度が求められているが、富士ゼロックス独自の高速RIP用アクセラレーターで、PDFの高速RIP処理を実現した。
 従来タイプのプリンターはRIP処理した後に印字する必要があったが、新開発のコントローラーはRIP処理と印字を同時に行えるようになり、作業時間の大幅短縮を可能にした。
 今後は、スピードだけでなく大判サイズへの対応や仕上り品質も向上すると考えられ、新聞・書籍への活用も期待されている。
xerox_2800_ijccf.jpg

2800 Inkjet Color Continuous Feed Printing System

(3)サイン&ディスプレイ

 溶剤系インクとUVインクが主流であったが、UV光源は従来のランプから電流の点滅が瞬時に行え、強度も自由に変えられるLEDに移行し省電力設計が進んでいる。
 富士フイルムも2007年よりLED UVを搭載したワイドフォーマットUVインクジェットプレス「LuxelJetシリーズ」を発売している。
 IGAS2011では「Acuity LED 1600」を新たに発表し、基材への密着性も向上するなど技術的に進化している。
 今後、微細ドットを印字するヘッド技術と乾燥効率の高いLED用 UVインクなどの実用化が進み、多種基材対応が進むと予想され、さらに小滴・バリアブルヘッドの採用による高品質化が進んでいくものと思われる。

(4)シールラベル印刷分野

 drupa2008頃から発表され、普及率は低いものの増加傾向にある。今後、低価格機かつ高生産機の登場で市場導入が加速すると見られる。とくに生産性からインライン加工が前提であり、後加工対応が、普及の大きな鍵になってくると見られる。

(5)紙器パッケージ印刷

 同分野も小ロット化が進んでおり、インクジェット化が進展していくものと予測されている。紙器の場合、ワンパス出力かつ高速で厚紙を搬送し印字するといった課題と特色インク対応も課題であることから、普及にはまだ時間がかかると見られている。

(6)軟包材印刷

 デジタル化のニーズが強いが、技術課題も多く、現在のところインクジェット機は発表されていない。
 技術課題としては「食品安全法規制に対応するインクの開発」、「各種フィルム基材への密着性確保」、「金銀を含む特色インク対応」などが挙げられる。今後は、これらの課題に対するブレークスルーが大きな鍵になっている。

(7)プラスチック加飾・成型印刷

 スマートフォンやノートPCのカスタムデザイン製品に成型後印字・加飾する用途で使われている。効率化の観点から加飾印刷した後に成型したいという要望も増えており、延伸性があり、耐熱性・密着性の高いインクの開発が課題になっている。

インクジェット開発における富士フイルムの取り組み

 生産機を商品化に際して、要求される特性は分野ごとに異なり、極端なところ印字する基材ごとに違うといえる。単にヘッドの性能を上げるだけでは解決せず、基材や用途に対してインク、システムインテグレーション、マーキングプロセスを含めたトータルな開発を進めることが重要である。
 富士フイルムは、すべての開発技術を有していることから、印刷業界の皆様のご要望にこたえるべく、さらなる開発を全力で進めていく。

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