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コダック、プロスパープレス発売へ〜オフセットとの置き換えの可能性示唆〜

2010年9月15日

kodak_kawahara10.jpg インクジェットの技術開発において40年以上の歴史を誇るコダック。トランザクションビジネスという限られたマーケットで成功を収めてきたこのインクジェット技術を、ここにきて商業印刷をはじめ書籍や新聞などといった印刷産業のメジャー市場への適合を加速させている。それが一昨年のdrupa2008で発表されたStreamインクジェットテクノロジーを活用したプロスパーシリーズだ。この技術を採用した初の製品「プロスパーS10」が昨年発売され、そしていよいよ年末から来春にかけて、筐体を纏った「プロスパープレス」が日本でも発売開始の予定だ。そこで今回、コダック(株)IPS本部 本部長の河原一郎氏にインクジェットプリンティング市場の現状と各製品の特徴、それらがターゲットとするマーケットについて話を聞いた。

トランザクション分野を牽引

 コダックにおけるインクジェットの歴史は40年程前にさかのぼる。この間、研究開発および製造は一貫して米国オハイオ州のデイトンで行っており、高速のバリアブルインクジェット技術においては長い歴史を持つ。
 これまでのインクジェットプリンティングは、データセンターや請求明細書といった、いわゆる「トランザクション」と呼ばれる分野で成功を収めてきたが、印刷全体からみると10%にも満たない限られたマーケットで成り立ってきたビジネス。この市場に対しコダックは、十数年前にVersamark DS6240という4インチのプリントヘッドを供給し、日本のトランザクション分野を牽引してきた。
 なかでも最大の事例となったのが大手通信会社の請求明細書だ。これは白いプレーン紙に黒インク、赤や青といったスポットカラーを使ってフルバリアブル印刷を行うというもの。この仕事をこなすシステムとして、当時は競合がなかったことから、「大量バリアブル印字=Versamark」というブランドが定着するなど、限られたマーケットながらも高いシェアを誇ってきた。その後、低解像度ながらもフルカラーまでをカバーできるようになり、ダイレクトメールの宛名印字や年金関係、カード会社の請求明細書など、大量バリアブル印字の分野でインクジェット技術が採用されている。
 一方、ミドルレンジのボリュームになると連帳のレーザープリンタが採用されている。大量ボリュームがないとビジネスが成り立たないインクジェットに対し、レーザープリンタによるバリアブル印字のビジネスは裾野が広い。
 そこでインクジェットなのか、電子写真なのか、という議論になるわけだが、これまでを整理してみると、電子写真はカラー品質を追求することで市場にアプローチし、現在そのレベルもかなりオフセットに肉薄する状況。一方、インクジェットは品質は劣るもののスピードとランニングコストで市場に訴求してきた。
 しかし、今年のIPEXでコダックが発表したプロスパープレスの登場により状況は変わった。同機は、スピードとランニングコストというインクジェットのメリットを維持しつつ品質までをカバーすることで新たな可能性を示した。

可能性を明確に示唆

 技術的に確立されているオフセットでの印刷を生業として高度成長期とともに発展してきた印刷産業。それが頭打ちになり、いまマイナス成長へと入っている。そこで各社がどう生き残っていくかを考えたとき「デジタル印刷は避けて通れない」というのが本音のところだと感じている。自社のコアビジネスである強みをさらに引き出す、あるいは価値を付加するためにデジタル印刷を選択し、次代の自社のポジショニングを模索する動きが活発になっているように思う。
 なかでもインクジェットへの期待が高まっている。プロスパープレスのクオリティを見てもらうと分かるように、従来からインクジェット製品を使用しているビジネスフォーム分野から見るとかなり向上している。よって、ビジネスフォームの分野において新しい価値を生み出しつつあり、ビジネスフォーム輪転機の置き換えとしても使えるという評価を頂いている。
 一方、商業印刷分野から見ると、確かに品質は良くなっているものの、オフセットとそのまま比較すると、開発の余地は残されている。ただ、現状で「ここまできたか」という認識は広がり、その可能性を明確に示唆した。
 現状、電子写真のスピードが倍になるということは難しいだろうし、コストでも小ロットでは勝負できるものの、より大量のボリュームや、あるいは固定データの印刷だと勝ち目はない。
 一方、インクジェットは、スピード、コスト、品質という3つの視点でオフセットに近づいている。もともとランニングコストも安く、スピードではオフセットの枚葉よりも速く、輪転よりは遅いというポジション。そこに品質がここまでくると、5、10年先を見たとき大きな可能性を秘めていると言える。
 さらなる技術革新でより高い解像度を実現する余地もあり、また、現在でも送りの解像度を下げればスピードをさらに速めることが可能で、大量印刷物のボリュームダウンという傾向がある中、インクジェットの仕事で適切な量の仕事が増え、コスト競争力も増すことが考えられる。
 このように、印刷産業全体では10%にも満たない市場で成り立ってきたインクジェットビジネスが、商業印刷や出版などといった大規模なマーケットで認められる可能性が出てきたわけだ。
 プロスパープレスは現在、ビジネスフォーム輪転機との置き換えに十分対応できるし、商業印刷分野では技術的にはオフセットとの置き換えに対応する最有力候補という可能性を明確に示唆している。

オフセットクラス

 コダックが掲げるソリューション「オフセットクラス」。これは信頼性、生産性、トータルコスト、品質といった広範囲にわたってオフセットレベルを実現するというものだ。その核となるのがプロスパーシリーズに採用されている「Streamインクジェットテクノロジー」だ。
 Streamインクジェットテクノロジーのベースとなるのは、ノズルプレートに採用されているMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)インク液滴形成技術である。高解像度、より小さなインク液滴量、Streamテクノロジーの高速な液生成により、インクジェット技術でオフセットに匹敵する品質、生産性、コストを実現するというものだ。同技術では、インク表面の温度変化によりインク液滴が高速で形成されるため、顔料インクでコート紙や各種の商業印刷用支持体上に印刷できる。
 これまでのコンティニュアスインクジェットテクノロジーは、ドロップを形成した上に電荷をチャージして、それを抜き取るという技術である。つまり、印刷されない部分に電荷をチャージ、印刷部分が電荷に影響されずに落ちるというもの。一方、Streamインクジェットテクノロジーは、インクを落とす時に、インクノズルに熱を加えて、熱を加える時間の長さによって、インクの大きさをコントロールするという技術。つまり電荷をチャージせずに、物理的にインクを押し出すという意味では非常にシンプルな構造にしたことで、トラブルを回避しようというわけだ。

プロスパーSシリーズ

 Streamインクジェット技術を搭載したインクジェットプリントヘッド「プロスパーSシリーズ」。解像度600dpi、印字幅10.6センチ(4.16インチのプリントヘッドを4つ接続)で、毎分最高300メートルの「S10」と、毎分最高150メートルの「S5」をラインアップしている。
 プロスパーSシリーズのターゲットとなる市場は次の4つが考えられる。
 まず、ビジネスフォーム系のオフラインによる追い刷り。これはVersamark DS6240プリントヘッドをさらに進化させたものだ。DS6240ではできなかった300dpi以上の解像度が必要なEAN128バーコードや商業印刷用支持体上への印刷、さらに耐水性が求められるものなどへの印刷が可能となった。
 次に、ビジネスフォームのデータプリントで多く採用されているレーザープリンタとの置き換え。プロスパーS10のスピードは最大でレーザーの4倍程度、ランニングコストはおよそ半分以下、品質は追いついたと言っていい。大量ボリュームのデータプリント分野では置き換えられるチャンスがある。
 さらにオフ輪へのインライン搭載によるハイブリッドプリンティングも考えられる。供給過多の状況にあるオフ輪市場に向けた新たなソリューションだ。
 米国の場合、現在、その事例のほとんどがダイレクトメールのインライン印字。ただ日本ではチラシの店名差し替えといった需要が見えている。
 チラシは現在、ロットが減少し、バージョニングが多くなっている。あるチラシだと150店舗分のバージョニングが必要で、1店舗あたりの枚数は8000枚。これをハイブリッドプリンティングで行うことで損紙やドライヤーのクーリング作業、PS版といったコストを削減できるわけだ。
 最後が、枚葉印刷機へのインライン化だ。これも追い刷りのソリューション。枚葉機の場合、機械内での紙のバタツキがあるため、非接触のインクジェットでは難しいとされてきたが、印刷機械メーカーの努力で、それも改善されつつある。新しいソリューションとして近々事例もお見せできるだろう。

筐体を纏ったプロスパープレス

 コダックが満を持して発表したオフセットクラスのパフォーマンスを実現するプロスパープレス。モノクロ両面機の「プロスパー1000プレス」並びにフルカラー両面機の「プロスパー5000XLプレス」は年末から来春にかけての発売を予定している。Streamインクジェットテクノロジーをベースとする両プレスのメカニズムはほぼ同様。印字幅にして24.5インチのプリントヘッドを搭載し、最高印刷速度は毎分200メートル。
 コントローラーには、ポストスクリプトあるいはPDFなどのオープンフォーマットにも対応しRIP処理する700プリントマネージャーを採用。搬送機自体もモジュール化されているため、モノクロからフルカラーへのアップグレードも可能だ。
 まずプロスパー1000プレスのターゲットとしては、書籍やマニュアルなどが考えられる。
 米国の出版社では在庫レスを真剣に考えている。米国大手の出版社のピアソンでは、返品コストや在庫に関わるコストが大きな重荷になっていた。一方で印刷料金は氷山の一角にすぎない。つまり全体のサプライチェーンを改善すれば、プロダクションが高くなろうが全体のコストメリットが出るという考え方だ。
 一方、フルカラーの「プロスパー5000XLプレス」のターゲットとして想定されるのが、上質紙系では学参物、コート紙系では通販カタログなど。ともにパーソナライゼーションやバージョニングが必要になるマーケットである。

ProsperPress5000XL.jpg
Prosper Press 5000 XL

  ◇ ◇

 先行リリースされたプロスパーSシリーズと近々発売されるプロスパープレスシリーズ。それぞれ違ったアプリケーションをターゲットにしながらも使っているジェッティングモジュールはほんと同様。そういう意味では新製品のプロスパープレスにはある程度の技術的な信頼感がある。今後も技術的な改良が施され、様々な対応力を身につけることで、コダックのインクジェットソリューションは、商業印刷をはじめ書籍や新聞などをカバーしていくと考えられる。河原氏が語った「オフセットの置き換えに対応する最有力候補」であるプロスパープレスが、インクジェットプリンティング分野を如何にコーディネートしていくかが今後の焦点になりそうだ。

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