日本HP、進化を続けるHPのインクジェット技術
高品質化をさらに強化〜商印市場向けに販売展開を加速
2012年秋、出版社である講談社は、インクジェット輪転機と後加工システムをインライン接続したフルデジタル書籍生産システムを導入し稼働を開始。これにより国内でもインクジェット技術を活用した本格的な出版印刷の幕が開けた。この生産システムで印刷を担っているがインクジェット輪転機「HP PageWide Web Press」だ。日本市場では出版印刷から、その歴史が始まった「HP PageWide Web Press」は現在、商業印刷への進出も図っている。そこで今回、(株)日本HPのデジタルプレス事業本部HP PageWide Web Pressカテゴリーマネージャーである田口兼多氏に、HPのインクジェットテクノロジーが印刷業界にもたらす可能性や、日本市場における取り組みなどについて聞いた。
HPが提供するデジタル印刷機と言えば、液体トナー方式を採用した「HP Indigo」を連想する方も多いと思うが、実はインクジェット技術への取り組みは1975年からと、約半世紀という長い歴史を有している。1984年には、サーマルインクジェット方式を採用したコンシューマー向けのインクジェットプリンター「ThinkJet」を世界で初めて商用化。そして2008年のdrupaにおいて、産業用のインクジェット印刷機として、用紙対応幅30インチ(765mm)の「HP PageWide Web Press T300」を発表。以後、製品ポートフォリオの拡充を図り、現在では、30インチモデルのほか、22インチ(558mm)、26インチ(660mm)、42インチ(1,067mm)、また、段ボール印刷向けに110インチ(2,800mm)モデルもリリースしている。

また、HP PageWide Web Pressの大きな特長として、各モデルは、共通のプラットフォームを採用していることが挙げられる。加えて各モデルは、アップグレードに対応しており、これにより導入以降も、常に最新機種同等のパフォーマンスを維持することができる。
田口氏は、「実際に米国ユーザーが2009年に導入したHP PageWide Web Pressは、数回のアップグレードを経て、現在も主力生産機として稼働している」と、その優位性について説明する。
ワールドワイド市場で累計印刷枚数6,000億ページ達成
HP PageWide Web Pressは、トランザクションをはじめ、書籍や新聞、また、カタログやポスター、DM、販促ツールなど多彩なアプリケーションに1台で対応できることからワールドワイドで導入が加速している。
その導入成果を物語る数値として2021年5月、HP PageWide Web pressは、ワールドワイド市場で累計印刷枚数6,000億ページという驚異的な数字を達成している。特筆すべきは、2020年8月には、累計印刷枚数5,000億ページ突破というニュースリリースが配信されていたのだが、コロナ禍でありながらも約1年という短い期間で約1,000億ページがHP PageWide Web Pressによって印刷されていたことになる。
この事例について田口氏は、「生産性の高い42インチモデルが稼働したことも要因の1つと考えられる。これも多彩なポートフォリオを有するHP PageWide Web Pressだからこその実績といえる」とした上で「必要なものを必要な時に必要な数だけ、という流通サイクルを市場が求めている。この動きに対し、印刷物の生産機としてHP PageWide Web Pressが上手くマッチした。とくに昨年から続くコロナ禍においては、さらにその動きが加速している」と説明する。
KADOKAWAの出版DX
日本国内では2012年、講談社がHP PageWide Web Pressを導入するとともに後加工システムをインライン接続し、書籍の印刷から製本までの一連の工程をワンストップで生産できるラインを構築したことが大きな話題となったが、2016年には、さらに国内出版社の1社が、導入に名乗りをあげている。それはKADOKAWAだ。
田口氏は、drupa2016において、HP PageWide Web Pressを組み入れたフルデジタル書籍生産システム導入を発表し、すでに稼働を開始しているKADOKAWAの出版DX事例として「ロウソクの科学」の重版印刷で説明する。
2019年にノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏は、受賞後のインタビューで自身が化学への興味をもった原点として小学校時代に愛読した書籍「ロウソクの科学」を紹介した。この発言を受け、KADOKAWAに同書への問い合わせが殺到するなど市場が過敏に反応した。そのためKADOKAWAは急遽、重版を決定。その生産機としてHP PageWide Web Pressが活用された。
2営業日で重版2万部を実現
具体的なタイムスケジュールとしては、吉野氏の「ロウソクの科学」が原点とのコメントから翌10日にKADOKAWA内にSlackを活用して対策本部チャネルを立ち上げ、協議を開始。同日には、緊急重版2万部の生産を開始するとともにプレスリリース配信やSNS等を活用したプロモーションを展開。そして10月15日には、書店への発送を完了している。土日祝日(10月12・13・14日)の3連休を挟んでいることから、実際には2営業日という短い期間で印刷・発送を実現している。
その後は、販売数の進捗を見据えながら小刻みに重版を重ね、2019年12月時点で14万部の重版となった。
「この事例は、単純な短納期対応ではなく、吉野氏の発言から数日で本を仕上げ、書店に置くことができたこと。つまりトレンドとなっている時期を外すことなく店頭に置くことで、書籍の販売部数にも貢献できる。これが2週間後や3週間後であれば、市場が一番反応した時期を逃してしまうので販売部数にも影響を及ぼしていたかもしれない。また、一気に大量生産する重版ではなく、販売部数の動向を注視しながら追加生産することで、在庫などの問題も解消できている」
市場トレンドに迅速に対応できる機動力
オフセット印刷機には、枚葉機と輪転機があり、今も全世界で稼働している設備である。田口氏は、改めてオフセット印刷機とデジタル印刷機のメリット・デメリットについて「大量ロットの同一絵柄印刷については、オフセット輪転機の方が圧倒的なコストメリットを提供できる生産機だと認識している」と、生産性におけるオフセット輪転機の優位性を語る一方で、デジタル印刷機の優位性として市場トレンドへの柔軟かつ迅速な対応力を挙げる。
「市場トレンドへの迅速な対応、またブランドオーナー側の意向、具体的には、ターゲットを絞った顧客へのアプローチなど日々変化するニーズに柔軟に対応できるのは、デジタル印刷機である。もちろんファーストステップとして、多くの消費者に同一内容の情報を盛り込んだ印刷物を配布し、認知度を高めていくこともマーケティングとして重要なことであり、その分野では、オフセット印刷機が優位性をもっている。つまり、すべてがオフセット、あるいはデジタルという考え方ではなく、より効果的なマーケティングを行うには、その目的とフェーズによって、どちらが適しているのかを見極めていくことが大切である」
