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モリサワ、「文字と書物」のコレクションを公開展示[MORISAWA SQUARE]

2022年1月25日

「文字文化」伝承と発展に 〜 ウイリアム・モリス全刊本所蔵


 文字の誕生は、人間にとって文化的な進化を促す大きな一歩だった。考えや思い、出来事などを文字として記録することは、それらのメッセージをより広く、より深く届けることにつながった。また、文字をとりまく文化は、「何を伝えるか」と同時に「どのように伝えるか」という課題を解き明かすことで、豊かな歴史を築いてきた。この文字文化に寄り添い、「文字を通じて社会に貢献する」という社是を掲げる(株)モリサワ(森澤彰彦社長)大阪本社ビルのショールームでは、「文字と書物」に関する数々のコレクションを公開展示している。今回、このコレクション収集に尽力した森澤嘉昭相談役の案内のもと、この「文字の歴史館」を訪れた。

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2つの文字体系を軸に展示


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森澤嘉昭 相談役


 「モリサワ・コレクション」が公開展示されているのは、2009年に完成した同社大阪本社ビル5階のショールーム「MORISAWA SQUARE」内。ここにはそのほか、本木昌造・活字復元プロジェクトが取り組んだ「蝋型電胎法」による鉛活字鋳造技法の再現と本木活字復刻の展示や、写真植字機の原理模型から初期の写真植字機、ガラス文字盤の製造過程が分かる素材をはじめ、一世を風靡したCRT方式の電算写植機「ライノトロン202E」なども展示されている。

 「モリサワ・コレクション」は、森澤嘉昭相談役がおよそ50年の歳月を費やし、自らの足で収集してきたもの。アルファベット系と漢字系の2つの文字体系を軸に展示され、活版印刷の発明者であるグーテンベルク最初期の印刷本、全刊本を所蔵するウイリアム・モリスの「ケルムスコット・プレス」なども見ることができる。


アルファベット圏の文字


 ラテン文字をはじめ、アラビア文字やインド文字など、最も多くの言語で使われているアルファベット。それぞれの文字にそれぞれの音を対応させた表音文字で、原シナイ文字やフェニキア文字がその起源とされている。さらに文字の歴史を遡ると、メソポタミア地方で生まれた楔形文字やエジプトのヒエログリフなどにたどり着く。これらは文字そのものが意味を持つ象形文字だが、やがて音声だけで表す文字も出現。楔形文字やヒエログリフはアルファベットの遠い祖先だと言える。

 アルファベット、とりわけラテン文字は、聖書と結びつくことによってヨーロッパ世界に広く普及した。聖書による布教は写本の膨大な需要を生み、パピルスの巻子本から羊皮紙や子牛皮紙を用いた冊子本への移行という書物の大変革を促した。また、わずか20数文字で人間の音声のほとんどを表すアルファベットは、きわめて合理的な文字システムであり、それは活版印刷という複製システムを開花させる上で、きわめて有利だったと思われる。私たちが日々、親しんでいる書物という印刷メディアの発展には、アルファベットという文字が大きく作用している。

 「モリサワ・コレクション」の中でも圧巻なのが、ウイリアム・モリスに関連する書物だ。19世紀後半、イギリスで最も傑出したデザイナーと言われ、美術家、詩人、作家、そして思想家としても活躍したウイリアム・モリス(1834〜96)が「理想の書物」の実現を目指してロンドン近郊テームズ河畔に設立した書局「ケルムスコット・プレス」。紙漉きから装丁に至るまで、徹底して理想の美しい本づくりを追求したこの私家版印刷所から生み出された書物群は、現在もなお世界で最も美しい印刷芸術と評価されている。「モリサワ・コレクション」では、このケルムスコット・プレスで生まれた世界の3大美書のひとつ「チョーサー著作集」(写真1)を含む全刊本53部66冊を所蔵。コレクションのなかでも、このケルムスコット・プレス全刊本は最大級の評価を得ており、その全貌に触れることは世界的にも難しくなっている歴史的な美書である。

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写真1:チョーサー著作集


 その他にも、亡くなったことで本にならなかった「試し刷り」やモリス自筆の図葉、チョーサー著作集に挿画を提供していた友人のバーン・ジョーンズ(画家)自筆のスケッチなども展示されている。

 もうひとつの貴重なコレクションが「インキュナブラ」だ。グーテンベルク以来、15世紀末までに印刷された活版印刷物は約4万版といわれ、これらは総称して「インキュナブラ」(揺籃期本)と呼ばれている。「モリサワ・コレクション」では、グーテンベルクが完成させた最初の刊本「42行聖書」(写真2)の原葉やグーテンベルクの弟子であるシェーファーの代表作「48行聖書」、木版挿絵の豊富さや組版の質の高さが評価されているアントン・コーベルガーの「年代記」(写真3)などを所蔵、公開している。

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写真2:グーテンベルク「42行聖書」


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写真3:アントン・コーベルガーの「年代記」


 また、イギリス1230年頃のゴシック体で手書きされたラテン語聖書「写本『聖書』」も、後の活版印刷本に忠実に再現されている点で興味深いコレクションである。

 一方、一昨年末からは世界8大文明のひとつであるメソアメリカ文明の「マヤ文字」に関する展示が新たに追加されている(写真4)。マヤ文字はメソアメリカで最も発達した文字体系だが、全部で3万から5万位しかなく、それらのほとんどが約800ある文字素(漢字でいうと木偏とかワ冠など漢字を構成する要素)のいくつかが結合してできており、大部分は表語文字だが、音節文字も150個ほど見つかっている。モリサワ・コレクションでは、この文字が記された土器などが展示されている。

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写真4:マヤ文字に関するコレクション


漢字圏の文字


 漢字の最も古い資料は、紀元前1300年頃の中国・殷王朝時代のもので、占いに使われた甲骨文字である。その後、漢字の字形は、記号化、簡略化されていくが、それぞれの文字が意味を表す表意文字としての性格は失われることがなかった。漢字は現在でも使われている最も古い文字体系である。

 漢字の特徴は、数万におよぶ膨大な文字数があること。活字の発明では世界に先駆けたものの、必ずしもそれが普及しなかった一因であると言える。一方、話し言葉が違っても文字によってかなりの意味伝達が可能であり、これは漢字の優れた特性である。書という類い稀な芸術も生み出され、漢字は中国の文化とともに、朝鮮半島や日本などへ伝えられた。

 中国伝来の漢字から、日本人は仮名文字という独自の文字をつくり出し、江戸期には漢字仮名交じり文と挿画を自在に配した多くの書物が出版された。これらは木版印刷によるもので、中国や朝鮮でも過半の出版物がこの方式で印刷されている。

 19世紀の半ばになると、中国、日本へと西洋の活版印刷術がもたらされるが、いまなお漢字圏には伝統に支えられた独自の豊かな文字文化・印刷文化が息づいている。

 「モリサワ・コレクション」の中で、まず目を引くのが「獣骨(甲骨文字)」(中国 紀元前14〜紀元前12世紀、写真5)。漢字の祖形、甲骨文字は、歴史の中に消え去ることのなかった唯一の古代文字で、河南省の「殷墟」の発掘によって研究が進み、十数万片の獣骨や亀甲が出土している。大半が火であぶってできるヒビによって吉凶を占う獣骨や亀甲に文字を刻んだものである。

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獣骨(甲骨文字)


 一方、法隆寺證書付きの「百万塔陀羅尼」(奈良時代764〜770年、写真6)も目を引く。称徳天皇の発願によって、木製の三重塔に「無垢浄光大陀羅尼経」にある4種の「陀羅尼」を納めて奈良十大寺に奉納したもので、開版時期が明らかな世界最古の印刷物とされ、木版説と銅版説がある。法隆寺は1908年(明治41年)、寺門維持基金を捻出するため百万塔1,400基の譲与をはじめた。「證」はそのとき寄進した人に発行した記念の証明書である。寄付金の額により、保存状態でランク分けされた塔が譲与されたが、「モリサワ・コレクション」のものは第1級100種の内のひとつである。

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写真6:百万塔陀羅尼


 「漢字圏の文字」コーナーではその他、第4代王世宗が鋳造させた「庚子字」によって刊行された朝鮮銅活字版「資治通鑑綱目」零葉や、李朝時代の木活字と版具、福沢諭吉の「学問のすゝめ」の活版初版本など、古代、中国、朝鮮半島、日本における漢字文化の数々の貴重なコレクションが展示されている。


           ◇       ◇


 モリサワでは、森澤相談役が中心になって1984年から2006年にかけて「人間と文字」シリーズカレンダーを発行してきた。人類の貴重な財産である「文字文化」の伝承と発展を目的に、世界の文字史上重要な遺産を撮影取材してカレンダーにまとめたものだ。いわゆる4大文字体系を網羅し、世界各国の主要な文字をほぼ紹介するという成果を得た。

 2007年からは、新シリーズ「日本の文字・仮名」カレンダーの制作に着手。「仮名」の姿に焦点を絞るという新たなテーマのもと、日本独自の文字文化を見つめ直しながら、現在も継続的に毎年発行している。

 「文字は印刷の文化でもある」と語る森澤相談役は、今後もモリサワはその文化の伝承と発展に貢献する企業であり続けるとともに、「モリサワ・コレクション」のさらなる充実にも意欲を示している。

 「モリサワ・コレクションは現在、印刷会社の新入社員研修会や小学校の校外学習などで見学・利用いただいている。事前予約制にはなるが、今後も多くの方々に対して広く公開し、『文字文化』に触れていただく機会を提供していきたいと考えている」(森澤相談役)

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