クラウドワークフローが変える印刷経営〜「非常識から常識へ」
2018年1月1日
組織改革、BCP対策、働き方改革
ニシカワ 西川誠一社長に聞く
世界に先駆けて2016年2月に日本先行発表された「アポジークラウド」。プリプレスワークフローのあり方を変えていくクラウドソリューションとして、いま注目を集めている。
プリプレスワークフローとクラウド技術を融合した「アポジークラウド」は、アポジースイートを構成する4つのプロダクションワークフローソリューション「プリプレス」「ポータル」「ストアフロント」「カラー」をクラウド環境で構築することによって、維持管理にかかる業務や固定コストを抑え、一元管理での計画的な利用・運用が行えるというものだ。
コンセプトは、「所有から利用へ」。開発の背景について日本アグフア・ゲバルト(株)グラフィックシステム事業部 マーケティング本部 本部長の岡本勝弘執行役員は、「CTPシステムが長寿命化する中で、一般的に3〜5年でリプレイスされるRIPへの投資の非効率さが指摘されてきた。さらに、日本をはじめとする先進国では小ロット・多品種化が進み、RIPにかかる負荷も増大する中で、自社でサーバーを持つことによる課題が浮上。これらを解決する手段としてクラウド技術に着目した」と説明している。
さらに、drupa2016で発表した「アポジードライブ」(当時「プリントスフィア」)は、印刷会社・制作会社・クライアントがオンラインでデータの送受信と管理が行えるクラウドベースのSaaSソリューションで、アポジークラウドと自動連携することから、導入を後押しするソリューションとして注目されている。
「アポジークラウド」日本1号機を導入し、一昨年6月から実際の運用に入っている(株)ニシカワ(東京都東大和市、西川誠一社長)では、従来3ヵ所の製造拠点でそれぞれアポジーを所有し、計7台の自社サーバーで運用していたが、「アポジークラウド」導入で、すべてのサーバーをクラウドに移行。大きな経営メリットを享受している。そこで今回、西川社長に「アポジークラウド」導入の背景から運用状況、実際の経営メリットなどについて話を聞いた。
西川 社長
印刷会社のIoT活用
--「アポジークラウド」日本1号機導入の背景ときっかけは。
西川 インダストリー4.0、あるいはIoTといったトレンドが叫ばれる中、これを印刷会社で取り込むためにはどうすればいいのか。ましてや当時は「プリント4.0」という言葉は聞くものの実態はまだ見えていない。そんな問に対するひとつの答えが「アポジークラウド」だったように思う。
当時、クラウド技術そのものは、すでに一般社会では当たり前のソリューションとなっていたが、「アポジークラウド」は、単なる「外にある器」ではなく、RIPや面付けといった「アポジー」のすべての機能を社外に出せるという点にまず驚いた。直感で「これは理に適った話なんだろう」と受け止めた。必然のソリューションが、当たり前のようにアグフアから発表されたということだと思う。
プリプレスワークフロー製品には、会社によっては不必要な機能が多数搭載されているほか、新OS対応なども含めた年2回程度のバージョンアップなど、投資の非効率さは否めない状況にある。「これは仕様がない」という、ある意味「常識」となっていたが、「アポジークラウド」は、この今までの常識を覆す、言い換えれば、今までの常識が非常識だったことを世に示すソリューションだったわけだ。私には「所有から利用へ」ではなく「非常識から常識へ」というものに見えた。
この話をアグフアから聞いて私は導入を即決した。しかし、実際は、3拠点・7台のサーバーすべてをクラウド化したことによる経営メリットは非常に大きい。「印刷会社のIoT活用」という視点で、こんなに手の付けやすい投資はない。
--導入時の懸念事項は。
西川 最大の懸念は、クラウド環境における「生産性の維持」「通信の安定性」「セキュリティ」の3点だった。これらを半年かけて検証する中で、改めてこれまでの「非常識」、そしてRIPをクラウド化するメリットを再認識することになった。
まず、動作スピードを含め、生産効率においてはまったく従来と変わらない。繁忙期にも検証し、何ら問題ないことを確認した。
セキュリティ面では、「サーバーが社内にあれば安全」という間違った認識を持っていた。しかし、実際はその先には外部と繋がっている多くの端末がぶら下がっているわけだ。しかもサーバールームを作って、温湿度管理、地震対策、電源装置、それでも危ないからミラーリングのハードディスクを持つ。いったいどこまでやらないといけないのか。さらに当社は街道沿いにあって粉塵の問題もあった。「アポジークラウド」の導入は、セキュリティ強化に繋がっていることは間違いない。
通信環境においては、停電したら使えないわけだが、その期間はどれだけあるのか。実際、35年間東大和市で商売しているが、震災時も長時間停電したことは一度もない。そのためにどれだけの対策が必要なのか。これも私の「常識」は「非常識」だったわけだ。
--ずばり導入効果は。
西川 「アポジークラウド」はワークフローのための多大な設備・維持・管理の負担から開放し、万全のセキュリティと充実したアップデートの提供で、大きな経営効果が得られるソリューション。当初想定していたメリット以上の導入効果を得ている。
まず、システム部門がサーバーの維持・管理に費やしてきた労力を排除できる。彼らは、常に印刷データや生産稼働の核となるサーバーを、当社の「生命線」としてプライドを持って保守している。その精神的負荷は非常に大きい。まだ業務システムなどのサーバーが残っているが、生産に直結した部分がなくなったことは精神的に楽になったという。
3サイトで7台のサーバーを所有していた当社にとって、RIPをクラウド化する意味はコスト面で非常に大きかったわけだが、それよりもバックアップ体制、いわゆるBCP(事業継続計画)を構築し、大きな経営リスクをひとつ排除できることのメリットの方が大きい。
とくに「アポジークラウド」は、「拠点が複数ある」「大量の処理が必要」というヘビーユーザーの運用コストを大幅に削減できるソリューション。1サイトで完結しているような印刷会社のアポジークラウド導入については、コストだけを考えると高価になってしまう。しかし、これだけ日本中で地震発生の危険性が叫ばれる中、中長期の視点でBCPによるリスク回避を考えると有効な投資だと思う。
--「アポジークラウド」のさらなる活用方法は。
西川 印刷会社の「働き方改革」として、「アポジークラウド」と「アポジードライブ」の組み合わせは、ひとつの答えになると考える。
最近当社では女性の雇用が多く、とくにクリエイティブ部門ではおよそ3割が女性となっている。しかし、出産などでやむを得ず休職を余儀なくされる女性も多い。そこで「アポジークラウド」と「アポジードライブ」を組み合わせることでテレワークの環境を整備していこうと考えている。
「アポジードライブ」を介してデータをやり取りしながら「アポジークラウド」へ渡して、校正出力、あるいは印刷まで繋げていくということが現実的にできる。現在テレワークの環境づくりを進めており、近々テストに入る予定で、4月頃から本格稼働させたい。
また、「アポジードライブ」を介してお客様とやり取りすることで、「アポジークラウド」の機能を活用した「働き方改革」に繋がる新しいコミュニケーションが生まれるのではと期待している。
さらに一元管理ができるという「アポジークラウド」のメリットを活かした「刷版の無人化」も視野に入れており、そのための組織改革にも着手している。24時間体制だった刷版課を廃止し、業務部門に統合。同部門を24時間体制とすることで、営業からの突発的な指示や生産現場のトラブルなどにも業務部門が指示対応できるようになった。これは、お客様からの問い合わせ先としても機能し、社内の循環効率が高まっている。
現在は、RIPや面付けは、業務部門の仕事としてやっているが、そこをどんどんプリプレス側、DTP側に移管させることで社内の組織改革を進めていきたいと考えている。DTP側で「どの機械で印刷するか」までを把握できれば、クリエイティブ側はデータを送るだけでなく、出力指示までできるようになる。プリントサピエンスで情報共有しながらDTP側に指示系統を持って行くことで情報伝達フローが大きく変わり、業務効率は飛躍的に向上するはずだ。
さらにオンデマンド印刷機を含めた「ONE RIP構想」がある。アポジークラウドにしたことでRIPは事実上ひとつになっているが、当社ではオフセット印刷事業とまったく違う事業としてオンデマンド印刷機を運用し、色を合わせる必要性もなかったことから、オンデマンド印刷機はそれぞれ個別に付属するRIPを使用していた。しかし、今回コニカミノルタ製のオンデマンド印刷機2台を導入し、オフセットと同じRIPで出力ができる環境を整えた。「輪転のニシカワ」ではあるが、小ロット化が進む中で、輪転、枚葉、オンデマンド、どれで出力するかをギリギリまで選択できる環境を整えていく必要性を感じていた。
◇ ◇
いま人の採用は難しい。それならば、いまある人材をより多能工化することや、環境を変えることで女性に長く働いてもらうような仕組みづくりに取り組んでいきたい。従業員の生産性を如何に高め、1人当たりの付加価値額をどれだけ高められるかが今後の経営の鍵。そういう意味では、クラウド技術を採り入れながら、社内を省力化・合理化し、組織改革や我々のワークフローそのものを変えていくことは非常に有効な投資になるのではないだろうか。「やらない手はない」と私は思う。