富士フイルムBI、紙さばき作業を自動化〜国内初のロボットシステム発売
印刷現場の生産性向上に貢献
「人しかできない作業」の認識を払拭
「Revoria Kamisa PH12」は、紙さばきに必要な複雑な動きを自律制御するロボットアームと紙種やサイズに応じてつかむ⼒を調整するロボットハンド、および周辺機器で構成されるロボットシステム。多くの製造業の生産ラインでも活用されている6軸垂直多関節型のアームは、プログラミングによって微細な角度の曲げ伸ばし、回転、ひねりなど自在に動かすことができる。その左右のアームとハンドの動作をロボットコントローラが制御し、双腕が協調動作することで、たわむ大判用紙もしっかりとつかみ、しなやかに持ち上げて次工程に渡すことができる。

また、印刷製造工程では、静電気で用紙同士が貼り付いてしまうことがあるが、「Revoria Kamisa PH12」は、ハンドの先に搭載されたイオナイザーのエアノズルからイオンを含んだ風を放出。用紙をひねりながら用紙間にイオンを含んだ風を送ることで、静電気を除去し、次工程での断裁ズレを防ぎ、品質安定化に貢献する。
これらの動作や機能を、リフターやジョガーなどの周辺機器と組み合わせて連動させることにより、リフターに載った刷本をつかみ、さばきながら直接ジョガーへ運ぶという、断裁前の紙揃えまでの一連の用紙ハンドリング作業を自動化する。用紙については、B2から菊全判までのサイズに、また、用紙厚は、0.08から0.5mmまで対応する。
「スペック的には、菊全判サイズで一線を引いているが、フレキシブルな対応が、今回のロボットシステムの特徴であることから、お客様の用途に応じて四六判などのサイズにも対応していきたい」(丸林氏)
多くの産業でロボティクス化が進む中、印刷産業では、いまだマンパワーに依存した生産工程が当たり前のように行われている。つまり「人でしかできない作業」が数多く存在するのが現状だ。その「人による作業」をロボティクスで支援していくことが、同社が提供するスマートファクトリーの使命だと丸林氏は説明する。
「一番強調したいのは、紙さばき作業を人に代わってロボットが行う、という非常にシンプルな目的であること。それによってオペレーターの作業負荷が大幅に減少するだけでなく、人手の作業が多い印刷業、という概念を払拭し、より多くの若い世代のリクルートにも貢献できればと考えている」
ロボットシステムは、腕力や体力に限界がある人間と異なり、停止指示があるまで継続して同じ作業を行うことができる。

高橋氏によると、新商品発表以降、「ロボット技術が向上しても、紙さばき作業だけは、今後も人でなければできないものだと思い込んでいた」といったコメントが多数寄せられたという。
「人手不足」の問題をロボット技術で克服
商品化に至るプロセスの中で、最も開発に時間を要したのは、「品質」だという。丸林氏は、「作業負荷が軽減できても紙にキズやシワができるでは、お客様は採用してくれない。それだけ繊細な作業が求められている」と、改めて「品質」の重要性を説明する。そのため動作についは、熟練オペレーターへのヒアリングや実際の紙さばき作業を参考としたという。
「薄紙と厚紙でのさばきの違いや紙の持ち方、ひねり方、さらに紙へのダメージを抑える工夫などを教えてもらい、可能な限りロボットアームとハンドで再現できるように開発を進めた」(高橋氏)
品質面の要求を満たすことによって、ロボット技術が印刷会社の経営課題の解決策となる道が開ける。それは、「人手不足」への対応だ。新卒・中途を問わず従業員の確保が急務となっている企業にとって、紙さばきなど重作業は、従業員の定着率にも大きな影響をおよぼすはず。ロボットシステムは、その問題解決の設備としても貢献できる。
同社では、作業負荷の軽減だけでなく、生産性についても担保できるようなシムテムとして個々のユーザーの作業環境や要望に沿ったかたちで提供していく方針だ。
「我々もそうだが、成熟しきった業界であることから、改善への思考が従来からの発想に囚われていることもあるはず。当社は、この紙さばきロボットシステムを第一歩とし、印刷のすべての工程に関わる作業の改善にもお客様とともに取り組んでいきたい」(丸林氏)
また、同社では「Revoria Kamisa PH12」を設備として導入するスキームだけではなく、レンタルなどの導入スキームも検討していくことで、規模の大小に関係なく、多くの印刷会社がロボットシステムを活用できるようになることを目指している。