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躍進企業REPORT

渋谷文泉閣:「安全面」の不安を解消〜勝田断裁機を初導入

印刷ジャーナル 2021年8月25日
勝田断裁機の前で渋谷社長
怪我の心配なく断裁作業を行えるように
独自技術で製本・加工された本

ソフトクランプなどの安全機能を評価


 手で押さえなくても閉じない製本「クータ・バインディング」で知られる(株)渋谷文泉閣(本社/長野市三輪荒屋1196-7、渋谷鎮社長)の並製本の生産能力は日産20万冊。同社では創業以来、某メーカー一筋で10台以上の断裁機を設備し、その大量の製本受注に対応してきた。ただ、断裁精度やサービスには満足していたものの、「指を挟むなどの細かい事故が時折発生していた」と渋谷社長。社員の安全を守る責務のある経営者として、常に不安を感じているところがあったようだ。そんな同社は2020年2月、勝田製作所の断裁機を初導入した。決め手となったのは、ソフトクランプなどの安全機能。渋谷社長は「安全面の不安を解消できた」と、経験の浅いオペレーターにも安心して使ってもらえるようになったことが最大の効果だとしている。


コロナ禍に製本の可能性を広げる2つの新技術を開発


 長野県という、地方でありながらも日本の「真ん中」に位置する渋谷文泉閣。同社はその地の利を生かしてこれまで、北から南、西から東へと距離感を感じさせない機動力で訪問営業を柱に業務を拡大してきた。

 そのような中、「コロナ禍」という自社の強みを封印せざるを得なくなった状況は、同社にとって大きな壁となったことは言うまでもない。渋谷社長は「オンラインセミナーやオンライン工場見学会などで情報を発信し続け、いかにしてウイズコロナの状況の中、そしてアフターコロナへ向け受注を呼び込むかに注力した」と話す。そのような中、クータ・バインディングや上製本、ネットワークを活用してワンストップで印刷から製本までを受注するシステムに加えて、製本の可能性を広げる新たな技術として開発したのが、デザイン背巻「D-SPINE(ディー・スパイン)」だ。

 「D-SPINE」は、今までの背巻に比べて自由度が高く、様々なデザインに対応可能。表紙とは違った「質感」の紙やクロスを背巻きに使えば、表情豊かな本を作ることができるほか、背巻を「型抜き」すれば立体的なデザインとなり、これまでにない個性的な装幀も演出できる。また、背巻きに「印刷」すれば、表紙のデザインを変えることなく簡単にバリエーションを広げることができる。色を変えることで、簡単に目を惹くシリーズにすることもできる。

 このほか、同社はこれまでは技術的に難しかった「丸背」にも仮フランス装が可能になった。このように、同社ではコロナ禍の現状を逆に現状を変える絶好の機会と捉えて新しい取り組みにチャレンジしている。

 「人生ままならないことが多々あり、またコロナ禍のように、人間の力が及ばないどうしようもないことも起こる。人を支えてくれるものは様々なものがあるが、その1つが間違いなく『本』であると信じている。日々そういう本づくりに携わっていることに誇りを持ち、さらに技術を磨いていきたい」(渋谷社長)

 そして、そのような同社の製本技術を陰から支える「断裁機」の陣列に新たに加えたのが、これまでになかった勝田製作所の断裁機だ。昨年2月に導入し、主に本文以外の別丁専用の断裁機として活用している。


社員に安心して使ってもらえる設備として勝田断裁機を導入


 「毎朝、誰よりも早く6時過ぎには出社し、仕事の進捗状況を隈なく確認するのが日課」。渋谷社長は学卒後、数年間他社に勤めた後に二十代前半で同社に入社。約8年間、現場の仕事を覚え込まされた。

 「先代から、急に辞めてしまった社員の持ち場に回されることが多かった。当然、何の引き継ぎもないため分からないことだらけだったが、現場の仕事は好きだったため、どのような仕事もやった。その経験により、とりあえず何でも扱えるというのではなく、現場の設備はすべて、どの社員よりも効率よく使いこなすことを目標として取り組んだ」(渋谷社長)

 そんな、現場あがりの経営者だからこそ、社員の怪我や事故には人一倍神経質になるところがあるのかも知れない。オペレーターを育成するとき、技術指導以上に安全指導を厳しく行うのが渋谷社長の方針だ。

 「もちろん、どのような機械でも、使い方を間違えれば怪我はするが、断裁機で怪我をした場合は重傷化する。今でこそ少ないが、昔は腕を一本落としたとか、指を落としている断裁職人を見ることは少なくなかった。自社の社員にそのような思いはさせたくない」(渋谷社長)

 大事な社員に怪我をさせれば、本人だけでなく家族も悲しませることになってしまう。また、自分自身も経営者として社員の安全を守るという重大な責任がある。それならば、「安心して社員に使ってもらえる機械を導入していきたい」という思いが渋谷社長にはあったという。


安全性を追求する真摯な企業姿勢に信頼感


 同社では、創業時から現在に至るまで、本文用の断裁には某メーカーの断裁機を使い続けている。断裁精度やサービスには何ら問題はないようだが、安全面については「昔のように大怪我をすることはなくても、指を挟んだり、爪を剥がしたりするような小さな怪我、細かい事故は時折起こっていた」と渋谷社長。常に安全面での不安は付きまとっていたようだ。

 3年ほど前から、長野県に勝田製作所の大阪の若手営業マンが頻繁に売り込みにくるようになった。これまでは、他メーカーの断裁機を使用するなど考えたこともなかった渋谷社長だが、「うちは他社の断裁機を使っているからいらないよと断っても、『勝田の断裁機は安全性が高いので、ぜひ一度使ってください』と一生懸命に売り込んでくる。県内でも有名であった」(渋谷社長)

 その営業マンは、安全性への取り組みを熱心に話してきた。渋谷社長はその熱意にも押され、改めて話を聞くことにしたという。そこで感じたのは、現場の声も集約して、「いかに怪我をしない高性能な断裁機をユーザーに届けるか」というメーカーとしての真摯な企業姿勢であったという。

 「勝田製作所の断裁機は、ソフトクランプなどの安全装置が優れていることはもちろん、現場からフィードバックして蓄積されてきた作業中に起こり得る事故や怪我の膨大なデータを解析しており、他社に先んじて安全装置として具現化してきた企業姿勢にも感銘を受けた」(渋谷社長)

 そして、そのように感じているのは渋谷社長だけではないようで、10台以上の断裁機を他社メーカーから勝田断裁機に総入替えした、ある印刷会社のエピソードも紹介してくれた。

 「その印刷会社はそこそこの規模で某メーカーの断裁機を10台以上使用していたが、ある時に断裁事故が起きてしまった。そのメーカーに改善策を求めたが、満足できる回答は得られなかった。そこで数社の断裁機メーカーに安全面のプレゼンテーションを行ってもらったところ、勝田製作所の取り組みは抜きん出ていたようである」(渋谷社長)


オペレーターも安全装置には全幅の信頼


 現在、同社ではベテランと若手2名のオペレーターが勝田断裁機を担当しているという。勝田断裁機を導入とほぼ同時期に断裁作業を覚えた若手オペレーターは、従来の断裁機と勝田断裁機の性能を中立的な立場で比較することができるが、ソフトクランプなどの安全装置には全幅の信頼を寄せているという。

 「クランプの押さえ圧は他社メーカーの断裁機よりもはるかに軽い。一般的に押さえ圧は100〜150kg位と思うが、勝田断裁機のソフトクランプ機能を使えば、押さえ圧は20〜30kg程度。仮に指を挟まれたとしても、子供に踏まれた程度であるため多少は痛いかも知れないが、怪我をするという心配はなくなった」(渋谷社長)

 また、同社では安全機能のほか、断裁機の刃物交換が簡単に行える「スマートチェンジ」の機能も高く評価している。ナビゲーション機能により、不慣れな初心者でも簡単に刃物交換が行えるというものだ。断裁機のオペレーターは「液晶画面でナビゲートしてくれるため、微調整の時間も含め、感覚的に従来機の交換時間を4とすれば3の時間で交換できる」と話す。

 また、もう1社の断裁機と比べてもグリスアップなど注油の回数が少なくて済むため、当初、大阪と長野という物理的な距離の問題に不安な部分もあったようだが、渋谷社長は「搬入据付時に適正な状態に調整していただいておけば、さほど頻繁なメンテナンス、調整は必要なく、今のところ不自由さを感じたことはない」と、今後も安心して使い続けていくことができる断裁機であると確信しているようだ。


本づくりで世の中に貢献へ。夢はクータ・バインディングの教科書採用


 「文字・活字文化を発展させる一翼を担っているという使命感を持ちながら、今後も本づくりで世の中に貢献していきたい」(渋谷社長)

 将来の夢は、クータ・バインディングを教科書に採用されること。渋谷社長はこれまで幾度も文部科学省に足を運び、優位性をアピールするなど、その実現に向けて歩みを進めているという。

 丈夫で読みやすく、美しい製本--。そのために同社は今後も製本技術の研究・開発に努力していくという。今後の事業展開に業界内外の注目が集まることは間違いなさそうだ。同社のさらなる発展に期待したい。