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躍進企業REPORT

ユポ・コーポレーション:創立50周年を節目に今後も新たな価値を創造

印刷ジャーナル 2019年5月15日
藤原 社長
創立50周年記念ロゴマーク
環境ロゴマーク

藤原英幸社長に聞く|持続可能な開発へ:機能性を付加したユポで社会貢献を

 2019年5月10日、(株)ユポ・コーポレーション(本社/東京都千代田区、藤原英幸社長)は、創立50周年を迎えた。森林伐採など自然環境破壊が大きな社会問題となっていた50年前、木材パルプに代わる原料を使用して開発された合成紙は、様々な技術改良などの苦難を経て、水をほとんど使用せず、またリサイクルが可能な環境に配慮した合成紙「ユポ」として完成した。現在では、印刷産業をはじめ、多くの社会生活シーンでユポが活用されている。今回、同社・藤原社長に、創立から現在までの足跡や、今後、「ユポ」が社会や印刷業界に対し、どのような貢献を行っていくのかをうかがった。

 同社は1969年5月10日、石油化学系合成紙の企業化を目的に王子製紙(現・王子ホールディングス)と三菱油化(現・三菱ケミカル)の折半出資により(株)王子油化合成紙研究所として発足したところから始まる。その発足の目的は、合成紙の研究・開発である。

 当時の時代背景としては、紙の原料となる木材パルプは高価であり、その多くは輸入品であった。その代替原料として当時、比較的安価であった原油をベースとした合成紙の研究・開発が始まった。そこには森林伐採による自然環境保護への想いが託されている。

 「木材パルプを使用するよりも安く生産できるだけでなく、樹脂自体はリサイクルが可能であったため、当時は最も環境に配慮した製品として期待が持たれていた」

 木材由来の紙に代わる製品として期待が持たれていた合成紙であるが、1973年に第1次オイルショック、1979年に第2オイルショックと、度重なる原油価格高騰の影響を受け、その研究も岐路に立たされることとなった。

 「原油価格の高騰により、これまでのマスプロダクトを念頭においた開発は、難しいと判断した。そこで新たな方向性として、機能性を高めた付加価値製品の開発に舵を切ることとなった」

 この方針転換こそが、その後のユポ開発の核となっている。開発当初は、木材パルプベースの紙の代替品を開発コンセプトとしていたが、紙とは違う機能、つまり従来の紙にはない、付加価値を兼ね備えた合成紙の開発へと方針を切り替えたことが、ユポ誕生につながっていく。

 以降、同社は、機能性を重視した開発を推し進め、品質改良を行ってきた。1980年代後半には、その努力が実を結び、合成紙が市場に出回るようになっていた。しかし最盛期には、20社ほどあった合成紙開発に携わった企業は、最終的に数社しか生き残らなかったという。

 「開拓精神、自分たちは、何のために合成紙を開発しているのか。それは合成紙という新しい分野を構築し、社会に貢献することが当社のミッションであるからこそ、諦めることなく開発を続けることができたと実感している」

一般インキで両面印刷が可能なユポの開発

 機能性資材として多くの印刷物に活用されているユポ。しかし、「印刷し難い」「品質不良が出やすい」「インキが乾かない」などの意見を持つ印刷会社も少なくない。

 近年、印刷業界では、LED-UVをはじめとする省電力UVシステムの導入が加速し、「印刷し難い」とされていたユポも従来用紙と同様に印刷しやすくなった。だが、普及が進んだとはいえ、省電力UVシステムは、中小印刷会社にとって高額な設備投資であることに変わりはない。また、従来の油性インキよりも省電力UVインキはコスト高になる。そのため、多くの印刷会社では、油性インキを基軸に印刷業務を行っている。当然ながら、これら油性印刷では、ユポは未だ「印刷し難い」資材といえる。

 創立50周年を迎える同社では、この問題を解決する新たなユポの開発を進めている。それは、一般インキ(油性)で両面印刷ができる新たなユポだ。

 「当社の創業当初のミッションの1つは、紙に限りなく近いハンドリングのできる合成紙の開発である。現状は、ノンコート品のユポで一般油性インキを使用できるものは片面印刷対応のスーパーユポのみ。ユポ専用インキを使用してもらえれば、ユポに両面印刷することができるものの、ユポを印刷するために専用インキを購入し、さらにインキ替えなどの作業など、印刷会社にとって負荷をかけることが多い。これまでにも何度か製品開発に挑戦し、その度に断念してきた一般油性インキで両面印刷できるユポであるが、創立50周年という節目の年を迎えるにあたり、改めて開発を進めており、今年度中に正式リリースできればと考えている」

 一般油性インキで両面印刷可能な新たなユポの開発は、最終段階に来ており、同社では、創立50周年イヤーである2019年度内の発売を計画しているという。この新たなユポが完成することで、これまでユポを苦手としていた印刷会社でも、安心して印刷することが可能となる。

 この他にも同社では、創立50周年を機に新たな価値を持つユポの取り扱いを開始している。その1つは、「オンデマンド印刷対応ユポ」で、同製品は、リコー製のデジタル印刷機に対応するユポで、多品種小ロットというデジタル印刷の強みに、耐久性、耐水性などの特性を付与することで、今までにないアプリケーションへの展開が可能となる。

 また、バイオマス樹脂を配合した「ユポグリーン」は、印刷会社だけでなく、その発注元からの要望を受け、開発された新たな環境対応型のユポ。そして最後は、前述の一般油性インキ・両面印刷対応のユポである。これら製品に共通しているのは、環境配慮だけでなく、その「使いやすさ」の追求だ。

新たに「環境憲章」を策定

 創立50周年を迎える同社は今年、「環境憲章」を制定した。新たに制定された「環境憲章」は、同社グループの環境に対する「石油由来樹脂の一部をバイオマス樹脂で代替し、CO2の排出削減に努めます」「生分解性樹脂(バイオマスベース)を用いた製品開発を推進し、CO2の排出削減・ごみの減容化に努めます」「リサイクル樹脂を用いた製品開発を行い、省資源化に努めます」「効率的な製品開発・エネルギー利用に取り組み、省資源化・省エネルギー化に努めます」の4つの取り組みを掲げている。

 「石油由来樹脂の一部をバイオマス樹脂で代替し、CO2の排出削減に努めます」では、CO2排出削減に貢献するバイオマス樹脂を一部配合した「ユポグリーン」の開発を推進し、最終的には全製品へのバイオマス樹脂配合をめざしていく。

 「生分解性樹脂(バイオマスベース)を用いた製品開発を推進し、CO2の排出削減・ごみの減容化に努めます」では、2025年の販売開始をめざし、生分解性樹脂を用いた製品開発に取り組み、ユーザーの目線に立って要求品質を満たす製品開発を進めていく。

 「リサイクル樹脂を用いた製品開発を行い、省資源化に努めます」では、使用済みのユポや一般のリサイクル樹脂を有効活用した製品の開発に取り組み、資源の有効活用やゴミの排出量削減に貢献していく。

 「効率的な製品開発・エネルギー利用に取り組み、省資源化・省エネルギー化に努めます」では、製品ラインアップの統合や厚みの薄い製品開発のほか、使用済みユポに関しては使用エネルギーの最適化を考慮したサーマルリサイクルにも取り組んでいく。燃焼熱料量が大きいユポは化石燃料の代替品として使用されていることを広く訴えていく。

 「当社は、環境に配慮した製品開発を掲げ、50年前に事業を開始した。その間、社会の環境に対するニーズも時代とともに大きく変化していった。そのため当社も、つねに時代の変化を見据えた製品開発を行ってきた。環境憲章では、全製品へのバイオマス樹脂配合を掲げている。過酷な目標であるが、社会が求めるユポをめざし、一歩ずつ着実に歩んでいきたい」

環境配慮と機能性の両立

 我々の生活の中で幅広く使用されているユポ。選挙の投票用紙では、開票作業の効率化に貢献し、また、ハザードマップやトリアージタグでは、その耐久性・耐水性から自然災害などの緊急時でも破損することなく使用できることは評価され、採用されている。また、最近では、永年にわたり使用され、受け継がれていく聖書やコーランなどにも採用されている。これら聖典は、ページボリュームも膨大となるが、ユポであれば耐久性だけでなく、軽量化を図ることも可能だ。

 ユポの強みは、その薄さを保ちながら、様々な機能を盛り込める柔軟性にある。その1つがユポ・サクションタックだ。

 同製品は、平滑な面にエアー抜けがよく、貼って剥がせる微吸着シート。一般的な粘着シートと異なり、吸着面にベタツキ感がなく、糊残りも一切ない。印刷については、インクジェットからオフセットに対応。さらに吸着層に非塩ビ素材を用いているので環境に優しい製品となっている。

 「簡単に貼って剥がせ、かつ繰り返し使用することができるので、季節ごとの商品POPや店舗装飾、また、賃貸住宅では、画鋲などを使用することなく、ポスターやカレンダーといった印刷物を貼り付けることができる」

 欧州では、床や壁材、さらにはテーブルなどの装飾に使用されているという。加えて従来ユポと同様に耐久性や耐水性を兼ね備えているので、場所を選ぶことなく、使用できることも魅力の1つだ。

 「簡単に貼り付けることができるので専門業者に委託する必要もない。また、印刷についても、とくに規定はないので、季節や記念日など、用途に応じた店内装飾ができる。欧州の事例では、結婚式用にユポ・サクションタックを用いた装飾品を印刷し、1日で貼り付け、翌日には、元に戻すといったことも行われている」

 もう1つは、オリジナルデザインでセキュリティ保護と用途展開が可能なユポである「SAR60」と「SLR80」だ。「SAR60」は、1枚のシールが表面と裏面に層間剥離する構造のラベル素材。具体的には、ラベル表面を剥がすと、被着体に1層の薄膜が残る仕組みで、剥がす面と残る面の両方にオリジナルの印刷をすることが可能。これにより残る面の情報を隠蔽できるほか、残った薄膜は、容易に剥がすことができないため、セキュリティにも貢献する。

 「SLR80」は、剥がそうとするとラベル基材が破壊され、被着体に残る構造のラベル素材。再剥離性と逆転の発想で、剥がそうとするとラベルが破損するため、開封の有無などが容易に判断することが可能。これにより、防犯機能を含め、偽造防止などに貢献する。

 これら機能性ユポは、印刷会社の付加価値印刷物の提供に大きく貢献するだけでなく、アイディア次第でノベルティグッズなどにも応用できる製品となっている。

付加価値創造支援で印刷業界に恩返し

 「これら機能性ユポで、当社は印刷会社のビジネスの領域をさらに広げるお手伝いをしていきたい。それが創業から50年にわたり当社を支えてきてくれた印刷産業への恩返しである」

 創立50周年を迎えた同社は「時代のニーズを反映した環境対応」と「紙と同等に使えるユポの開発」「高機能ユポの提供による印刷会社の付加価値創造ビジネスの支援」の3つを軸に、さらなる発展をめざしていく。

 従来メディアを使用した印刷物が減少傾向にある中、ユポは印刷業界において、顧客に機能性と環境適正を強く訴えることができる資材の1つだ。

 今後の抱負について藤原社長は、「これまで培ってきた技術を生かし、合成紙を中心とした周辺技術を合わせて事業を展開していければと考えている。今後も、資源をはじめ環境に対するニーズは高度化してくるはず。これまでも当社は、それらニーズに対応するとともに、つねに使いやすい製品開発を行ってきたという自負もある。今後も、すべてのステークホルダーにユポを使って良かったと満足してもらえるような企業として活動していく」と語ってくれた。