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ドイツ・Koenig&Bauer社は5月下旬、「Japan Media Tour」を企画し、デジタル&輪転印刷機部門の生産拠点であるヴュルツブルクの本社工場と、枚葉機部門の生産拠点であるドレスデン近郊のラーデボイル工場を公開した。

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Koenig&Bauer社 - Japan Media Tour(1)
広範囲にわたる産業用印刷機械を開発・製造

成長分野へ積極投資〜モジュール化で「革新性」提供

印刷ジャーナル 2023年6月15日号掲載

 ドイツ・Koenig&Bauer社は5月下旬、「Japan Media Tour」を企画し、日本の印刷業界報道陣向けにデジタル&輪転機部門の生産拠点であるヴュルツブルクの本社工場と、枚葉機部門の生産拠点であるドレスデンの工場を公開。広範囲にわたる産業用印刷機械の開発・製造における事業規模と革新性を見せつけた。今回、3回にわたって同社が注力する大型デジタル印刷機を中心にレポートするが、まずは同社の歴史や事業概要をはじめ、持続可能性、モジュール性、デジタル化というキーワードで構成する「Exceeding Print」戦略の一端を紹介する。

Rapida106X(左)とRapida145(ドレスデン工場)


新聞輪転印刷機が原点


 印刷機メーカーとして世界でもっとも長い歴史を持つドイツ・Koenig&Bauer社。1814年に、当時では画期的だったシリンダー構造を持つ新聞輪転印刷機を開発し、ロンドンの「タイムズ」に納入したのが同社の起源だ。そして、1817年にフリードリッヒ・ケーニッヒ氏とアンドレアス・バウアー氏が、ヴュルツブルク近郊のオーバーゼルの修道院にシュネルプレッペンファブリーク・ケーニッヒ&バウアー社を設立。以来、200年以上にわたって革新的な技術やオーダーメイドのプロセス、そして多彩なサービスプログラムによって世界の印刷産業をサポートしている。2015年に持株会社制へ移行するとともに、2017年には社名を「KBA」から現在の「Koenig&Bauer」に変更。大規模なブランド刷新を図っている。

1814年にロンドン「タイムズ」へ納入された新聞輪転印刷機のレプリカ(ヴュルツブルク本社入口横に展示)

 まず、同社を紹介する上で特筆すべき点は、非常に広範囲にわたる産業用印刷プロセスをカバーする製品ポートフォリオを擁することだ。同社は、オフセット枚葉機、オフ輪機、フレキソ印刷機、水なし印刷機、凹版印刷機、スクリーン印刷機、そしてデジタルインクジェット印刷機など、事実上ほぼすべての印刷分野に対応した産業用印刷機を開発・製造している。日本市場においては、2012年に日本法人「Koenig&Bauer JP(株)」を開設し、パッケージ印刷向けを中心にオフセット枚葉機「Rapida」シリーズの納入で実績をあげているが、厚紙や段ボールをはじめとしたほぼすべての種類の素材・原反に対して、すべての産業用印刷方式の機械を提供できる「世界で唯一の印刷機メーカー」であることは、日本ではあまり知られていない。

 現在、グループ会社の従業員数は約5,400名で、10の製造拠点と231の販売・サービスネットワークを展開。2022年度の年間売上高は約12億ユーロという事業規模を誇る。​


積極投資で完成した技術や機能を融合


 ガラスへの直接印刷、缶・金属印刷、商業・新聞輪転、紙器・カートン、ID・ラベル(コーディング印刷)、紙幣・セキュリティ印刷、軟包装など、生活のあらゆるシーンで利用される印刷成果物を製造できる機械を提供する同社。なかでも紙幣印刷機の分野では約90%のシェアを誇るという。また、これら広範囲な製品ポートフォリオを持つ事業構造の背景には、健全な財務体質にもとづく「成長分野への積極投資」がある。

 例えば、2004年に買収したMetronic社のコーディングシステムは、すでに自社の印刷機だけでなく、幅広い産業機械の内部に組み込まれている。また、イタリアの印刷機メーカーであるFlexotecnica社を買収し、軟包装材(フィルム、紙、板紙)向け成長フレキソ市場への参入も果たしている。

 また、2016年にはイベリカ社を買収し、紙器・段ボール印刷機用中・大判フラットベッドダイカッターの市場に参入。さらに、2018年には、欧州を代表するフォルダーグルアーのメーカーであるDuran Machinery社を傘下に収めている。

 一方、2019年には、紙器・段ボール業界向けシングルパスデジタル印刷システムの開発・販売において、ダーストフォトテクニック社との合弁会社も設立。2022年にはイタリアのチェルマック社を買収し、段ボール印刷機事業へも本格参入している。

 これら市場トレンドの変化にもとづく成長分野への積極投資は、各事業ユニットにおいて透明性を持たせながら、それぞれの完成した技術や機能を掛け合わせることで新たなプロダクトを生んできた。そのシナジー効果は開発スピードを飛躍的に向上させているという。


「Exceeding Print」戦略


 Koenig&Bauer社は2021年、新しいグループ戦略となる「Exceeding Print(印刷を超えて)」というスローガンを掲げ、さらに将来に向けた持続可能性の目標を設定している。

 同社は、旧来型の機械メーカーからアジャイル型開発を行う技術集団への変革を続けており、すでにデジタル化とモジュール性の向上を進めていることもその針路の一環で、これはパッケージ印刷をはじめとする同社のコアビジネス市場での成功につながるだけでなく、印刷工程で使用される材料およびエネルギー消費を抑制することができ、それにより持続可能性も高まる。同社では、生産工場から排出されるCO2量を、2025年までに75%削減することを目指しており、2030年以降は完全にカーボンニュートラルに移行する予定だという。​ 

最大2.8m幅まで対応するシングルパスデジタル印刷機「RotaJET」(ヴュルツブルク工場)

 同社の「ユニーク」かつ「独創性」を強く印象づけるのが、この「Exceeding Print」戦略を構成するひとつの要素「モジュール性」である。機械および技術をモジュールと捉えることで、例えば最大2.8m幅までの印刷に対応する世界最大級のシングルパスデジタル印刷機「RotaJET」にフレキソユニットをインライン化するなど、前述の広範囲にわたる分野の機械および技術を柔軟に組み合わせたカスタマイズが可能となっている。

 このモジュラープラットフォームは、「新技術がより迅速に市場投入される」「機械とシステムの統合制御」「メンテナンスの標準化」などのメリットをもたらすことで、ユーザーはオーダーメイドなソリューションを導入でき、マーケットにおける「革新性」や「差別化」を図る機会が増えることにも繋がることになるだろう。(続く)