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日本国内においても、ようやく新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、東京2020オリンピック・パラリンピックの閉幕とともに、いよいよアフターコロナの時代が到来することになる。しかし一方で、新型コロナウイルスによるパンデミックがもたらした「ニューノーマル」への移行は経済構造に大きな変化をもたらし、俗に言う「7割経済」が今後当面の間続くことが予想され、引き続きこの厳しい経済状況が続く中で経営者は、企業存続に向けた「ニューノーマル時代」の経営戦略立ち上げが急務になる。とくにデジタル技術の優位性がフューチャーされたパンデミックを経て、印刷業界には自動化、見える化、営業改革、生産性向上と省人化(働き方改革)、資材の最適化、SDGs、DX、顧客接点の再構築などなど、様々な課題が突き付けられている。そこで今回、「アフターコロナ到来。いま急ぐべき変革は…」と題し、ニューノーマル時代に向けた印刷経営の事例やソリューションを特集する。

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日本WPAの取り組みと実績|小川勇造事務局長に聞く

水なし印刷の優位性助長へ〜印刷で脱炭素社会貢献めざす

印刷ジャーナル 2021年7月25日号掲載

 (一社)日本WPA(日本水なし印刷協会、田畠久義会長、以下協会)は「水なし印刷を通して環境に優しく、高品質な印刷物を提供していく」という設立以来の基本姿勢のもと、水なし印刷が持つ優位性を戦略的に助長させていくための諸事業を展開している。今や地球レベルで環境対応が叫ばれているが、こうした状況下にあって二酸化炭素(CO2)の排出量算定・算出ツールを会員に提供し、その削減に向けてカーボンオフセット事業を推進しているが、これに代表される環境保全活動といった社会貢献事業をSDGsの目標に沿う形で様々な事業を展開して実績を積み上げている。そこで今回、小川勇造事務局長に、これまでの取り組みと実績について話を伺った。


バタフライロゴ


 設立以来、協会は水なし印刷が持つ環境対応技術により「高品質で環境に配慮した印刷物を提供する」という基本方針のもとで各種のセミナーや全国各地の工場見学会、そして会員間の親睦と情報交換会といった会員企業の振興発展事業を展開している他、脱炭素社会を目指す社会貢献事業を大きな柱の1つに掲げている。

 コロナ禍にあって事業推進に制約される面もあるが、直近の事業としては去る6月17日、通常総会の併催事業として「NHKスペシャル」の報道番組や「クローズアップ現代」などを手掛けてきたNHKエンタープライズエグゼプティブプロデューサーの堅達京子氏を講師に迎え「本気でめざそう!脱炭素社会」をテーマにオンラインセミナーを開催した。2030年までの10年間の気候変動に関わる問題やプラスチックごみ問題の解決に向けた取り組みなどについて講演が行われ、当日は一般参加者が会員数を大幅に上回るなど、地球環境問題に対する関心の高さを伺わせた。


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 「持続可能な社会を目指す」として協会は「水なし印刷により環境配慮印刷を推進する」といった理念のもと、協会自ら宣言したSDGsの目標(大気汚染、地球温暖化、資源の節約、水質汚濁防止、働き方改革)などに対して水なし印刷の様々な技術を通して社会貢献を目指しており、そうした姿勢の一環で脱炭素社会の実現に貢献する「カーボンオフセット事業」がある。

 印刷物の原料(紙、インキ、版など)の調達、制作、使用、流通、廃棄といった一連のライフサイクルにおいて、どれだけ温室効果ガスを排出しているかをCO2換算で「見える化」する。次に排出したCO2を相殺(オフセット)するためにクレジット(排出権)を購入してCO2削減を実現する。これはカーボンオフセット活動を通じて資金が循環することを意味する。オフセット(相殺)に用いるクレジットにより循環する資金が、クレジットを創出したその地域や企業で活用されることで、投資促進や新たな雇用創出の要因となり、強いては地域活性化へと繋がる。

 平成21年2月の開始から本年7月現在の総オフセット量は7,200トンを超えており、この事業によってオフセットされた7,200トンのCO2の相殺量は、樹齢50年の杉の木50万本(甲子園球場の58倍の面積の杉林に相当)が1年間に吸収する量であり、また、自動車で地球を630周走る際に排出する量に匹敵するという。

 事業へ参加している印刷会社は、自社が制作する印刷物1件ごとに協会専用の温室効果ガス排出量算定ソフトPGGで正確にCO2の排出量を計算してオフセットを申請するもので、オフセットされた印刷物にはバタフライロゴが明記され、印刷物の排出量を知ることができる。

 このカーボンオフセット制度は、環境省が認定する制度で、「どんなに排出削減に努力しても、製造する印刷物には用紙などからCO2は排出される」。このどうしても削減できない量を他の場所で実現したCO2排出削減量(クレジット)を購入することで自身の排出量をオフセットする制度。

 地球環境の保全、CSR活動、印刷企業(業界)として社会的な役割、責任という観点から環境対応は今後さらに強く求められていく状況下、水なし印刷によるVOCの削減とオフセットによる二酸化炭素排出量の削減(相殺)のミックスによって環境に優しい印刷の普及拡大に取り組んでおり、環境対応を最優先する印刷業界の姿勢を社会に広める重要な手段の1つといえるわけで、こうした活動が評価されて協会は、2017年カーボンオフセット大賞「優秀賞」を。また2年後の2019年には「地球温暖化防止活動環境大臣表彰」を受けている。

 ちなみに2018年の世界のCO2排出量は333億トンで、排出量トップは中国の95億トン、2位はアメリカの49億トン、日本は5位で12億トンを排出している(EDMCエネルギー経済統計要覧より)。


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 2015年に採択されたパリ協定では、産業革命から今世紀末までの地球平均気温を15度以下に抑えることで合意。この気候変動の抑制に求められる温室効果ガスの大幅な削減に向けて、まず2013年比46パーセントを削減し、2050年までに日本を含む世界120ヵ国が二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量から森林などによる吸収量を差し引き、排出を全体でゼロにする目標「カーボンニュートラル」、「脱炭素社会」の実現を目標に掲げて大きな投資を行う動きが相次いでいる。気候変動問題への対応を成長の機会と捉える国際的な潮流が加速化している状況だ。


30自治体が「水なし印刷」を推奨


 地球レベルで脱炭素社会への取り組みが加速している中、平成31年4月に改正された国などによる環境物品調達の推進などに関する法律(グリーン購入法)で、VOC低減に向けた取り組みを推奨する主旨から水なし印刷システムの導入が印刷工程における配慮項目として設定されており、現在、全国自治体のうち、東京、大阪をはじめ、30の自治体が「水なし印刷システム導入が印刷による環境保全につながる優れた技法であり、VOC削減に有効」と推奨している。採用している自治体は次の通り(国の基準に準用を含む)。

 北海道・岩手・福島・栃木・群馬・埼玉・千葉・東京・神奈川・静岡・新潟・富山・長野・岐阜・愛知・福井・京都・大阪・奈良・和歌山・兵庫・愛媛・徳島・高知・福岡・山口・大分・熊本・宮崎・長崎


WPAと日本WPA


 1978年、米国で産業廃棄物を下水道に排水する取り締まり強化のための条例「事前処理基準」が制定され、1992年にバージニア州環境局がプロモーションビデオを作成して「水なし印刷版」の使用を奨励するなど、行政が印刷業に対して規制厳守に繋がる版材使用を啓蒙するに至った。

 これがきっかけとなり、全米に広がりを見せて印刷業者を刺激した。そして1993年9月に印刷会社40社、機材メーカー27社がシカゴに結集して水なし印刷を啓蒙する団体が結成された。これが「WPA」である。

 発足後直ちに水なし印刷採用のトレードマークを作成して「水なし印刷による環境保全への取り組み」、「高品質の印刷物を提供する印刷会社のみの使用」という厳しい使用基準を設けた。

 その後に「水なし印刷」を認証するウオーターレスマーク(バタフライマーク)へと変更されているが、この米国設立4年後に環境には厳しい基準を設けるドイツでも「EWPA」が設立され、年を追って会員数が増加している。

 日本では、2001年に「環境報告書」で初めてウオーターレスマークを表示したトヨタや日産をはじめ、国土交通省やオムロンなどの企業や行政が発信する印刷物への表示を機に「水なし印刷」を指定する企業が増え続け、同年、日本国内の「WPA」が加盟企業20社によって結成され、現在、北海道から南は沖縄に至る122社の会員で構成されている。

 令和3年度(第12期)を迎えた協会は、世界の脱炭素社会の潮流、日本での改正地球温暖化対策推進法の成立など、気候変動対策や環境保全活動が地球規模で課題となっている中で「廃液を出さない」「VOCを大幅に削減する」といった基本的考えのもとコロナ禍の経営の在り方や技術の向上を目指して見学会やセミナーの開催、情報の収集と提供、会員間の交流などの事業を推進する。

 また「エコプロ2021」や「脱炭素経営EXPO」への出展を通した脱炭素社会実現に向けての活動の他、カーボンオフセット事業で「VOC計測」や「CFP事業」を継続していくとともに、行政や企業などの印刷発注者に対して「水なし印刷」の採用を訴求していく。

 その他、(一社)地球温暖化防止全国ネットが実施している「脱炭素チャレンジカップ2022」へ協賛事業がある。この催しには毎年1,000団体以上の応募があり、その中から「環境大臣表彰」などが選定されるが、日本WPAは同催事の協賛団体として最初から名を連ねており、審査委員の一員として各賞の選定に当たるとともに「日本WPA最優秀未来へのはばたき賞」を贈呈する。

 その他、VOCフリーの印刷工場実現に向けてVOCフリーの洗浄剤で洗浄可能な水なし印刷用UVインキ「3Wインキ」による印刷の拡大を目指していくということだ。