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(株)電通が発表した「2022年 日本の広告費」によると、プロモーションメディアに位置付けられるダイレクト・メール(DM)の広告費は3,381億円(前年比98.1%)。個人用の在宅向けDMや、BtoB営業目的のオフィス向けDMなどの広告需要が一巡して減少したものの、外出自粛の緩和にともない、観光・旅行などの交通・レジャー関連や、通信販売、金融・保険などが増加している。また、前年に続いて、データマーケティングを活用したパーソナライズDMや、デジタル施策と連動したDMが多くみられる。無宛名便DMは、公告や各種告知物などを中心に、インターネット広告やマスメディアなど他のメディアではカバーしきれない層へのアプローチ手段として活用が進んでいる。このような中、印刷会社がデータ処理から印刷、宛名印字、折り加工や封入・封緘、さらに発送業務までをワンストップサービスとして提供するケースも多く見受けられ、ポスタル分野と印刷分野がますます近い関係になりつつある一方で、印刷会社が「メーリングサービスのプロ」「マーケティングのプロ」といった専門業者とコラボレーション関係を構築することも、ビジネスチャンスを大きく引き寄せる戦略のひとつと言えるのではないだろうか。そこで今回、DMの制作過程で市場を下支えするソリューションを特集した。

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DMT Solutions Japan、Bell&Howell社のインサーター提供

スイングアームで業界最速、空気圧グリッパーで厚物封入も安心

印刷ジャーナル 2023年5月15日号掲載

 2020年の米大統領選挙で話題になった「郵便投票」。その投票用紙の送付と返信郵便の仕分けに最も活用されたのは、米国コネチカット州に本社を構えるDMT Solutions Global Corporationのインサーターと仕分けシステムだ。その日本法人として2018年に設立されたDMT Solutions Japan(株)(本社/東京都品川区南大井、宮本啓志社長)は、DMTブランドの高速インサーター「BLUECREST」に加えて、Bell&Howell社の高速インサーター「FORERUNNER EXCEL」の日本市場への販売に乗り出している。本来なら競合であるメーカーの製品を販売する真意には、自社製品だけを販売したいというメーカー本位の考えではなく、メーカーの垣根を越えてでも「日本の印刷業界にイノベーションを巻き起こしたい」という業界の発展を願う思いがある。

宮本社長(左)と黒山事業開発部長

 DMT Solutions Global Corporationは、世界19ヵ国で事業展開するグローバルテクノロジー企業。郵便事業者や印刷会社、受託会社を中心に、全世界に3,500社以上のユーザーを有している。日本法人であるDMT Solutions Japan(株)は2018年、ピツニーボウズジャパン(株)のDMT(Document Messaging Technologies)事業が分離して独立した企業。製品ブランド名の「BLUECREST」は、ピツニーボウズのコーポレートカラーである「BLUE」と、ユーザーと共に目指していく「CREST(頂点)」から命名されたものだ。

米国コネチカット州のDMT Solutions Global Corporation 本社

 その同社が現在、最も販売に注力している製品は、Bell&Howell社(本社/米国北カリフォルニア州)の高速インサーター「FORERUNNER」だ。日本市場には「FORERUNNER EXCEL」のブランド名でpage2023に出品した。そしてこのほど、その1号機がサービス・ビューローの江澤事務器(株)(本社/愛知県清須市)に納入された。しかし、なぜ本来、競合メーカーであるBell&Howell社のインサーターを販売しているのか。これについて宮本社長は、「DMT Solutions Global Corporationは、各国の事情に即してビジネスを展開していいという柔軟な考えを持っている」と説明しており、日本のDM市場をさらに活性化していくためには、大型の「BLUECREST」だけでなく、小型で導入しやすいBell&Howell社のインサーターも不可欠であると判断したことを理由としている。そして、その旨をアメリカの本社に相談したところ、承諾を得ることができ、Bell&Howell社と独占販売契約を締結。本来なら競合メーカーである同社の新台インサーターを販売できることになった。

 黒山浩明事業開発部長は、Bell&Howell社のインサーターについて「当社のインサーターと比べるとサイズも小型のため、中小企業や町工場の多い日本の印刷会社に納入しやすいといえる。また、国内のDM市場は『スイングアーム方式』のインサーターにシンパシーを感じていると認識しているが、当社のインサーターはスイングアーム方式ではないため、スイングアーム方式で業界最速を誇るBell&Howell社のインサーターの取り扱いを開始した」と説明する。

 ピツニーボウズのDMT事業部であった時代は、「ピツニーボウズの製品だけを世界中に供給する」というミッションがあったため、DMTの製品にフォーカスできない部分もあったようだが、「現在は、自分たちのやり方にフォーカスできるため、以前よりも、やりやすくなっている」(宮本社長)。

 宮本社長は、「世界中の先進的なテクノロジーを日本のDM業界に紹介し、広げていくことで業界の発展に貢献していきたい」という思いを持っている。ピツニーボウズのDMT事業部と分離して独立したことで、従来よりも広がりのあるサービスの提供が可能になっていることは間違いないといえるだろう。


スイングアームの草分け。業界最速の最高1万3,000回転/時を実現


 Bell&Howell社は、スイングアーム方式を世界初で開発したメーカー。国内市場向けに販売している「FORERUNNER EXCEL」は、スイングアームタイプのインサーターとしては業界最速(2023年1月現在)の最高1万3,000回転/時のサイクルスピードを誇り、新設計の空気圧方式のグリッパーアームは、より確実に厚い同封物を掴み、デュアルデッキアキュームレーターは、高い生産性を実現する。加えて12基までの同封物フィーダーと3チャンネルまでの帳票供給部が構成可能になっており、高い拡張性も兼ね備えている。

BlueCrestの多機能高速フラッグシップ機「EPIC」

 宮本社長は「Bell&Howell社のインサーターは堅牢性に優れているのが特徴。前身モデルの『メールスターMS5000』を40年以上使い続けているユーザーもいる。価格は高額であっても、長期的に安心して使えるという観点から、トータルコストで判断していただきたい」と話す。また、製品の納期についても「競合メーカーの中には、納期に1年以上かかるところもあると聞くが、FORERUNNER EXCELは約6ヵ月で納入できる。また、BLUECRESTについても約9ヵ月の納期で納品でき、アドバンテージの1つであると自負している」(宮本社長)と、業界最速のスピードだけでなく、長年にわたり使い続けることができる堅牢性、そして受注後の短納期納品を優位性として強調する。


3台分の仕事を1台で処理する高速インサーター「BLUECREST」


 一方、自社開発モデルのインサーター「BLUECREST」は、中速から高速まで、幅広いラインアップを取り揃えている。多機能高速モデルでは、定型封筒で2万4,000回転/時が可能である。2022年に「BLUECREST」を導入したユーザーは、これまでは他社メーカー製の3台のインサーターを活用していたが、昨年は1年間で1500万通の封入・封緘作業を「BLUECREST」1台で処理。これまで3台で処理していた仕事が1台でできたと、その生産性の高さに驚いているという。

 「従来、インサーター1台あたり平均3人ほどのオペレーターで対応してきた。3台だと9人の計算になるが、これをBLUECRESTで対応した場合、オペレーターは多くても5〜6人で済むため、3〜4人の人件費を削減できたことになる。さらに、残業時間も削減できたと効果を感じていただいている」(黒山事業開発部長)

 また、「BLUECREST」も「堅牢性」を強みとしており、サービス部に連絡が入ることがあっても「壊れたから来て欲しいというのではなく、動かし方が分からないから来て欲しいという相談がほとんど」(宮本社長)ということだ。


独自技術「ファイルベース」で封入・封緘作業をモニターで監視


 また、DMT Solutionsは、ハードだけでなく、ソフトウェアでも競合メーカーにはないオリジナル技術を有している。ピツニーボウズDMT事業部の時代に開発したもので、封入・封緘作業をした後に「今回の作業に間違いはなかったか?」という不安を解消できる画期的な機能として推奨している。

 「ファイルベース」というこの機能は、封入作業において、封筒を1通単位で可視化することで、間違いのない封入を保証する。周辺機器とのネットワーク化により、封入・封緘作業の省力化、顧客要求へのタイムリーな情報提供にも活用できる。黒山事業開発部長は「発送物には単なる商業用DMだけでなく、納税通知や保険証券、カード会社の請求明細など、個人情報性の強いものもある。ファイルベースはオリジナルデータを活用し、封入・封緘するときに、データどおりに封入・封緘できているかモニターし、最終的にデータとして保管できる」と説明する。この機能を活用すれば、後封入のリスクを回避することができ、クライアントに「品質の確保」を約束することができる。アメリカでは、ほとんどのユーザーが採用しているということだ。

 ただ、クライアントからオリジナルのデータを提供してもらう必要があるため、日本ではなかなか採用が広がらないという。宮本社長は「日本でも、クライアントにこの先進的なソリューションをもっと積極的に提案していただきたい。それにより、日本のDM業界はさらに発展できると信じている」と呼び掛けている。


インサーターに「インクジェット」搭載し、封筒にダイレクト印字可能


 さらに、同社ではインサーターにインクジェット機能を搭載し、封入・封緘作業と同時に無地の封筒に宛名印字と内容物のキャッチコピーなどをダイレクト印字できるソリューションも提供している。事前に封筒に印刷する必要がないため封筒コストを抑えることができるほか、封筒の宛名と内容物の正確な一致を検品しながら封入するため、誤封入の心配もなく、DMに大きな付加価値を与えることができる。

 「窓封筒にA4用紙を三つ折りして封入する場合など、用紙の3分の1近くが宛名等の情報で埋まってしまう。封筒にダイレクト宛名印字することで、内容物に情報をより多く掲載することができる。また、窓封筒を使わないためビニールが不要で、SDGsにも貢献できる」(宮本社長)

 封筒の表面には個別のメッセージを印字できるため、DMの開封率アップにもつながり、生産性と品質を担保しながらDMとしての機能も向上させることができる革新的なソリューションと言えるだろう。

封入・封緘作業と同時に封筒にダイレクト印字が可能


先進的なソリューションの提供で印刷業界の収益改善を提案


 紙の需要が減少する中、同社はグローバルに展開する企業として、海外の様々なソリューションや事例を日本市場に紹介し、広げていく考えだ。宮本社長は「インサーターを製造するだけでなく、先進的なソリューションを提供することも我々の強みと認識している。これまでにはないやり方を提案し、印刷会社の収益を上げる手助けをしていきたい」と話す。

 DMT Solutionsは、海外メーカーでありながらも、柔軟な経営姿勢で「日本」の状況に最適な手法を提案してくれるメーカーと言える。海外では普及しているが日本では採用されていないなど、同社が推奨する「新しい手法」を先行的に採用すれば、日本のDM市場において一歩先を行くビジネスが可能になるかも知れない。