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進化するインクジェット技術とビジネスモデル

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日本HP、進化を続けるHPのインクジェット技術

高品質化をさらに強化〜商印市場向けに販売展開を加速

印刷ジャーナル 2021年9月25日号掲載

 2012年秋、出版社である講談社は、インクジェット輪転機と後加工システムをインライン接続したフルデジタル書籍生産システムを導入し稼働を開始。これにより国内でもインクジェット技術を活用した本格的な出版印刷の幕が開けた。この生産システムで印刷を担っているがインクジェット輪転機「HP PageWide Web Press」だ。日本市場では出版印刷から、その歴史が始まった「HP PageWide Web Press」は現在、商業印刷への進出も図っている。そこで今回、(株)日本HPのデジタルプレス事業本部HP PageWide Web Pressカテゴリーマネージャーである田口兼多氏に、HPのインクジェットテクノロジーが印刷業界にもたらす可能性や、日本市場における取り組みなどについて聞いた。


田口 氏


 HPが提供するデジタル印刷機と言えば、液体トナー方式を採用した「HP Indigo」を連想する方も多いと思うが、実はインクジェット技術への取り組みは1975年からと、約半世紀という長い歴史を有している。1984年には、サーマルインクジェット方式を採用したコンシューマー向けのインクジェットプリンター「ThinkJet」を世界で初めて商用化。そして2008年のdrupaにおいて、産業用のインクジェット印刷機として、用紙対応幅30インチ(765mm)の「HP PageWide Web Press T300」を発表。以後、製品ポートフォリオの拡充を図り、現在では、30インチモデルのほか、22インチ(558mm)、26インチ(660mm)、42インチ(1,067mm)、また、段ボール印刷向けに110インチ(2,800mm)モデルもリリースしている。


HP PageWide Web Press ポートフォリオ


 また、HP PageWide Web Pressの大きな特長として、各モデルは、共通のプラットフォームを採用していることが挙げられる。加えて各モデルは、アップグレードに対応しており、これにより導入以降も、常に最新機種同等のパフォーマンスを維持することができる。

 田口氏は、「実際に米国ユーザーが2009年に導入したHP PageWide Web Pressは、数回のアップグレードを経て、現在も主力生産機として稼働している」と、その優位性について説明する。


ワールドワイド市場で累計印刷枚数6,000億ページ達成


 HP PageWide Web Pressは、トランザクションをはじめ、書籍や新聞、また、カタログやポスター、DM、販促ツールなど多彩なアプリケーションに1台で対応できることからワールドワイドで導入が加速している。

 その導入成果を物語る数値として2021年5月、HP PageWide Web pressは、ワールドワイド市場で累計印刷枚数6,000億ページという驚異的な数字を達成している。特筆すべきは、2020年8月には、累計印刷枚数5,000億ページ突破というニュースリリースが配信されていたのだが、コロナ禍でありながらも約1年という短い期間で約1,000億ページがHP PageWide Web Pressによって印刷されていたことになる。

 この事例について田口氏は、「生産性の高い42インチモデルが稼働したことも要因の1つと考えられる。これも多彩なポートフォリオを有するHP PageWide Web Pressだからこその実績といえる」とした上で「必要なものを必要な時に必要な数だけ、という流通サイクルを市場が求めている。この動きに対し、印刷物の生産機としてHP PageWide Web Pressが上手くマッチした。とくに昨年から続くコロナ禍においては、さらにその動きが加速している」と説明する。


KADOKAWAの出版DX


 日本国内では2012年、講談社がHP PageWide Web Pressを導入するとともに後加工システムをインライン接続し、書籍の印刷から製本までの一連の工程をワンストップで生産できるラインを構築したことが大きな話題となったが、2016年には、さらに国内出版社の1社が、導入に名乗りをあげている。それはKADOKAWAだ。

 田口氏は、drupa2016において、HP PageWide Web Pressを組み入れたフルデジタル書籍生産システム導入を発表し、すでに稼働を開始しているKADOKAWAの出版DX事例として「ロウソクの科学」の重版印刷で説明する。

 2019年にノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏は、受賞後のインタビューで自身が化学への興味をもった原点として小学校時代に愛読した書籍「ロウソクの科学」を紹介した。この発言を受け、KADOKAWAに同書への問い合わせが殺到するなど市場が過敏に反応した。そのためKADOKAWAは急遽、重版を決定。その生産機としてHP PageWide Web Pressが活用された。


2営業日で重版2万部を実現


 具体的なタイムスケジュールとしては、吉野氏の「ロウソクの科学」が原点とのコメントから翌10日にKADOKAWA内にSlackを活用して対策本部チャネルを立ち上げ、協議を開始。同日には、緊急重版2万部の生産を開始するとともにプレスリリース配信やSNS等を活用したプロモーションを展開。そして10月15日には、書店への発送を完了している。土日祝日(10月12・13・14日)の3連休を挟んでいることから、実際には2営業日という短い期間で印刷・発送を実現している。

 その後は、販売数の進捗を見据えながら小刻みに重版を重ね、2019年12月時点で14万部の重版となった。

 「この事例は、単純な短納期対応ではなく、吉野氏の発言から数日で本を仕上げ、書店に置くことができたこと。つまりトレンドとなっている時期を外すことなく店頭に置くことで、書籍の販売部数にも貢献できる。これが2週間後や3週間後であれば、市場が一番反応した時期を逃してしまうので販売部数にも影響を及ぼしていたかもしれない。また、一気に大量生産する重版ではなく、販売部数の動向を注視しながら追加生産することで、在庫などの問題も解消できている」


市場トレンドに迅速に対応できる機動力


 オフセット印刷機には、枚葉機と輪転機があり、今も全世界で稼働している設備である。田口氏は、改めてオフセット印刷機とデジタル印刷機のメリット・デメリットについて「大量ロットの同一絵柄印刷については、オフセット輪転機の方が圧倒的なコストメリットを提供できる生産機だと認識している」と、生産性におけるオフセット輪転機の優位性を語る一方で、デジタル印刷機の優位性として市場トレンドへの柔軟かつ迅速な対応力を挙げる。

 「市場トレンドへの迅速な対応、またブランドオーナー側の意向、具体的には、ターゲットを絞った顧客へのアプローチなど日々変化するニーズに柔軟に対応できるのは、デジタル印刷機である。もちろんファーストステップとして、多くの消費者に同一内容の情報を盛り込んだ印刷物を配布し、認知度を高めていくこともマーケティングとして重要なことであり、その分野では、オフセット印刷機が優位性をもっている。つまり、すべてがオフセット、あるいはデジタルという考え方ではなく、より効果的なマーケティングを行うには、その目的とフェーズによって、どちらが適しているのかを見極めていくことが大切である」


商業印刷分野での活用が期待される最新機種


 HPは2020年3月、新たなフラッグシップ製品として、22インチ幅のインクジェット輪転機「HP PageWide Web Press T250 HD」を発表した。


HP PageWide Web Press T250HD


 インクジェット輪転機「HP PageWide Web Press T250 HD」は、新開発の「HP Brilliantインク」の採用により、メディア汎用性が増し、大量の商業印刷、出版、トランザクション、ダイレクトメールアプリケーションに対応する。

 田口氏は、HP PageWide Web Pressの最大の特長として「垂直統合」、つまり印刷機本体からプリントヘッド、インク、ソフトウェアなど、すべてを自社で開発していることを明らかにした上で、この「垂直統合」に基づく「高品質」「生産性」「多様性」「経済性」の4つの柱からなる開発コンセプトを踏まえ、最新機種「HP PageWide Web Press T250 HD」の特長について次のように説明する。


HP PageWide Web Press「垂直統合」


インクジェットの可能性を拡げる新たなインクを採用


 「高品質」については、新たにHP Brilliantインクを開発している。HP Brilliantインクは、インキ定着性のほか、広い色域による人目を引く色彩、大胆な赤、目に鮮やかな青と光沢のある仕上がりにより高品質印刷を実現する。加えてインクジェット方式の課題ともいえる「にじみ」の改善などの機能性により、従来のトランザクションや出版・書籍といった印刷領域から、ポスターやカタログ、DMなど、一般商業印刷領域への進出も可能となっている。

 「生産性」については、新たに22インチ機でも自動スプライサーへの対応が可能となり、これにより紙継ぎ作業の自動化を実現している。インライン装備として水性/UVのハイブリッド型のニスコーターも用意している。

 「多様性」については、多彩なアプリケーションに対応だ。これまでHP PageWide Web Pressでは、使用する用紙に合わせてCMYKインクに加え、ボンディングエージェントという透明インクを使用していた。ボンディングエージェントは、CMYK各色が印刷される部分に塗布することでインクの裏写りや定着性を高めるもの。


広がるインクジェットのアプリケーション群


 今回、この用紙によって異なるインク定着のプロセスをHP Brilliantインクとオプティマイザーによって改善している。具体的には、HP Brilliantインクと絵柄部分にオプティマイザーを塗布することで、上質紙やコート紙であっても同じプロセスで印刷することができる。

 「経済性」については、前述の「垂直統合」で説明したように、すべてを自社で開発していることから、アップグレードにも柔軟に対応し、長期間にわたり使用できるので、トータルの投資コストを大幅に削減することができる。

 2020年から続くコロナパンデミックは生活、産業、環境、価値観など多くのものを変えてしまった。印刷業界も例外なく、その波にのまれている。その市場環境においてHP PageWide Web Pressは、印刷業界の成長を後押しできる設備だと田口氏は断言する。

  「最新機種のHP PageWide Web Press T250 HDは、これまで以上に市場のトレンドに対し、柔軟に対応できる生産機である。今後はこの強みを日本のユーザーの皆さんに広く発信し、コロナ禍における新ビジネス創出を支援していきたい」