SONORA XTRAの視認性が自動化促進へ
2015年に日本初となる「無処理版によるUVパッケージ印刷」の実用化に成功した(株)大鹿印刷所(本社/岐阜県揖斐郡大野町上秋357、大鹿道徳社長)。その挑戦を成功に導いたのが、コダックのプロセスフリープレート「SONORA XJ」だった。今回、無処理版によるUVパッケージ印刷の黎明期を乗り越え、そのパイオニア的存在となった同社のサクセスストーリーを紹介するとともに、飛躍的に進化したSONORA XTRAの評価について取材した。
大鹿 社長
環境経営+SONORA
同社は、1900年(明治33年)の創業以来、3世紀にわたる歴史を刻んできた老舗パッケージ印刷会社。創業当初は酒や醤油、味噌、清涼飲料水のラベルから始まり、その後は日本の高度経済成長を追い風に観光土産分野に進出。現在では駅やSA、有名テーマパークなどで販売される菓子・食品類を中心に、組み箱・貼り箱から包装紙、個包装、軟包材、トレー、ラベルなど多種多様な包装関連資材を日本全国に展開している。
とくに近年の同社の成長を支えるエンジンとなっているのが、優れた企画提案力とコンサルティング力だ。売れるパッケージデザインの提案はもとより、販売戦略からブランド構築、販路開拓、ときには新商品の開発アイデアまで、顧客の業績拡大につながる商品づくりをサポート。「感動」を提供することで顧客からの信頼を獲得している。
そんな同社が、当時前例のなかった「無処理版によるUVパッケージ印刷」に着手したのは2015年のこと。その背景には、「環境経営の遂行」という徹底した企業方針があった。
「岐阜県、大野町ともに環境には厳しく、騒音、振動、水質の報告が義務化されていた。もちろん現像廃液を流していたわけではないが、とくに水質汚染に対し、自動現像機の撤廃を2005年頃から考えていた。その当時から無処理版は存在したが、やはりUV印刷適性が課題に...。そしてようやくSONORAと出会えた」(大鹿社長)
同社は、6ヵ所の製造拠点すべてで省エネ、節水、化学廃棄物減量に具体的な目標を設定した環境戦略を展開。総合的な省エネ計画の一環として再生可能エネルギーを活用し、ISO14000認証も取得。その後も全館LED化、ソーラーパネルの設置、ハイブリッドカーの導入など様々な試みを実行に移し、完全無処理プレート「SONORA XJ」の全面採用も、こうした環境対策の一環だった。現在では生産工程での化学廃棄物ゼロを達成している。
これら一連の取り組みが評価され、2016年には「SONORA Plate Green Leaf賞」を受賞している。同賞は、様々な環境対策を通して環境負荷の軽減に取り組み、とくに優れた実績を挙げているユーザーを米イーストマン・コダック社が表彰するもの。2014年に創設され、2016年度は全世界から8社を選出。日本からは大鹿印刷所が初の受賞という栄に浴した。
2016年に「SONORA Plate Green Leaf賞」受賞
「コスト削減」と「品質向上」
前記のように、2005年頃から無処理版の運用を視野に入れていた同社。しかし当時は耐刷性やインキとの相性で、UV印刷適性に難があった。そんな中、ようやく上市されたSONORA XJでは、UV印刷機でプロセス4色3万枚の耐刷実績が得られ、当社のベンチマークをクリアした。ただ、特色インキの顔料の炭酸カルシウムが版に悪影響を及ぼし、一部のUV特色インキでは耐刷性が極端に落ちた。視認性もいまは改善されたが、当初は課題のひとつだった。ただ、いずれも現場での運用方法を変えれば解消できると判断し、採用が決まった。
また、SONORA XJは単層構造のプレートであるため版の表面保護がない。機械にセッティングする際の版キズ、移動時の振動によるコスレなどの問題もあった。ただ、これも合紙を入れるなどの対策で解消した。
このように、「無処理版によるUVパッケージ印刷」の黎明期において様々な苦労があったものの、それを創意工夫で解決してきた同社に、SONORA XJは「コスト削減」と「品質向上」というメリットをもたらした。年間約100万円の廃液処理費用もゼロになり、現像液・ガム液の購入費や現像機の維持費用などをあわせると、コスト削減効果は合計で年間500万円にも達した。さらに、現像有りの場合、アルカリ液を使用するためハイライト部分の1〜2%の網点が飛んでしまう。機上現像によってハイライト部分の正確な再現が可能になり、きれいなグラデーションを表現できるようになったことは大きなメリットだ。
さらに印刷側から見たメリットとしては「技術力向上」が挙げられる。SONORAでは水幅が狭くなる。逆に言うと、オペレータの技術を上げなければならないという状況の中、これをきっかけにさらなる技術力向上に取り組んだという。大鹿社長は「SONORA XJ採用時点で、自動現像機全2台を廃棄し、オペレータに逃げが生じないように退路を断った。新しい技術に対し、その課題を解決していくことで技術が向上する」と語る。環境意識の高い同社では、SONORA XJへの全面切り替えを機に、ノンアルコール化、パウダーレス・低臭インキなど、環境配慮型資材の採用を一気に加速させることになった。
CTPにはプレート自動供給装置、オートベンダー搭載
「現像されているかのような高い視認性」
同社では、市場投入から10年目のメジャーアップデートで誕生した最新バージョン「SONORA XTRA」への全面切替を終えている。これまでも継続的な性能改良で市場適性を高めてきたSONORAだが、SONORA XTRAでは、視認性や耐傷性を大幅に改良するとともに、感度アップによる出力生産性向上や省電力化、さらにUV印刷での耐刷性も向上しており、同社が当初課題としてきた点をすべてクリアしたプレートに仕上がっている。
とくに工務部 集版・刷版課の伊藤晶彦課長は「最大の効果は、現像されているかのような高い視認性。有処理版と遜色ないレベルにまで進化している」と評価する。SONORA XTRAでは、画像コントラストを高める新材料を導入したことで従来比2.5倍の視認性を達成し、さらに感光層を青紫色にしたことで有処理版に近い視認性を再現している。
一方、耐刷性については、同社の受注平均ロットが3,000〜5,000枚程度であることから、旧バージョンのSONORACX2でもすでに問題はなかった。SONORA XTRAのUVパッケージ印刷時の耐刷性は2万〜3万枚。ただ非常に希なケースではあるが、2万枚以上の非常にシビアな品質が求められるジョブの場合、追加で版を出力することもあるという。また、当初懸念材料だった、粒子が粗く版を削ってしまう「メジューム」を多く含む特色インキは、現在ほとんど使用していない。
自動化、生産性向上に向けた設備投資
新型コロナウイルス感染症問題は、当然のことながら同社の経営を圧迫した。この事象が招いた「非接触」や「人流抑制」という制限は、同社の中核事業である観光土産そのものの需要を奪い、瞬間的ではあるが同社の売上のおよそ4割が失われた。もちろん新型コロナウイルス感染症が2類相当から5類感染症へと移行しことをきっかけに需要は急回復しているものの、人員削減を強いられた顧客の生産能力は、いまでは逆に人手不足でままならない状況にあり、約3割弱の人員削減を実施した同社でも、慢性的に忙しい状況にある。
このコロナ禍において印刷会社は、営業、製造の両面から新たな経営基盤の構築を迫られたわけだが、同社では生産工程の自動化、生産効率向上に向けた設備投資を実施し、着実に準備を進めてきた。
まず、今年2月に印刷機1台を更新し、現在、ハイデルベルグ製「スピードマスターXL106」の3台体制となっている。「プロセス4色なら約15分でジョブ切り替えできる。需要が逼迫する中で、生産性向上に寄与している。版サイズの統一による効率向上にも繋がっている」(大鹿社長)
今年2月に1台更新し、スピードマスターXL106の3台体制に
また、CTPにもプレート自動供給装置を搭載。スキットで供給されたプレートを最大800版積載可能で、露光後はオートベンダーでパンチと版曲げも自動化している。現在、印刷機3台で月平均4,000版を処理している。
さらに来年2月に予定しているCTP更新のタイミングで、印刷機毎のプレートをストッカーに振り分けるフローの構築を予定している。プレートの自動振り分けシステムでは、プレート上のバーコードを読み取る必要があるため、SONORA XTRAの高い視認性が、その安定運用を下支えすることになるだろう。
「観光土産用パッケージの当社の市場占有率は、まだ10%にも満たない。今後もこの市場でシェア獲得に注力するとともに、一般流通のギフト用なども強化していく」と大鹿社長。これにあわせて製造面でも、各拠点で行っているパッケージ組立作業の自動化に着手する計画だ。
スキットで供給されるSONORA
コダックジャパンによると、日本の印刷市場における刷版の無処理化率はおよそ3割で、コダックの出荷比率はそれを上回るものの57%程度に留まっている。この現状について大鹿社長は「当初懸念点だった視認性、耐刷性、耐傷性は大幅に改善されており、環境に優しく、コストも下がり、品質も向上する。刷版工程を無処理化しない理由が私には分からない」と語っており、「刷版の無処理化」において、改めて「経営者の覚悟」と「トップダウン」の重要性を再認識する取材となった。