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躍進企業REPORT

遊文舎:TASKalfa Pro1号機導入で限界利益向上へ

印刷ジャーナル 2020年11月15日
木原 社長
TASKalfa Pro 15000c
付加価値額、加工高向上に寄与

デジタル印刷の損益分岐ロット上昇|付加価値額、加工高向上に寄与

 文字物の小ロットに強みを持つ(株)遊文舎(本社/大阪市淀川区木川東4-17-31、木原庸裕社長)は今年10月、商業用高速インクジェット事業に本格参入した京セラドキュメントソリューションズ(株)(伊奈憲彦社長)のインクジェットプロダクションプリンタ「TASKalfa Pro 15000c」1号機を導入。デジタル印刷の損益分岐となるロットを引き上げることで、これまでオフセットで印刷していた300〜1,000部の仕事の付加価値額、加工高向上を目指した運用をスタートさせている。

印刷オペレータの確保は大きな経営リスク

 同社の創業は1969年。その社歴は、創業者である先代・木原基彌氏が大学からの印刷受託事業を開始したことにはじまる。学生団体である大阪大学新聞会で新聞の編集に携わるほか、大学生協と提携し、学生が講義で使用する高額な教科書を複製するリプリント事業をきっかけに、大学の語学テキストや各種団体の広報誌や年誌の編集・印刷へと事業を拡大。「文字組版に注力する、大阪でも珍しい会社」、いわゆる「文字物」に強みを持つ印刷会社として学術関係や出版社などの得意先を多く抱え、現在でも売上の55%を書籍が占める。

 また、6年前には東京支社を開設し、新たな商圏で売上の8倍成長も達成。遊文舎全体としても文字組版を含めた文字物での技術力が顧客から高く評価され、着実に業績を伸ばしている。

 設備面では、菊全2色反転機や菊半4色機などのオフセット印刷機に加え、5台ものトナーPOD機を併設。その背景について木原社長は、「今後、熟練を要するオフセット印刷のオペレータを確保することが難しくなる。これは印刷会社にとって大きな経営リスクだ。そのリスクヘッジの意味でもここ数年、デジタル印刷機への投資を進めてきた」と説明する。現在、デジタル印刷機とオフセット印刷機の比率は、ジョブベースで7対3、売上ベースでは6対4程度になっている。

 一方、小ロット多品種化が顕著な出版の世界で、同社の平均受注ロットも2,000部を切っている。「もともと1つのコンテンツを大量に安く製造するのは得意な会社ではないが、デジタル印刷機への投資・運用の結果として、クライアントからは『小ロットに強い印刷会社』と評価されているようだ」(木原社長)

地に足のついた投資対象となるデジタル印刷機

 今回の設備投資の背景には、まずオフセット印刷機の老朽化がある。25〜30年選手のオフセット印刷機の更新を考えた時、今後10〜20年後の市場予測が立たず、前記のように印刷オペレータの確保もままならない。さらにスペース的にも投資対象が限られる。そこで木原社長はここ2年ほど、ロール機を含めたハイエンドのインクジェットデジタル印刷機を検討するも、イニシャルコストの高さに加え、それらを回すための仕事量の確保に懸念を抱き、自社のスケールに合わないと判断。もっと地に足のついた投資対象となるデジタル印刷機を探していた。そんな矢先に、page2020で発表されたのがインクジェットプロダクションプリンタ「TASKalfa Pro 15000c(以下、TASKalfa Pro)」だ。

 TASKalfa Proは、京セラドキュメントソリューションズが今年1月、商業用高速インクジェット事業に本格参入すべく市場投入したインクジェットプロダクションプリンタ。京セラ製インクジェットヘッド(解像度600dpi×600dpi)を搭載したA4毎分150枚の枚葉機で、高速連帳インクジェット機と粉体トナー機の中間に位置する「未踏の領域」をカバーすることをコンセプトに開発されたものである。

 プロダクションプリンタとしての「生産性」を追求する同機において、インクジェット技術の優位性を発揮するひとつの特徴が「連続印刷」だ。

 電子写真方式の場合、連続運転時に一定のサイクルでキャリブレーションが入り、ダウンタイムが発生する。それに対し、TASKalfa Proは9,000枚/時のノンストップ連続印刷が可能である。

 また、インクジェットヘッドと用紙の距離を用紙種に合わせて調整する機能も装備し、普通紙、厚紙、インクジェット適正紙、エンボス紙、封筒、長尺のバナー印刷など多種多様な用紙にアンカーコートなどの前処理を要することなく印刷することができる。

 機械本体スペックとしての印刷速度に加え、これら連続印刷や用紙対応力などによって高い生産性を誇る。

「イニシャルコストよりランニングコスト」

 木原社長は、page2020で実機を見た後、新型コロナウイルス感染症拡大が一時落ち着いた8月、自らが役員をつとめる大阪府グラフィックサービス協同組合の役員数名で京セラドキュメントソリューションズジャパンの大阪ショールームを訪れ、より詳しいプレゼンテーションを受けたという。その後、2週間で導入を決断、9月に契約を結んだ。そのスピード契約の決め手となったのは、同社が課題としていたデジタル印刷の付加価値額、加工高向上への道筋が見えたからである。

 「デジタル印刷機への投資はイニシャルコストよりも断然ランニングコストの方が重要になる」と指摘する木原社長。トナー方式のハイエンドカラー機は、品質はある意味オフセット以上ではあるが、ジョブ毎に掛かる直接原価、いわゆるカウント料金やトナー代を考慮して試算すると300部が限界で、それ以上だとオフセット印刷の方が安価になる。一方、同社では300〜1,000部程度の仕事が増加していることから、デジタル印刷の損益分岐となるロットを引き上げることで、これらオフセットで印刷していたレンジの仕事を置き換えることができれば、付加価値額、加工高は飛躍的に向上するというわけだ。

 「TASKalfa Proは、オフセット同様、カウント方式ではなく、使ったインク代だけで、ランニングコストという概念がない。印刷スピードの速さに加え、このランニングコストが低いということで損益分岐のロットは上がり、従来オフセット印刷の守備範囲であった300〜1,000部のレンジをカバーできると考えた。あくまで私の試算だが、既設のトナー機に比べてランニングコストは3分の1程度になり、さらにオフセット印刷時の刷版代やヤレ紙、人件費など間接費を含めたトータルでジョブ当たりの付加価値額、加工高は向上する」(木原社長)

 この理論がピッタリはまる大口顧客の存在も、導入を後押しした要因のひとつ。月1万5,000部、年間20万冊の教材の仕事をこれまではオフセットで印刷していたが、これをTASKalfa Proに置き換えることで製造原価が100円下がれば、年間2,000万円の付加価値が生まれる。

後加工での作業性を考慮した運用も

 10月18日に設置され、11月2日から本稼働に入っているTASKalfa Pro。モノクロ/カラーを問わず、同社では最も多いレンジである200頁500冊や100頁1,000冊、つまり10万頁くらいのジョブで最も利益率が高まると試算している。

 一方、後加工での作業性を考慮した運用にも工夫を凝らしている。TASKalfa Proの最大用紙サイズはSRA3だが、同社ではA4での運用を考えている。印刷速度は、A4で毎分150枚、A3なら毎分88枚と約半分強になる。ならばA4で出力し、出力されたものにそのまま表紙を巻いて無線綴じ、三方断裁すれば製品になることから、格段に後加工での生産性は高まるということだ。これはカウント料金の設定がないからこそ考えられる運用方法である。

 さらに、同社にとって初のインクジェット機となったTASKalfa Proは、トナー印刷時のカールの問題も同時に解決した。「オフセットで印刷していた仕事をトナー機で印刷し、製本した後に波打った本になる」。これは致命的である。トナー機に対して熱があまり発生しないインクジェット機の機構、さらにTASKalfa Proのデカーラーの機能が、書籍印刷におけるオフセットの代替機能をより高めていると言える。

明確な目的を持って運用する

 「どこにでもあるような機械を安く買う。これは意味のないこと。設備投資において、何か特徴のある機能を持つ機械を導入すれば、何らかの恩恵は必ずある」と語る木原社長。とは言え、TASKalfa Proは1号機であるだけに、不安や躊躇いはなかったのか。

 「現在、コート紙に対応していないようだが、当社の場合はほとんどが上質紙なので、大きな問題ではなかった。600dpiという解像度も何ら問題なく、ドキュメントのクオリティはオフセットと遜色ないと見ている。何より、機械自体の堅牢性をはじめ、京セラドキュメントのスタッフの方の商談時の対応やショールームでの受け答えなど、印刷という製造業で使用する機械納入業者として何ら不安はなかった」と語っている。

 TASKalfa Proには、「既存のオフセット印刷から1,000〜2,000ロットの仕事を吸い上げ、内製化比率を高めて限界利益を向上させる」という明確な使命が課されており、決して「値下げ競争」のためのツールではないことを強調している。今後、クライアントに対しても、一部の図版や写真をカラーにするといったパートカラーの仕事への対応強化を訴求していく考えだ。

 「今後、デジタル印刷の製造ラインにおいて様々なチャレンジをしていきたい。そして漫然と作業効率だけを考えて印刷デバイスを切り換えるのではなく、TASKalfa Proに関しては、デジタル印刷の原価を下げて損益分岐のロットを高め、そして付加価値額を高めるという明確な目的を持って運用していきたい」(木原社長)