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躍進企業REPORT

朝日オフセット印刷:あらゆる社内情報を共有して「見える化」〜デジタル移行の転機に

印刷ジャーナル 2020年9月5日
廣田 社長
中野 氏
佐藤 氏
情報共有のスピードが早くなり、予定も組みやすくなった
「LIMEX」を使用した印刷物の数々

PSC 印刷業務管理システム「刷衛門」導入

 朝日オフセット印刷(株)(本社/神奈川県横浜市鶴見区本町通1-22、廣田稜社長)は、商業印刷物を中心に事業を展開し、70年の歴史を築いてきた印刷会社。SDGsや新素材LIMEXによる環境配慮活動、抗菌印刷への取り組みなど、時代に即した企業活動を展開している。しかしその一方で、社内の業務管理体制については某管理システムを導入しながらも旧態依然のアナログ体質から抜け出せないというジレンマを抱えていたようだ。そんな同社の社内体制を抜本的に改革したのが、2年前に(株)ヤマトヤ商会の紹介で導入したPSCの印刷業務管理システム「刷衛門(スリエモン)」だ。社内業務のあらゆる情報を共有化して「見える化」したことにより、全社レベルで大きな効果が生まれている。

 同社では10年以上前に某・業務管理システムを導入。しかし、同社が求める機能とシステムの相性が良くなかったようで、「結局、手書きの伝票を集計するためだけに使用していた」と中野邦晃総務部長は振り返る。業務管理システムとして活用したくても、「聞けば分かったのかも知れないが、当時の我々のITレベルでは何を聞けばよいのかも分からない。それを補うためのメーカー側からの説明がなかったことにも甘さを感じており、それではユーザー側からすれば、継続するメリットにはならない」と廣田社長。業務管理システムの入れ替えを課題としながらも、どのようにすれば良いかが分からないまま数年間が経過していたが、そのような中、出入り業者のヤマトヤ商会から紹介されたのがPSCの印刷業務管理システム「刷衛門」であった。

 「当社はデジタル移行できないアナログ印刷会社の典型であった。そんな当社の状況を分かっている長年の付き合いのヤマトヤ商会さんから、当社にはPSCの業務管理システムの方が向いているのではないかと提案していただいた」(廣田社長)

 それまで、PSCという会社名も知らなかったという同社であるが、中野総務部長はPSCの業務管理システムの導入を決定したポイントについて、「業務管理システムの多くはオールインワンで機能が揃っており、自社に不要な機能も含まれている。しかしPSCのシステムはその逆で、最低限の機能に必要な機能を付加していくためムダがまったくない」と説明する。

 また、廣田社長は「費用は400〜500万円と非常に安価だったことも魅力的だった。それまでに使用していた業務管理システムをバージョンアップした場合、おそらく1,000万円以上はかかったのではないか」と話す。さらに、同社では2年前の導入のタイミングで原価の見直しも行ったため、同社にとってPSCの業務管理システム導入は、デジタル移行をスタートさせるとともに、価格なども改めて見直す大きな転機となったようだ。

見た目は従来の「手書き伝票感」〜全社員が活用できるシステムに

 PSCのシステムを導入してデジタル移行する際、同社には譲れないものがあったという。それは、当時はITスキルがあまり高くなかったとする同社の中にあっても、誰一人として「取り残される人がいないこと」であった。いくら自社に最適な業務管理システムを作り上げても、それを使いこなせる人が少なければ「情報の共有」ができなくなるからである。

 そのため、同社が手書き伝票をIT化するためにPSCに依頼したことの1つは、「手書きの伝票感」を残してカスタマイズすることであった。現在、38歳の廣田社長は「我々世代までであれば、フォーマットなどが多少変わっても何とか対応できるかも知れない。しかし、もう少し上の年代になると、フォーマットが変わるだけで対応が難しくなる。このため、誰でも入力作業ができるように手書き伝票と同じフォーマットの画面のカスタマイズを依頼した」と説明する。

 現在は、総務・経理・工程・デザイン・プリプレス・加工・印刷など、各部署に各1台、業務管理システムに対応するパソコンを設置している。また、基本的に営業は各自1台、システムに接続したパソコンを所有している。そして、キーパーソンだけでなく、社員全員が業務管理システムの作業に対応可能になっている。

 ちなみに従来の業務管理システムは「取り残される人が多すぎた」(廣田社長)ことが、運用が行き詰まった一因にもなっていたため、その経験が今回は生かされたようだ。

 そして、全社員で情報共有して「見える化」を実現した結果、多くの導入効果が生まれてきているという。

印刷予定が格段に組みやすく〜段取り時間の短縮にも

 PSCの業務管理システム「刷衛門」の導入から2年。LIMEX推進プロジェクトネージャーである佐藤秀和事業部長は、営業面でのメリットについて、情報共有のスピードが早くなったこと、そして棚卸しが早くなったことなどを挙げる。

 「請求漏れの追跡が簡単になり、工期の遅れにも早い段階から気づけるようになった。手書き伝票の頃は何かが遅れていても当人にしか分からなかったが、情報共有により早い働きかけができるようになった」(佐藤事業部長)

 そして、情報共有により各営業マンの「見積り」についても、適正価格で仕事が回っているかの指針になり、ジャッジもしやすくなったという。

 また、製造面での導入メリットについて、中野総務部長は印刷予定が格段に組みやすくなったことを一番に挙げる。

 「情報共有により、全員が状況を把握しているので、外注手配のタイミングや社内の印刷機を押さえる時間など、段取り時間を大幅に短縮することができた。導入前、Excelで印刷予定を打ち込んでいた頃と比べると、作業負荷も大幅に軽減されている」(中野総務部長)

 また、これまでは現場に指示を出す際も、個々に自由形式で指示を出していたようだが、これも統一され、「作業指示の統一」などのメリットにもつながったようだ。

 そして、経営者側から見てのメリットとして廣田社長は「これまでは『肌感』で、社員の能力を評価していたところもあったが、PSCの業務管理システム導入により、書面作成などから能力を正確に評価できるようになった。また、これにより一般社員だけでなく、管理者の能力も見やすくなった」としており、今後も「刷衛門」を最大限に活用しながらデジタル化を進め、ITにより業務効率化と生産性向上を進めていく考えだ。

新素材「LIMEX」で社会貢献へ〜「文化」を創れる会社に

 1946年に株式会社化した同社が位置するのは、鶴見・川崎の工業地帯。廣田社長はこの地域について「発展とともに公害を出してきた町」としており、印刷会社として、本業を通してどのように社会貢献していくかを常に意識した企業経営を行ってきた。そのような中、同社が近年、着目しているのが石灰石を原料とする新素材「LIMEX」だ。

 LIMEXへの取り組みは、社員の意識向上にもつながっているようで、中野総務部長は「LIMEXに取り組むようになり、印刷して終わりではなく、その後どうなっているのかを社員が意識するようになってきた。また、普通の紙をパルプ紙と呼ぶようになるなど、もともとの資源を理解して行動するようになってきた」と話す。

 また、佐藤事業部長は「環境負荷低減につながるLIMEXは、印刷会社にとっては使用するだけで社会貢献できるアイテム。しかし、これを広げることは当社だけではできない。同業の印刷会社にもメリットを訴え、印刷業界全体で普及に取り組んでいきたい」と話す。

 廣田社長は、「印刷物についても、どのように製造し、安全・安心に作っているということを『見える化』することが必要と認識している。印刷業として、それを最もやりやすいのがLIMEXである」としており、LIMEXで「文化」を創っていきたい考えだ。

 「当社は『文化』を創れる会社になることを目指している。そのためにも、LIMEXも一過性のもので終わらせたくない。それでは文化にはならない。同業の印刷会社とも協力関係を築きながら、次世代につないでいきたい」(廣田社長)

 「LIMEXは、我々の名刺のようなものである」(廣田社長)との言葉からも、同社のLIMEXにかける熱い想いが伝わってくる。LIMEXによる新たな文化の創出に期待したい。