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躍進企業REPORT

佐川印刷(愛媛):「働き方改革」に貢献する「アズーラ速乾印刷」

印刷ジャーナル 2017年6月15日
佐川正純社長
川上工場長
一色部長
加納次長
LED-UV印刷機の隣でパウダーレス印刷を実践
現像レスCTPプレート「アズーラ」
乾燥時間を限りなくゼロに近づけることでJDF運用が生きてくる
女性がネイルをしていても作業でき、働ける職場づくりに取り組む

原理原則に立ち戻る 〜 印刷経営の土台支える「プロの道具」

 「Your Communication Partner」--徹底した環境経営をはじめ、ダイバーシティやポジティブ・アクションの先進的な取り組みで知られる佐川印刷(株)(本社/愛媛県松山市問屋町6-21、佐川正純社長)では、アグフアの現像レスCTPプレート「アズーラ」を採用し、印刷経営の土台部分を支えるひとつの技術「アズーラによる速乾印刷」を「働き方改革」へと繋げている。また佐川社長は、アズーラを「かけがえのないプロの道具」と表現し、「本質を見て、やるべきことをやる企業風土づくり」への貢献も評価している。

パウダーレスへの挑戦

 デジタルを中心とした先進的な設備投資をベースに、顧客のコミュニケーション活動をサポートすることで「印刷業」としての存在価値を高めてきた佐川印刷。昨今の企業経営においてCSR(企業の社会的責任)への取り組みの重要性が叫ばれる中で、2003年の環境マネジメントシステム「ISO14001認証取得」をきっかけに環境経営へと大きく舵を切る。その後も、2004年には愛媛県優良循環型事業所の認定、2008年には環境保護印刷「クリオネゴールドプラス」の認証、さらに2016年にはオフセット印刷部門で愛媛初の「グリーンプリンティング工場」の認定を取得。社会と環境と共生する企業として、適切な企業統治とコンプライアンス(法令順守)の実施で、各方面から高い評価を得ている。
 そんな同社の経営姿勢を象徴する「環境保護印刷」の実践に欠かせないのがアグフアの現像レスCTPプレート「アズーラ」の存在だ。
 そもそも環境への取り組みの中で、強アルカリの薬品を使用する現像工程の排除は必須だと考えていた佐川社長。当時はまず、他社の無処理CTPプレートの運用からはじめたという。
 「機上現像の無処理プレートは、水を出す必要があり過乳化が進み、根本的な問題があった。当時は実際にトラブルも多かった」と振り返る。
 そんな矢先に、アグフアから「水が絞れる版」として紹介されたのが現像レスプレート「アズーラ」だ。「現像工程を排除して水が絞れる。テストの結果、採用しない理由が見つからなかった」(佐川社長)
 同社では早速、アズーラを使った「速乾印刷」と「パウダーレス印刷」の実現に向けたチャレンジを開始し、短期間である一定の成果を収めたが、ここでさらなる課題が浮上する。
 「LED-UV印刷機を新設するにあたり、メーカー側から『パウダーを使う8色印刷機の隣にLED-UV機を設置すると保証できなくなる。せめてビニールカーテンを付けてほしい』と指摘された。しかし、そうなれば2重の空調が必要になるし、そもそも作業性が悪い。そこでメーカーが太鼓判を押すようなワンランク上のパウダーレスの実現を約束。私が全責任を負う形で予定通りLED-UV印刷機を8色印刷機の隣に設置した」(佐川社長)
 当時でも乾燥1時間というレベルまでの速乾印刷を実現していたが、これを限りなくゼロにするため、同社ではアグフアのコンサルティングを導入するとともに、印刷機の再整備やパウダーレスインキ「キレイナ」の採用(2015年)で、さらなる速乾印刷、パウダーレスに挑戦。川上貴紀工場長は「『埃をなくして誇れる職場を実現しよう!』を合言葉に、パウダーまみれの工場を是正する取り組みが工場のプライドを育み、そして佐川全体の誇りとなっている」と語る。現在、2011年比で、パウダー購入量は250kg/年から40kg/年へ、予備紙も3%削減に成功。当然、印刷機械メーカーからもお墨付きを得ている。

SAKAWAダイエットプロダクションシステム

 同社では、「社員が活躍する自動化、社員が幸せになる見える化」をコンセプトとした「SAKAWAダイエットプロダクションシステム(SDPS)」を構築している。
 人間に生活習慣病があるように、印刷会社にも印刷産業習慣病があると定義する同社。印刷産業習慣病は、「いつもの通り」という作業習慣の積み重ねや従来型の慣習などによって引き起こされる印刷会社の病気(ムリ、ムダ、ムラ)で、これを治すためには、まずIT化、ロボット化できる作業はできる限り自動化し、その余剰人員を付加価値の高い仕事へシフトするとともに、女性が活躍できる職場も実現する。
 次に健康診断によってメタボや病気を早期に発見するように、生産や原価をできる限り見える化することで、問題を顕在化し、社員が自ら考え改善、改革に取り組むようになる。この一連のシステムが「SDPS」だ。
 「当時、JDFワークフローの完成を目指していた当社が、その意味を考えた時、得られたビッグデータを如何に分析し、働き方改革に繋げていくかということに気付いた。いくら働いても報われない仕事は印刷会社の中にある。これを生産管理データに基づいて仕分けし、報われない仕事の時間と労力をもっと高付加価値な仕事へとシフトさせ、また新しいチャレンジのために費やす。その中で働き方改革を実現していく」(佐川社長)
 JDF運用で如何にプリセットが早くなっても、速乾印刷が実現できていなければ生産効率は上がらない。「リードタイムのネックは乾燥」という佐川社長は「乾燥時間を限りなくゼロに近づけることでJDFが生きてくる。これも『後工程の人員がオンスケジュールで帰宅できる』という働き方改革の一助となる」と述べ、印刷経営の土台部分を支えるひとつの技術「アズーラによる速乾印刷」の有用性を強調する。

「新・ダイバーシティ経営企業100選」「はばたく中小企業・小規模事業者300社」ダブル受賞

 ダイバーシティ推進やポジティブ・アクション、両立支援(子育て等、仕事と生活の両立支援)でも先進的な取り組みで知られる同社。今年3月には、経済産業省の「新・ダイバーシティ経営企業100選」および中小企業庁の「はばたく中小企業・小規模事業者300社」をダブル受賞した。
 「新・ダイバーシティ経営企業100選」とは、女性、外国人、高齢者、チャレンジド(障がい者)等を含め、多様な人材の能力を活かして、イノベーションの創出、生産性向上等の成果を上げている企業を選定・表彰するもの。今回は31社が選定され、情報通信業として同社が選ばれた。
 一方、「はばたく中小企業・小規模事業者300社」とは、ITサービス導入や経営資源の有効活用等による生産性向上、積極的な海外展開やインバウンド需要の取り込み、多様な人材活用や円滑な事業承継など、様々な分野で活躍している中小企業・小規模事業者を選定・表彰するもの。今回同社は「担い手確保・サービス」の分野で選定された。
 長年にわたる女性活躍の風土と経営理念に謳われている「ヒューマンステージ」を基礎として、ダイバーシティが浸透している同社。第二子の育児休業から6月に職場復帰したポジティブ・アクション推進リーダーの加納飛鳥氏(経営管理部次長)は、「『ヒューマンステージ』が、社員同士の関わりの基礎。この共通の思いなくして女性活躍や両立支援は推進できない」とした上で、「いくら制度を導入してもそれを受け入れる風土の醸成がなければ実現しない」と述べ、その条件として、女性のキャリア構築を可能にする環境整備や、業務の自動化による生産性向上、地域密着ビジネス実施を挙げている。
 また、ソリューション営業支援部の一色映志部長は、「若い働き手が少ない地方において、女性活躍や働き方改革はやらざるを得ない状況にある。そのためにIoTによる見える化を実践し、時間と労力を高付加価値分野へとシフトする。そんな見える化の効果を最大限に発揮するためには、乾燥待ちと無駄を排除する速乾印刷が必要になってくる」と語る。

「フレッシュプリント」は新規開拓の武器に

 同社は、速乾印刷技術をベースとした「フレッシュプリント」にも取り組んでいる。「フレッシュプリント」とは、(株)吉田印刷所(新潟県五泉市今泉、吉田和久社長)が提唱する概念で、印刷物が情報の陳腐化によって無駄なく効果的に使われていない状況に対し、必要部数を小口分割印刷することによって、顧客側での印刷物の無駄を排除するというものだ。吉田印刷所とアグフアでは、このような仕組みで新たな印刷需要を喚起し、マーケットを創造していくためにコンソーシアムを設立し、印刷業界の賛同と普及・啓蒙を呼びかけている。
 この「フレッシュプリント」の確立には、水を極限まで絞って印刷する「速乾印刷」がなくてはならない仕組み。水を極限まで絞って印刷することで、紙の変形や過乳化によるインキの劣化を限りなく軽減することが可能になり、高品質な印刷物を安定的に供給できる。この水を絞った印刷に適したプレートが、アグフアの現像レスプレート「アズーラ」である。
 「吉田和久社長の考え方は『改善』ではなく、『革新』だ。まさに印刷業界の『織田信長』であり、私は『御館様』と呼んで尊敬している。小口分割印刷で無駄のない印刷物、まさに共感である。アズーラによる速乾印刷が生かされる分野として、新規開拓の武器にしていきたい」(佐川社長)

新しい印刷業を再定義していく上で必要な「原点」

 現状は完全にパウダーレスを実現しているわけではない。ただ、同社には現状維持で満足することなく、さらに上を目指すという企業風土がある。
 「綺麗なところも、できていることも、さらに磨いて職場を輝かそう!」(川上工場長)
 「我々は富士山ではなくエベレストを目指す。ただ、その足取りは一歩一歩であり、そこにまた学びがある」(佐川社長)
 さらにアズーラは、社員が本質を見て、やるべきことをやる風土づくりのきっかけになったと佐川社長は評価する。
 「印刷の原理原則に立ち戻り、印刷のプロとしてプロの道具を使わないと印刷の真実は見えてこない。研ぎ澄まされた版で自分たちが素晴らしい印刷物をあげる。これが、これからの新しい印刷業を再定義していく上で、必要な『原点』ではないだろうか。アズーラは、私達にとってかけがえのないプロの道具である」(佐川社長)