印刷会社を主要取引先に、総合紙加工業として信頼と実績を積んできた名東紙工(株)(本社/名古屋市西区、都筑強社長)。独自性の高い折りと抜きの技術には、折機メーカーの経験もある都筑社長ならではの知識とノウハウが生かされており、競合他社との差別化を図っている。ただ、昨今はコロナ禍の影響で印刷会社からの仕事は減少している。そこで同社では、印刷会社の仕事だけでなく、折りと抜きのアイデアと技術により、新市場を開拓するための様々な紙製品の開発に挑戦している。そして、それをカタチにできる「切り札」として活用しているのが、2021年2月に導入したコンパクトサイズトムソン機「KBD Nukky600」だ。
「裁ち屋」から「総合紙加工業」へ
「もともとはチラシの断裁、折り加工を専門とする企業だった」。
同社の創業は1969年9月。先代の都筑梅夫氏が「裁ち屋」として断裁機1台で創業したのが始まりである。「平成の時代に入る頃には、名古屋で一番馬力のある裁ち屋になっていた」と2代目の都筑強社長は当時を振り返るが、チラシの断裁、折り工程の自動化により仕事が徐々に減少していく中、業態変革を迫られることになる。
転機となったのは約30年前。折機メーカーに務めていた2代目の都筑強社長が家業に戻ってきたことだ。様々な加工機を導入し、チラシを専門とする「裁ち屋」から「総合紙加工業」への業態変革に向けた挑戦を開始した。
「折機メーカーで培った経験を生かし、折り・抜き・製本・ミシンなどの設備を導入していった。これにより、『馬力』ではなく『技術』で勝負する企業に体質を変革させていった」(都筑社長)
そして現在、同社では同業に「技術」で差別化できる多くの独自技術を有するまでになった。
その一部を紹介すると、折りについては「長A2」を「A7」にまで折ることが可能。都筑社長は「3mmほどの厚みになるが、折りの後はきちんと整列するように技術的な工夫をしているため、数えやすくなっている」と話す。同社では数量検査に厳しい部品の取扱説明書の仕事が多いため、検査ではこのほか、重量検査と光電式検査の3段階の検査体制で確実な数量検査を保証している。品質検査については、折り曲がり検査装置を導入している。
また、中綴じから折りまでをワンラインで生産が可能。「入紙」も手作業ではなく自動で行える。断裁については、櫛の角度を変えてトンボが斜めになっていても真っすぐに切ることが可能。ミシンはL字・T字・マイクロミシンが可能で、特注の菊全タイプを保有している。さらに、穴明けについては8種類の大きさを高速で行えるため、多面付けのタグなども高速で処理できる。
そして2021年2月、新市場の開拓とトムソン工程の内製化を目的に導入したのが、コンパクトサイズトムソン機「KBD Nukky600」である。
食品・医療業界などを新市場のターゲットに
同社の紙加工業としての志は「おりぬく」。都筑社長は「これは、折り・抜きを楽しみ、やりぬく心のこと。技術の力で織りなす、新たな創造性のこと」と説明する。
同社はコロナ禍で印刷業界からの仕事が減少したことを理由に、異業種からの受注を目指した取り組みを開始した。しかしこれは、同社の「おりぬく」という志を、否応ながらも推進していくためのタイミングであったのかも知れない。
「印刷はなくても、紙を折り、加工するだけで売り込める商品の企画・開発を開始した。食品・医療業界などで少しずつ実績がでている」(都筑社長)
現在、商品として開発しているのは、紙のテーブルシートやケーキなどの台紙、紙鍋やICチップの緩衝材など。そして今後の販売に期待しているのが、皿やコップ、箸やナイフ、フォーク、スプーンなどをA3シートに面付けして収められている「食器セット」である。折り畳んでA4サイズで持ち歩くことができる。
「アウトドアや災害時など、1人1人に配布すれば、各自でスジ入れの部分に沿って切り取って、それを自分で組み立てて皿やフォークとして使用することができる。紙なので、子供のおままごとの需要もあるかも知れない」(都筑社長)。
まだ試作段階であるが、同社は2022年1月に開催された光文堂新春機材展「PrintDoors2022」にもこれを展示し、来場者の注目を集めた。今年の夏頃までには商品化したいということだ。
コンパクト&省スペースを実現
「KBD Nukky600」は、オンデマンド向けに活用することができ、生産性の向上と作業の効率化を実現できるコンパクトで省スペースを実現したトムソン機。簡単な操作性で搬送システムを搭載し、最速で毎時6,500シートの生産性を誇る。
同社は「KBD Nukky600」の導入と合わせ、工場内に「クリーンルーム」を作った。ここに同機を設置することで、衛生・品質に厳しい食品・医療業界向けにも、自信を持って商品を提案することが可能になる。
「KBD Nukky600」について、同社のオペレーターは「抜き型の型替えは引き出し式のため、トムソン機の初心者でも簡単に交換できる。以前は折り機を担当していたが、稼働中はそれよりも手がかからず楽だと感じている」と話す。
トムソン機の経験がまだ浅いため、折罫線を作る「面切」が難しいようだが、都筑社長は「慣れていないため、時間はかかっているようだが、品質的には何ら問題はない。新市場向けの製品だけでなく、これまで外注していたトムソンの仕事の内製化にも活用しているが、品質は外注に出していた頃と変わらず、遜色なく仕上がっている」。経験とノウハウを積み、トムソンについても他の加工と同様、他社にできない技術力を付けるべく、勉強中のようである。
まだ見ぬ「技術の頂」を目指して
都筑社長は「当社は紙加工に生きる企業として、『技術の頂』を目指してきた。そして現在も、時には道に迷い、断崖にぶつかりながらも『頂』を目指している」と話しており、紙加工のスペシャリストとして、技術向上に飽くなき挑戦を続けている。
「技術の頂」を目指した同社の探究心と「Nukky600」を融合させれば、世の中に貢献する様々な紙製品の誕生が期待できそうである。