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躍進企業REPORT

日栄印刷紙工:シリウスビジョン製検版システム導入で過検出を抑制

印刷ジャーナル 2023年6月5日
宮本 社長
大阪府八尾市の本社外観
蒸着紙など特殊紙の検版にも対応する「S-Scan LNC」
左から 宮本社長、横田部長、平井課長、尾家副部長

スムーズな生産体制を構築


 竹田iPグループの日栄印刷紙工(株)(本社/大阪府八尾市若林町2-143、宮本輝信社長)は2022年11月、シリウスビジョン(株)が提供するPDF・印刷物 大判検版システム「S-Scan LNC」を導入した。同社では2017年より、接触タイプの検版システムを活用していたが、過検出が多かったことに加えて、原反によってはスキャナを通す際にインキが削れてインキがレンズに付着し、次の検査に影響が出るなど課題が山積していた。このため、非接触タイプの検版システムを検討した結果、「過検出が少なく、蒸着紙など様々な特殊紙にも対応するのがLNCだった」(宮本社長)。過検出問題の解消によりオペレーターの作業負荷軽減と検査品質が安定したほか、生産性とコスト削減にも効果を発揮している。


環境に配慮したパッケージが強み


 「お客さまの想いを 価値あるカタチにするために」を企業理念に掲げる同社は、昭和32年の創業以来、化粧箱、台紙などのパッケージ印刷事業、部品ラベル・セキュリティラベルなどのシール・ラベル印刷事業を柱にクライアントの信頼を築いてきた。宮本社長は、「パッケージ印刷事業では、お客さまの大切な商品を保護するだけでなく、商品の顔として魅力をアピールするデザイン性、ディスプレイや物流を考慮した機能性を実現するとともに、相反するコスト・ニーズをバランスよく達成することで、お客さまの要望に応えてきた。また、シール・ラベル印刷事業では、電子機器などの高機能化・軽量化に貢献する部材ラベルを中心に、産業資材としての技術レベル、品質レベルを持つ加工部材を提供してきた」と話す。

 また、昨今は環境保全のため、廃棄性やリサイクル性が求められるようになっている中、環境配慮型の製品づくりを推進するため、2015年にISO14001認証と2019年にFSC認証を取得。宮本社長は「商業印刷の業界ではFSC認証紙の普及は早かったかも知れないが、パッケージ業界では当時、FSC認証紙やバイオマスインキなど環境素材の普及はあまり進んでいなかった。そのような中、当社はかなり先行的に取り組んでいた」と振り返る。当時はクライアントの手応えはあまり感じられなかったようだが、「コロナ禍をきっかけに反応に変化が現れてきた。今では環境に配慮したパッケージへの取り組みは、営業のフックとして当社の強みになっている」(宮本社長)。また、男性だけでなく女性も現場で活躍していることも同社の特徴の1つだ。

 同社は2023年4月にホールディングス化した「竹田iPホールディングス(株)」のグループ企業でもある。同社はこれを機に、日本全国および海外にも展開する竹田iPグループの各企業との連携を強化していく方針で、「単独では解決できないことも、グループ企業との連携で実現させていきたい」(宮本社長)と、新たなスタートを切っている。


過検出とインキ付着などの課題を解決


 同社ではこれまで、不良はできるだけ上流で発見し、次工程に不良を送らないことを目的に、インライン検査装置をはじめ、様々な検査装置の導入を進めてきた。同社執行役員の製造部・横田美保部長は「人の目では見つけられない不良を発見するため、2017年に接触タイプの検版システムを導入したことも、その流れの1つだった」と振り返る。少しでも現場の負担を減らしたいという思いからの導入であったが、厳しい品質基準を求められる薬品パッケージや、蒸着紙など特殊紙を数多く使用する同社の検査システムとしては不向きであったようだ。そして「検査レベルを高くすると過検知が多くなり、逆に甘くすると不良を拾わなくなるという声が現場からあがっていた」(宮本社長)ことが、新たな検版システム導入を検討するきっかけとなった。

 同社製造部・印刷課の平井博和課長は「UV印刷機を使用しているためインキは乾いているのだが、接触型の市販のスキャナを使用するため、原反によってはスキャナを通すとインキが削れてレンズに付着し、それが次の検査の過検出につながり、実際に見つけるべき不良を見逃してしまうという問題が発生していた」と説明する。また、薄紙などは接触タイプではシワが入るのでやり直しが必要なこともあったようで、オペレーターにとっては大きな負担になっていたという。検査に時間がかかるため、刷り出し検査にのみ活用していたようで、「印刷中の抜き取り検査には検査したくても間に合わず、諦めていた」(平井課長)。

 そのような中、非接触タイプで、検査スピードも早いシステムを探していたところ辿り着いたのが、シリウスビジョンのPDF・印刷物 大判検版システム「S-Scan LNC」であった。


「検版渋滞」のないスピーディーな検査を実現


 「S-Scan LNC」の最大の強みは、スキャン時間5秒以内という業界トップクラスの検査スピードである。また、エアー吸着機構を搭載しているため、薄紙のセットも簡単に行える。さらにボタン数回で検査設定が完了するため、誰でも簡単に新規の検査が20〜30秒で行える。同社では現在、2台のオフセット印刷機の刷り出し検査と抜き取り検査に「S-Scan LNC」を活用しているが、同社製造部の尾家弘通副部長は、「検版にかかる時間が少なくなり、検版待ちによる印刷機の停止が軽減された。いわゆる『検版渋滞』による印刷機の停止時間がなくなったため、スムーズな生産が可能になった」と効果について説明する。

 また、平井課長は「これまでは人の目で判断が難しい製品は拡大鏡を使用し、抜き取り検査を行っていたが、どうしても人の目による検査では見落としが出てしまう。品質保証を確実にするとともに、現場の作業負荷軽減にも貢献している」と評価する。「感覚的に、LNCの導入で1日あたりの作業時間が1時間以上は削減できている」(尾家副部長)ということだ。

 さらに、検査品質については「当社は薬品パッケージのような非常に厳しい品質基準を求められる仕事が多いが、針でつついたような細かいキズも検知してくれる」(横田部長)だけでなく、特色を使用する場合も「特色の製版データと印刷物を検査する場合は、印刷物に合わせて製版データの色を変える機能があるので、この機能により特色でも過検出をなくすことができる」(尾家副部長)。

 また、平井課長は「非接触タイプのため、接触タイプのときのようにスキャナにインキが付着するようなこともなく、清掃も不要になった」(平井課長)と、日常的なメンテナンスが容易になったことに加えて、「導入後も数ヵ月に一度は技術の方が様子を見に来てくれるなどアフターもしっかりしているので、何かあった時も安心」と導入後のサポートも高く評価している。また、シリウスビジョンにはリモート接続ソフトウエアを利用した遠隔操作によるメンテナンスサービスがあるため、急を要するトラブルが発生した場合も、新横浜と大阪という距離による時間の心配は不要である。

 横田部長は「導入から半年で、使いこなせていない機能もたくさんあるが、シリウスビジョンにサポートしてもらいながら、さらなる品質向上を図っていきたい」としており、「S-Scan LNC」の機能を最大限に活用しながら品質向上を目指していく考えだ。


メーカーとしての「設計思想」に共感


 同社は今回、初めてシリウスビジョンの検査装置を導入したが、竹田印刷(株)の執行役員も務める宮本社長は「実は過去に、オンデマンド印刷機の検査の案件でシリウスビジョンの方が竹田印刷に来られたことがあるのだが、そのときに聞いた同社の『設計思想』には頷けるものがあり、非常に好印象であった。そのときは導入には至らなかったのだが、今回、このような形で検査装置を導入でき、非常に嬉しく思っている。今後も様々な工程の検査のことで相談していきたい」と大きな信頼を置いている。

 また、宮本社長はシリウスビジョンのAIを活用した技術開発に大きく期待しており、「人手不足が進む中、AIにより安定した検査品質を実現できるシステムのさらなる開発を進めてもらいたい」と話している。

 2023年4月の竹田iPグループのホールディングス化に合わせ、同社はホームページをリニューアルし、将来的な構想として掲げていた「紙工innovation」をホームページ上でも紹介し、その実現に向けての本格的にキックオフした。宮本社長は「私たちの製品を手に取った人々に感動を残せる『紙工innovation』を起こしていきたい」としており、同社は今後、従来からの自社の利点は踏襲しながら、竹田iPグループのグループ企業との連携によるシナジー効果で売上拡大を目指していく考えだ。

 上海、タイ、ベトナムなど、グローバルに展開する竹田iPグループとの連携により実現が可能になる「紙工innovation」とはどのようなものなのか。今後の展開が注目される。