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躍進企業REPORT

佐川印刷:「Sakawa Digital Printing Factory」オープン

印刷ジャーナル 2022年1月1日
佐川 社長
愛媛県宇和島市の佐川印刷吉田工場
RICOH Pro L5160e
RICOH Pro TF6251
RICOH Ri 2000

宇和島から世界へ製品提供 〜 吉田工場にリコー3製品を一挙に導入


 愛媛県松山市に本社を置く佐川印刷(株)(佐川正純社長)は、リコー(株)とオープンイノベーション契約を締結予定で、愛媛県宇和島市の吉田工場で生産した製品を日本全国へ、そして世界へ発信するための取り組みに挑戦している。その一環として、同社は吉田工場にリコーのワイドフォーマットインクジェットプリンタ「RICOH Pro L5160e」、「RICOH Pro TF6251」、ガーメントプリンター「RICOH Ri 2000」を導入。同工場内に2021年12月13日、「Sakawa Digital Printing Factory」をオープンし、新たなビジネス領域拡大に向けた生産ラインの実働を開始した。

 佐川印刷は1947年12月に創業。その創業の地となったのが、愛媛県宇和島市の地にあるこの吉田工場だ。2021年12月13日にリコーと共同で開催した業界報道陣向けの見学会の冒頭、佐川社長は「私が小学生の頃に建ったのを覚えている。活版印刷でスタートし、その後、オフセット印刷への転換を図り、主に地元の地域に向け、需要はあるが付加価値は高くない印刷物を生産していた」と自社の生い立ちについて振り返った。

 1990年には松山本社・吉田本社の2本社体制を敷き、工場も松山にあったことから、一時は吉田工場を閉鎖することも考えたようだが、「工場の社員は地元で当社の仕事をメインにした兼業農家であったり、地域の公民館の館長をしていたり、消防団に入っていたりと、地域の社会貢献をしている社員も多かった。吉田工場を閉鎖することは、地域経済にも影響があると踏み止まった」と佐川社長は話す。多くの社員、そして佐川社長の出身地でもある宇和島市の経済のためにも、何とか吉田工場を存続させるための手段を考えていたようだ。しかし、当時の吉田工場のビジネスモデルでは、「社員を増やすことはおろか、給料を増やすことも不可能だった」(佐川社長)。そのような中、吉田工場を存続させるための道筋として見出したのが、デジタル印刷に特化した工場への業態変革であった。

「吉田工場では15年前に大型インクジェットプリンターを導入し、ポスターやのぼり旗のプリントを行っていた。そこでその技術を生かし、インクジェットを中心にしたデジタル印刷専門の工場に生まれ変わろうと決意した結果、今の吉田工場がある」(佐川社長)

 これにより、社員の給料も増やせると考え、社員にやることをすべて変えていこうと宣言。どうせやるなら徹底してやろうと、「まずはアナログ設備を捨てることから始めた」(佐川社長)。これが6年前の話だ。印刷物の注文には、PODでできるものだけを自社で行い、それ以外はアウトソーシングするようにした。また、屋外広告用の看板のプリンターやデジタル対応の加工機などの設備導入を進めた。設備は徐々に大型化していき、投資額も一桁増えた。

「はじめは今まで使ってきた設備を捨てられ、私を見ると目を伏せるような社員もいたが、これにより社員も私が本気だと気付き、一気に目が輝いてきた。そしてようやく意志の疎通につながった」(佐川社長)


リコーのネットワーク網の広さを信頼し、田舎の地に最新技術を導入


 そして、そのある程度の「総仕上げ」として設備したのが、2021年10月に導入したリコーの3製品だ。そして12月13日、「Sakawa Digital Printing Factory」としてオープン。さらなるビジネス領域拡大に向けた生産ラインの実働を開始している。「宇和島から全国、そして世界へ高付加価値な印刷物をお届けしていきたい」(佐川社長)。吉田工場のデジタル設備で生産したカレンダーは「FESPA AWARDS」での受賞歴もあり、すでに世界的にも高く評価されている。同社はリコーとデジタル関連設備で吉田工場から日本全国へ、そして世界へ高付加価値製品を提供していくための「オープンイノベーション」契約締結を予定しているが、佐川社長は今回の3製品の導入により、その準備が一歩進んだと自信を示す。

 「新たな印刷分野への展開を求めて投資を続けていきたい。ただ、我々のような中小企業では経営資源、とくにヒューマンリソースに限界がある。世界的なメーカーであるリコーの協力を得ながら進めていきたい。新たに導入した3機種は、いずれも第1号機に近い機種。このような田舎の地に最新技術を導入するのは不安もあったが、リコーとはPODで10年来の付き合いがあり、そのサービス体制には安心感がある。また、リコーのネットワーク網の広さを信頼し、今回の導入を決定した」(佐川社長)

 また、長年のリコーとの付き合いにより佐川社長が感じているのは、リコーのサービスマンの献身的な姿勢だという。そしてこれも今回の導入を後押ししたようだ。

 「3製品はいずれも1号機に近いものばかりのため、サービスマンも初めて扱う機種となる。しかし、サービスマンには東京までリコーの技術研修を受けてきてもらっているため、何かあった場合も安心である。リコーのサービスマンはサービスに"魂"が入っていることを感じる」(佐川社長)

 また、佐川社長に続いて挨拶したリコー(株)のリコーグラフィックコミュニケーションズBUプレジデントの加藤茂夫氏は、「デジタルプリンティングによって新しいビジネスモデルを生み出していく--。メーカーにとってこんなに嬉しいことはない。リコーとしてもこれに賛同し、単に製品を供給するだけでなく、そのお手伝いをするパートナーとしてコミットしていきたい」との姿勢を示した。

 また、リコージャパン(株)PP事業部事業部長の三浦克久氏は、「佐川印刷様とはPODでお手伝いをスタートさせてもらったが、吉田工場に来るたびに素晴らしい工場になっていると感じている。リコーはPODでは、市場からある程度の評価をいただいているが、インクジェット分野ではこれからである。ここをさらに伸ばしていきたいが、これはリコーだけでは実現できない。先駆者である佐川印刷様の協力とアドバイスを得ながら伸ばしていきたい。佐川印刷様とリコー、そして印刷業界の3者がWinWinWinの関係になれるように努力していきたい」と、佐川印刷にさらなる協力を求めた。


幅広いメディア対応力と色の安定性、高密着のインキなどを評価


 続いて、リコージャパン(株)のPP事業部IJ事業推進室室長の渡邊誠一氏から、佐川印刷が導入した3製品についてのプレゼンテーションが行われた。

 ワイドフォーマットインクジェットプリンタ「RICOH Pro L5160e」は、高い生産性を誇る1600mm幅の新型ラテックスプリンター。ノズルを自動清掃するシステムの採用により、メンテナンス時間を大幅に短縮。速乾性に優れ、臭気とVOC発生が少ないラテックスインキの採用により、幅広いメディアに対応できることも大きな魅力だ。渡邊室長はユーザーから評価されているポイントの1つとして、「色の安定性が高いため、長い距離を出力しても色差が少ない」ことを挙げた。

 また、「RICOH Pro TF6251」は、Max116平米/時の圧倒的な高生産性と最大2500×1300mmの印刷領域、幅広い印刷対応力を魅力とするUVフラットベッドプリンター。業界随一のメディア厚110mmまで対応し、インキの色域も広い。渡邊室長は、「ユーザーからは、とくに高密着のインクが評価されている」と説明した。

 そして、「RICOH Ri 2000」は、インクヘッドを内蔵したキャリッジをカラーインク用とホワイトインク用の2つに独立させることで、プリントの高速化を実現した新製品のガーメントプリンター。渡邊室長は「従来機のRi100の簡単メンテナンス性を引き継ぎつつ、生産性は大幅に向上している。自動高さ調整機能によるイージーオペレーションで先行メーカーとの差別化を図っている」と操作性を強調した。

 プレゼンテーションの後、セル生産方式を実現する吉田工場で実働する3製品を見学。山中益生工場長は、「加工機を含めると約25台のデジタル設備があるが、これを5名のシフト体制で回している」と自動化と効率化を追求する多能工により、少ない人員で豊富な設備に対応していることを強調した。


見学会終了後の佐川社長のコメント

 宇和島市はみかんや鯛、真珠など豊かな自然に溢れ、この地に社員が住み続けたいというのは分かる。しかし、全市民が漁業、農業では町は成り立たない。床屋、食堂、印刷会社など様々な産業があって町は成り立っている。当社はECサイトでみかんを販売して地域に貢献したいとの思いから、2020年3月まで20年間にわたりネットショップ「蜜柑屋」を運営し、これまでに数億円をこの地域に落とすことができた。現在はその当時のEC部隊をネットショップ「フンドウショップ」に投入し、全国から受注をいただいている。今後も宇和島から全国へ、そして世界に製品をお届けできるように大きな夢を持っていきたい。