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躍進企業REPORT

新聞印刷:認知症予防と施設の付加価値を創出 - 「自分史レク」開発

印刷ジャーナル 2019年9月5日
展示会場で来場者が記入した自分史・レクの前で福山社長
介護業界の展示会でも来場者の注目を集めた

 超高齢化社会における社会問題の1つに挙げられる「認知症」。長寿命化にともない、生きている間に認知症にかかってしまう可能性が高まるのは当然のことであるが、このような病気にかかることなく、健康的に長生きすることは現代人の誰もが願っていることであることは間違いない。業界紙、社内報、記念誌などの企画・取材・編集・レイアウトから印刷までを手掛ける(株)新聞印刷(本社/大阪市天王寺区、福山耕治社長)は、自分史など自費出版のパイオニアであるグループ会社の(株)新風書房(同所在地、福山琢磨社長)で培ってきた長年のノウハウを生かし、認知症を予防しながら、介護施設利用者などの潜在的ニーズを抽出する「自分史レク」を約4年前から介護業界などに提案しており、日本の健康長寿大国化をサポートする取り組みとして注目を集めている。

 新風書房では、戦争体験を後生に残すために体験者の手記を集めた「孫たちへの証言」をはじめ、自分史など様々な自費出版を手掛けている。また、自分史を書き易くするため、400の質問項目からなる「自分史マニュアルノート」を昭和59年に開発し、全国の多数企業と代理店販売契約を締結している。

 この長年にわたる自分史ノウハウを生かし、超高齢化社会における問題解決を目指すのが「自分史レク」である。自分史レクは、グループ会話をしながら、A3シート1枚に生活歴に関する思い出を箇条書きで書きとめるレクリエーション。1回1時間×6時間で自分史シートを書き上げるレクレーションとなっている。

 新聞印刷では、平成27年11月に認知症事業部を立ち上げ、自分史レクの開発を進めてきた。福山社長は「自分史レクは、自分史を書くことが最終的な目的ではない。認知症予防も目的の1つであるが、介護施設利用者の生活歴から潜在的ニーズを抽出し、新たな施設の付加価値を生み出すことを最終的な目的としている」と自分史レクの開発目的について説明しており、利用者の認知症予防はもとより、これを実施した介護施設の付加価値を創出するなど双方のメリットを生み出すことで、ひいては日本の健康長寿大国化にも貢献するツールであることを強調している。


回想法と嗅覚刺激のダブル効果で認知症を予防


 「自分史レク」の特長として第1に挙げられるのは、回想法と嗅覚刺激のダブル効果で認知症を予防することだ。福山社長は「回想法だけではインパクトが弱いため、試行錯誤を続ける中、アロマオイルによる嗅覚刺激が脳に与える影響を利用することに辿り着いた。アロマオイルは臨床結果もあり、脳の病気リスクを減らす効果もある。そこで臨床済みアロマオイルを香料インキ化し、自分史記入用紙に全面塗布するアロマテックシートを開発した。これにより、書くという自然動作の中で嗅覚を刺激することができる」と説明する。香料インキなどの特殊インキを得意とする久保井インキ(株)(本社/大阪市東成区)と連携して開発し、経済産業省が支援する「新連携認定事業」として認定されている。

 また、「生活歴」を重要視しており、そこから利用者の潜在的ニーズを抽出することも特長。生活歴のキーワードを抽出し、そこから利用者のニーズを抽出するのである。例えば「クラブ活動に励んだ」というキーワードからは「スポーツ観戦に出かける」というニーズが想定され、「学校の演劇で主役」というキーワードからは「思い出の演劇を見に行く」というニーズが想定される。このようにキーワードとニーズを結び付け、また、機能訓練を付加していくことで心と身体の両面からの改善を図る。

 「医療・福祉の分野では、利用者のケアプランや個別支援計画書の基本的情報となるアセスメントシートがあるが、この中にある『生活歴』の記入欄は非常に小さいものとなっている。この小さな記入欄に書かれていることだけで、利用者が歩んできた人生を理解することはできない。自分史は生活歴そのものであり、利用者の生活歴から潜在的ニーズを抽出し、機能訓練を絡めたアセスメントにつなげていくことが大切」(福山社長)。

 さらに、利用施設内に様々な変化を与えることができるのも自分史レクの特長である。利用者と施設スタッフが互いの人となりを知ることでコミュニケーションを向上させ、そこからスタッフのやりがいの向上のみならず、生活歴抽出による質の高い介護にも結び付けることができる。これらを通して施設稼働率が向上し、経営の安定化にもつなげることができる。

 「お互いを知ることにより、コミュニケーションの活性化、スタッフの離職率減少や信頼関係の向上につながる。レクリレーションというと体操や将棋、ドリルなどでの暇つぶしの時間というイメージがあるかも知れないが、そうではなく、利用者に喜ばれる充実したものにしていきたい」(福山社長)


介護業界の展示会「CareTEX2020」で注目集める


 新聞印刷は本年、東京・福岡・名古屋において開催された介護施設業界向けの展示会「CareTEX2019」に自分史レクを出品し、介護施設業界などから大きな反響を得たという。10月にインテックス大阪で開催される同展にも出展する予定だ。

 「利用者の満足度を上げたいという介護施設のニーズは大きく、介護業界から大きな関心を持っていただくことができた。利用者の潜在的なニーズを抽出し、利用者が何を求めているのか、自分史から紐解いていくのが自分史レク。利用者に喜んで来てもらえる施設づくりのヒントになるレクリエーションを目指していきたい」(福山社長)

 現在は、大阪、東京のデイサービスが無料モニターとして自分史レクを実施中。また、九州でもモニターを検討中の施設があるという。新聞印刷は今後、介護業界で実績を作ったのち、社会福祉協議会や健康長寿を支える市町村の施設などに自分史レクのカスタマイズ版を販売していく方針だ。

 「最終的には"日本の健康長寿大国化"を目指し、世間一般に向けてもアプローチしていきたい。自分史とは生き様なので、その人を理解しないと満足度は上がらない。医療・介護の世界は信頼関係が大切なので、それを理解するためのツールとして自分史レクを使ってもらいたい。そして、その次のステップとして要望があれば『自分史』として書籍にすることなども提案していきたい」(福山社長)

 新聞印刷の取り組みは、視点を変えることで印刷会社として培ってきたノウハウを異分野でも発揮できることを改めて示した事例といえる。今後の展開に注目したい。